ソウルアクセス
ブックマークありがとうございます。
不定期更新ですので、気長に待っていただけるとありがたいです。
よろしくお願いします。
僕の今まで会った人で、スキルを含めて強いと思える人は片手で数えるほどしかいない。
1人は鬼教官。
1人は鬼木さん。
1人は莉乃。
1人は木下。
この4人は本気になれば生命力吸収を受けてもスキルを使ってくるだろうと考えている。
・・・約1名既に使ったやつもいるが。
その内の2人と戦って一歩も引かない存在がいるとは思いもしなかった・・・。
「ぐぁああああああああああ!」
鬼教官が殴った。
岩と岩がぶつかったような音が響き渡る。
「お返しであーる!」
巨人の右手から弾が飛び出す。
僕の目ではとらえられないそれを、鬼教官は銃口から方向を予測して大きく回避する。
砲弾は森を貫いて消えていったが、その衝撃波が土を巻き上げ視界を悪くした。
「ぶっ壊れろ、ゴーレム野郎!」
木下が炎の剣を巨人に振り下ろすが、半透明の盾がそれを受け止めた。
「甘っちょろい攻撃なのであーる!」
巨人の左腕が唸り、木下の横っ腹を薙ぐが、木下には物理攻撃は効かない。
木野氏が平気な顔で再度攻撃しようとしたとき、ガコンっと振り抜いた左腕の肘から銃口が現れた。
「いっ!」
木下が慌てて首を傾けると、そこから小径のドラゴンキラーが発射され、木下の頭スレスレを通って空に登っていった。
機械で作ったものと違い、この手の巨人は身体の何処にでも仕掛けを隠せるため、戦う場合は予想外の攻撃を予想しなければならないという無茶を強いられる。
だが、一番の問題は・・・この巨人の防御力に高さだ。
「この! 盾が邪魔だ!」
「無駄であーる! 無駄であーる! 自衛隊最強も帝級も! 全てを想定してスキル構成しているのであーる! わしの目的はあくまで神! 大人しく平伏すのであーる!」
鬼教官がグルリと一回転して拳を叩きつける。
巨人はその攻撃をしっかり受け止めて右腕の銃口を鬼教官に向けた。
鬼教官が超至近距離の銃口から身を逸らせて回避しようとする。
ドォン!
轟音が鳴るのと同時に鬼教官の左の二の腕から血が飛び散った。
「鬼教官!」
更に、攻撃を仕掛けようとした木下にドラゴンキラーを発射し、その光が木下の脇腹を貫いた。
2人とも堪らず距離をあけようと後退するが、巨人は悠然と前進を開始しする。
「エイジ! 魔力吸収をするぞ!」
「承知だぜ、主人!」
「瀬尾くん! 俺たちも俺たちで行動する! 真壁、行くぞ!」
「了解だ!」
真壁さんが何もない空間から槍を作り出し、それを館山さんが受け取って2人が走り出す。
僕も巨人の右足に取り付くべく走り出した。
あの巨体を動かしているんだ。
スキル構成は分からないけど、かなりのスキルを使っているはず。
エイジの力で魔力とスキルを吸収すれば動かなくなるはずだ!
ズシン! ズシン! と、巨人が一歩一歩大地を踏み締めるたびに僕の身体が揺れる地面に足を取られる。
僕は巨大な右足に飛び乗って振り落とされないようしっかりと指を引っ掛け、そこからクライミングのように移動し、脛の位置までたどり着いた。
同じタイミングで左足の甲を、館山さんが半透明の盾ごと槍で風穴を開けた。
攻撃範囲は狭く武器破壊もあるが、確実にダメージを与える完全貫通のスキルは鬼と炎帝でもダメージを与えることができなかった巨人に対しても有効だったようだ。
だが、その風穴も数秒後には塞がって元の状態に戻ってしまう。
「再生スキルか!?」
「館山! 飛び降りろ!」
真壁さんが叫び声をあげたが、少し遅かった。
左足が大きく引かれて館山さんは逆に落ちないようしがみつく。
「完全貫通は予想通り厄介であーるな!」
そしてその左足は、まるでサッカーボールを蹴るかのように、地面ごと真壁さんを蹴り飛ばし、その勢いに耐えきれず館山さんも宙に投げ出された。
「館山さん!」
2人が飛ばされた先に、木下が炎の腕を伸ばしてキャッチした。
よかった。
僕は脛にしがみついたまま魔力を吸収しているはずのエイジを見る。
「エイジ! 吸収を急いでくれ!」
魔力さえなくなれば、この巨人は木偶の坊どころか置物でしかない。
だが、エイジは声に焦りを滲ませて答えた。
「だ・・・ダメだぜ、主人! この巨人、吸収対策をしているんだぜ!」
「吸収対策!?」
何だそれは!
