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食事会

時間がかかりましたが、未来予知の要素を入れたので、会話を慎重に進めなければならず、こんな感じになりました。

楽しんでいただければ幸いです。

その日、僕には死神を回避する手段を伝えられることはなかった。

流石にあの状態の矢田師団長に「どうしたら僕はいいんですか?」とも聞けず、もやもやしながら部屋に戻って動画ツクールを見ていたら、オススメの一つに「ダンジョン内でのライブ配信の実施について」というタイトルで有識者たちが集まって話をしていた。

時々、僕が言ったことが取り上げられて、その事について賛否が交わされていた。

僕は基本的にダンジョン内でのライブ配信は否定派なので、賛成派の言葉に興味があって観ていた。

そうすると、いくつかの点で利点があるらしい事が分かった。


・新しいコンテンツによる市場の広がり。

・隠れた人材の発掘。

・個人保有スキルの透明性。

・一般市民へのダンジョンの危険性の周知。


ざっくり言うとこのくらいなのだが、それらと人命を秤にかけて、どちらを優先するかだろう。

それに、配信者の危険意識にも左右される。

同接を気にしすぎて、どんどこ危険な場所に向かって、事故に遭う人が溢れ出す可能性が高い。


その動画を止めてテレビをつけると、情報番組がちょうどダンジョン内での配信制限の緩和について、政府が反神教団の影響を考え一時凍結することを発表したと伝えていた。


・・・ですよね。


最悪、反神教団との戦闘の最中に配信者がその光景を無許可でながす可能性が出てくる。

モンスターとの戦闘風景を配信するのと、自衛隊や警察が人に向けて銃を撃つのとでは、人に与える影響は段違いだ。


僕はテレビを切って、ソファーに横になる。


「エイジ・・・」

「どうしたんですか? 主人」

「もし僕を倒す・・・ってなったら、どんな方法があると思う?」

「主人をですか? まあ、確実なのは遠距離物質攻撃だと思いますぜ」


エイジの回答に、僕はちょっと考えた。


「一つ条件をつける。僕が完全な専用装備・・・炎の魔人の時に着てたやつだけど、あれを着てた場合だったらどう?」

「あれがどれだけ防御力を持っているか分かりませんが、銃弾を通さない防御力があるのなら、大岩クラスの物質を高速でぶつけるぐらいですぜ」

「高速ってどのくらい?」

「さぁ・・・人類ってどの程度の速度なら出せるのかわかんないですぜ」

「そうだよな・・・」


新幹線とかだと、時速300キロは出せたはず。


「大覚醒状態なら身体強化もマックスになるから、大抵のものは避けれるはずだしね」

「あー、主人。一つだけ言っておかないといけないことがあるんだぜ」

「どうした?」

「大覚醒は連続はできないぜ。一回使ったら最低でも数時間寝るか半日休憩しないと、主人の魔力回路に別の魔力を通せないんだぜ」

「もし無理やり通したら?」

「その瞬間、主人の全身の血管が破裂するんだぜ」

「それは・・・ダメだな」

「ダメだぜ。もし主人が暴走して連続で大覚醒したいと言っても、俺様が必ず止めるから」

「分かった。前もって言ってくれてありがとな」

「どういたしまして、だぜ」


そうか・・・連続使用はできないのか。

でも、考えれば当然だ。

あんな激痛を伴う技が、そう連続で何度も使えるわけがない。

使えたとしても、僕自身がその激痛から回復するための時間が必要だ。


もし、僕が死ぬ事があるとしたら・・・大覚醒を使った後か・・・。

大覚醒を使う場面なんて、それこそダンジョンのボスクラスでないとありえない。

僕は、そう結論付けて、軽めの昼食を摂り、今夜の食事会と明日の出発に備えることにした。


それから、荷物をケースに詰め終えて、食事会に持っていけない物を金庫に入れ、身なりのチェックをし終えたとこで扉がノックされた。


「はーい!」

「佐藤だ。そろそろ出ようかと思うけど、準備は大丈夫か?」


扉を少し開けて、にゅっと首を出して佐藤さんが部屋を覗く。


「行けますよ。他の人も、もう集まっているんですか?」

「ちょっと店を丸ごと貸し切ることになった。他のリストバンド組に声かけたから結構な人数になってしまって・・・」

「6人じゃダメだったんですか?」

「店側が、瀬尾が参加するなら店内で混乱が起きるから、貸し切ってほしいって言われたんだよ」

「あ・・・納得です」


