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富士市探索者組合

いつも読んでいただきありがとうございます。

難産が続いていますが、気長に待っていただけるとありがたいです。

よろしくお願いします。

車の後部座席で、僕は横になって運ばれていた。


「吐きたくなったらバケツにしてくれよな」

「もう・・・今日出るって分かっているのに朝まで飲むなんて」


シートベルトで体を固定しているが、留め具が地味に痛い。

だが、ありがたいことに通ってくれた道は舗装されていて、僕の身体は過度な振動を受けることなく目的地についた。


「大丈夫か? 車から降りれる?」

「大丈夫です。気分は悪いですが、何とか歩くぐらいは出来ます」

「入り口に組合の人が立ってるから、その人から鍵もらって休んでなさい。私は組合に一度顔を出すわ。日野さんは警察に顔を出すの?」

「ああ、何人か知った顔がいるから、ちょっと行ってくる」


そうして僕だけ車から降ろされて、しばらくお世話になるマンションを見上げた。

4階建の鉄筋コンクリート造だろうか?

建てられたのも、下手したら旧暦で2000年台の代物かもしれない。


「初めまして、瀬尾京平様ですね。私は渋野久子といいます。静岡県内での瀬尾様の付き添い役になりますので、何かご用がありましたら私に言っていただければ対応します」

「ご丁寧にありがとうございます。・・・すみません。前日は飲みすぎてこんな調子なので、明日改めて挨拶させてください。今日はちょっと休みたいので」

「承知しました。こちらが部屋の鍵になっております。防犯も兼ねてオートロックの二重扉になっておりますので注意してください。大きい鍵が外の扉、小さい物が内側の扉用となっております。部屋番号は401ですので、お間違えなきようお願いします。それでは、明日改めて迎えに上がりますので、ごゆっくりお休みください」


彼女はそう言って僕に鍵を渡し、一礼して去っていった。

硬い感じがしたけど、それが彼女のスタンスなのだろう。

僕はフーっと息を吐いて、荷物を持って階段を上がり、部屋に入った。

中はそれなりに広く2LDK。

家具家電もすでに備え付けられていて、僕は荷物を置いてベッドのある部屋に向かい、着の身着のまま倒れ込んだ。


しばらくして起きると、すでに外は暗かった。

・・・寝てしまっていたみたいだ。


ひとまず服を脱いでシャワーを浴び、キャリーケースの中から下着とパジャマを取り出して着替える。

テレビをつけたが気になる番組はなく、動画を見てみると、ライブ配信者が、今回のダンジョン内配信の緩和を凍結した件について文句を言っている配信がいくつか出てきた。

アホらしいので無視した。


他に興味を引く動画はないかスクロールや更新をしていると、反神教団の謎に迫る! という動画を見つけた。

ライブではなくアーカイブに保存されていた動画のようで、確認することにした。


今、自衛隊や警察が発表している指名手配されている反神教団は、僕が追っている安部浩、《透過》の栂村一彦、《獣神》の猪鹿月哲平、《ファンタジスタ》の百乃瀬順平、《悪癖》の甲斐幸太郎、《アイズ》の久我山寿人、《白蛇》の八重口香。

ダークフューチャーからは、《ノーフェイス》の白滝巴、《支配属性》の桑島時子、《人形使い》の矢目あずみ。

莉乃は・・・明確な殺人を犯していないため、協力者ではあるが、指名手配とまでにはならなかった。

反神教団には、他にも知られていないメンバーがいる。

ドラゴンが襲来してきたあのとき・・・入江さんと土尾さんを殺したあの剣士、それと、アニキと呼ばれる存在。


「穴渕さんがいなくなっただけで・・・」


これだけの人たちが表に出た。

超広域認識阻害というスキルがどれほど厄介だったか、今更だけど恐怖を覚えた。


次の日、渋野さんが10時に迎えにきてくれた。


「これから富士市の組合に向かいますが、途中にいる記者などは無視して問題ありません。笑顔を向ける必要もありませんので。お話しすることがあっても、こちらで用意している会見の場でお願いします」

「あ、はぁ」


なんだかよくわからないが、強く言われたので頷いておく。

僕が損する内容でもないしね。


それから組合の駐車場に着くと、渋野さんの宣言通り記者の人たちが押し寄せてきたが、同時に明らかに記者でも組合の人でもない人たちが押し寄せてきて僕が歩く道を確保し、記者の波を押し戻した。


「行きましょう」


渋野さんが冷静に言って扉が開き、僕は流れで車から降りて、待っていた組合の人についていく。

そうすると、入り口に日野さんと鬼木さんの姿が見えた。

2人は苦笑して僕に手を振り、一緒に組合の中に入る。


「迎えに行けなくてすまなかったな。そっちの人と一緒に迎えに行こうとしたんだが、こっちの組合のやり方に合わせたほうがいいって言われて任せることになったんだ。まあ、この現状を見ると、それが正解だったと思うよ」

