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喧嘩2

ブックマークと評価をありがとうございます。

これからもよろしくお願いします。


※作中でキャラクターが罵倒し合いますが、作者に罪はありません。あくまで2人の罵倒です。私は無実です。

部屋の中でじっとしていた。


今回の戦いで死んだ方々の葬儀は終わった。

自衛隊は合同で、警察と探索者は各々の家で。

僕は・・・どれにも行かなかった。


あの最後の攻撃とは言えない攻撃。

館山さんをやったのは百乃瀬順平だった。

周囲に飛び散った肉片から遺伝子鑑定で判明したらしい。

岩本隊長をやった栂村は地面から突如出てきて発砲したようで、下半身を地面に埋めたまま銃殺された。

城島さんをやったのはダークフューチャーの桑島という幹部だった。

この人だけは殺されることなく捕らえられている。

ダークフューチャーの拠点を知るために尋問中だそうだ。


情報だけが動く中、僕は4日間誰とも会話をせず、食事を買いに外に出る以外は基本的に部屋の中にいた。


心配してくれた松嶋さんが、一度訪ねて来たが、1人にしてほしいと伝えた。

申し訳なかったが、今僕の胸の中にある思いを誰かに吐き出すようなことになってほしくなかったから・・・。


部屋を見渡す。

弁当の空箱とペットボトルがいくつか転がっていた。

その中に・・・くしゃくしゃになった莉乃の手紙があった。


「・・・行かないと」


彼女がどんな思いで、どんな理由で向こうに与しているのか知らなければならない。


こんなに人を殺して、不幸にしてまで手に入れたいもの・・・レベルシステム。

争いの引き金としか思えないそれを、彼女たちがなぜ求めているのか・・・知らないと。


立ち上がって、思わず顔を顰めた。

なんだか顔に張り付いている気がする。

髪の毛も油っぽい。

そういえばお風呂に入っていなかった。

ダンジョンアタック中以外でこんなにお風呂に入っていないのは初めてだ。


僕はシャワーを浴びて身支度を整え外を見た。

まだ日は高い。

十分に時間はある。

この足で向かっても間に合うだろう。


「エイジ、足の補強を頼む」

「承知だぜ、主人」


左足がエイジによってブーツ状に覆われ、歩いた際に傷に負担がいかないようにしてくれた。

僕は右足だけ靴を履き、外に出て宿舎の外に出た。


「・・・タイミングがいいな、京平」

「木下・・・」


ちょうど建物の敷地内に入ろうとしていた木下が、僕を睨みながら立っていた。

その服装は黒一色に統一されていて、まだ彼自身館山さんの死からまだ立ち直れていないことがわかる。


「何をしに来た」

「話をしないといけないことがあんだよ」

「後にしてくれ。用事がある」


木下の横を通り過ぎようとしたら、僕の左肩を掴まれ引き止められた。


「待てよ」

「邪魔すんな」

「待てっつってんだよ!」


手を払って進もうとすると再度掴まれ、もう一度強めに払ったら、今度は服を掴まれて敷地内に引き戻された。


「こっちは用事があるって言っているだろうが! 後回しぐらいしろ!」

「お前には言えるとき言わないと、機会を失うんだよ! お前が納得したらすぐ終わる話だ!」


ムカついて意地でも通り抜けようと走るが、信じられない早さで木下が僕の左腕を右手で掴む。

僕が右手で払うとその手を左手で掴まれた。


「この!」

「戻れ!」


単純な力なら同等か僕の方が強いと思ったが、何故か僕の方が押し込まれ突き飛ばされる!

何故押し込まれたか分からずに木下を睨む。


「俺の邪魔をするな!」


僕の怒声に、木下は眉を吊り上げた。


「その俺ってのやめろ! 似合ってねーんだよ!」


木下の叫びに、僕の眉間に皺がよった。

館山さんから教えてもらっていたからこいつが僕の一人称に何か思うところがあることは知っている。

でも!


