第二回講義 瀬尾1級探索者のモンスター解説
最後の問題ある質問を終えて、僕はホワイトボードに幾つか◯を描いて中に文字を書いていく。
記載したのは中央の◯に「知能系」、そして一部が重なるようにして外周の◯に「不定型系」「魔獣系」「アンデット系」「精霊系」「亜人系」「物質系」「昆虫系」「悪魔系」「天使系?」
生徒たちも僕が描いた図をメモして僕を見る。
左手にはベルゼブブの籠手を着けているので右手で書いているのだが、多少字が歪んだ。
読めるレベルで書くことができたが、もう左手で書くことに慣れてしまったからな・・・。
「これが、今僕が理解しているモンスターの種類と強さです。中央に行けば行くほど賢くなり、喋りだします。もし、喋るハグレに遭遇したら、一目散に逃げてください。そいつは大規模レイドかA級パーティでないと倒せません。後、この中で天使系だけはまだ遭ったことはありませんが、悪魔がいたので想定で書いています。絶対にいないと分かっている存在は、神系です。いたら最悪だと思ってください」
それから僕は、スライムやゴブリン、コボルト、エレメンタルなど遭ったことのあるモンスターを書いていき、中央に蝿の王と炎の魔人を書き入れた。
「さて、この中で、初心者が1番注意をしないといけないモンスターを教えます。それは、コイツです」
僕は赤でスライムにアンダーラインを引く。
「モンスターの中で最弱で1番余裕で倒せると思っている人は手を挙げてください」
僕が訊いてみると、ほとんどの生徒が手を挙げる。
手を挙げなかったのは3~4人か。
「はい、手を下ろしてください。手を挙げなかった人で理由を言える人はいますか?」
この質問に1人だけ手を挙げている。
見事な金髪でオールバックという髪型が特徴的だ。
気合を入れてここに来たのだろうか?
「はい、言ってみて」
「物理耐性を持っている個体がいるのと、へばり付かれると、強酸で溶かされます」
「うん。半分当たりです。でももう半分もハズレじゃないので問題はありません。名前を聞いていいかな?」
「あ、小瀬龍弥です」
「ありがとう。では、解説ですけど、ハズレの方は物理耐性です。でも、それもC級になったら厄介になってくるので警戒していて間違いありません。そして、当たっているのはへばり付いての強酸です。ライブ配信が禁止になった有名な動画を知っていますか?」
この質問には全員が頷いた。
ただ、よっぽどインターネットが得意で裏サイトや闇サイトに精通しているのなら可能性はあるが、おそらく学校で習っただけで、実際の動画は観ていないはずだ。
アレはアップされたら即消し及び垢BANまでセットになっているから、イタズラでもしようとする人は僕の知る限りいない。
「平地のスライムは見つけやすく倒しやすいですが、洞窟系のダンジョンになるとスライムによる被害が多発します。もう気づいた人もいますね。ヤツらは天井にもいて、敵意なく不意に落ちてきます。実はこれがかなり問題で、弱すぎるが故に危険察知や敵意感知などの緊急感知系のスキルに引っかかりません。生命感知か魔力感知だと発見できますが、僕も見たことないスキルです。ただ、ちゃんと天井を警戒していれば問題はないので、指差しチェックを忘れないようにしてください」
藤森さんあたりが生命感知とか持ってそうだけど、推測でしかない。
訊いても教えてくれないだろうな・・・。
「次に警戒しないといけないのは、下級のゴブリンです。何故なら、彼らは必死に向かってくるからです。ちゃんと装備を整えていれば何も問題は起きませんが、必死の攻撃で汚い武器の攻撃を受け、そこから細菌に感染した事例が沢山あります。ヤツらや、下級でいくとコボルトとオークもそうですが、武器の手入れなんて少しもしません。なので、避けるか確実に防ぐようにしてください。力とか素早さはそこまで無いですが、仲間を呼ぶ時もあるので、その点も注意するように。そして何より簡易罠を仕掛けてきます。草と草を結んで、歩いていると引っ掛けて転ぶタイプですが、その後刃を向けられますから油断はできません。それさえ守れば、今の君たちなら、どんな状況でも普通のスライムとゴブリンに負けることはないはずです」
ゴブリンとコボルト、オークを◯で囲ってひとまとめにした。
「さっきのモンスターの話を聞いて、僕も言ったので感じた人もいるかと思いますが、要は油断するなということです。初心者によくありがちな事として、自分の力を過信するというものがあります。1人で余裕なんて思わないでください。君たちが攻撃するなら、最低でも周囲を警戒する人が1人必要です」
僕はマーカーを置いて教壇に手をつける。
生徒全員が同じくペンを置いて僕を見る。
「君たちが冒険者になって最初にやらなければならないことは、最低でもスライムとゴブリンを倒し、モンスターを殺せる心を育てることです。その段階で躓くことがないように注意点を言わせてもらいました。そして、ここまでがE,F級です」
それから僕は、DとC級のモンスターで主に牛系とゴブリン・コボルト系のモンスターの動きを真似て、その度に1人指名してそういう行動をして倒すのか指示をする。
それがそのまま実践で行動できればいいのだろうが、最初はそう簡単に身体は動かないはずだ。
だから、慣れるまでは絶対に倒すなどと考えずにじっくり取り組むように伝えて、今日の講義を終えた。
藤森さんと話をして、今回はそれなりに良かったのではないか と評価をもらった。
どうやら、最初の3つの質問と生徒が多いことで、僕の圧が分散したのではないか? ということらしい。
それから、帆足学長がいなかったので相沢副学長と話をし、次回もまた、自衛隊と相談して決めることになった。
そして・・・それは数年後にしか叶えることはできなかった。
『2日後、午前8時に迎えを送るから、それで東京タワー地下に来るように。入り口は迎えの者に指示しておく』
西田師団長のいつになく硬い言葉で、電話で僕に伝えた。