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補助翼という存在

ブックマークと評価をありがとうございます。

まだまだ続きますので、のんびりと楽しんでいただけるよう頑張ります。

僕の目の前で2人の男性が掴み合いの喧嘩をしていた。


「お前の理想は操縦者の害にしかならないって言ったよな、俺は!」

「そこを何とかするのがお前の役割だろうが! 現に速度は出てるだろうが!」

「ああ、速度は出たよ! 一方通行でUターン無理だがな!」

「あの翼を改良すればいいだろうが!」

「収納式の翼にどうやって手を加えさせる気だ! ただでさえ音速に耐えられるだけの強度が必要なんだぞ! 翼の形も衝撃波のせいで手を加えることができない! 補助翼をつけたり、ましてやそれを操作する機能なんてつけれるわけないだろうが!」


左のメガネをかけた男性の「補助翼」という言葉が気になって、僕は隣に立っていた小美野さんに声をかけた。


「すみません、補助翼って何ですか?」

「えっと、通常飛行機などの翼の縁についている機能で、それこそ、右や左に機体を傾けたい時に動かす翼です」

「・・・それがあれば、スムーズに曲がれる?」

「少なくとも、さっきの試運転よりは確実に」


何でそんな重要なパーツをつけてくれなかったのだろうか・・・。


「だいたい、マッハなんて速度は本当に必要だと思っているのか!?」

「必要に決まっているだろうが! いずれあの装備を基にした装備が空を飛び回る! そしてドラゴンどもと戦うときに、奴らの攻撃を避ける手立ては音速移動しかありえない! 縄文杉でさえ自衛隊の戦闘機を掴んで見せるんだぞ! 生半可な速度なんぞ、奴らからしたら蝿だ蝿!」


蝿・・・ダメだ・・・蝿の王を思い出してしまう。

会話の流れから普通の蝿のことを言っているのだろうが、あいつの印象が強すぎた。


「瀬尾さんにお聞きしたいのですが、音速飛行は対人戦で必要ですか?」

「必要か必要じゃないかで言ったら、必要です。使う場所が限られますが、音速飛行じゃなくても高速移動は敵の隙を突くためでも逃げるためでも使えます」

「ほーら言った通りだ馬鹿め! ベンベロベンベロベー!」

「この馬鹿が! 今すぐプレス機にそのカッチカチの頭を突っ込んで潰してくれる!」

「やるか、このヤロー! いますぐ餅つき機を持ってこい! こいつのコッチコチの頭を柔らかくしてやる!」


お互いが口を掴んで引っ張り合いになったため、それ以上の口喧嘩は止まったが、かわりに職員が暴れる2人を止めに入って、無理やり引き剥がされる。


「覚えていろよ! いつか貴様が決して作れない構想を持ち込んで吠え面かかせてやる!」

「こっちのセリフだ! お前がどんな案を持ってきても全部作り上げるからな! 覚悟して案を持ってこい!」


最後に何だか仲の良さそうな捨て台詞を吐いて、2人はそれぞれの研究室へと引きずられてその姿を僕の前から消した。

・・・僕はまだ彼らと自己紹介すらしていないんだが?


「すみません、あの2人って結局誰だったんですか?」


僕の質問に、小美野さんが「あー」と言って、松嶋さんはいつもの笑顔で、兼良さんは少し厳しめの顔をした。


「メガネをかけた方が技術部門長の穂積政則で、少し髪が残念な方が開発部門長の赤松太郎です」

「・・・あの装備の生みの親じゃないですか」

「その通りです。企画構想から実現化まで、サポートはあったものの、ほぼあの2人で作り上げたと言っても過言ではありません。私もそれなりに現代機械に関しては自信があったつもりでしたが、彼らと出会って早々に鼻を折られましたよ」


