殺し合い
殺意を向け合う戦いは書いててちょっとキツく、時間がかかってしまいました。
更新時期が不定期で申し訳ありませんが、のんびりと待っていただけるとありがたいです。
今後ともよろしくお願いします。
僕たちが2人揃って木々の隙間から空へ飛び出す。
どっちが先とかはない。
可能な限り、相手より優位な上を取るように移動するが、相手も同じことを考えているのか、いい位置が取れない!
「死ねぇぇぇぇぇぇぇぇぇええええええ!」
「殺ぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおす!」
僕が作り変えた剣と安部の刀が打ち合い火花を散らす。
激痛が全身を責め立てる。
歯を噛み締めても痛みが消えることはない。
だが、僕はそれを怒りで塗り潰す。
この感情以外何もいらない。
剣を力で押す。
それは急に抵抗を失って、するりと流れた。
安部の刀が斜めを向いて、僕の剣が滑ったのか?
刀の刃が僕に向いた。
斬り返しがくる!
僕はエイジに覆われ、自由に動かせるようになった翼を動かして、高速移動を始める。
今の僕は最難関ボスと殴り合いができるぐらいの力と速さを持っているはずだ。
今の安部じゃ絶対に僕には追いつけない!
「やるぜ! やるしかないんだぜ、主人!」
「やっちゃえ、あるじ様! でも、僕の加重付与が効かないよ、こいつ!」
「耐性と重量変化まであるのね・・・。不愉快ですわね、ご主人様」
「やるでごわす! 全壊するでごわす!」
「そうじゃ~」
エイジたちが口々に叫んでいる。
僕は怒りで考えないようにはしているが、痛みが酷すぎてこいつらと会話をすることができない。
今は少しでも早く、こいつを殺す。
それだけだ!
「死ね!」
高速で移動して安部の背後に移動した。
安部は正面を向いていて確実に僕を見失っている。
横一文字に両断してやろうと、急停止して剣を振った。
「殺す!」
だが、安部は急に僕を見て身体を倒し、まるで僕の剣に刀を添えるようにして受け流した。
これが剣術のスキル効果なのか?
「死ね! 死ね!」
なら、速さと手数で技を押し潰す!
「殺す! 殺す!」
流れた剣を力ずくで引き戻し、攻撃しようと構えた安部に追撃を向ける。
安部はすぐにその剣に反応して、刀を叩きつけて向きを変えられた。
安部自身も空中という自由な空間をフル活用して僕の間合いにいるはずなのに当たらない!
剣を振る。
弾かれても、流されても、何をされても振り続ける。
どれだけ技術があろうとも、絶対的な速さと力は僕の方が上だ。
「死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね」
「殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す」
身体強化のおかげで体力が尽きることはない。
それに、僕が全力で剣を振っているせいか、衝撃波が発生しているらしく、やつの服が所々避けている。
「殺す!」
それを嫌がったのか、安部が僕の剣を受けて、そのまま飛ばされた。
明らかにワザとだ!
「死ね!」
右足をやつに向ける。
カチッと音がして、ドラゴンバスターが光を放つ。
「殺す!」
安部も光を放った。
何のスキルかは分からないが、ドラゴンバスターに匹敵する遠距離攻撃を持っていることに注意しなければならない。
だが、射出時間はドラゴンバスターの方が長いみたいで、安部はスキルが切れたのと同時に僕の下を飛んで移動する。
僕もドラゴンバスターの向きを変えて当てようとしたが、下の森に一本線を引くことしかできなかった。
「死ね!」
急降下で安部に追いつき剣を振る。
安部はそれを避けて僕に反撃しようとしたが、何かに弾かれるようにバランスを崩す。
僕が出せる最高速で横を通り過ぎたんだ。
そこから生み出される衝撃波がやつに襲いかかったのだろう。
僕も急停止から、再度最高速で剣を構えて安部に突撃する。
「死ね!」
「殺す!」
目の前に炎の塊が現れて安部の姿を隠す。
「ご主人様の前を遮らないで!」
衝撃無効がそれを吸い取り、その奥で安部が刀を構えていた。
「死ね!」
「殺す!」
剣を振る。
また避けられた。
刀が目の前に迫っていた。
カウンターか!
首を傾ける。
フェイスガードに鋭い一本の線をつけてすれ違う。
衝撃波で安部が弾かれる。
僕は急停止して向きを変えた。
「死ねェェェェェェェエエエエエエエ!!」
何度でもやる。
やつが刀を構えていようが火魔法を使っていようが関係ない。
僕の装備にやつの攻撃の跡が幾つも残る。
「こ・・・殺す!」
「死ね!!」
何度も何度も力と速さで追い詰める。
そして、ガキィィィン! と音を立ててやつの刀が僕の剣を受けてめて勢いを殺せず、安部が飛ばされた。
体勢が崩れた!
