死の宣告
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身体が重く感じる。
風邪ではなく、おそらく精神面から来ている体の不調だ。
ここ3日間はずっとこの調子だ。
何とか寮のフィットネス関係の道具がある場所に行き、汗を流すまで体を動かし、部屋に戻るところで、壁にもたれ掛かっている雨宮さんがいた。
明らかに体調が悪そうで、顔色も心なしか白く見える。
「雨宮さん、大丈夫ですか?」
「あ? ああ、瀬尾くん。ごめ・・・」
僕が差し出した手を握って笑顔を作り、僕の顔を見て・・・表情が凍った。
「あ・・・かひゅ!」
「雨宮さん! 雨宮さん!」
「ゲホゲホ! ゲホッ!! 矢田・・・を、呼んで!」
顔色がさらに悪くなり、目がどんどん上を向いて僕の手に体重がズッシリとかかった。
僕は急いで矢田師団長の名前を電話帳から探してコールする。
『矢田だ。どうした?』
「すみません、瀬尾です! 雨宮さんが白目剥いて意識がなくなりそうです! なくなる前に矢田さんを呼んでと言われて!」
『分かった、すぐ行く! 瀬尾は雨宮の名前を呼び続けろ! 頬を叩くぐらいは許してやる!』
そこから僕は何度も雨宮さんの名前を呼び、頬を軽く叩く。
その様子に、他の人が集まって、女性の隊員たちが僕と交代して男性陣を少し離して彼女の服を緩め、呼吸を確認しながら声かけを続ける。
そして数分後、救急車が到着して矢田師団長の指示で病院に運ぶことを告げられて雨宮さんは運ばれて行った。
・・・昨日から・・・心が休まる時がない。
もう、身体を動かす気すら無くなってしまったので、僕は部屋に戻って、携帯でネットサーフィンすることにした。
「・・・なあ、エイジ」
「どうかしましたか? 主人」
「雨宮さんのあの状態って、スキルが関係してるのか?」
「あ~、どうですかね? 俺様の主観だと、スキルが働いた結果ああなった可能性は高いと思いますぜ」
「・・・そうか」
多分、エイジに訊けば答えてくれるとは思う。
だけど、自衛隊が秘匿しているスキルなので、隠れて知るようなことはしたくない。
・・・それに、知ってしまったら態度に出そうだ。
僕は室内でできる運動をして、その日は終わった。
次の日・・・寮にいた全員が食堂に集められた。
これだけの人が集まるのは久々な気がする。
「全員集まったな。さて・・・君たちには今から配る書類にサインしてもらう」
矢田師団長と目隠しをした雨宮さんが前に立ち、付き添いの人が列ごとに紙とペンを配り、前の方から一枚ずつ引かれて渡される。
そこには、「誓約書」という文字が太文字で書かれていて、その下に内容が記載されていた。
要は、この場で見聞きした事を外部に漏らしてはならないということの誓約書みたいだ。
僕は迷わずサインする。
ただ、印鑑がないので押印はできなかった。
それでも、師団長たちにとってはサインだけで十分だったのか、ペンを置いた人の紙から回収されていき、全員の紙が矢田師団長の前に置かれたのを確認して、彼女は隣に座っていた雨宮さんの肩を叩いた。
「雨宮さん・・・お願いします」
「分かりました」
雨宮さんは目隠しを外して僕らを見る。
その目は見る見る涙を浮かべて溢しだす。
「橋間、赤木、波島の3人は大丈夫。でも、他の子たちは・・・」
「分かりました。橋間! 赤木! 波島の3人は退席してよし! 部屋に戻って待機するように!」
「「「はい!」」」
矢田師団長に呼ばれた3人が食堂から出ていき、僕らは彼らを見送った後、矢田師団長に目を向ける。
おそらく・・・これから説明があるのだろう。
雨宮さんに関わる・・・スキルの話が。
「さて・・・残っている君たちに、私は辛いことを伝えなければならない。だが、その前に・・・雨宮さんの秘匿されたスキルを君たちに伝える。彼女のスキルは『死を視る目』という・・・死期が近づいている者たちの後ろに立つそれを視るスキルだ。雨宮さんには、それが死神のように視えるため、簡易未来予知として、常に君たちを視てもらっていた。そして今回・・・この場にいる皆んなの背後にそいつがいることが確認された」
