対人用装備
コメントありがとうございます。
いつもありがとう。
評価とブックマークもありがとうございます。
これからも頑張りますので、よろしくお願いします。
富士市から北に移動した場所に富士宮市という市がある。
「この町発祥の焼きそばがお勧めなんですよ」
車から降りて、松嶋さんが楽しそうに案内している。
富士宮駅からはちょっと離れていて、徒歩で来るにはあまり向いていない場所にある店なのだが、松嶋さんは富士宮市付近に来たら、必ず一度は食べに来ているらしい。
「富士宮焼きそばって言うんですよ」
「普通の焼きそばとは違うんですか?」
「すぐに分かる違いは、肉ですね」
「肉?」
肉なんて、そうそう変わるものではないと思うのだが、しばらくすると、熱いプレートにのった焼きそばが僕らの前に配られる。
「それではいただきます」
箸を持って麺を掴み、口の中に運ぶ。
なかなか弾力というか、もちっとした麺だ。
肉は見当たらなかったはずなのに風味はする。
しかも・・・魚の香り?
「あれ? ・・・もしかして削り節入れましたか?」
松嶋さんが何かに気づいてカウンターの奥にいるおばあさんに声をかけた。
「ふふふ、サービスですよ」
「貴重な物でしょ? お支払いしますよ」
「いいんですよ。飾っていても意味がありませんからね。何となく、今日は使いたかったんですよ」
おばあさんの言葉に、松嶋さんが「ありがとうございます」と言って軽く頭を下げた。
話を聞くと先代が残した削り節という物で、海産物を乾燥させて細かく砕いた物らしい。
これを振りかけるだけで、プラス二千円になるそうだ。
僕はおばあさんに会釈して感謝を伝えて、箸で焼きそばを掴んで口に入れた。
「ん? これは何ですか?」
「ふふふ・・・それ」
「へー、豚の背脂を使った肉かすか。いい感じの歯応えだな」
日野さんが美味しそうにそれを口に入れてカリカリと咀嚼する。
「肉かすですか?」
「ああ。本来なら肉としてなり得ない部位を肉として代用したからなのか、そんな名前がついた。富士宮焼きそばの特徴だな」
ほーっと感心して声が出た。
それから無言で焼きそばを完食し、おばあさんに「ご馳走様でした」と言って店を出た。
お代は松嶋さんが持ってくれたが、その背中がどこか寂しそうに見えたのは気のせいだろうか?
それから僕らはさらに北に進んで、北山インターを通り過ぎた場所に建てられた工場の中に入った。
「もともと、139号線の東側にある食品加工工場がこちらに工場を建てて稼動していたんですが、残念なことに新暦の波に耐えきれず私どもの方で購入したんですよ」
「もともとあった設備は松尾食糧さんの方で引き取ってもらって、私たちは新たに土地を購入して合同の工場を建てている最中ですよ。新しい装備は前回作成した工場で作成してこっちに持ってきたんだが、こっちの工場は、設備をあの虹色魔石に合わせて一新するつもりでな」
「当社もですよ。あれ一つで4社の最新設備をカバーできる容量がありますからね。凄まじいとしか言いようがありません」
A級でも国が最優先で入手して、国を守るためにシステムを構築している。
そのおかげでドラゴンキラーは稼動し続けているし、国民は安心して生活ができているんだ。
虹色は、どんなに贔屓目で見ても、A級より上の魔石。
そのポテンシャルを最大限に引き出すことが、この人たちの最初の試練になるのだろう。
僕たちは施設の中に入り、いくつかある建物の中で、1番新しく見える物に入っていく。
まずロビーがあって、そこで松嶋さんと兼良さんが身分証の確認を受け、僕たちの説明をしてさらに奥へと入ることを許された。
「右の部屋にいるのが、当施設専属の職員です。職務は瀬尾さんの専用装備のバージョンアップや欠点の洗い出しです。左の部屋には事務担当の専属職員がいます。費用は限界なしで支給されるよう定めてはいるんですが、悪用する人がいないか見張る部署になりますね。その奥にはメンテナンスチームがいますが、今は忙しくしているでしょうね」
そんなことを言いながら、廊下を何度か曲がって一つの部屋に入ると、そこではさらに奥の部屋がガラス越しに見える仕様になっていて、真っ白な部屋に置かれた2セットの専用装備が姿を見せた。
一つは阿蘇で装備した冷却機能付きの装備で、あの時受けた損傷は全て修復されている。
ところどころ、パーツが知っているものから変わっているので、バージョンアップしているかもしれない。
そして、もう一つの方は、デザインがかなり変更されていた。
1番目につくのは、背中の明らかに飛翔用と分かる装置だろう。
以前、莉乃の専用装備に付いていたものから多少小型化されて専用装備に取り付けられていた。
「左側の装備も瀬尾さんの物ですよ」
「二つとも僕の専用装備なんですか?」
「そうです。用途が違いますからね。研究チームと技術チームが話し合った結果、一つにまとめて肥大化するより、二つ目を作ったほうがいいという結論に至ってこうなりました」
「もう一つの用途って・・・」
「対人戦です。スキルによる攻撃や物理攻撃に対する耐久性を高めていますが、環境による変化にはその分弱くなっています。まあ、もうそっちの対策は必要なさそうですけどね」
「おう! 俺様がいる限り、灼熱だろうが極寒だろうが問題ないぜ!」
「みたいですね」
もう一度専用装備を見る。
その周囲にいる人たちが、何かを言いながらこちらを気にして装備を触っているが、彼らは何をしているのだろうか?
