未来予知
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あれからテレビの情報を観て確認していたが、特に新しい情報がなかった。
鬼木さんたちの情報の欠片でもあるかな? と思ったが、秘密にされているのか、全く出ない。
次の日になって、朝からテレビを観る。
各局とも可能な限り視聴者に不安を与えないような話題になってはいるが、それでも不審者には気をつけるよう注意喚起がなされていた。
9時前45分になったので、僕は一階に下り、受付に挨拶して応接室に入った。
そして、10時きっかりに扉が開いて矢田師団長と付き添いが2人入ってきた。
僕は立ち上がって頭を下げる。
自衛隊としては敬礼なのだけど、正式な型を習っていないので何か言われたらそう返そう。
「お辞儀はいい、座ってくれ」
「はい」
「ふぅ・・・さて」
矢田師団長が僕の前に座り、お付きの1人が彼女後ろに、もう1人が僕の後ろに立つ。
なんだか落ち着かない感じがする。
「この前集められた人たちは、全員視終わった。君が最後になる」
矢田師団長が目を伏せ、組んだ手に力を込めた。
「だから、大体の状況を私は理解しているし、恐らく君もその中にいることも分かっている。今日は・・・ほぼ確認になるが、詳細まで視させてもらう。声まで聞こえればいいが・・・」
そう言って、彼女は僕を見たまま目をしっかりと閉じた。
「すまないが、動かないでくれよ。焦点を合わせるのも辛くなるからな!」
開いた目には、金色に輝く輪が2つ、瞳孔の外側と角膜の外側に現れた。
その光景に僕は目を奪われ、しばらく見入っていたが、数秒後には苦しそうにうめき声をあげ出した矢田師団長によって現実に引き戻された。
「矢田さん?」
「喋らないでください。師団長の集中が途切れます」
僕の声に、後ろに立った人が厳しい言葉で注意してきた。
そこまで集中力を必要とするスキルなのか。
この数秒の間でも彼女は眉間に深いシワを作り、涙を流し始め、閉じていた口を開けて食いしばった歯を見せている。
そして・・・矢田師団長の鼻から血がタラリと流れ落ちた。
思わず腰を浮かせる。
だが、その瞬間両肩を押さえつけられた。
「動かないでください! 貴方が少し動くだけで師団長の負担が増えます!」
それからさらに数十秒がたった。
もしかしたら何分単位で過ぎたかもしれない。
矢田師団長の鼻から出る血は止まらず、彼女の呼吸も荒くなっていく。
「フゥフゥ・・・う! ブフゥ! ぐあぁ!」
呼吸が一瞬詰まったのか鼻から血が吹き出した。
しかも、彼女に何か痛みが走ったのか、目を閉じそうな素振りを見せたが、決死の表情で目を見開く。
その右目の下辺りが真っ赤に染まっていた。
そして、グラッと傾きそうになった彼女の体を後ろの人が止め、顎を掴んで頭を固定した。
流石にもう止めようと思ったところで、僕の後ろの人が何かを察したか、僕の口を塞いだ。
「フムー!!」
僕のうめきは完全に無視されて、2人は矢田師団長に注視していた。
数十秒後・・・口から一塊の血を吐き出して、ようやく2人が矢田師団長を止めた。
「師団長! 何が視えましたか? 言ってください!」
「ゲフ・・・ゲフ・・・ヒュー、巨人・・・百乃瀬!」
「百乃瀬!?」
「バカな!」
ガックリと意識を失った矢田師団長に、僕の後ろにいた人も駆け寄って口の近くに耳を寄せる。
「ダメだ・・・何も聞こえない! 隊長たちに緊急連絡をしよう。それと師団長を病院に! 最悪脳にダメージがあるかもしれない」
そこまで想定されていたのにやらせたのか? この人は!
僕は僕を止めていた人を睨むが、完全に無視され放置された。
悔しかったが、今は矢田師団長の方が優先だろう。
口を挟みたくはなかったので、最低でも確認しなければならないことだけ訊いておこう。
「百乃瀬って・・・誰ですか?」
「・・・百乃瀬順平。自衛隊の研究所で、無断脱退した研究者だ!」
その言葉を聞いて、僕はホッとした。
少なくとも僕が知っている百乃瀬じゃなかった。
だから、それがそのまま口に出た。
「そうですか。百乃瀬亘じゃなくて良かった」
その瞬間、2人が恐ろしい顔で僕を見た。
「平石、お前はすぐに師団長を病院に。俺は彼から事情を聞く」
「分かった」
平石と呼ばれた人は僕を警戒しながら矢田師団長を抱き上げ、部屋から出ていく。
そして、もう1人は・・・銃を僕に向けて狙いを定めていた。
「何処でその名前を知ったのか、教えていただきましょうか? スキルを使用するなら覚悟してください。生命力吸収をされたとしても、その瞬間に引き金を引くぐらいはやってみせますよ?」
僕はとりあえず、抵抗しないことを示すために両手を上げて椅子に座ることを薦めた。
「申し訳ありませんが、百乃瀬亘さんと最初に会ったのは偶然です。場所は新宿のビルの最上階にあるバーで宮地さんに連れて行ってもらいました」
「その話を保障する何かはありますか?」
「・・・ありません。もし認識阻害中だったなら、宮地さんには別の人物として見えていたのかもしれません。防犯カメラもどう映っているか・・・」
「・・・簡潔にお伝えします。百乃瀬亘は自衛隊の記録上、約3年前に栄誉除隊・・・つまり死亡しています。公式の年齢は92歳でした」
「え?」
じゃあ、あの時あそこで話をしていたのは誰なのか?
趣味が合ったと少年のように笑いながら僕と話していたのは・・・。
「自衛隊で・・・研究していたのは、巨大ロボット関連ですか?」
「いえ、ゴーレムに関する仕組みの解明についてです。巨大ロボットに関しては、物理学上、不可能と結論づけています」
彼は僕から銃口を外したので、僕も上げていた両手を下ろす。
「疑いは、大丈夫ですか?」
「貴方に裏切られたら、その時点でこちら側の負けです。私たちには貴方に賭けるしかどのみち選択肢はありません」
矢田師団長がいた席に彼はゆっくりと腰を下ろしてフゥーっと息を吐いた。
顔を伏せているから、僕が裏切っていないと確信しているようだが、ちょっと気が緩みすぎではないだろうか?
「貴方の言葉を信用すれば、百乃瀬亘が生きていて、反神教団に加わっていると・・・最悪だ」
彼は懐から携帯を取り出して電話番号を探し出す。
「どうしてですか? 生きていたとしても彼1人だけでは」
「今自衛隊が最高武力として保有しているドラゴンキラー。あれの基礎理論を組み上げたのが百乃瀬亘です。敵として存在しているのなら、その被害は天文学的な数字になります! 先に失礼します」
そう言って、彼は電話をかけながら部屋から出ていった。
彼が出ていって・・・僕の身体から緊張が抜けてズルズルと力が抜けた。
「何で・・・」
僕と関わる人たちはこうも・・・僕を裏切るのだろうか・・・。
莉乃・・・皆嶋さん・・・ヒャッホイ氏・・・百乃瀬さん。
もはや、誰が本当に僕の味方なのか分からない気持ちになっていく。
「教えてくれよ・・・莉乃。何を信じたらいいんだよ」
小さく呟く。
答えは返ってこない。
どんなに期待しても、熱望しても・・・。