過去のやらかし
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それから、探索者組合が反神教団との戦いに参加するかは棚上げし、各メディアとの対応に関しては、地元の新聞社及びテレビ局のみで、現在進めている霊峰富士の攻略は、全探索者に6合目までで可能な限り5人以上のパーティで、見知らぬ人がダンジョンにいた場合、すぐにその場を離脱して組合に報告を義務付けることで通知することになった。
「不満が出るかもしれませんね」
「そこら辺は企業団の仕事だ。私たちが悩むことじゃない」
パシャパシャとカメラのシャッターが切られる。
今、僕は部谷本支部長と左手で握手して、笑顔で写真を撮ってもらっている。
地元の新聞用に使いたいらしい。
「ところで瀬尾くんは、彼とは知り合いなのかね?」
「彼? ああ、日野さんですか? 僕の地元の警察官だったんですよ。色々お世話になった方です」
「ほう・・・あの暴走風がね・・・」
「暴走風?」
「本人から聞くといい。言うかはわからんがな」
クククと意地悪な笑みを残して部谷本支部長と別れて、次は若原さんと握手をしてまたパシャパシャと撮られる。
「瀬尾くんは、ブラックアイズには入らんかね?」
挨拶もせずに笑顔でとんでもない案をぶち込んできた。
「入りませんよ、やる事もありますから」
「やる事が終わったらどうだ? 静岡はいいぞ? 必要なものがあったら手厚く支援してもらえる」
「もう、契約している企業がいるんですよ。ほら、後ろで怖い視線を向けてますよ」
「ふん! 若造の睨みなんぞババアどもの睨みにくら」
「お前さんの頭も、お前さんが作るネジのようにしてやろうか?」
「・・・あっちのが怖いだろ?」
若原さんの声が、急に小さくなった。
阿蘇でもそうだけど、この人は自分を情けなく見せることが出来る人なんだ。
それをどうやって武器にするのか僕にはわからないけど、もしかしたら松嶋さんと兼良さんなら分かるかもしれない。
次に握手をしたのは館山さんだった。
この人は身長が高く、ぱっと見で金田さんよりも高い。
筋肉もしっかりついていて、誰が見ても頼り甲斐のある人と思うだろう。
「あの時から面構えが変わったな? 色々大変な目に遭ってきたか?」
「そうですね。一言では言い表せないほど経験しました」
「人の悪い面も見てきた感じか・・・。あまり思い詰めるなよ。悪い面ばかり思い返すと人が信じられなくなるからな。お前のダチを見てみろ」
木下を見ると、なんだか嬉しそうに笑顔で僕を見ている。
何が嬉しいんだか・・・それに、
「木下は僕のダチじゃありませんよ」
「誰も木下のことだとは言ってないだろ?」
「この場で僕と同年代はアイツだけです。ダチと言うのなら、僕とそれなりに同じ時間を過ごした相手ということになります。もし万が一にこの場でダチと言える存在がいるとしたら、アイツになりますよ。ダチじゃないですけど」
「なかなか硬いね」
「・・・そうだ。さっき支部長が日野さんのことを暴走風って」
「ブホォ!」
館山さんが突然吹き出して口を手で押さえた。
肩が笑っているので、変な病気ではないだろうが、何が笑いのツボだったのか?
「本当に・・・ブハ! 何か聞きたかったら本人に聞いてくれ。ククク・・・ざまぁ」
なんだか意味不明なことを最後に言って離れて行った。
これで写真は終わりか、と思って退室しようとしたら、記者の1人が僕を呼び止めた。
「すみません。ぜひ、木下一級探索者とも握手をお願いします。若手最強の2人の写真は絶対に絵になりますから!」
力強いその言葉に、もう1人もウンウンと頷いている。
・・・本当に必要か?