一流企業の技術屋として雇われている彼の鼻を折るって・・・その言葉だけで、あの2人がどれだけ異端なのかが理解できた。


「音速か・・・」

「まあ、その問題はあの2人に任せましょう。瀬尾さんはこれから何か用事はありますか?」


さて、僕に用事があるとすると奴らに関することになるが、今のところ僕に渡された情報はない。

そう考えていると、横から鬼木さんがスッと僕の前に出た。


「瀬尾くんはなるべくその時が来るまで動かないで、ここと宿舎を行き来してもらうことになるわ。下手に動かれると奴らが勘付きそうだから・・・」

「そうですね・・・。晩御飯にもまだまだ時間はありますし・・・シミュレーターはまだ使えますか?」

「お気の済むまで使えますよ」


小美野さんが頷いてくれたので、僕は心置きなく戻ってVRを着け、何度も墜落する映像を観せつけられる事になった。



あれから何回もチャレンジしたが、一度も上手く操作ができない。

なんとなく携帯でスカイダイビングの動画を観ているが、ダイビングしている人は両手両足を広げた姿でバランスをとっている。

・・・そんな格好で戦闘なんかできるわけがない。


「ふむ・・・やはり苦労しているようだな」


そんな僕に、近づいてきた人が声をかけてきた。

そちらに顔を向けると、先ほど喧嘩をしていた穂積さんという方がメガネを指で押し上げて僕を見ていた。


「あ、どうも・・・」

「穂積という。ここの技術系のチームリーダーをしていて、君の装備の組み上げを担当させてもらった」

「ありがとうございます。瀬尾です」


右手が差し出されてきたため、僕も右手で握手の対応するが、力加減を間違えないようになるべくふわりと持つように心がける。

感覚がないと、こういった些細な行動も注意しないといけない。


「・・・私が悪いな、これは。失礼した。左手で握手を求めるべきだった」

「いえいえ、気にしないでください。それで・・・何か?」

「ふむ。私は技術屋だからな。作った物がどう動くか知りたかったんだが」


ふぅ・・・と息を吐いて穂積さんがシミュレーターの飛行装備に目を向けた。


「なかなかのジャジャ馬になってしまったか・・・。だが、改善の余地はある。収納段階を5から3に変えよう。3でも通常の戦闘の邪魔にはならないはずだ。そうすれば翼の強度を保ったまま補助翼をつけることができるかもしれん。問題は操作方法か・・・」

「ただでさえ両腕装備が省略されているんだ。操作盤を取り付ける位置や形も問題だ」

「流石に腕に取り付けた操作盤をタップしながら戦うことはできんだろ。戦闘機はコクピットがあって操縦桿があるからな。代用を何にすればいいか・・・いつからそこにいた?」

「さっきからだ。それよりもアイデアを出せ。時間がもったいない」

「挨拶もしていない分際で・・・」

「挨拶の時間すら惜しいと思っているだけだ。名前は赤松だ」


そう言って、赤松さんは左手を差し出してきた。


「瀬尾です。よろしくお願いします」

「・・・貴様、最初から見ていたな?」

「何のことだか?」

「私と最初会ったとき、右で握手をしたよな」

「・・・くだらん事を覚えているな」


赤松さんは、僕と握手をした後すぐにシミュレーターの翼を確認して、悩ましげに低く唸った。


「小美野、貴様も出てこい。どうせいるのだろう」

「・・・何で気づいているんですか・・・」


コーヒーを買いに行った小美野さんが、缶コーヒーを2つ手に持って壁の向こうから現れた。


「はい、どうぞ。ブラックですけど、飲めるのなら」

「ありがとうございます」


ブラックは飲めなくはないけど、率先して飲むタイプではない。

だけど、人から渡された物を拒否できるほど我が強くもないので、受け取って蓋を開け、少しだけ口をつけた。


「それで? 翼に補助翼をつけて、操縦をどうするかってお話でしたか?」

「そうだ。さっき穂積も言っていたが、戦いながら操縦することがそもそも現実的ではない。右手に大鎚、左手にドラゴンバスターを持って高速で接近し、一撃で離脱の戦法をとると考えた場合、操縦をどうすることが適切か考えよう」


赤松さんの議題に穂積さんは低く唸り、小美野さんはコーヒーをごくりと飲んで天井を見上げた。


「筋肉による操作」

「攻撃の際に誤作動を起こす可能性が高い。同様に骨による操作も不可」

「視線による操作」

「操縦する際に敵から目を離すという危険を強いられる。よって不可」

「思考もしくは脳波による操作」

「思考や脳波について、戦闘に活用できるほど解析ができていない。よって不可」

「AIによる操作」

「AIの判断と操縦者の判断に食い違いが生じる可能性が高い。よって不可」

「スキルによる操作」

「具体的なスキル名をあげろ」


小美野さんが僕を・・・いや、エイジを見た。

その視線を見て、穂積さんと赤松さんもエイジに目を向ける。


「エイジくん。質問していいかな?」

「俺様か? 何でもいいぜ。主人が拒否する内容は無理だがな」

「君は形状を変化できるようだけど、あの装備の翼の部分、もしくはその一部でもいい。そこに瀬尾さんの思考を受けて動くことは可能か?」

「可能だぜ。俺様は主人と一心同体だからな」


小美野さんがすごい笑みを浮かべた。

視線を横に移すと、穂積さんと赤松さんも可愛らしくない笑みを浮かべている。


「それはそれは・・・素晴らしいことだ」

「そうか・・・それなら収納式の翼ではなくてもいいということか」

「音速に耐え得る形状を提示しなくてはならんな」


不気味な笑みの集中砲火を受けて、僕は缶コーヒーを口に含んだ。

上手くいけばいいんだけど・・・もっとすごい事になったらどうしようか・・・。


「主人・・・何だかこいつら不気味だぜ」


エイジが僕だけに聞こえるように、小さく呟いた。

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― 新着の感想 ―
エイジなら確かに一番うまく適応できそうだなぁ 背中に突起みたいな感じになるんだろうかw
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