今だと思い翼を広げたとき、無視できない激痛が全身を駆け巡って突撃することができず歯を食いしばる。
僕はこの力を手に入れるために激痛を受けているのに、やつは何の代償も無しにあの力を使えるのか!?
痛みを堪え、離れてしまった安部を見て剣を構える。
そしたら・・・やつの顔の変化に気づいた。
「あ?」
やつの目と鼻から血が溢れ出していた。
・・・そうだよ。
こんな高速戦闘を普通の人が捌き切れるわけがない。
それなりのリスクを背負ったスキルホルダーでないとできるわけがないんだ。
もう少しだ・・・。
「死ね」
もう少しだけ待ってね、じーちゃん、ばーちゃん。
「殺す」
こいつをすぐにそっちに送るから!!
安部の周りを最速で飛び回り、剣を振る。
一撃目は受け流された。
二撃目は弾かれた。
三撃目は避けられた。
四撃目は服を切り裂いた。
五撃目は足に切傷をつけた。
六撃目は不可視の壁に遮られた。
七撃目は炎に視界を遮られて避けられた。
八撃目はやつの刀を逆に弾いた。
九撃目は僕の攻撃をやつは受け止めた。
安部の顔が目の前にある。
醜く歪んだ憎い顔だ。
「加重! 気合い入れて付与しろ! 衝撃無効はこいつのスキルを全力で吸い込め! 身体強化も全力出せよ! 主人の悲願だぞ! 押し込め!」
「分かってるよ! 全力付与だ!」
「ご主人様の悲願を私たちの手で!」
「フルパワーでごわす! 全力全開でごわす!」
全力で押す。
上から下に向けて押す。
振った勢いのまま剣を押す。
背中のジェットから出力も最大にして押す。
「死ね!!」
そして剣を振り抜いた。
安部の身体が僕の攻撃に耐えきれず吹っ飛び、地面に落ちた。
すぐに僕も剣を振り上げて追撃を開始する。
火が邪魔をする。
吸収。
周りの木に火がついた。
吸収。
光が収束した。
吸収。
そして・・・地面に立って、まだ体勢を整えることができず刀を防御の為にしか構えることができなかった安部に、僕は剣を叩きつけた!
剣と刀が打ち合わさり、轟音が響く。
衝撃で地面が凹み、僕らを中心に土が弾け飛んだ。
やつは・・・耐えきれず膝をついた!
「死ね! 死ね!」
「ぐおっ! て・・・め!」
「死ね死ね死ね死ね死ね!!」
何度も何度も刀の上から叩く。
全力で叩き潰す。
ベキッと音がした。
何かが折れたのか?
剣を振り上げる。
安部が折れた刀を向けている。
ようやく・・・ようやく!
「死んでしまえ!!」
「!!」
僕の剣を安部の顔面に向けて振り下ろす。
確実に殺すつもりで振り下ろす。
「ダメだよ、京平くん」
風が僕の体を吹き飛ばした。
振り下ろした剣は、安部を切ることなく音を立て、バランスを崩した体は地面を滑り、背中の翼がバキッという音と共に折れ曲がった。
「イテェェェェェェェエエエエエエエエ!」
エイジが叫び声を上げた。
僕にも激痛が伝わり大覚醒を維持できずに解除する。
安部の方を見ると、そこにやつはおらず、空中にダラリとした格好で浮いていた。
その隣に・・・彼女がいた。
「なに・・・すんだよ。俺はまだ!」
「獣神が捕まったわ。これ以上の戦力低下は許可できないって兄さんからの連絡よ」
「・・・チクショウ!」
僕の目が彼女と安部を行き来する。
このまま行けば2人とも目の前からいなくなる。
だけど、安部は挑発すれば、もしかしたら残るかもしれない。
でも、目の前に彼女が・・・莉乃がいる。
声をかけたい。
だが、やつを引き止めないと。
莉乃を優先?
安部を優先?
引き止めなければ・・・どっちを?
僕の頭の中が混乱していくのが分かったのか、僕を見ていた莉乃がゆっくりと背を向け始めた。
ダメだ・・・ダメだ!
「莉乃ぉぉぉおおおおおおおおお!」
僕の叫び声に莉乃の動きも合わせて止まった。
「何で! どうして!」
そっち側にいるのか・・・。
僕の側にいないのか・・・。
僕の叫びに・・・莉乃は何も言わず、その手から何かを投げた。
僕の視線がそれを見る。
それは紙飛行機だった。
それは風に乗って優雅に宙を舞い、狙い通りなのか僕の胸に当たって手のひらに落ちた。
莉乃たちを再度見ると、すでに彼女たちはそこにはいなかった。
そして・・・、
ドォォォォオオオオオオオオオン!!
と戦場を轟音が響き渡った。