紙飛行機の手紙・・・そして
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頑張ります!
ゆっくりと歩いて、僕は木下が向かった方向にあった集合場所に到着した。
そこでは岩本さんと城島さんが作戦の終了を告げながら、1人1人に声をかけていた。
僕はその場に座り、エイジがギブスのように固めてくれた左足を撫でる。
戦場では何があるか分からない。
今日の僕はこれで済んだ。
でも、次は?
アイツを追いかけたら・・・周囲の人たちを同じ目に合わせることになってしまう。
下手したら佐藤さんたちみたいに・・・また。
僕の身体が震えた。
ダメだ。
もう二度と同じにはならない。
僕はそう決心して身を少し曲げたとき、カサッと音がして、胸から何か紙のような物が出ているのを見つけた。
「あ、莉乃の」
紙飛行機。
そういえば、後で確認しようと思って受け取ったままここに入れていたんだった。
僕はそれを取り出して、翼を広げる。
そこには・・・メッセージが書かれていた。
僕に会いたい、話をしたいと。
話をしないといけない事があると。
時間と場所だけは18時と富士宮市の城山公園にある慰霊平和塔と指定されていたが、日にちだけは指定されてなく、今から1週間以内と記載されていた。
僕が行けない可能性もあるから、この期間までに会えなかったら・・・ということだろう。
僕は手紙をくしゃくしゃに丸めて、また胸の中に入れた。
会わないといけない。
ちゃんと聞かないと。
でも、今だけは亡くなった人たちのことを考えてしまう。
「今、大丈夫か?」
左足を触りながらぼーっとしていると、後ろから声をかけられた。
館山さんの声だったので落ち着いて彼の方を振り向く。
「大丈夫ですよ。館山さんは戻る準備とかしなくていいんですか?」
「自分のだけはやったよ。今は他の人の作業待ちだ。瀬尾くんは誰かと一緒に戻る予定なのか?」
「・・・挨拶したい人たちがいるし、ちょっとこの足のことで自衛隊の病院を利用させてもらおうと考えてました」
「そうか・・・」
館山さんはフルフェイスの兜を取って、ポケットからある物を取り出した。
「タバコですか?」
今じゃ、一部の人しか吸わない超高級嗜好品だ。
館山さんは箱から一本それを抜いて、ライターで火をつけて深く息を吸い込み、続けて白い息を吐き出した。
「辛い戦いがあった後はな、吸うようにしているんだ。気のせいだとは思うが、色々と紛れるような気がしてな」
そう言って、館山さんは再度口をつけて、タバコの先端が赤く光る。
・・・これがタバコの匂いか・・・。
興味はあったが、僕にはなんとなく似合わなさそうだ。
「すまなかったな」
「・・・何がですか?」
突然の謝罪に、僕は彼が何に対してそうしたのかが分からず顔を見る。
「木下を今回の戦いに引っ張ってきたことだ。本当なら・・・確かに因縁のあるメンバーと俺と真壁がいれば良かったんだと思う。だけどな・・・アイツを選択肢から外すには、アイツは強すぎた。アイツがいることで俺も安心を覚えていたんだよ」
確かに、その理屈は分かる。
あれだけの力があれば、周囲の人たちは木下の力をあてにするだろう。
少なくとも、彼がいるから被害は少なくなると思うかもしれない。
「現にアイツがいたことで探索者の方の被害は最小限だしな」
「木下が守ったんですか?」
「ああ。アイツはこの戦いのガーディアンだったよ。あの巨人さえいなければ、こっちはほぼ完封だった」
「・・・」
アイツの強さは頼りになる。
それを僕も否定するつもりはない。
実際、阿蘇の時も頼りになった。
「それでも、あいつはこれから親になるやつです。そんなやつを引っ張り出したらダメです」
「まあ・・・そうだったんだろうな」
ふーっと館山さんがまた白い息を吐いた。
色々と溜まった疲れも一緒に吐き出ているようにその姿は見える。
「なあ、瀬尾くん」
「はい」
「俺は木下にブラックアイズを継がせたいと思っている」
突然の知らせだが、木下の実力と館山さんの年齢を考えたら何も不思議な事はない。
不安点があるとするなら、アイツの暴走だろうが、サポートをつければ何も問題はないだろう。
「それはいいと思いますが、まだ先の話でしょ? 俺に言っていいんですか?」
「構わんだろ。瀬尾くんは口が軽い方か?」
「自分自身ではそうじゃないと思いたいですね」
「それなら問題ない。じゃあ、もう一つも言って問題なさそうだな」
また何か爆弾発言をする気だろうか?
僕としては勘弁してほしいのだが、諦めて聞く体勢をとった。
「瀬尾くん。真剣にブラックアイズへの加入を考えてみないか?」
「・・・」
「今は難しい事は重々承知している。だが、木下と君がブラックアイズを支えてくれると安心できるのだが?」
本気なのだろうか?
・・・いや、本気なのだろう。
「将来はどうなるか分かりません」
「・・・」
「木下はブラックアイズにしか恩が無いようですから、継げと言ったら継ぐでしょう。でも、俺は方々に恩があります。それを返さないと答えられないですよ」
「そうか・・・そうだな。まあ、今は考えてくれるだけでいい。一言で断られるよりはマシな成果だ」
館山さんはニカリとタバコを咥えたまま笑みを浮かべ、背筋をグッと伸ばし、兜を手に取った。
「先に戻っている。あ、それから一人称はちょっと考えた方がいいぞ。木下も顰めっ面になっていたからな」
一人称とは・・・僕の「俺」のことだろう。
「・・・舐められないためです」
「・・・そうかい。じゃあな」
館山さんが僕の後ろの、みんなのいる場所に戻っていく。
タバコの残り香を感じながら、僕はもうしばらくその場を動かず足を撫で、残り香が消えたタイミングで立ち上がった。
ドォォォォォオオオオン!
不意に背後から爆発音が響き、爆風が僕を押して体勢を崩し倒れた。
「何が!」
僕が疑問に思う間も無く、さらに銃声が響いて叫び声が上がった。
「隊長!!」
「栂村ぁ! クソ、クソ!」
「魔眼をもう一つ持ってたぞ!」
「救急キットを早く! 城島師団長が!」
・・・嘘だ。
巨人は倒したのに・・・
もう、戦いは終わったはずなのに・・・
僕は一歩一歩進んで・・・爆風が巻き起こった中心へと近づく・・・。
そこには・・・
「館山さん!!!」
爆発によって頭部が消え去った館山さんの胴体が倒れていた。