重傷者たちと死亡者報告・・・そして
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安部との戦いを終え、僕は他の人を探して走っていた。
見ていた地図を思い出して木に登り、道路を確認して走る。
そして・・・左脚を太腿から切られ、専用装備もほとんど破壊されて座り込んでいる鬼木さんを見つけた。
「鬼木さん!」
「あら・・・情けない姿を見られちゃった」
割れたヘルメットから苦しそうだが、何とか笑みを浮かべて鬼木さんが僕を見る。
何か声をかけようと、口を開いたところで、後ろからガサガサと音を立てて誰かが来た。
「足、見つけたぞ。あ、瀬尾も終わったのか」
「日野さん」
大事そうに持っていた鬼木さんの左脚を元の持ち主に渡して、日野さんは鬼木さんをお姫様抱っこした。
鬼木さんはちょっと恥ずかしかったのか、少しだけ顔を赤く染めたが、状況が状況なだけに、何も言わずに大人しくしている。
「すまないが、こういう状況だから俺たちは離脱させてもらう。瀬尾はどうする?」
「俺はこのままいます。乗り掛かった船ですから・・・」
百乃瀬のことも気になる。
せめて目的地まで行かないことには帰れない。
「俺・・・?」
日野さんが、何か不思議そうに僕を見て首を傾けた。
「ちょっといい?」
鬼木さんが僕に声をかけた。
「宮下のことだけど、瀬尾くんは諦めずに追いかけて。あの子はまだこっちに戻れるわ」
「莉乃が・・・ですか?」
「そうよ。私の予想だけど、あの子はまだ人を殺していない。もし、その一線を超えていたら、今頃私は息をしていないわ。それをされるだけの煽りもしたしね」
殺されるほどの煽りって、何を言ったんだこの人は。
日野さんも、ちょっと呆れたのかため息一つ吐いた。
その後、僕は日野さんから他の人がいる場所を聞いた。
死者も出たが、壊滅的な損害は出なかったようだ。
「それじゃ、すまないな。何かあったら後で話をしよう」
「分かりました。気をつけて」
日野さんが風を操って離れていく。
僕は2人を見送ってから教えてもらった地点に行くと、重傷者が次々と運び出されている最中だった。
「あかぎぃ~、なみしまぁ~、生きてるよな・・・返事してくれよ」
「橋間! お前も乗るんだ!」
「ううぅ・・・」
「2人とも大丈夫だ! 息をしているから!」
タンカーが何台も移動している。
そして、あちらこちらで「意識はあるか!?」「目を開けろ!」「名前は! ちゃんと言え!」と言葉が飛び交っていた。
さらに進んでいくと、一区画が不気味なまでに沈黙していた。
誰か重要な人が亡くなったのか?
焦って僕も向かうと、そこには藤森さんが立っていた。
この人も来ていたのか・・・。
向かいには組合の部谷本支部長が立っていて・・・その足元に獣神の生首が転がっていた。
「・・・白の狩人のメンバーは?」
「全員死にました。自爆攻撃で致命傷を与えたようですが、それでもしぶどく生きていたので、首を切り落としました。再生能力は持っていなかったようです」
「そうか・・・。どうせあいつらが、全滅するまで手を出すなっと言っていたんだろ?」
「・・・」
「馬鹿どもめ・・・」
そこで会話は終わり、藤森さんは部谷本支部長の横を通って僕に気づいた。
「やあ、瀬尾くん」
「藤森さん・・・」
どこか疲れ切った表情をしている。
「大丈夫ですか?」
「・・・いや、うん。正直、結構きつい。やる事はやったから、私は戻ることにします」
「そうですか・・・」
藤森さんの目的もここにいたのか・・・それとも獣神が目的だったのか?
疑問が出たが、それは口から出さずに頭を下げる。
「気をつけて戻ってください」
「ありがとうございます。それでは、またどこかで」
藤森さんの、どこか疲れた背中を見送って僕は目的の人を探し始めた。
あの馬鹿は鎧を着ている限り腕が切られても再生ができるはずだ。
目立つ甲冑を探していると、甲冑を着ていない木下がすれ違う人に指示をしながら頭を掻いていた。
そして、僕と目が合った。
「木下!」
「京平! 生きてたか!」
「こっちのセリフだ! 無事でよかった」
見る限り、どこも怪我をしていない。
よかった・・・如月さんと子供が泣くことにならなくて・・・。
「もういいだろう、木下。他の人と帰れ。あとは自衛隊と警察の仕事だ」
「・・・お前はどうするつもりだ?」
「俺は残る。まだ出てきていない百乃瀬とも薄くても関わっていたから・・・」
僕の回答に、木下の顔が変に歪んだ。
「京平? お前いつから・・・」
木下が何か言おうとしたとき、後ろから彼を呼ぶ声が聞こえた。
木下が後ろを振り返ると、どうも無視できない人のようだった。
「後でまた話す時間を作れよ。マジで」
「分かった」
木下と別れて他にも見知っている人がいないか見て回っていると、両脇を支えられた小荒井さんが移送用の車に向かっているのが見えた。
「小荒井さん!」
「ん? ああ、瀬尾くんか。すまないな。こんな状態になってしまった」
「そんな・・・。あいつはそんなに強敵だったんですか?」
小荒井さんの戦いは、日野さんとの模擬戦だけだが、スキル無しの状態なら少なくとも僕より強いことだけは分かっている。
その彼が、太腿を斬られ、右腕もプラーンっとぶら下がっている状態になっていた。
「痛み分けというやつだ。向こうにも同じようなダメージを与えたからこれから先は出てこないだろうよ。それに・・・彼女が誰かも大体わかった」
彼女・・・という事は女性だったのか?