食堂内が大きくざわついた。
僕も目を大きくしていたに違いない。
だって・・・僕はもう間も無く死ぬ事を知らされたのだから・・・。
「だが、まだ救いはある! 安心して欲しい。雨宮さんのスキルで後ろに憑くものを仮に死神とすると、それが大鎌を振りかぶらない限り確定ではない! そして・・・これから私のスキルを伝えるが、この瞬間から君たちの言動及び配達物に監視が入る。例外はない。それだけ私のスキルが重要だと思って構わない。そういう制限が嫌な者は、済まないが今すぐに退席してくれ」
厳しい言葉で僕たちに伝える矢田師団長だが、死神憑いていると言われているのに、プライベートを優先する人はいないだろう。
僕はそう思って黙っていると、それでも2人の人が青い顔をして立ち上がった。
「・・・分かった。君たちの選択が良い方へ行くことを願っている。退席してよし!」
矢田師団長の言葉を受けて、2人は食堂から出て行った。
「この人数なら・・・3日はかかるな。それでは、スキルが付与されたリストバンドを装着してもらう。このリストバンドは、特定の言葉を感知すると電流が流れると共に、付与した能力者に連絡が行くようになっている。厳重だと思うだろうが、それだけ重要だということだ。一年に一度交換する必要があるため、その制限もあると頭に入れておくように」
そう言って、矢田師団長は全員の腕にそれが付けられたのを確認して口を開いた。
「私が持っているスキルは『未来予知』だ。突然言葉が降りる事もあれば、自分で発動させる事もできる。もちろん自分で発動させることは私自身の負担が大きく簡単にはできないし、数もこなせない。後ほど別部屋に1人ずつ呼ぶので部屋で待機するように! 以上で私からの伝達を終わる! 解散!」
矢田師団長たちが書類を持って出て行ったことを確認して、僕たちは一気に喋りだす。
「死ぬってマジかよ」
「でも、師団長の口ぶりだと何か教えてくれるんじゃない?」
「それで対処できるんなら、こんなバンド安いもんだよな」
あちらこちらでそんな言葉が聞こえて、何人かは頭を抱えて座ったまま動けなさそう。
僕は一言も発せず、食堂から出て自分の部屋に戻った。
「エイジ・・・雨宮さんのスキルは、本当に死神が視えるのか?」
「そうですぜ、主人」
「僕は・・・死ぬのかな・・・」
じーちゃんとばーちゃんの仇をまだ取れていない。
僕は・・・何もできていない。
悔しいな・・・。
「多分、主人が死なないように周りが動いてくれるぜ。なんせ、主人が生きていれば、どんな状況でも突破してくれると誰もが期待してるからだぜ!」
「重い期待だな・・・」
屋久島で背負った皆んなの思い・・・。
日本を頼むと渡されたバトンを持っているのに、こんな中途半端なところで、莉乃を救うこともできずに死ぬなんて受け入れたくない。
「必死に足掻くしかないか。かなり頼ることになるけど、頼むな、エイジ」
「ご安心を、だぜ! 主人! くぅ~! スキル冥利に尽きるぜ!」
その日は、僕は寮から出なかった。
いつも騒がしい寮内もお通夜状態で、誰も騒ぐことなく姿を見せる事もない。
次の日、このままでは本当に身体が鈍ってしまうと思ってジムに行った。
僕と同じことを考えている人も少しいたようで、左手首の黒いリストバンドを付けて思い思いに鍛えている。
僕もしっかりと身体を動かして、落ちそうになる心を一旦横に置く。
何も考えずに、ただ目の前のことに集中する。
気づいたら11時に近くなっていた。
朝ごはんを食べていないせいで、胃が空腹を訴え始める。
仕方ないので、一度切り上げて、部屋に戻ろうと歩いていると、6階と7階の階段に誰か座っているのが見えた。
「よぉ」
「佐藤さん、どうしたんですか?」
「ちょっと話そうぜ」
佐藤さんは、黒いリストバンドをつけた左手で、僕の部屋を指差した。