第二回講義 瀬尾1級探索者の質疑応答
男性の皆さまへ
申し訳ありませんが、夢を壊す説明があります。
それでも問題ない方・・・お読みください。
前回の講義から1週間が経って、早くも2回目の講義を行う日になった。
まだ、自衛隊から・・・矢田師団長から電話はない。
雨宮さんに矢田さんに電話をしていいか尋ねてみると、「まだ、電話しない方がいいよ」と僕の顔を見ずに言われた。
普段、相手の目を見る彼女にしては珍しい返答だった。
前回と同じ控え室に藤森さんと待機する。
前回の講義の問題点を2人で話して出してみた。
「そこはかとなく威圧があるんだよね」
「それは探索者として経験を積めば、普通に出てきますよね」
「人それぞれだよ。抑えようと思えば抑えれるはずだけど、すぐは無理かもね。喋り方でも改善はされるはずだよ」
「これ以上丁寧に喋るんですか?」
「うーん」
2人揃って眉間に皺を寄せる。
「服装を変えてみたら? それ、実戦用の装備でしょ」
「・・・なんか落ち着かないんですよね」
「・・・まさか普段着じゃないよね?」
「そこまで非常識じゃないです」
「せめて左腕の籠手だけでも外してみたら?」
「ごついですかね? これ」
ベルゼブブの籠手を撫でる。
ないと防御面ですごく不安になるんだよな。
こう考えると、僕は普段から装備やスキルに依存しているのだろうか?
「・・・まあ、今日までは許してもらいましょう」
時間になって、案内の人が僕を呼びにきた。
僕の姿を見て残念そうな顔になる。
・・・なんでそんなに不評なのだろう。
自衛隊推奨モデルなんだけど・・・。
講義室に入ると、今回は上の方の席までぎっしりと人が座っていた。
更に最上段には高そうなカメラも置いてあって、レンズが僕を向いている。
「起立! 礼!」
「「「「「よろしくお願いします!」」」」」
僕が教壇に着くと、1番正面に座っていた燧さんの合図で座っていた生徒たちが一同に頭を下げた。
まさか僕がこういう光景を前にすることになるとは思ってもなかった。
僕は目で燧さんに合図を送ると、彼女は小さく頷いた。
「着席!」
立つのとは違って、流石に揃って座ることはできず、各々自分の席を下げて座った。
全員の着席を待って、僕は全体を見渡した。
「前回から1週間ぶりです。瀬尾京平です。よろしくお願いします。さて、早速ですが、今日はモンスターの行動と倒し方について、僕の知る限り話をしようと思います」
生徒たちが急いで筆記用具を取り出した。
今の時代、動画でサイトに保存されるから授業などをメモするなんてことはしないのだが、よく見るとノートがメモ帳並みに小さい。
探索に持っていけるサイズだ。
「ただ、その前に! 3つだけ質問を許可します! 前回いなかった人限定です! 早い者勝ち順でどうぞ! はい、そこのピンクの髪のお・・・とこの子?」
「男です。春日豊彦って言います。瀬尾さんは動画の配信について、そこまで良く思われていないとお聞きしましたが、こういう人ならやってもいいって人はいますか?」
見た目からは想像できない真面目な質問が来た。
「そうですね。まず、人気を稼ぎたい芸能人でそれなりに経験のある探索者を護衛としてつけている人なら、ほぼ事故は起きないと思うので大丈夫でしょう。それ以外の方は・・・」
「例えば、初心者でも装備が揃うまでお金を稼ぐためにやるのはダメですか?」
「あー、まず、人気のないうちは広告料とか入らないと思うので視聴者からの支援に頼ることになると思いますが、それは将来もあなた達の活躍をライブで観ることが出来ることを前提とした支援です。成功したらバイバイってことはできません。それは理解できますか?」
春日くんは、少し難しい顔をして頷く。
完全に理解はしていないが、それでも視聴者目線で見ると理解できるといった感じか。
「今、ライブ配信が許されているのは国が安全と判断した場所のみ。許可外の場所で録画した動画を配信できるようになったとして、パーティメンバーに許可を取って撮影したとしても、R18になっていないか、過度にグロくなっていないか組合などが確認して、許可だけでた動画をモザイクとか編集してアップして視聴者のコメントを確認して不適切な場面があったら謝罪して・・・やりたい?」
僕が彼を見ると、ちょっとだけ現実を知ったのか、春日くんは首を横に振った。
「次は、上の紫の服を着た彼女で」
「はい、柿島友美です。瀬尾さんの今の服装は、探索する上で最適な装備だと思いますが・・・オシャレな服装での探索とかは難しいですか?」
なるほど、年齢的に見栄えを気にしているようだ。
「今の推奨されている装備を見て貰えば分かると思うけど、基本全身カバーです。理由があって、平地でも草木や虫で皮膚をやられることがあります。洞窟だと岩肌、迷宮タイプや城タイプだとトラップ。正直言って、肌を守るのは頑丈であればあるほど良いです。ゲームによくあるビキニアーマーとかありえません。もちろん、将来的に薄くなる可能性はありますが、どこかの企業が専用装備で作るぐらいですね。間違っても野宿を計画しているダンジョンアタックでヒールとかスカートとか着て行かないように。事故のもとです」
「はい・・・」
柿島さんが、シュンとなって俯いた。
「それじゃ、次は最後で・・・彼で。凄く元気に手を挙げたスカジャンの子で」
「ありがとうっす! 楠基正でっす! 訊きたいのは、今の一夫一妻制です!」
おっと、なんだか地雷持ちを当ててしまったかもしれない。
「今~人口が減っていく中で~もっと子供を作らないといけないのに~一夫一妻制だと人口増えないと思いまっす」
「そう? それじゃ、楠くんはどうしたら良いと思う?」
「一夫多妻です!」
さあ、これは僕に対する試練だ。
今こっちを見ている女性陣の表情がとんでもないことになっている。
ダメだ・・・答えを間違えるわけにはいかない!
