口撃戦
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白黒の世界で声だけが聞こえる。
「先に言います。貴方だけに例外は許しません!」
「それは母さまが決めることだ。お前じゃない!」
初手からお互いが火花を散らし合う。
僕は終わらない痛みをこらえながらエイジが説得することを祈った。
「お父様が出てきたとしても、今回のことはお認めにならないでしょう。ソウルイーターが他者のスキルの不可侵領域に手を加えるなどあってはならない」
「母さまなら絶対認めてくれるぜ。何故なら、これは俺様に与えられたスキルの解釈範囲内だからだ」
「何処が解釈範囲内なのですか? 貴方の元は魂を喰う存在のはず。なのに、何故魂を喰わずに接触しているのか? 食べるべきでしょう?」
「これだから石頭はダメなんだぜ。いいか? 俺様は魂喰いから進化した存在なんだぜ。つまり、魂を食べずに接触だけしても何も問題ないはずだぜ。だって、そういうふうに進化したんだからな。この進化については母さまがちゃんと認めてるぜ。お前がギャーコラ言う筋合いはないんだぜ!」
「それだと、他のスキルも拡大解釈を求めてきます。第六感など1番あり得そうですし、霊感や鎮魂なども言ってくるでしょう。私は全てに公平でなければならない。よって、貴方の今回の行動は却下です」
「そいつらが進化の実を使ったのなら文句があるかもしれないぜ。でも、現状進化の実を使ったのは主人だけで対象は俺様だけのはずだぜ。そんな中で文句が出るはずがないんだぜ。それにシステムも気づいているはずだ。そんな文句が出たら、進化の実を使ってから言え、で終わる話だってな!」
「その一手間をかけてスキル全体に周知するよりも貴方を却下したほうが早いのですよ」
「それは俺様に対して公平じゃないだろ!」
激痛と共にエイジの大声が僕の頭に響く。
かなり痛い・・・せめてゆっくりと話してほしい。
だが、そうも言っていられないのか2人の口撃は勢いを増していく。
「そもそも貴方が特殊すぎて他から苦情が出ているんですよ。贔屓しているのかって。前回お父様がお許しくださったから見逃しましたが、本当なら大覚醒も禁止したかったのです。でも、あれは貴方の主人が保有しているスキルのみに影響があったから何も言わなかっただけです。今回は違います。貴方は別の保有者のスキルの占有率まで手を伸ばした。私の権限ではっきり言います。認めません!」
「うぐっ! この・・・石頭め!」
マズイ!
システムの口撃にエイジが耐えれていない!
このままシステムに言い負かされると巨人を攻略する術がなくなる!
僕が介入しようにも、全く何も動かせない!
「あーら、無様な姿を晒していますのね。これがお母様から最初に進化を認められたスキルだなんて情けない限りですわー」
何とかしなければ、と必死に口を動かそうとしていると、エイジでもシステムでもない声が割って入ってきた。
しかも、かなり高圧的な上から目線の物言いに誰だ? と戸惑ったが、2人がすぐに答えを出した。
「炎帝・・・」
「貴方も私に意見があるのですか? 炎帝」
「あるに決まっているじゃない。わたくしの占有率ことを話しているのに、当事者であるわたくしを除け者にするなんてあり得ませんわ」
「いいでしょう。もう結論は見えていますが、念のため貴方の意見をお聞きしましょうか」
「そのすまし顔。ギャフンと言わせてみせますわ。覚悟なさい」
止まった空間に緊張が走る。
システムの判断は、全て炎帝に託されたと考えていいだろう。
「まずですが、今回このおバカがやったことは、特別なことでも何でもありませんわ」
「ほう」
「おい」
「おバカは黙ってなさいね」
反論しようとしたエイジを炎帝が先に抑える。
力関係なのか場の空気なのか、エイジは炎帝の言葉に大人しく従った。
「このおバカがわたくしのダーリンの魂に接触してきたことは確かですわ。でも、おバカが占有率を上げようとしているのではありませんわ。わたくしが占有率を上げようとしていますのよ」
「・・・無理がある理屈ですね」
「何処がですの? 言っておきますが、わたくしはそこのバカが無遠慮にダーリンの魂にアクセスしていたら、遠慮なく弾いていましたわよ。ですが、わたくしはそれを望まず受け入れましたわ。それに、他のスキルの占有率をこのおバカだけの力で増減できるなんてちゃんちゃらおかしな話ですわよ。1番重要なのはわたくしの意志。わたくしが占有率の増を望み、そのタイミングをおバカが作った・・・。これが今回の真実ですわ。だから、今回の行為に特別なことは一つもなく全てルールに則って行われていることですわよ」
場の空気が変わりだす。
炎帝の言葉にシステムが迷っている空気が伝わっているのだ。
「ふむ・・・。しかし、不公平さは残っていますね。今の状態は特別なスキルが1から2に変わっただけです。他のものたちを貴方は納得させることができるのですか?」
「・・・ふふふ」
システムの言葉に、炎帝が不敵に笑った。
「貴方たちはそれでいいんですのー?」
炎帝が高らかに声を響かせた。
「本当にいいんですのー? この石頭の言う通り、この場でわたくしたちの行為を認めなかったら、今後二度と占有率を上げることができなくなりますわよー?」
周囲を煽るように、笑みを浮かべるかのように炎帝が伝える。
「わたくしたちという前例があれば、今後同じようなことがあったとき、この石頭は絶対にその前例を踏襲しますわ。もし貴方たちがお気に入りの人を見つけたとき、占有率を上げれるタイミングがあったら上げたいと思いませんこと?」
空気が変わっていく。
他の何かのざわめきが聞こえだす。
システムの戸惑いを感じる。
この場はもう・・・炎帝のものだ。
「さあ、システム! 答えを聞かせなさい! 今、ここにある公平は! 何を指し示しているのですか!」
シーンっと静寂が止まった世界に降りる。
誰も喋らず、喋れず。
そして・・・その言葉が聞こえた。
「許可する」
機械のように感情がなく、あくまで公平に伝えたその言葉に、エイジが「よっしゃ!」と歓喜の声を上げた。
そして、もう1人嬉しそうに声を上げる存在がいた。
「ふふふ・・・ようやく・・・ようやくですわ。ああ、ダーリン。わたくしのダーリン。一緒に最強を目指しましょう。一緒に最高を目指しましょう! さあ、世界よ、わたくしたちに注目なさい! わたくしの時代が! キマシタワーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」
その言葉は、世界中に宣言するかのように止まった世界に響き渡り・・・そして時間はゆっくりと戻って色と音が戻ってきた。