両断
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炎の剣が振り下ろされる。
近づいて初めて分かったが、巨人もそうだが、70%の炎帝も炎の魔人や蝿の王とほぼ同等のパワーがある。
僕の大覚醒も匹敵まではいけるが、あれは激痛というリスが伴うものだ。
だが、木下にはそんなリスクは存在しないかのように動いている。
「主人のは・・・炎の魔人の魔力を使っているからなんだぜ・・・。主人の魔力だけなら、あんな副作用は起きないはずなんだぜ」
「木下の魔力はそんなに量が多いのか?」
「いや、主人と同じですぜ。ただ、あれは火力重視の炎帝が70%の出力を手に入れたからできることだぜ。大覚醒は・・・その、別の魔力を使った擬似的な100%なんだぜ。だから俺様も人型にはなれないし、システムがスルーした理由の一つなんだぜ」
そういう裏話があったのか。
目の前で半透明な盾が砕かれて、木下の剣が巨人の身体に亀裂を作り出すが、大きさがそこまでない。
僕らが入るためには、より大きく、より深い亀裂でないと、吸収する間も無くすぐに再生してしまうだろう。
「盾をどうにかできないか?」
真壁さんが僕を見た。
「スキルだと思うので、多分吸収できると思います。ですが・・・」
盾と剣が衝突して大きな音を立てる。
「あれとタイミングを合わせて飛び込んだ上で、盾が出る瞬間先行して、スキルを吸収した後あれを避けて、出来た亀裂に飛び込むと。・・・なかなかハードですね」
集団縄跳びでも、縄だから失敗しても痛いだけなので勇気を持って飛び込むことができるが、それに棘がついていて失敗したら足に突き刺さるとかなったら簡単に飛び込むことはできない。
剣を振る速度は同じだ。
盾を破壊した上で傷をつけているのだから、おそらく全力だと思う。
チャンスは1回だろう。
こんな事を何回もできるほど僕の心臓は頑丈じゃないし、木下も僕のことが気になって剣を思いっきり振れなくなるかもしれない。
そうなると、飛び込めるほどの亀裂ができない可能性が高い。
真壁さんにも被害が行かないように考えなければならない。
亀裂ができても、自分と真壁さんがしっかりと中に入れないと意味がない。
亀裂に入れず壁にぶち当たりましたとか笑えない・・・。
懸念が頭の中をグルグルと回る。
ああ・・・縄跳び跳べない人ってこうなっているんだろうな・・・。
左足の痛みが消え去るぐらいの責任が両肩に重くのしかかった気がした。
「すまないな。俺はタンクだからこういう時なんと言えばいいかわからない」
「大丈夫です。そう言っていただけるだけでも気が休まります。今のところ、木下が横斬りを仕掛けたとき行こうと思います」
「理由はあるか?」
「ええ、あいつの癖なのか分かりませんが、横斬りの際に両手で柄を持つんですよ。僕の勝手な考えですが1番強い攻撃だと思っているので、半透明の盾さえなければ深い亀裂ができるはずです。後、飛び込んだ際に足が着ける方が助かるので」
「確かにな・・・」
目の前で木下が剣を引いた。
突きの構えだ。
「この!」
現れる盾を突き壊しながら、剣先が巨人に届きそうになったところで下から巨人の右腕がそれを跳ね除ける。
そして左手を木下に向けた。
その延長上に・・・僕たちはいた!
「うわ、まずい!」
「回避を!」
百乃瀬にバレないよう、木下の後ろに隠れていたことが仇になった!
発射されるドラゴンキラー。
身体を傾けて避ける木下。
僕も木下と同じ方向に急いで移動するが、周囲に拡散するエネルギーと衝撃波が僕たちに襲いかかる。
僕は衝撃無効があるため、ほぼ被害はないが真壁さんはそうもいかない!
「真壁さん! 大丈夫ですか!?」
「だ、大丈夫だ!」
致命的なダメージは無かったみたいだが、それでも辛そうに真壁さんは声を発した。
左手のドラゴンキラーは、そうそう撃ってくるものではない為しばらくはこないだろうが、次が来る前に決着をつけたい!