僕は佐藤さんと一緒に一階に下りると、入り口のロビーで頼圀さんが待ってくれていて、ちょっと硬い表情で笑顔を作ってこっちを見た。


「他の3人は先に行ったか?」

「ああ、他の人たちの配置とか席順を決めに行ってる」

「オッケー。タクシーは来てるよな? 俺たちも行こう」


僕は後部座席に乗って10分程度でその場所に着いた。


「おでん屋さんですか」

「鰹節は高級だけど、ここは昔からの味を守っている店なんだよ」


頼圀さんがお金を払って最後に降り、みんなで店の中に入ると、既に店内は満席で奥の方から梅林寺さん、巳城さん、類家さんが手を振っていた。


「瀬尾くんはこっちね。私と佐藤でサンドウィッチ」


そう言って、僕の左隣に類家さんが座った。

佐藤さんは右隣。

正面に右から梅林寺さん、頼圀さん、巳城さんの順だ。


「それじゃ、飲みモン頼もっか。ビール以外の人は? 瀬尾もビールでいいか?」

「いいですよ」

「オッケー。すみません! 生6つで!」


佐藤さんの注文の後に、各席からも注文が飛び交い、店員が慌しく動きだす。

そして、全員に飲み物が出揃ったところで佐藤さんが立ち上がりジョッキを掲げる。


「全員飲み物来たなー! この場にいるのは同じ状況の、言わば運命共同体だ。自分で色々選択しないといけない人もいるだろうが、この時は全て忘れて飲むぞ! 死神も不吉な未来もクソッタレだ! 百薬の長を掲げろ! カンパーイ!」

「「「「「「「「「「カンパーイ!」」」」」」」」」」


それぞれの席でジョッキやグラスを軽く当てる音が響き、会話が大きくなった。

僕も佐藤さんたちとジョッキを当てて一口飲んだ。

丁度いい苦味が口から喉を流れて胃に入っていく。


「今日の支払いは全部隊持ちだから、気にせず飲めよ」

「隊長から許可が降りたんですか?」

「まあ、これ関係って言ったら許してもらえた」


佐藤さんは左手首のリストバンドを僕に見せる。

そういえば、ここにいる人たち全員の手に同じ物がつけられている。


「みなさんは回避する手段とか教えてもらいました?」

「あんまり、その類の話はしないように言われているよ」

「なんだか、色々な事象で未来って変わるみたいなのよね」

「まあ、俺たちはタイミングが命ってだけだな」

「ほら、お前みたいなのがここまでなら大丈夫だろって、ポロッとこぼすんだぞ」

「こんぐらいなら大丈夫だろ」


佐藤さんの言葉に、梅林寺さんが突っ込む。

俺たちってことは、この人たちは一緒に行動するのか。

それなら、いざという時助け合うことが可能になる。

死神を回避する方法もそこら辺が関係しているのだろう。


「瀬尾は、何か言われたか?」

「いえ、僕は何も教えてもらってないんです。・・・実は、僕の未来予知をして、師団長が無茶をしたみたいで・・・」

「俺らを視たとき以上に負担をかけたってことか」

「アレって代償系のスキルだったのか? 確かに俺たちを視た時も、結構な頻度で目頭を触っているなとは思ったけど」

「ただ・・・その前の情報で、僕は明日富士市に行くことになっているんですよ。死神が鎌を振り上げるとしたら、そこでの戦闘だと思うんですよね。・・・みなさんはそこに行かないという選択はできないんですか?」


僕の言葉に、みんなジョッキを一旦机に置いて僕を見た。

その真剣な視線に、僕はちょっと戸惑いを隠せず、視線がブレる。


「私たちはさぁ、組織の人間だからね。基本的にそれは出来ないのよね。出来たとしても、代わりの人がこっちに来るわけよ。嫌でしょ。私の代わりに死神に憑かれてとか。それなりの給料を貰っているのに、いざとなったら逃げるとか」

「そうですか・・・」


この人たちは、覚悟を決めているのだろう。

僕はビールを一口含んで喉を鳴らす。


「危なくなったら絶対助けますから。僕がいる限り、接近戦で死ぬことはないので、みなさんも絶対に死なないようにしてください」

「・・・」

「・・・」

「・・・」

「・・・」

「・・・かわいいね!」


突然類家さんが僕の頭をガシガシと乱暴に撫で回す。


「まあ、こんな感じだからな。弟みたいなもんだ。仕方ないだろ」

「弟なら仕方ないな。うんうん」


何故かそれからはちょっと硬かった表情が柔らかくなり、お酒もすすんで、この席がお開きになったのは9時を過ぎた頃になっていた。


「2軒目行くぞ!」

「「「「オー!」」」」


そして・・・朝日を見るまで帰してもらえなかった。

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