知らない学校と知らない人たち
いつも当作品を読んでいただきありがとうございます。
大変申し訳ありませんが、この話から当作品の重さが少し増します。
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勝手で申し訳ありませんが、よろしくお願いします。
夜中に起きてしまった。
すごくトイレに行きたくなって、駆け込んで用を済ませ、水を流すと急に込み上げてくるものがあり、急いで顔を下に向け口を開けた。
「おぇぇぇぇぇええええええええ!」
胃の中にあった物が全部出ていく感覚に襲われる。
・・・ダメだ。
最後の方の記憶がない。
嫌なやつの近況を聞いたときと嫌なやつの顔を思い浮かべた際に、梅酒を一気に飲んでしまったけど、あれはジュースみたいな物だから、こんなになるはずがない。
確かその後、ビールを1本飲んで、酎ハイも2本飲んだかな?
そして、類家さんが秘蔵の酒だ! とか何とか言って、沖縄から取り寄せた泡盛のクースー? とかいうのを持ってきてた気がする。
うっ・・・ダメだ・・・思い出せない。
吐き出すものを全部出して、洗面台で口をすすぎ、ソファーに倒れた。
机と床は、何も起きていなかったかのように綺麗に片付けられている。
・・・僕はこんな状態なのに、あの人たちはここまでできる余裕があったのか。
それからとりとめのないことをグダグダ考えていると、気づいたら朝になっていた。
カーテンの隙間から朝日が僕の目を攻撃してきたので、満身創痍な身体を引きずってカーテンを引っ張り、日差しを遮ってソファーに戻る。
まだ頭がフラフラしている。
その後はソファーから動かずに、昼過ぎてようやくシャワーを浴びた。
私服に着替えてまだハッキリしない頭をガシガシと掻いていると、お腹が鳴ったので、食堂に何かないかと一階に下りた。
「ようやくお目覚め?」
「あ、こんにちは雨宮さん」
「こんにちは。なかなかハードに先輩方に揉まれているようだね」
「ええ・・・まあ」
記憶を無くすまで揉まれていますと言えず、曖昧にして頭を掻いた。
そんな僕に、雨宮さんは特大の笑顔を向けた。
「ところで、知っているかい? ここの自衛隊の寮では個室にアルコールの所持は確かに認められているが、臨時の任務が飛び込んでくる可能性を考慮して、度数が高いアルコールは禁止しているんだよ。ほら、二日酔いの状態でライフルを持たれると怖いだろ?」
確かに、今朝方の僕の状態で銃を持つと、周囲の人が迷惑をしそうだ。
ただ、雨宮さんは別の何かを言いたそうにしている気がしてならない。
僕は内心首を傾げながらも「そうですね」と答えた。
「まあ、その度数も曖昧だし、度数が低くてもバカ飲みしたら同じなんだけどね。でも、私がここに来て、基準を決めたんだよ。40度以上は認めないってね」
「40度ですか。なかなか無いですよね」
「なかなか無いねー。沖縄とかから郵送で購入しない限りは」
「・・・」
あれ?
おかしい・・・僕が昨日飲んだお酒は何だっただろうか?