「エイジ!」
「はいですぜ、主人!」
「急加速、急旋回。できるか?」
「主人の期待に応えるのが俺様の役割だぜ!」
「真壁さんに熱が行かないように吸収も頼むぞ!」
木下が連撃している。
手数で押し込もうとしているのがわかる。
ならするはずだ。
剣を両手で握った。
刃を水平に向けて腕と腰を捻る。
僕が剣の下に移動するのと同時にそれが振られた!
剣に遅れないように僕も必死に飛ぶ!
そして巨人に近づいた!
「加速!」
背中から何かが勢いよく噴射して、僕と真壁さんが剣より前に出た。
同時に半透明の盾が現れようとしたところでエイジが容赦なく全て吸収して行く。
そして、
「おおおおおおおらあああああああ!」
木下の雄叫びと共に、剣が深く巨人に食い込み、勢いを落とすことなく振り抜かれ、大きな亀裂を横一文字に作り出した!
「旋回!」
グルリと視界が回って僕は亀裂へ飛び込んだ!
左足が踏ん張ることができずにぐにゃりと曲がって激痛が走ったが、歯を噛み締めて耐える!
「真壁さん!」
「支柱生成! ジャッキ生成!」
周囲に柱が四つ出現し、真壁さん自身も鎧をジャッキに変えた。
それでも再生が始まったのか、メキメキと音を立てて支柱に亀裂が入り始めた。
「エイジ! 吸収だ!」
「やってますぜ!」
吸収しても再生が止まらない!?
「再生スキルのオンオフで俺様の吸収を避けてるんだぜ! 範囲吸収ができれば!」
だが、範囲吸収をすれば、真壁さんのスキルも吸収してしまう。
そのとき、後ろから大きな音を立てて更に人が転がり込んできた!
「館山さん!」
「真壁! 槍だ!」
「遅い! 引き抜け!」
真壁さんの身体から槍の柄が出てきてそれを館山さんが引き抜き、間髪置かずに壁に突き立てる。
ボコッ!
それは鈍い音を立てて壁に大穴どころか、貫通して外の光景を僕たちに見せる。
「まだまだだ!」
館山さんは、止まることなく真壁さんから槍を引き抜いては壁に突き立て、貫通させて行く。
「槍のダンナ! 上だ! 上に魔石があるんだぜ!」
エイジが叫んだ。
真壁さんが6本目の槍を作り出し館山さんが構えた。
「それでもう十分だろ。決めろよ」
「ああ、終わらせる!」
槍が天井に突き刺さり、砕け散るのと同時に天井が貫通した。
「ば、バカな!」
「お? なんか動かなくなった? チャンス!」
「やっちゃえ、ダーリン!」
外から不吉な声が聞こえた。
「あの、お調子者!」
「真壁! 教育は!?」
「木下、止まれぇぇぇえええええ!!」
僕の叫びは彼に届くことなく、再度剣を水平に構えた炎帝の姿が亀裂から見えた。
アイツには僕らが見えていないのか!!
「トドメだぁぁぁぁあああああああ!!」
剣が振られた。
館山さんが僕の左腕を掴む。
真壁さんが僕の右腕を肩に担いだ。
そして、走り出した!
「いっ!」
左足が変に動いて、その痛みに耐えきれず涙目になる。
それでも館山さんたちは容赦なく僕を運び、3人同時に亀裂から飛んだ!
僕は真壁さんを右手で再度掴み、左手で館山さんの鎧を掴んで翼を限界まで広げて飛ぶ。
ゆっくりと地上に近づきながらも大きく旋回をして、僕たちは巨人を見た。
木下の剣が巨人を上下に分断し、上半身がゆっくりと倒れて行く。
再生は働いていないようだ。
どこか生命力を失ったかのように見える巨人の上半身が、音を立てて地面に倒れたとき、僕はようやくこの戦いが終わったと感じた。