僕の背中を嫌な汗が流れた。
せめて顔だけは笑顔で固定しているが、いつ崩れるかわからない。
「俺ってスッゲー考えたっすけど、子供を増やすんなら、全女性に妊娠してもらった方がいいと思うんすよ。特に優秀な男には複数の女性と結婚してもらって、子供を作ってもらうのが1番と思うっすけど、どおっすか!?」
いい発想でしょ! っと、すごいドヤ顔で僕を見るが、やめろ。
もう、この全国にライブで配信している場で、よくその質問ができたな?
とりあえず、無駄な夢は叩き潰すに限る。
「えっとね、まずは周囲の女性の顔を見てみようか・・・どお? みんな無表情だと思わない? 君の存在が彼女たちの記憶から消滅した証拠だよ」
楠くんの顔が、えっ? という表情に変わった。
まだ分からないようだ。
「それじゃあ、逆で考えよう。君に彼女がいたとして、まあ好きな子を想像して。国が多夫一妻制をスタートしたとする」
「いや、考えられないっすよ」
「それじゃ、黙ってて。それで、君の彼女が新たに4人の高身長高学歴高収入超絶イケメンを連れてきました。国の制度だから仕方ないよね?」
「いやいや! いやっすよ! なんっすか、その設定は!」
「君が言ったことを逆転させただけだよ」
「あ・・・」
どうやら、少しは気付けたようだ。
ではこのまま攻め込もう。
日本で一夫多妻はあり得ないことを。
「君がどの資料を見て一夫多妻を夢見たかは分からないけど、まず、アラビアンナイトかな? そっちの文化だと、養う男はかなりの富豪じゃないといけないという条件が付きます。奥さん一人一人が美貌をキープできるようにお金をジャブジャブ使っても問題ない財力は必須条件です。では、ああ、何も言わないでいいよ。墓穴を掘らせる趣味はないから」
何かを言おうとした楠くんを強制的に止めて、僕は話を続ける。
「小説の世界では、ツヨツヨの主人公たちが美女や幼馴染を奥さんにしてるって点だよね。その主人公は、今で言うとドラゴンを一瞬で制圧できるチートを持っていて、その素材を売っていつでも富豪になれる人物です。そんなチートを持っている人はこの世界にはいません。
じゃあ、どうやったら一夫多妻制を国が認めるか? 前提条件を考えてみようか。
まず、ダンジョンのせいで人が亡くなっていて、主に男性の被害が大きいけど、女性の探索者も結構な人数いるから、今の男女比率は1:1.5ぐらいです。ただ、これを10代限定にすると、実はほぼ1:1になります。だって亡くなっているのは大人ですから。この時点で一夫多妻はありえません。1:10になっても僕は一夫多妻にはならないと思う。と言うのも、結婚できなかった女性は、おそらく精子バンクを利用すると思うから。そして、親と同居して子供を見てもらい、自分は働く。子供1人ぐらいなら一馬力で何も問題はない。一夫多妻にするとなると、1:20・・・ひとクラスに男子が2人いればいい方ってなれば、その制度ができる可能性が高いけど、男の比率がそこまで低いと発言権自体が無くなるから、男が子供のうちはチヤホヤされて育てられるかもしれないけど、下手な世界だと、青春期になった瞬間工場に連れて行かれて精子を搾り取られるだけの家畜になる可能性もある。だって、チヤホヤされて我儘な男子の面倒を見るより、人工授精の方が手っ取り早いだろうしね。
だからね・・・一夫多妻の夢は見ない方がいい。アレは空想の世界でしか成立しないし、その世界でもチートを持った人のみが許されるシステムだから」
僕の言葉に、楠くんはガックリと項垂れた。
今後、彼が変な夢を追わずに、健全に成長していくことを祈っているよ。
・・・これでいいかな・・・女性の皆様。