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人類はレベルとスキルを獲得出来ませんでした  作者: 妹尾真拓
屋久島奪還編
18/197

阿蘇市→大津町→熊本市

評価・ブックマーク・いいねをしていただけると作者のモチベーションが上がります。

よろしくお願いします。

バイクを走らせながら、僕は久しぶりに阿蘇市を離れた。

荷物は宮地さんに頼んで自衛隊に運んでもらう。

流石にベルゼブブの籠手を一般便で運んでもらうのは怖い。

あの後、宮下さんたちはお酒で使えない頭をフル回転させて、貯金残高とネットで検索した装備品を見比べていた。

そして次の日、頭を抑えて唸っている宮下さんを連れて買い物に行っていた。

僕は僕で支部長や宮地さんと、いつ阿蘇市を離れるか打ち合わせして、鹿児島市までのルートとそこから先の案内について計画を立てて今に至る。

このバイクも、ダンジョン限定免許しか持っていないため、大津町で置いていくことになっていた。


「中型二輪の免許、取ろうかな」


あったら移動に便利だし、風も気持ちいい。

お金は幸いまだあるから、免許だけでも取るのはアリかもしれない。


大津町で規定の場所に置いてリュックを背負って町を歩いていると、指をこっちに向ける人がいた。

気になって顔を向けると高校生の集団がこっちを見てる。

・・・やばい!


「瀬尾京平だーーー!!」


僕は身体強化を使って走り出し、素早く携帯を操作してマップ機能で予約していたホテルへのルートを出した。


「こっちか!」


目標のホテルに向けてその方角へ進む。

だが、そこですれ違う人たちが携帯を見て次に僕の姿を発見して指を刺す。


「ホントだ! 瀬尾がいる!」

「サイン欲しい! サイン!」

「チクショウ! 情報が回るのが早すぎる!」


町に入ったばかりなのに、捜索している人が多すぎる!

身体強化で逃げ回っているのに先回りされてる!?

情報伝達速度が早すぎるんだ!


「ホテルがこっちの方向? 誰か検索して!」

「ベッセかビスタだ!」

「CANもあり得るぞ!」

「全部張れ! 情報はすぐにネット拡散!」


こいつら軍か何かの訓練を受けたのか!?

僕の情報が筒抜けだ!

しかも推理力がありすぎる!

誰かがスキル持ちじゃないと説明がつかない!


「ホテルを変えられるかもしれない!」

「大丈夫! あの人は情弱よ! 阿蘇の探索者が呟いてた!」

「なら安心だ!」


クソ! なんか悪口を言われている! 早くベッセ熊本に入らないと!

群衆の隙間を縫うように走り、勘がよく僕の進路を遮ってくる子の頭を飛び越え、視界を塞ぐ色紙を振り払い、カメラのラインから外れてホテルへと突き進む。

何枚写真を撮られたかは分からない。

ただ、まともに顔を写されたものはないはずだ。

脇道に入って混乱させようとしても通じない! 主道路を抑えられてしまった!

僕は大回りするつもりで、北側から迂回する。


「CANは抜けた! やっぱベッセかビスタだ! 2つに絞れたぞ!」

「有名探索者のサインは幸運の証よ! 絶対ゲット!」

「やばい! 警察と自衛隊がホテル前を抑えた! ベッセ熊本だ! ホテルに着く前に捕まえるしかない!」


交差点の前に待ち構えている人たちを躱して車が来ないことを瞬時に確認し突入する。

大通りに追跡者たちも雪崩れ込もうとしたが、待ち構えていた警察官が彼らを取り押さえていく。

これで追跡者の心配はなくなった。だが、目の前にあるホテルの周辺には人だかりができていて中に入れそうにない!