「俺の勝手だろうが!」

「勝手じゃねー! ムカつくんだよ!」

「何勝手にムカついてんだよ! 人の一人称を気にしてんじゃねーよ!」

「勝手じゃねって言ってんだろうが! お前は高校の時、あれだけ俺が僕をやめろって言ったときは全く変えなかったのに! いきなり変えてんじゃねーぞ!」

「ふざけんな! 俺には俺の理由があって変えたんだよ!」

「どうせつまんねー理由だろうが!」

「安部のやつに舐められないためだよ!」

「お前は! あれだけ俺が言っても変えなかったのに、安部に何か言われたから変えたっていうのかよ! ふざけてんじゃねーぞ!」

「何でお前にそんなこと言われる筋合いがあるんだよ!」

「あるだろうが!」

「何だよ! 言ってみろ!」


苛立ちが強くなりすぎて握り拳に力が入る。


「俺以外のやつに言われて意志曲げてんじゃね!!」


・・・何を言っているんだ、こいつは。


「何言ってんだ、てめーは!」

「俺の許可無く勝手に変えんな! ムカつく! 俺があんだけ言ったのに変えなかったやつが、他の誰かに何か言われた程度で変えやがって! その程度かよてめーの意志は!」


木下が地面を蹴る。

まるで小学生の子供のように何度も何度も。

そんなガキみたいな木下に、僕は叫んだ。


「俺の問題だろうが!」

「お前だけの問題じゃないって言ってんだ!」

「俺の問題だ!」

「お前のだけじゃない!」

「俺のだ!」

「違う!」


ビキッと顔の神経が張った気がした。

もう、我慢の限界だった。


「いい加減にしろよ! ぶちのめすぞ!」

「やれねーくせに強がってんな!」

「やれるに決まってるだろ! お前なんて余裕なんだよ!」

「そこまで言うなら、俺に負けたら俺ってのやめて元に戻すんだろうな!」

「いいぜ! 戻してやるよ! 絶対無いけどな!」


木下との距離を一歩あけた。

一旦引いて、木下の動きに対応できるように集中する。


「スキルは無しだ。エイジ、絶対に何があっても発動しないように!」

「承知だぜ。そこの辛抱無しが使ってきたら吸収するぜ」

「いいぜ。火輪子、俺の足を京平と同じにしろ」

「いいですの、ダーリン? あっちのおバカと張り合う必要なんてないですわよ?」

「どうせ俺のほうが強い。それよりも少しでも言い訳できないように完璧に勝つほうが重要だ!」

「しょうがないですわね。でも、そんな熱いところが大好きですわ!」


ボスッと鈍い音がして、木下の左足が炎帝に包まれた。

僕の左足と同じようになったことで、僕は木下が何をしたか理解した。


「無駄なことを・・・」

「左足のせいで無効だとか言われないようにするためだ」

「言うわけないだろ、そんなこと!」


僕は前傾姿勢になって両手を顔の前に出し、拳は握らずに手を緩くして、掴み・殴り・受けのどれにも対応できるようにする。

対する木下は、左手だけを前に出して半身になり、見るからに左ジャブを主軸にしたスタイルで構えた。


無駄に時間をかける気はない。


一足で間合いを詰める。

木下がジャブを打ってきた。

僕は上半身ごと左に傾けて回避し、流れで右拳をフック気味に振って木下の側頭部を狙う。

これは読まれていたのかスウェイバックされて軽々と避けられた。

そこから距離を空けられたと思ったら、2発のジャブが飛んできて、最後に右のストレートが僕の顎を狙ってきた。ジャブは右腕でガードして右ストレートは左肘を上げて打ち払う。

ここで僕は左足を跳ね上げて、木下の右脇腹に蹴りを入れた。


「ゴフッ!」

「いっ!」


痛みが駆け抜けたが、大覚醒でだいぶん慣れた。

歯を食いしばって痛みに耐え、怯んでる木下に両拳を見舞う!


「この!」

「おまっ!」


木下が被弾覚悟で僕の頭を掴んだ。

思わず引き剥がそうとしたが、一瞬の間に木下の左膝が襲ってくるのが見え、反射的に両腕でガードする。


「いって!」


木下の表情が痛みで歪んだ。

このバカ、本当に僕と同じ様に左足を折りやがった!

だが、痛みに表情を歪めながらも、木下の膝蹴りは止まらない。

僕は見えないながらも、右腕を大きく振って木下の頭ら辺を殴りつける。


「この! この!」

「くっ! おらっ!」


お互い何発かいいのが入った。

僕は木下を引き剥がし、距離を空けてやつを睨む。


「諦めろ!」

「さっさと戻せ!」


そこからお互い拳を振っての乱打戦が始まった。

下手に避けても時間を食うだけだ。被弾覚悟でお互いに拳を突き出し振りかぶり被せ打つ。


「くそ! くそ! 関係ないだろうが!」

「ムカつくって言ってんだよ!」

「お前がムカつく要因もねえ!」

「曲げるなら俺が言ったとき曲げろや!」


くそ!