「地元の記者だけが優遇されてるみたいね。何社か組合の中に入っているわ。外にいたのは入れなかった人たちで、一枚でも瀬尾くんの写真が欲しい人たちだけよ」


そうだったのか。

僕が肩越しに入り口の様子を見ると、まだカメラを構えていた人たちがガラス越しにシャッターをきっていた。

維持と根性の世界なんだな・・・。


それから渋野さんを先頭に3人で会議室に向かっていると、時々すごい視線を感じる時があった。

2人ほど正面からその視線を見たが、彼らの視線が明らかに日野さんを向いている。

何があったのか聞くことができずに会議室に入ると、既に見知った人と知らない人が僕を待っていた。


上座に座っているのは富士市の組合支部長だろう。阿蘇の柊支部長よりも年上のようだが雰囲気はあの人より重い気がする。

その次にブラックアイズの館山さん、その横に僕の知らない人、次に木下、そして松嶋さんと兼良さんが座っていて、その次の席に僕が座った。

日野さんと鬼木さんは僕の後ろに座っている。

対面には静岡企業団の若原さんを筆頭に、見るからに一癖も二癖もある人たちがずらりと座っている。

おそらく、企業団の構成メンバーなのだろう。

その後ろから静岡新聞と中日新聞という腕章をつけた記者がパシャパシャと写真を撮っている。


「それでは、瀬尾様の来社に伴う各メディア対応、企業協力、霊峰富士の攻略と反神教団対策に向けての打ち合わせを行います。よろしくお願いします」


全員が着席したのを確認して、渋野さんが会議の開催を宣言した。

僕は何も知らされていないことで、突然の内容に目を白黒させて周囲の反応を伺うことしかできない。


「瀬尾様はこちらの事情はご存知ないので、発言される方は必ず自己紹介を入れての発言をお願いいたします」

「それでは、私から発言しよう」


組合支部長が手を挙げて、渋野さんの指名を受けて立ち上がる。


「霊峰富士の南地区、富士市組合支部長を任されている、部谷本宗介という。さて、今回についてだが、自衛隊と警察から大まかな連絡を受けている。・・・富士の樹海の一部に反神教団の基地があるらしい。それも大規模なものが」

「富士の樹海なら北のヤツらの担当だな」

「そうも言ってられんのですよ、若原さん。以前、こちらの探索者が持っていたアイテムで紛失した魔眼を覚えていますか?」

「対象の意識を奪って操るアレか・・・」

「そうです。アレをヤツらが所持している可能性が出たんですよ」

「ったく! だからあの時封印するように言ったのに!」


部谷本支部長と若原さんの会話に、別の企業団の人が苛立ちを抑えきれず言葉を吐き出す。


「探索者本人が拒否をしたのだからわしらからは強くは言えんだろう」

「現に、山根でしたっけ? あのスキルを使って2級になろうとしていたからですね。本人としても手放したくなかったのでしょう」

「その山根とやらは?」

「行方不明です。もう何年も見ていないのでダンジョン内での不遇かと思ったんですがね・・・」


貴重な魔眼スキルが奪われていたのか・・・。

しかも、聞く限りとてつもない効果を持っているスキルのようだ。


「他にも霊峰富士で活動していて、魔石もかなり彼方に流れていたようですし、南地区の探索者組合としては、このまま黙って舐められ続けるというわけにはいかないんですよ」

「館山と菊池くんも同じ意見か?」


館山さんの隣に座っていた人が、若原さんの視線を受けて組んでいた手を解いて僕を見た。


「ブラックアイズの副長をしている菊池です」


彼はそう言って僕に会釈をし、表情を厳しくして正面を向いた。


「私は冷静に動いて欲しいとこですね。なんせ、相手は殺人集団。6合目に慣れている人たちでも、本当の対人戦は躊躇すると思います。そうなると、こちらは的にしかならない」

「そうだな・・・ヒトもどきのモンスターと戦うのとじゃぁ、わけが違う」


館山さんも難しそうに腕を組んだ。


「難しく考えないで、喧嘩だって考えちゃダメなのか?」

「相手も喧嘩と思って来るならそれでいいんだが、向こうは殺す気で来るからな。こっちも殺す気で行かないと対応できない。6合目のヤツらがそんな感じだろ?」

「ああ、確かに・・・」


木下の軽く考えた発言に、館山さんが笑顔で答えた。


「すみません。色々とご意見があるとは思いますが、僕からも一つ言っていいですか?」


僕が手を挙げて発言の許可を渋野さんに伺うと、彼女は真顔で頷いた。


「皆さんの中で、これについてご存知の方、いますか?」


僕は左手のリストバンドを全員に見せる。

誰も彼もが不思議そうにそれを見る中で、部谷本支部長だけが厳しい目でそれを睨んでいる。


「・・・第一師団の矢田か?」


おそらく、噂か何処からの情報で知っていたのだろう。

スキル名は言わずに矢田さんの名前だけを彼は言った。


「そうです。何処まで言えるかわかりませんが、簡潔に言います。・・・人が死にます。それも大量に」


僕の言葉に、会議室に沈黙の幕が降りた。

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― 新着の感想 ―
反神教団は謎が多いですよねぇ超広域認識阻害による情報もそうですが癖が強く方向性も結構バラバラに見えるがレベルという一つの指針にだけ共通してるぽいという 悪というのは賢い人が思ってもやらないことを平気で…
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