どうするか迷って周囲を見ると、道路に観衆が溢れ出ないよう押さえていた1人の自衛隊員が、両手を組んで中腰で待ち構えている。

一つの可能性を信じて僕は彼に向かって走り出し、彼の両手に足を掛けて飛び上がった。

同時に彼も僕の体を後ろに向けて放り投げ、僕は観衆を飛び越えてホテルの入り口前に着地した。


「ぎゃーー! やられた!」

「写真は撮れた!」

「ツーショット撮りたかったー」

「握手したかったよ」

「出待ちは・・・迷惑かー」

「ホテルと宿泊客に迷惑かけたら捕まるかも」


僕はホテルの中に入ると、集まっていた人たちも諦めたのか、バラバラに別れていった。

ようやく一息ついて受付に向かうと、その前にスーツを着た役職に就いていそうな人が僕にお辞儀をした。


「初めまして、この度は当ホテルをご利用いただき誠にありがとうございます。当ホテルの支配人を務めております、楠木と申します。ご宿泊の期間中は快適に過ごしていただけるよう誠心誠意努めてまいりますのでよろしくお願いいたします」


丁寧な言葉に、僕は恐縮してお辞儀を返した。


「一泊ですがよろしくお願いします。しかも、早速こんなに騒がせてしまい申し訳ありません」

「いえいえ、若手でありながら九州の各ダンジョンで名を馳せた瀬尾様に泊まっていただけるのであれば、何の問題もありません。安心してお寛ぎください」

「ありがとうございます」


ちょっと恥ずかしいが、ホテルの中では声をかけられることもなく、部屋も1番いい部屋ですごく快適でした。

なお、お支払いは自衛隊持ちです。


翌朝、僕は宮地さんに電話して、自衛隊に迎えに来てもらうことにした。


「お礼はこれでいいのかな?」


色紙を何枚かもらってサインを書いた。

ホテルに飾ってくれたら嬉しいかな。

ロビーでしばらく待っていると、9時に宮地さんが来てくれた。


「大変でしたね、昨日は」

「阿蘇市がどれだけ平和だったかわかりました」

「これから熊本市に行って、新幹線で鹿児島市に向かいます」

「え? 車で行かないんですか?」

「瀬尾くんはこの機会に、少し今の自分の状況を知るとともに慣れていたほうがいいっと色々な人の判断です」


色々って誰だろう・・・。

今までお世話になってきた人たちは絶対含まれているんだろうな。

のんびりと後部座席に座っていると、車は数分でコインパーキングに停車した。


「さあ、いきましょうか」

「え?」


ここは豊肥本線の大津駅。

通学通勤時間は避けてるとはいえ、人はまだいる。

僕は和かに車から降りた宮地さんに腕を取られて車から降ろされ引っ張られる。


「あの!」

「車は別の隊員が取りに来ることになってますから安心してください」

「いや、じゃなくて」

「駅弁のお金ですか? 大丈夫です。自衛隊の方で出しますから」

「ち、違う」

「指定席をちゃんと取ってます。久々の電車旅行でしょ? 快適に行きましょう」


こ、この人わざと話をしないようにしているな!


「宮地さん!」


焦る僕に、彼はニッコリと微笑んで切符を一枚、僕に渡した。


「アイドルやタレントみたいに有名になりたい欲求は無いのでしょうけど、もうなってしまったのですから、少しだけ我慢しましょう」


なってしまった僕が悪いのか。

4級を維持していればこんな状況にはならないと勝手に考えていたことがダメなのか。


「あ、あの・・・」


赤ちゃんを抱えたお母さんが僕に恐る恐る声をかけてきた。


「もし良ければ・・・この子の頭を撫でてもらえませんか?」


験担ぎか運のお裾分けだろうか?


「撫でてあげてください。超レアスキル保持者は幸運者扱いなんです」

「僕・・・右手右足切られて一歩間違えてたら死んでいたんですけど」

「今生きていることが大切なんですよ」


期待している母親に、僕は近づいて赤ちゃんの頭を左手で優しく撫でる。

右手は感覚がないから力加減を間違えそうで怖かった。


「ありがとうございます! 良かったね、良かったね!」


すごく嬉しそうに赤ちゃんを抱きしめて去っていく。

大丈夫だろうか・・・。

僕が触ったせいで不幸な目に遭ったりしないだろうか。

将来あのお母さんに「瀬尾なんかに触らせるんじゃなかった」と言われないよう、心掛けなければ・・・。

彼女の歪んだ表情を想像して、僕はゾッと心が震えた。


「・・・まだ早かったのかも」


宮地さんがボソッと呟いて僕を駅の中へ連れて行く。

ひとまず、自販機で飲み物を買い、時間まで待機していた電車に乗り、座席番号を確認して僕たちは座る。

僕はファンタのみかんを一口飲んで、フーッと一息ついた。


「深く考えなくていいんですよ」

「?」

「さっきの親子のことです。あの人たちだって深く考えて瀬尾くんに触ってもらったわけではありません。写真やサインと一緒です。自ら重荷を背負うようなことはしないでください」

