人造神デウス・エクス・マキナ
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僕の身体が地面を転がる。
プロテクション・ウォールのおかげで最初は装備も汚れなかったが、途中で砕けて土埃がフェイスガードを汚した。
だけど、それも数秒後にはおさまって視界が晴れていく。
そこに・・・巨人がいた。
その外見から、一部の人なら量産型の緑の機体を思い浮かべただろう。
だが、遠目からでも違う箇所があった。
手が存在せず、筒状になっていた。
さっきの一撃はあそこから放たれたのだろう。
「自衛隊諸君、警察官諸君、探索者諸君、初めましての人は初めまして。知っている人はお久しぶりなのであーる。今日、この場より百乃瀬亘が復帰するのであーる!」
巨人から百乃瀬の声が僕の場所まで聞こえた。
「さてさて、早速ではあるが、先程の一撃はいかがだったであーるか? 恐れたであーるか? 怖かったであーるか? 脅威を感じたであーるか? 少しでもそう感じたのであれば、わしはすごく嬉しいのであーる。諸君らの感情ひとつひとつは小さくとも、たくさん集まり祈りとなり願いとなれば、その時わしが造りし人造神・・・デウス・エクス・マキナが真に神へと昇華するのであーるのだから」
百乃瀬の言葉が、徐々に暗く、重いそれに変わっていく。
「だが、まだ足りないのであーる」
巨人が地響きをたてながら移動を開始した。
「人々の祈りが・・・より多くの願いが必要なのであーる。日本中にデウス・エクス・マキナの存在が知れ渡れば、必ず昇華されるはずなのであーる。かつて存在していた菅原道真、崇徳上皇、平将門がそうであったように!」
巨人が向かう方向は・・・東?
そっちは・・・その方向は!
「さあ、向かうのであーる・・・東京へ! 万人に見せるのであーる、新たなる神の誕生を! そして! 何もしない神を引きずり下ろすのであーる! 神の座から!」
止めなければ!
関東圏はダンジョン排他地区。
あそこには安全を求めて住んでいる人がごまんと居る!
「PSCTシステム起動!」
空から向かえば何とかなるかもと思ったが、僕の声に飛行装置が応えない。
「主人! さっきの風神に壊されて飛べないぜ!」
「何とかならないか?」
「操作パネルから裂かれっちまったから俺様じゃどうにもならないぜ」
くっ・・・なら、全力で走るしかない!
巨人の攻撃で抉れた一本道も、ダンジョンの特性ですでに再生し始めている。
僕は巨人に向けて走ったが、その上空を何かが飛んだ。
「京平!」
「木下!」
「飛べ!」
僕がジャンプすると、鎧を着た木下から炎の腕が現れて僕を掴む。
「怪我はしていないか!?」
「俺は大丈夫だ! お前は!?」
「俺も大丈夫だ・・・守ってくれた人たちのおかげだ」
歯を食いしばって正面を見る。
「ブラックアイズは? 館山さんたちは大丈夫なのか?」
「ブラックアイズは大丈夫だ。大半が見回りと周辺モンスターの討伐に出ていたからな。それでも・・・何人かいなくなった」
木下の言葉から悔しい思いを感じた。
「・・・館山さんたちは後でこっちに向かってくるってよ」
「分かった!」
もう少しで巨人の攻撃範囲に入る。
右手に大鎚を作り出して、木下に投擲を頼もうとしたとき、巨人の前に巨大な鬼が出現した。
「ぐぉぉぉおおおおおおおおお!!」
巨人と並ぶ程になった鬼が両腕を広げて掴み掛かる。
「ほほー、神殺しの前の鬼殺しであーるな! 前哨戦にちょうどいいのであーる! わしが造りしデウス・エクス・マキナの強さをしっかりと味うがいいのであーる!」
先ず、鬼が巨人を殴った。
大きくのけ反ったので、このまま倒れると思ったら、前に出していた右足を引いて転倒を避け、そのまま返す勢いを利用し、右腕を振り抜いた。
巨人の右腕が大きく弧を描いて鬼の側頭部に叩き込まれ、今度は鬼がバランスを崩す。
「ぐぉぉぉぉおおおおおおおおおおお!」
「いいのであーる! いいのであーるぞ! 素晴らしいデーターが集まっていくのであーる! さあ、鬼よ! かつて中尊寺金色堂ダンジョンブレイクで、全てのモンスターをたった1人で殺戮し尽くした自衛隊最強よ! わしの経験値になるのであーる!」
僕の背筋が凍った。
巨人と鬼の戦いに恐怖したからじゃない。
巨大ロボットでは絶対に出来ないことを、あの巨人がやったのを見てしまったからだ。
人が操縦していたなら・・・今の科学技術では絶対に出来ない。
だからこそ僕は実現不可能だと断言していたのに!