「彼らは先ほど部屋にいなかったメンテナンスチームですよ。この前に御殿場市の自衛隊基地で耐久試験に協力していただいたんですが、先方もかなりはりきったようで、手加減なしでありとあらゆるスキルを試したみたいです」
「あー・・・」
何となく光景が思い浮かんでしまった。
民間が持ってきた最新装備に、爪痕を残してやろうと躍起になる自衛隊の人たち。
多少プライドも入ったかもしれない・・・。
「試着してみますか?」
「できるんですか? 是非してみたいです!」
「分かりました。飛行システムは別でシミュレーターがあるのでそちらで練習してもらいますが、ドラゴンバスターはここで見てもらったほうがいいでしょう」
そう言って、松嶋さんは部屋の横にある扉から中に入って彼らといくつか言葉を交わし、手招きで僕たちを呼んだ。
僕らが中に入ると、彼らは疲れているのに興奮して目を輝かせて集まってきた。
「紹介させてください。メンテナンスチームのチームリーダーをしている小美野とその下の岩近、辺母、宵田、末崎です」
「よろしくお願いします」
僕は1人ずつ握手して挨拶した。
この人たちが僕の命を預ける装備を維持してくれる人たちだ。
挨拶が終わってリーダーの小美野さんを見ると、その手に色紙とペンが持たれている。
その目も何かを期待していて、だけどそれを言い出せずに僕を見ていた。
「書きますよ」
僕の一言に救われたかのように笑顔になって、色紙とペンを差し出してきた。
僕はサインをして返すと、チームのメンバーが集まって回し見し始めた。
「すみません、装備を着用していいですか?」
「もちろんです! みんな! サインは置いて手伝うよ!」
「「「「はい!」」」」
僕はまず、インナースーツを着てから専用装備の後ろに立って、開いた背中から足を入れて両腕を通し、頭を入れた。
「その状態でベルトの左右にカバーされたボタンがあるので、カバーを外して両方とも押してください」
小美野さんの言うとおりにすると、装備が自動で閉じて、フェイスガードに色々な数字と言葉が出現し、最後に準備完了という文字が出た。
「無事起動したみたいですね」
「この後にベルゼブブの籠手を装備すれば完了です。右腕の方は・・・」
「エイジ、この装備に合うように形状変化できるか?」
「お安い御用だぜ、主人」
右腕がムキッと巨大化して荒々しさを表面に出し、装備に遜色ない姿になった。
「ちょっと口の場所を・・・ここか? ここでいいのか?」
形状が変わったことで少し歪になった口を移動させて自然な形に戻して、エイジは満足したのか「うんうん」と言っている。
「うん、装備の白に対して腕のダーク色は映えるね。ベルゼブブの装備の色がそのまま出ているだったかな?」
「そうですね。僕は機能さえしっかりしていれば色は気にしないんですけど」
「それはいけないな。君にどんな色が相応しいか、ここの技術スタッフが何日もかけて悩んだというのに」
兼良さんが苦笑を浮かべて「やりがいのないことだ」と呆れた。
後から聞いた話だが、装備を御殿場市に送る3日前まで悩んだらしい。
流石にタイムオーバーで白のままになったらしいが、候補として、黒・紫・群青・暗緑・赤橙などが上がってたらしいが、候補の時点で多すぎる。
白ってかっこいいと思うんだけどね・・・候補になかったみたいだけど。