表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
173/197

開戦

ブックマークと評価をいただきました。

ありがとうございます。

まだまだ先は長いので付き合っていただけるとありがたいです。


いつもコメントありがとうございます。

また楽しんで読んでもらえるよう頑張りますので、よろしくお願いします。

僕が警察関係者のプレハブに入ると、日野さんが早速苦笑いを浮かべて近づいてきた。


「戦いの前に、元気だな。お前たちは」

「・・・あいつがバカなんです」

「そうか・・・。で? 何か話してこっちきたけど、こっちで参加するのか?」

「はい。小荒井さんという方にサポートしていただくことになりました」

「あー、小荒井さんか・・・」


日野さんが視線を上に向けて遠くを見た。


「お知り合いですか?」

「・・・武道の教官だ。警察になった後、その人に徹底的に対人の戦いを叩き込まれた。心が折られる前に移動したから助かったが、あのぶちのめしは二度と受けたくないな」

「ほう、心が折れてなかったか。あの時の辛そうな表情は演技だったのか?」

「当然だろ。アイツは手加減を知らなかったから。俺の方で調整を入れてやっていたんだよ・・・あれ?」

「君の方で・・・ね? 久々に俺の相手をしてもらいたいな。君も戦いの前に体を動かしたくないかね?」


いつの間にか、僕と同じぐらいの体格の人が横に立っていた。


「初めまして、小荒井岩雄という。瀬尾くんでいいかな?」

「は、はい。瀬尾京平です。足を引っ張るかもしれませんが、よろしくお願いします」

「ははは、足を引っ張るなんて謙遜がすぎるでしょ。俺の方こそ足を引っ張らないように努めるのでよろしく頼む」


こそっと逃げようとした日野さんの襟首を掴まえて、笑顔で僕と会話する小荒井さんだが、僕の気のせいか、その気配が何度も消えていて、気づいたら立ち位置が変わっている。


「この移動? 気配が消えているのはスキルですか?」

「その通りだ。こいつみたいな悪ガキどもを叩きのめすには、気配を完全に消して近づく必要があってな。俺のスキル『気配断ち』が重宝されているんだ。だから、たとえ何があろうとも邪魔する事はないから安心してくれ。さて、日野よ・・・軽く身体を動かそうか」

「マジか・・・」


それから10分ほどだが、2人がスキル無しで組み手を始めたので僕も見学することにした。

小荒井さんは剣術を嗜んでいたらしく、木刀を使っていた。

足を引っ張るなんてとんでもない・・・。

スキル無しだと、僕や木下なんて足元にも及ばないだろう。

日野さんはよく食らいついているが、それでも小荒井さんの方が確実に上だ。


組み手の後、数分後に参加者全員に集合の指示が来た。


僕たちもすぐに集合場所に移動して、小荒井さんの側に整列する。

近くに自衛隊も整列したので見てみると、佐藤さんたちの姿が見えた。

向こうも僕の姿を確認したので会釈するが、佐藤さんは表情を硬くして僕から視線を外し正面を見た。

他の人も表情が硬いので、何かあるのだろうと思い、僕も正面を見た。


正面には大画面が準備されていて全員が集合したのを確認して、画面に各隊長と組合支部長、本部長が映し出される。

矢田さんも、両目を包帯で覆った状態で立っている。

師団長として、出席を求められたのだろう。

何も見えていないだろうに・・・。

そして、岩本隊長からの言葉が始まった。


『初めましての方もいるでしょうから、自己紹介をさせてもらいます。私は自衛隊所属の東方方面隊の隊長を勤めています、岩本信英といいます。

さて、早速ですがこの度の参戦してくれた諸君に感謝します。皆さんも聞いたと思いますが、この戦いに参加したほとんどの者が、確実に死にます。例外はない。私たちもその1人。この戦いはそういう戦いです。

だが、ここに集ってくれた皆さんは復讐、家族、組織、シガラミと何らかの理由があって来たのだろうと思います。そんな皆さんだからこそ私は言いたい。


生きるのを諦めるな。


確かに死兵は強い。命を武器にして来る敵は恐怖でしかない。だが、皆さんはそれを仲間に望んでいないはず。だから私から皆さんへ最初の指示はそれです。


次に、敵についてです。皆さんは強い。モンスターと何度も戦って生き残り、日々の訓練も怠っていないと思います。ただし、それでも今回の相手が優っている点があります。


人殺しに対する慣れです。


反吐が出る行為です。慣れる必要も優れる必要もありません。そんな皆さんだからこそ、相手を殺す間際に躊躇します。絶対にするでしょう。銃を持って相手の頭に突きつけたとき、指が力を入れるのを躊躇います。これは訓練ではないし、その手にある武器は制圧するための武器ではなく、殺すための武器です。