「なあ、類家・・・若泉と伊良部は吐いたぞ」
雨宮さんの目が僕の後ろを睨みつけた。
僕が反射的に後ろを振り返ると、そこには顔面蒼白の類家さんが足の向きを変えようとして止まっている。
「覚悟は出来てんだろうね!」
グシャ! と音を立ってて修繕したての受付が潰され、中から勢いよく雨宮さんが駆け出す。
類家さんも負けじと階段を駆け上がって僕の視界から消えていった。
そしてしばらく「待てぇぇぇぇ!」と「誰か助けて! 助けろよ! お前らずるいぞ!」という言葉が寮内を響き渡っていた。
とりあえず、僕は食堂に行って消化のいい食事をお願いした。
苦笑しながら味噌汁とお粥を作ってくれた。
本当にありがとうございます。
それから僕は外に出て、小田原市を散策することにした。
人が集まり出したらすぐに戻るつもりで繁華街を目指す。
寮が小田原市の市役所近くにあるため、少し歩けば駅東の繁華街に到着するので、本当にちょっとした散歩だ。
流石に東京ほど人は多くないが、すれ違う人が僕を指差して驚いた顔をする。
しばらく人目を気にしながらも、思ったほど人が集まらないので、笑顔で散歩を続けた。
時々向けられるカメラには笑顔で手を振る。
そうして歩いていると、見覚えのある姿が見えた。
八日市さんだ。
「こんにちは、八日市さん」
「ひょあ!? 瀬尾さん!? どうしたんですか? ちょっと周囲がすごいことになってますよ! あ、私は一般人です! せめてぼかしで!」
自然と彼女の歩みが早足になるが、僕は横に並んで歩き出す。
「どこに行くんですか?」
「えっと、今日は妹が早く帰る予定になってて、両親は働いているから、私が迎えに行っています」
「妹さんって・・・」
「あー、はい。知的障がいです」
どこか悟っているかのように、八日市さんは言って僕を横目でチラッと見た。
「別れてもらってもいいですよ? どこに行くか聞いた上で別れるのは、普通の反応なので私は気にしません」
どうやら、少し気まずい思いが表情に出ていたようだ。
「いや、僕が知らないことだから、後学のためについて行くよ」
「・・・まあ、面白くも何ともないですけどね」
面白さは特に期待はしていない。
僕らは小田原駅から小田急小田原線の電車に乗って螢田で降り、数分歩いて一つの小学校に着いた。
「多分、子供たちは瀬尾さんのことを分からないと思いますから。みんな騒がないと思いますけど、騒いだらすぐに学校から出てください。正直、情緒不安定な子が多いので」
気難しいということなのだろうか?
僕は何となく頷いて彼女の後ろを歩いて5年生の部屋に着いた。
そこには他の子供の親も、子供の授業の終わりを待っていたが、数名僕に気づいて小さく息を飲んだ。
だけど、それ以上何かするわけでもなく、口を手で押さえて声を出さないようにしていた。
そしてチャイムが鳴って先生との挨拶が終わると、ドタバタと音を立ててランドセルを背負い、次々に教室から出てきて親の元へと抱きついていく。
「おねーちゃん」
「奏、おいでー」
八日市さんも、駆け寄ってくる妹さんを抱きしめて手を繋いだ。
子供たちは・・・一切僕の方を見なかった。
「えっと?」
「すみませんが、この子たちはこういう子だと認識してください。信頼していない人とは・・・目を合わせることもできないんです」
そして先生が各親と話を終えて八日市さんの方へ身体を向けて、僕に気づいて「まあ!」と声を漏らした。
「まあまあまあ、探索者の瀬尾さんですか?」
「はい、突然お邪魔して申し訳ありません。こう言っては気分を害されるかもしれませんが、生徒と偶然出会ってこちらに向かっていることを知り、興味が出てついてきました」
「貴方のような方に興味を持っていただけるのは、こちらとしては素敵なことですよ。もし良ければ、校長と話をしませんか? できればこの学校のことをより知っていただけたらと思うのですが」
僕は少し考えたが、どうせ来たんだし、時間もあるのでお伺いすることにした。
「すまないな。勝手についてきてしまって」
「いいですよ。ただ・・・シャウトが問題ですけど・・・」
「?」
「それはあっちの先生に相談してみます。それでは、また」
そう言って、八日市さんは早く行こうと急かす妹さんに手を引かれて行った。
他の親御さんも、僕と先生にお辞儀をして行くが、子供たちは僕を視界に入れることなく歩き去って行く。
「気分を悪くしないでね。あの子たちにとって、初対面の人に対して接するのはあれが精一杯なの」
「大丈夫ですよ。よく言えば警戒していたってことですよね? こんな時代でも誘拐はどこでもありますから」
「ありがとうございます。さあさあ、こちらにどうぞ」
先生は先導して僕を職員室に連れて行き、中に入って校長の席へと案内する。
僕の姿を見て、他の先生たちも驚いた表情をしたが、みんな過度に騒がないでいてくれた。
「はじめまして。ようこそおいで下さいました」
「いえ、突然来てすみません」
「問題ございません。私は校長の鳥坪といいます」
「探索者の瀬尾です」
僕と鳥坪校長はお互いお辞儀をして、打ち合わせ室へと案内された。