「・・・そんな顔してましたか?」

「ええ、すごく」


僕は顔を手で押さえて、頬の筋肉をほぐすように揉む。


「有名人になったこと、きついですか?」

「・・・正直なところ、ちょっとだけ」

「そうですか・・・。熊本市で一泊する際に各方面と話をして、瀬尾くんの意志を伝えますよ。日本で唯一A級を無力化できる人材ですから、皆さんすぐに理解してくださいますよ」


僕への理解を示してくれる宮地さんに感謝して、僕は一口ファンタを飲んだ。

炭酸が心地よく喉を楽しませた。


電車の中では声をかけられることなく快適だったが、熊本駅ではそうは行かなかった。

大津町から情報が流れたのだろう。

流石に学生はいなかったが、それでも十分すぎる人がホームにいて、駅員さんと警察がなんとか押さえて乗客が出れるスペースを作っている。


「うわー」

「本当なら数日メディア対応をしてもらって、ちょっとしたサイン会とかをしてもらえば落ち着くんですが、今回は長期化しそうですね」

「なんでこんなに」

「メディアがすごく取り上げてましたからね。瀬尾くん自体は阿蘇市から一歩も出る気配がありませんでしたし、誰も近づくことができなかったんですよ。あ、瀬尾くんの二つ名もメディアが勝手に付けてその一つが浸透してますよ」