だから、皆さんがこれから行うことの責任は、全て私が背負います。


罪も罰も。全て私の責任です。なので、躊躇せず撃ってください。その1発で仲間が助かり、家族が助かり、日本が助かると思ってください。

皆さんが1人でも多く生き残ることを願って、私の言葉を終わります』


岩本隊長が一歩後ろに下がって直立して目を閉じる。

次は誰がしゃべるのか・・・と考えていたら、画面に文字が映し出された。


『これより各隊長が隊に到着次第、各自出発とします』


その文字は5秒で消えて、僕は小荒井さんを見た。


「どうしたらいいんですか?」

「待つしか無いだろうな」


そう言って、小荒井さんもそっと目を閉じた。

それから2分ほどで、誰かが正面に立って大きく息を吸い込んだ。


「これより進軍します! 第一部隊が先行してもらいます! 警察と探索者から希望する人は手をあげてこちらに来てください!」


僕はすぐに手をあげてその人の側に向かう。

小荒井さんも僕の後ろについてきてくれたが、正直これだけは僕のせいで最前線に出ることになってしまい申し訳がない。

自衛隊はあらかじめ決まっていたみたいで、その中に佐藤さんたちがいないことにホッとした。

警察からは日野さんと他にも10名近くが、探索者からは西馬さんのパーティと他に3組参加している。

集まった全員に骨伝導タイプのインカムと地図が渡されたのでフェイスガードを上げて装着し、地図を確認した。


「それでは出発してください! 地図の赤いラインが基本動線になります。逸れた場合、その動線に戻ってください」


なるほど、敵と遭遇して隊と離れたときの集合場所みたいなものか。

それから全員で移動を開始し、時々出てくるモンスターを叩き潰したり吸収していると、左側にある139号線が顎のように飛び出ている場所にさしかかったとき、インカムが鳴り響いた。


『第一部隊、停止してください。第一部隊、至急停止してください』


急な指示に、僕らの歩みが止まる。


「こちら第一部隊、停止しました」

『直感より、危険との声がありました。周囲に異常はありませんか?』


直感とはスキル名だろうか?

僕たちは周囲を見渡すが、特に変わった所はない。


「周囲に異常は見当たらない」

『看破系のスキルホルダーはいないか?』


よほど確認してもらいたいのか、インカムから再度確認の依頼が来た。

だがこの場で看破系のスキルを持っている人はいなかったようで、全員が首を横に振った。


「僕が先行していいですか?」

「瀬尾・・・1級探索者か。対策がありますか?」

「もし何か偽装系のスキルが展開されているなら、僕のスキルで吸いこめます。エイジ、出来るよね?」

「出来ますぜ!」


僕の答えに、自衛隊の人が頷いて僕に先行することを身振りで伝える。

僕は1人でゆっくりと歩き、右肘の口を前に出した。


「エイジ、前にあるものの全てを吸収しろ!」

「承知した、主人!」


急激に前方の草木が枯れ始め、風景が歪み、右肘へと吸い込まれていく。

エイジの吸収が終わったそこには・・・1人の男性が立っていた。


「え?・・・なななななんで!」


独特な喋り方をするのはあの時と変わらずで、顔を恐怖で歪ませて僕らを見ていた。


「ファンタジスタ!!」


警察の誰かが大声を出して、その声に合わせて銃を持つ全員が構えて引き金を引く。


「ひぃぃぃぃぃいいいいいいいい!」


複数の発砲音と共に悲鳴が上がるが、銃弾は彼の身体をすり抜けて後ろの木に跡を残した。


「だから僕は言いましたよ。最初はダメだって」

「おおお俺だって、ちゃんと役目を貰ったんだ!」

「分かってますよ。それは僕も同じです。ですが、出番はまだ先です。戦いの開始を告げるのは前衛の役目です。僕らの役目は最後の最後・・・それまでは後ろにいましょう」


あの時、皆嶋さんの実験室にいた男の人が、ファンタジスタの腕を引いて木々の中へと入っていく。


「待て! 栂村!」

「クソ! 透過とファンタジスタがこっちに来ている! 伝達を頼む!」


自衛隊と警察から怒りの声が響き渡る。

だが、行動は冷静に縦断を確認し、再装填をして構えた。


メキメキ・・・バキバキっと木の幹や落ちた枝を破壊しながらこっちに来る音がする。

・・・それも複数!


「来るぞ!」


その巨体がまず姿を現した。


推定3メートルの二足歩行の黒豹。


「獣神! ようやく貴様を殺せる!」


続いて髪をオールバックにした猫背の男。


「久我山ァ!」


そして、赤い目をした複数の人たちが現れ、更に後ろに奴がいた。


「安部ェェェェェェェエエエエエエエエ!」


何だか嫌そうな顔で、奴が僕を睨んだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
ファンタジスタがそんな近くにいるとはなぁ生命力も一緒に吸収してればワンチャンあったね
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