「後でその話はしよう。すまないが」
「はい。気をつけて戻ってください」
鬼木さんを始め、頼れる人たちがどんどん脱落していく。
「そこにいるのは瀬尾くんか?」
突然の呼びかけに振り向くと、そこには館山さんが槍を持って立っていた。
流石にいい気はせず、口がへの字に曲がった。
「・・・まあ、こんな状況ですし、言いたい事は棚上げしておきます」
「そりゃ良かった。意外と大人なんだな」
「戦場で意地張っても死ぬだけですから」
「そうだな」
館山さんは、フーッと息を吐いて、真面目な顔で僕を見た。
「すまないが、残党が残っていないか見回りをお願いしたい。さっきの戦闘で死者は少なかったが重傷者はそれなりにいて、人手が足らなくなった。単独行動をしても問題のない君にお願いしたい」
「分かりました。倒すだけでいいですか?」
「殺す必要はない。武器とアイテムを破壊して縛ってくれればいい」
「了解です」
館山さんと別れて僕は陣地から離れ、木々を縫うように歩いて周囲を確認する。
所々に死体があって、大鎚で突っついて確認した。
・・・周囲には残党はいないみたいだ。
再度周囲を見渡して戻ろうとした時、パァン! と銃声が響いて、続いてパァン! パァン! と銃声が続いた。
僕は急いでその方向へ走ると、梅林寺さんがお腹を抑えて木に寄りかかっていて、佐藤さんが彼の腕を肩にかけようとしていた。
「佐藤さん! 梅林寺さん!」
「瀬尾!」
佐藤さんが近づく僕に目を大きくした。
「こっちから音がした!」
「大丈夫か!?」
「こ・・・類家と頼圀か?」
僕とは別方向から類家さん、頼圀さん、巳城さんが出てきた。
タイミングがいい。
この人数ならすぐに移動できる!
「3人も手伝ってください! 梅林寺さんを運びましょう!」
そう言って僕は、彼の右腕を肩に回そうとすると、梅林寺さんは、まるで嫌がるように僕の手を払った。
「梅林寺さん?」
彼の顔を見ると、何故か顔色が白い。
他の人たちを見ると、彼らも顔から血の気が引いていた。
僕は何か彼らに嫌われる事をしただろうか?
だが、この場では梅林寺さんを運ぶことが優先だ!
「梅林寺さん! 何か嫌われることしたなら謝りますから! 移動しましょう!」
僕が声を張り上げるのと同時に、まるで地響きのように、ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴっと地面が鳴った。
「何が・・・」
僕が戸惑っていると、佐藤さんがガシッと僕の右肩を掴んだ。
「力場生成」
僕を中心に光の輪が何重も発生した。
「慈悲深き神よ。汝が守るべき者は彼なり。今こそ汝の大いなる守りを。プロテクション・ウォール」
そして・・・僕が光の壁に囚われた。
「何をするんですか!? 佐藤さん! 梅林寺さん!」
僕の叫びに、彼らは笑顔しか向けない。
「ジェット付与」
「類家さん! 何で!?」
「方向限定、上」
「頼圀さん・・・嫌だ・・・」
僕の頭に・・・これから起こることが思い浮かんだ。
「抵抗軽減付与」
「巳城さん! 嫌だ! 嫌だ!」
全員が僕を見る。
別れを惜しむかのように・・・もう二度と会えないかのように!
「エイジ! スキルを!」
「発射!」
逆らう間もなく、僕の身体が一気に空に昇った。
視界は正面に富士山を見据え、下の木々が小さく見えるようになったところで、推進力が消えた。
僕の視界が先ず下を見た。
5人の姿が小さく見える。
それから視界はゆっくりと左に移動し、僕たちが本来向かうべき場所を見た。
巨人がいた。
右手をこちらに、左手を別方向に向けている。
そして、大空へ視界は移り、海を眺め、また佐藤さんたちを見た。
・・・みんなが敬礼をしていた。
託すと・・・声が聞こえた気がした。
何かが僕の視界を通り過ぎた。
あまりにも速すぎて、何が通ったか理解できなかった。
それは、木々を粉砕し、大地を抉り・・・佐藤さんたちの姿を消し飛ばして、自衛隊・警察・探索者組合の陣地を貫いた。
遅れて耳を塞ぎたくなる音と強風が押し寄せてきて、僕は飛ばされて視界を土埃を埋め尽くした。
もう何もない・・・何も・・・何も!
「嫌だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」