叫びたくなった僕に、百乃瀬が楽しそうに声を震わせた。
「無駄であーるよ、瀬尾くん。君の能力は全て対策済みなのであーる。このデウス・エクス・マキナに対して吸収系のデバフは効かないのであーる!」
そんなバカな・・・。
いや・・・安部の持っていた吸収耐性というスキルがある。
あれと同じ効果を持つスキルを装備している可能性が高いのか?
しかし、装備するなら百乃瀬本人に装備する必要があるはずだ。
おそらく頭か胸の辺りにいる場所から、足までカバーできているのか?
「主人、主人!」
僕が考えていると、エイジが僕を呼んでいた。
「どうした?」
「あいつがこの巨人に施した対策はスキルじゃないんだぜ。これは・・・技術だぜ」
技術・・・技術!?
「じゃあ、百乃瀬は何らかの方法で、今この世界にある物質を使ってエイジの能力を阻害しているって言うのか?」
「そうだぜ、主人。俺様も信じられねーぜ。まさか、俺様にわざと吸収させる魔石で覆っているなんて・・・しかも、それぞれが独立していて範囲外がほとんどだぜ」
魔石で覆う?
見る限り金属のようなこの巨人の外装が・・・魔石?
「主人・・・外装だけじゃないぜ。一つだけ気になるスキルがあったんだぜ・・・融合なんて厄介なスキルが」
「幾つもの魔石を合わせて作ったのか? この巨人を!」
「おそらくそうだぜ・・・」
じゃあ、その融合の効果を吸収すれば外装を何とかできるのでは、と考えたが、その考えはエイジによって否定された。
「継続して使用されているならともかく、もう既に効果を発揮したものを吸収することはできないんだぜ」
外装を破ることができない・・・。
鬼教官でも、木下でも、僕でも!
「そろそろいいのであーるか? 瀬尾くん、離れてもらうのであーる!」
巨人の右足が力強く大地を踏んだ。
僕の身体は反動で宙に浮き、掴んでいた手が外れた。
グルンと巨人の右腕が回転して、僕の下から襲いかかる!
「エイジ! 盾!」
右腕が巨大な盾になって、そこに巨人の右腕が衝突した。
僕の身体が勢いよく縦に回転して、木下が受け止める。
「あぶねー!」
更に追撃の小型レールガンが巨人の体に出現して僕に向けて発射され、木下が僕を庇う。
「離れろ!」
「分かった!」
距離を開けた木下に対し、間合いを詰めようとした巨人は、今度は鬼教官から巨石を投げられてその場から一歩後退した。
「クソ! どうすればいい!」
「真壁、何か策はないか?」
「隙を作って館山が完全貫通で、あの中にいる本体に致命傷を与えるしか・・・」
だが、さっきの攻撃で百乃瀬も館山さんを警戒しているはずだ。
周囲からダメージを入れることができない攻撃をする僕らよりも、致命的なダメージに繋がる館山さんを先に倒しにくるはずだ。
何としてでも彼の一撃が決まるよう立ち回りをしなければならない。
僕らが岩を挟んで百乃瀬と睨み合い悩んでいると、エイジの目がギョロっと僕を見た。
「主人・・・一つだけ・・・ありますのぜ・・・すごく嫌だけど・・・ぜ」
本当に嫌そうにエイジが告げた。
木下が僕たち3人を地面に下ろして彼なりの構えをとる。
その行動を見てエイジが焦った。
「主人! 炎の小僧を止めてくれだぜ! あいつが必要なんだぜ!」
「木下が?」
「どうした、瀬尾くん」
真壁さんが僕の横に来た。
鬼教官と館山さん、真壁さんの3人で巨人を止めないといけない。
・・・任せれるか?