「え!? 何それ怖い」

「『生命強奪者』ですね。能力をまんま二つ名にしただけですけど、強そうですね。実際強いですし」

「いや、強奪者って悪者じゃないですか! 誰ですか、こんな名前にしたの?」

「一般の方の投票です」

「文句が言えない!」


項垂れながらも車両から出ると、集まった人たちが僕に携帯を向けて一斉に写真を撮る。

フラッシュに少し目を細めて通り抜け、改札を出ると、車が待機していて僕らはそれに乗り込んだ。


「ヤッホー、久しぶり。元気だった?」

「鬼木さん!」


入ろうとした時に、久々の人から声をかけられ一瞬足が止まった。


「こっちこっち」


バンバンと彼女の横のシートに座るよう促されたので、僕はそこに座って宮地さんは3列目に座る。


「どうしたんですか? 突然ですね」

「うーん、監視役ってところよ。瀬尾くんは今、探索者組合預かりだからね。自衛隊が人権を無視した無茶な作戦をしないか確認」

「・・・作戦は聞きました?」

「聞いたわ。まー、瀬尾くんの能力頼りね。新しいアイテムを作ってくれたらしいけど、縄文杉とつり合うのかが問題よ」

「縄文杉って鬼木さんがそれ程警戒する相手なんですか?」

「私は戦う気すらしないわ。第3回の生き残りの1人が研究者になって縄文杉のことを調べてたらしいけど、知恵を持っているみたいよ」

「知恵ですか・・・」


それだけでも厄介だ。

ただ・・・、


「相手は動けないので、僕の範囲内に入りさえすれば」

「問題なく勝てるわね。最後は爆薬で大爆破でしょ? ベルゼブブの籠手の能力も聞いたけど、負ける要素がないわ」


やっぱりか。


「小国町で花壇を枯らしたあの力があれば、老木なんてあっという間でしょ」

「さり気なく僕のトラウマをほじくり返さないでください。町長からすごく怒られたんですから」

「そういえば、私が小国町の後始末に行ったとき、不自然に咲いてた花壇がありましたね」

「宮地さんも見たんですか」

「見ましたよ。何があったのかは聞きませんが、ほどほどで」


まあ、イライラしてた時なので僕にも悪いところはあったかもしれないけど、あれはあの人たちが悪い。


僕らはそのままニュースカイホテルに入って車を降りた。

ホテルの入り口から警察と自衛隊が待機していて一般の人はほとんどいない。

流石にロビーにはチラホラいたが、僕らを一瞥して素通りして行く。

ただ、支配人からの挨拶はあった。

そして、今日は一般の客は泊まれず、ほとんどが自衛隊の関係者と警察の関係者で埋めたらしい。

どうしても断れなかった一般客には僕らが来ることを伝えて、決して話しかけないように伝えているとのこと。

ホテルのありがたい配慮に、小さく「ありがとうございます」と伝えた。


「このホテルでもサイン書いてあげるの?」


鬼木さんが突然そんなことを言った。


「え? 何でですか?」

「だって、大津町でも何枚か書いてあげたんでしょ? SNSに上がってるわよ」


そう言ってネットニュースにあがった、ベッセ熊本の支配人が感謝の言葉と共に色紙を持って満面の笑みで撮った写真を見せて来た。

ソローっと支配人の方を見ると、表情ひとつ変えずに僕を見ている。


「・・・」

「・・・」

「・・・書きます」

「ありがとうございます。当ホテルもSNSのアカウントを持っておりますが、同じようにアップしてもよろしいでしょうか?」

「はい、お任せします」

「重ね重ね感謝致します。それでは部屋へご案内致します」


1番上の見晴らしのいい部屋に泊まりました。

鬼木さんも「うはぁー」と言って別の部屋に泊まりました。

いい部屋にベッドは寝心地も最高です。


晩御飯は食事を部屋まで持ってきてもらって宮地さんと鬼木さんを呼んで一緒に摂った。

馬肉を初めて食べたけど、鬣は僕の口に合わないみたいだ。

でも、赤身肉はとてつもなく美味かった。


「そういえば、二つ名のこと聞いた?」

「ええ、聞きました。何となく恥ずかしいんですが」

「いいじゃない、強そうで。私もテレビで強そうな二つ名を選んであげてねって呼びかけた甲斐があったわ」

「ああ、そういえば、鬼木さんもあの番組に出ていましたね」

「定期的に呼ばれるのよ。私と朱野は絵面から見てもテレビに出てると視聴率も上がるみたいよ」

「『今日の探索者たち』のコーナーは評判良いですからね。1級探索者が出たときなんか、うちの隊員もテレビにしがみついて観てましたよ」

「担当は持ち回りでやってるからね。ほぼ2級と3級がやるけど、たまには東雲さんとか、比嘉ちゃんとか外に出してあげないといけない子たちがいるから」

「うちの特別隊員にも社会性がない人がいますよ。フルダイブヒャッホーって言っているのが・・・」


何処にもそういう人たちは一定数いるようで、鬼木さんと宮地さんはウンウンと頷き合っていた。

まあ、一芸に秀でていて生活できるのなら問題ないのだろう。


「そういえば、その1級の人たちや特別隊員の人たちっていつも何処にいるんですか?」

「うーん、基本は3大ダンジョンのどれかに居るわよ。それ以外だと、特別な依頼とかその子しか出来ない仕事のために駆り出されたりするわね」

「うちのは佐官が1人お目付け役でついて、東京タワー地下施設に居ますよ。彼は天空大陸の監視をしてますから」


ドラゴンが住む大陸か・・・。

日本ではしばらく起きていないが、世界では年に数回降りてきたドラゴンによる被害があるらしい。

彼らにとっては遊びのつもりなのか、町一つを破壊し尽くして去っていくそうだ。

そんな危険な存在を監視する人ってどんな人なんだろう?

興味が湧くが、おそらく会う機会はない。


鬼木さんと宮地さんは食事を終えた後、しばらくテレビを観て、各々の部屋に戻っていった。

僕はテレビをつけたままネットニュースを見ていた。

主に僕が熊本市にいることや、何のために移動しているのか、何処に向かっているのかなどがあがっている。

他のニュースは新しいダンジョンが発見されたとか、タレントの誰々が結婚とか。

一通り目を通して携帯を充電器に繋げてベッドに寝そべった。


大丈夫だよ、じーちゃんばーちゃん。

あいつは必ず殺すから・・・。

何があっても、この憎しみは消えないから・・・。

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― 新着の感想 ―
2つ名のセンスがAIか?って聞きたくなるレベルなんだけど敢えてコレなんだよね……? そうと言っておくれ
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