すごく疑問だったが、木下がさっさと前に出てきて構えているので、仕方なく僕も元に戻って左手を出した。
「? やっぱ、なんか雰囲気変わったか?」
「館山さんと同じことを言うんだな。阿蘇から数ヶ月経ったし、そりゃ変わるよ」
「ふーん。まあいいや。食事連れて行ってやるから、夜は空けとけよ」
「お酒は無しだよな?」
「ああ、俺がまだ飲めないからな・・・」
木下は早生まれだから来年の2月か。
お酒のない食事なら安心できる。
「如月さんは呼ぶのか?」
「お前と一緒なら喜んで参加すると思うぜ。なんせ、命の恩人だからな」
「そこは気にしなくてもいいんだがな」
晩御飯の約束をして携帯の番号を交換し、これで握手は終わりだとようやく息を吐いた。
「お疲れ様」
「お疲れさまです」
記者がようやく満足して帰る準備を始めた。
それを見て、松嶋さんと兼良さんが僕に声をかけてくる。
「松嶋さんはこの前お会いしましたけど、兼良さんはお久しぶりです」
「お久しぶり。松嶋さんと関東入りしていたことは聞いていたよ。私はその時御殿場市の自衛隊基地にいたからな。会うことができなかった」
「瀬尾さんは、今日のご予定は何かありますか?」
「先ほど、昔のクラスメイトとの夜の食事が入りました。それ以外はフリーですよ」
「それでは、これから一緒にどうでしょうか? ぜひとも新装備をお見せしたいんですよ」
「あ、御殿場市の自衛隊基地に保管していたというあれですか?」
「そうですよ。色々と改良してますので、説明を兼ねたお披露目をさせてください。それからお昼をご一緒にしましょう」
それはありがたいお誘いなのだが、日野さんたちはどうなのだろう?
「もしよかったら、俺たちも同席していいだろうか? 何となく瀬尾を目の届く範囲から離したくなくてな」
「構いません。むしろ、ぜひ新しい瀬尾さんの専用装備を第三者の目で見てもらい、評価をいただきたいですね」
「自信があるみたいですね」
「川島重工が何やら鬼木さまの最新専用装備を一新したとかで、こちらとしてもうかうかしていられない状況になりましたからね。技術チームが眼を真っ赤に染め上げて作成しましたよ」
「あら? こちらの情報が漏れているのでしょうか?」
「・・・」
鬼木さんの鋭いツッコミに、松嶋さんが笑顔で不思議そうに首を傾げ、兼良さんは無表情で僕に目の焦点を合わせる。
どうやら、何かしらの伝手を使って情報を仕入れているようだ。
鬼木さんはそんな2人に笑顔を向けて、背中から般若が顔を覗かせる。
「おイタはほどほどに」
「・・・」
「・・・」
2人は表情を変えない。
ただ、松嶋さんは手を後ろで組んで力を込め、兼良さんは目を閉じて足に力を入れた。
それから昼食の場所を教えてもらって、日野さんの車に乗り込んだ。
「そう言えば、支部長が日野さんのことを暴走風って言ってましたけど、何かあったんですか? 館山さんも笑っていましたけど」
「・・・あー、握手の時か・・・。ったく、教えなくてもいいだろうに」
「いいじゃない。瀬尾くんも、多分周囲の視線が気になっていたでしょ。説明しなさいよ」
確かに、あの日野さんに対する攻撃的な視線はかなり気になっていた。
暴走風はそれに関係することなのだろうか?
「あー、俺の恋人だった人がアイズに殺されたのは知っているよな? 殺し方から犯人はすぐに特定できたんだが、広域認識阻害のせいで久我山には辿り着けなかったんだ。当時は俺も探索者で、得られる情報も少なかったからというのもあるが、ちょっと短絡的に考えてしまって、アイズとブラックアイズが結びついてしまったんだよな」
日野さんの告白に、僕は息を呑んだ。
「まさか・・・」
「突撃した。当時、すでに1級になって、クランとしての人数もそれなりにいたブラックアイズに乗り込んで話をしようと思ったんだ。・・・まあ、殴り合いになったんだが」
「何でぼかして言っているんですか。富士市にいる以上、すぐに耳に入ることでしょ?」
「いやでもさ、入らない可能性もあるだろ」
「無いわよ、そんな可能性」
鬼木さんがため息をついて、助手席から顔を出した。
「この人、当時のブラックアイズの事務所に乗り込んで、建物を半壊させたのよ。しかも、館山さんとガチでスキルを使用して戦ったせいで、その周囲にも被害が出たのよね。今は解除されたけど、それ以降、しばらくは静岡県から入県禁止措置が取られたの。日本で初めてだったらしいわよ、入県禁止措置って」
・・・多分、支部長と館山さんの中では、もう笑い話になっているんだろうけど、やらかした本人と被害を受けた人たちにとっては、まだ遺恨の残っている話なんだろうな。
日野さんは運転しながら「あの時は俺も若かったんだよ」とか「せめてもっと情報が入っていれば」とか言っていた。
多少運転が乱れているので、ぜひとも安全運転でお願いします。