僕が言うのをためらっていると、ポンっと肩に手を置かれた。
「何かあるなら任せていい。あれに勝つ方法があって、そこに時間が必要なら俺たちが稼ごう」
「木下をパワーアップさせます。・・・耐えてください!」
「承知だ! 館山! 耐えるぞ!」
「情けないが、頼るしかないか! 鬼さんも連携お願いする!」
「ぐああああああああ!」
真壁さんが「武装!」と叫んで、専用装備の上から全身にアーマーを出現させた。
所々出っ張りがあり、館山さんがそれを掴んで引き抜き構える。
鬼教官も、肌の色が真っ黒に変わって、その手に鬼の棍棒が握られた。
・・・3人の体力が尽きたら終わりだ。
それまでに、木下をパワーアップさせてみせる!
「木下! 元に戻ってきてくれ!」
僕の呼びかけに木下は戸惑うが、何も言わずに既に突撃している館山さんたちを見て元に戻り、僕の正面に降り立った。
「どうするんだ?」
「お前をパワーアップさせる。エイジ、説明できるか?」
「承知ですぜ。炎の小僧、しっかり聞いてありがたく思えよ! 炎帝もだぞ! 調子に乗んなよ!」
エイジが強めに木下と炎帝に忠告を始める。
「お? 何だテメー。俺様はやめてもいいんだぞ? もうこんな機会与えてやんねーからな! テメーはそれでもいいのかよ?」
「エイジ、そこまでだ。先に説明だ」
何だか、剣呑な雰囲気が出始めたから、エイジの注意を僕に引いて再度説明を求めた。
「主人・・・。まず、小僧と炎帝の適合性は70%あるんだぜ。でも、占有率は30半ばか後半ぐらいだ。40ギリギリないぐらいかもしれないんだぜ。それを、俺様が小僧の魂にアクセスして占有率を50%まで引き上げる。攻撃専門のスキルの50%の力になると桁違いになるから、小僧をメインアタッカーにすれば、あいつは倒せるはずだぜ。ただ、ちょっとリスクがある・・・ぜ」
「何だ?」
「エイジ・・・言ってくれ」
エイジの目が僕と木下を行き来して閉じる。
「ちょっと・・・痛いんだぜ」
「・・・」
「その程度か? 俺ならどんな痛みにでも耐えるぞ」
木下が気軽に言うが、僕の中では、過去何度も受けた痛みが思い返された。
「どの時と同じぐらいだ?」
「大覚醒ぐらいだぜ、主人」
あの痛みを・・・こいつにも知ってもらえる機会が来るとは・・・胸が熱くなってきる。
「その痛みは俺も受けるのか?」
「受けないとダメなんだぜ」
「そうか・・・」
あわよくば木下だけであって欲しかったのだが・・・仕方がない。
「おい・・・京平?」
「気にしなくていい」
「いや気になるだろ。どんだけ痛いんだ?」
「大丈夫だ。覚悟さえしておけば」
「どんな覚悟が必要なんだよ!」
「エイジ! 時間が勿体無い! やるぞ!」
「承知だぜ! 主人は小僧の手を握ってくれ!」
「おい!!」
僕が右手で木下の左手を握り、逃がさないように左手で肩を掴んだ。
「それじゃ、やるぜ! ソウルアクセス!!」
激痛が全身を駆け抜けた。
覚悟していたが、あまりの痛みに一瞬顔が歪む。
木下は口を大きく開けて悲鳴を上げていた。
そして・・・時が止まった。
「また貴方ですか? 番外No.1、エイジ」
「そうだぜ、スキルNo.1、システム。お前を必ず説得して見せる!」