眉毛のあたりと右頬、腹にもいい角度で入れられた!


「誰がお前の言葉で曲げるか、バカ!」

「だからと言って他の奴に言われて曲げんな、アホ!」


口を殴られた。

血の味が舌を撫でる。

蹴りを右腕でガードする。

僕と同じぐらい痛みを感じているはずなのに重い一撃だ。


「バカ!」

「アホ!」

「バカバカバカ!!」

「アホアホアホ!!」


くそ・・・勢いが止まらない。

ムカつく。

何でこいつにこんな事言われないといけないんだ?

本当に関係ないこいつに・・・無関係なこいつに!


「いい加減にしろよ、この! ロリコン野郎が!!」

「はぁっ何ブヘ!」


木下の動きが止まって僕の右拳がやつの右頬を打ち抜いた。


「てめー!」

「ロリコン! ペチャパイ好き! まな板愛好家!」

「ふざけんな!!」


木下が僕の拳を払って距離を空けた。

あれだけ殴ったのに、まだ動けるのか!


「誰がロリコンだ!」

「お前だ! あんな幼女を奥さんにしたお前はロリコン以外の何者でもない!」

「日和子は大人の女性だ!」

「見た目完全女児だろうが!」


僕の右拳を木下が受け止めて掴まれた。


「言っていいことと悪いことも分かんなくなったのかよ!」

「そう言うってことは、お前もそう思っているんだよ!」

「カケラも思ってねーんだよ!」


お互いに離れたが、今度は木下が拳を振り上げてきた。


「この! 童貞野郎が!」

「なっブハッ!」


突然言われた言葉に思考を持っていかれて、木下の右拳がまともに僕の鼻をとらえた。

痛みに目が涙を浮かべる。


「だっ誰が童貞だ!」

「お前だ、アホ!」

「俺のは売約済みだ!」

「売約済みでも未経験にかわりはねーだろうが!」


怒りで視界がチカチカする。

今すぐにでもやつの口を殴って止めないと気が済まない。


「ロリコン」

「童貞」

「ペチャパイ好き」

「垂れ乳フェチ」

「女児愛好家」

「年増キラー」


言い合いながら拳を振り続ける。

もうどこに当たったかどうでも良くなってきた。

ただ、こいつに負けたくない・・・勝ちたいという思いで拳を当てる。

そして、ドンと胸を突き飛ばされて、また距離が空いた。


もうそろそろキツくなってきている。

殴られすぎたか?

木下を見ると、構えてはいるが、少しふらついている様に見える。


やるしかない。


僕はグッと前傾姿勢をとる。


足を掴んで引きずり倒す。

それから馬乗りになって殴って終わらせる。


ジリジリと間合いを詰めて一瞬に賭ける。


そして、飛び込んだ!

まずは飛び込むと同時に右腕を殴る様に上にあげてフェイントを入れ、続いて足を取りに行く!

これで・・・!


ゴツ!!


・・・

・・


ハッとして僕は上体を起こした。


「起きたかよ・・・」


隣で木下が気だるそうに座っている。


「どうなって・・・うっ!」


頭に痛みが走る。

確か、木下と殴り合って、乱打戦になったとこは覚えているのだが、そこから先が抜けていた。


「最後にお前が突っ込んできたとき、俺が合わせて膝を上げたら綺麗に頭に当たったんだよ」

「そうか・・・」


この頭の痛みはそのせいか。

痛む頭を押さえて、僕は周囲を確認すると、日がだいぶん傾いていた。


「しまった! 今何時だ!?」

「あ? 5時ぐらいだろ。知らんけど」

「くそ!」


僕は立ち上がって少しふらつき、それでも意思をしっかり持った。

行かないと・・・莉乃のところに。

待っているから・・・。


「おい待て!」

「なんだよ! もういいだろ!」

「約束だ! 分かってるよな!」


木下の念押しに、僕はムカっときてやつを睨みつける。


「お前が僕に指図するな!」


吐き捨てる。

もうやつは見ない。

後ろで「アホ平め」と声が聞こえたが、完全無視を決めて僕は歩いた。


交通機関じゃ間に合わない。

タクシーを捕まえるしかないだろう。

・・・乗せてくれるだろうか?

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子供の喧嘩ですねwそしてなんだかんだ約束守るというww
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