「木下! 俺をあの巨人に投げろ!」
「・・・分かった。何処を狙う?」
「頭を狙ってくれ!」
炎の腕が弓のように曲がって僕を投げ飛ばす。
僕は大鎚を作り出して体ごと回転を始めた。
そして、狙いは違うことなく、頭部に大鎚は衝突して衝突音を響かせた。
だが、ヒビどころか、僅かな凹みすら作ることができなかった。
「ん? おお、瀬尾くんだったか。いかがであーるか? わしが造ったデウス・エクス・マキナは。これなら神に刃を向けるに相応しいと思うのであーるか?」
巨人が鬼と押し合いで一歩も引かずに、その上で僕と話を始める。
鬼教官と戦いながらこんな舐めた態度ができる人がいることに驚くが、それよりも確認しなければならないことがある。
「何をした・・・この巨人に!」
「ふむ・・・そこに気づくであーるか」
「当たり前だ! 巨大ロボットに夢を抱いた人なら必ずこの壁にぶち当たる。金属の摩耗でも物理法則の問題でもない、絶対的に不可能とする理由・・・。人の身体は、人が操縦できるほど簡単にできていない! 倒れそうになる身体を立て直す行動は巨大ロボットでは不可能だ! 人が操縦している限りな!」
両手両足で出来る行動なんて限られている。
殴られた際の行動なんか、その時々で威力も角度も変わってくる。
簡単に設定できるものではない!
「ふふふ・・・それは秘密なのであーる」
百乃瀬のふざけたセリフに僕の怒りが噴き出した。
「なら、こっちの質問には答えてもらうぞ! 何故さっきの一撃を使った!?」
「さっきの一撃? どっちの事であーるか? 右手と左手があるのであーるが?」
左手からも何かを放って、別の地点で待機していた人たちを殺したのか!?
「何であんなに・・・人を簡単に殺せる武器を人に使った!」
「そういう意味であったのであーるか・・・。理由は既に言ったのであーる」
「こんな物が、神になるはずがない!」
「いや、なり得るようにわしが造り上げたから、必ずなる。最後に必要なピースは人の信仰心なのであーる。それも集めやすいように、わしはこの子の名前をデウス・エクス・マキナとしたのであーる」
「名前に意味は無い!」
「名前は意味を持つのであーる。本当なら、人々が慣れ親しんだゼウスやシャカなどをつけようとしたが、フォルムがどうしても合わなかった。ならば、人が造った神はいないか探した。インターネットを漁った。そして・・・旧暦のヨーロッパに舞台の演目を終わらせるための技法として、神を登場させていたことが分かったのであーる」
「・・・」
「全ての物語を演劇を、一つの世界を終わらせる力。それがデウス・エクス・マキナなのであーる」
ドォン! と大きな音がして、鬼教官が腹部を押さえて後退する。
「右腕にレールガン・・・」
今度は左腕を向けて、周囲一面を照らす光を放ち、横一線に薙いだ。
僕が知っている・・・よく使っているドラゴンバスターと同一の光の束。
「左腕にドラゴンキラー・・・」
巨人が一歩足を踏み出して地響きを立てる。
「さあ、行くのであーる。人々に恐怖を与え、祈りと信仰を受けて神化するのであーる!」
更に一歩進もうとしたとき、上空に光の巨大な玉が出現した。
「京平! どけぇええええええ!」
僕が巨人の肩から飛び降り、一瞬ののち、炎の塊が巨人に向けて落ちた。
木下自身も巨大な炎帝に変わって地面に降りて鬼教官と肩を並べた。
僕は炎に包まれた巨人を見ていると、後ろから誰かが近づいてきた。
「瀬尾くん! 今到着した。状況を教えてくれ!」
「館山さん!」
ブラックアイズの館山さんと、真壁さんがそこにいた。
「今、木下の攻撃が巨人を燃やしていますが・・・」
倒れる気配がない。
「ふぁふぁふぁ・・・これが帝級の力であーるか・・・。この程度であーるか!」
炎が弾け飛んだ。
見ると巨人の体を盾みたいな物が覆っている。
鬼教官でも木下でも火力が足りない・・・。
僕の背中を冷たい汗が流れ落ちた。