閑話 支部長の髪の毛が気になる日々
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俺が支部長になって、初めてできた問題児がまた居なくなった。
また無申請だ。
「宮下のやつはぁ!」
あいつは、自分が超レアスキルホルダーだと言うことを理解していない!
本来なら超レアスキルの希少性から、アイテムを組合に預けて移動の申請を出すのが普通の行動なのに、あいつは単槍と短剣を持ったまま何処かに行ってしまう。
完全に銃刀法違反だ。
「あのバカは、そんなこと気にせずに歩いているんだろうな!」
せめてケースか何かに入れて移動していてほしい。
俺は下の階に降りて事務長を手招きした。
「何かありましたか?」
「宮下がまた行方不明になった」
「またですか? 武器も全部所持したままで?」
「全部所持したままだ。副支部長が今3人から聞き取りをしている。何処かに行きたがっていたかとか情報があれば、そこに近い事務所に探してもらう」
「貸しが増えそうですね」
「貸しぐらいなんて事はない。最悪の事態だけは避けなければ」
「・・・そうですね」
とりあえず、関係者には彼女を見つけ次第、どんな状況であっても確保するように指示を出して、俺は支部長室に戻った。
荒くれの多い探索者業界にあって、一つの支部をしっかりまとめ上げているはずなのに、たった1人の問題児のせいで悩ましい日々が続いている。
「あ・・・毛が落ちた」
短く刈っている髪の毛が机の上に3本・・・。
齢51で生え替わりはほぼないといっていい。
・・・まずい、気分が落ち始めた。
「柊支部長、宮下が福岡の甘木市にいたから。今は私の目の届くとこにいるから安心して」
その吉報が入ったのは、夏の暑い日だった。
どうやらレア狩りどもには会わずに過ごしているらしい。
俺はホッとして申請をするように伝えて電話を切り、ゆったりと椅子に座り直す。
ここ最近、ストレスが溜まるとフィットネスジムに通っているせいで、筋肉のボリュームが増えて服がキツくなってきた。
しばらくはゆっくりして筋肉たちを休めるとしよう。
しかし、甘木市?
俺が見落とした情報でもあっただろうか?
上体を起こしてキーボードを打ち、福岡県甘木市を調べてみると、未確認ダンジョンがあって山狩りを行ったようだ。
なるほど。
宮下は妙に感が鋭いとこがあったが、今回はこれに引き寄せられたか?
しかし、それだと鬼木の嬢ちゃんがいた理由がつかない。
何かしら彼女がそこに居なければならない理由があるはずだ。
「超レアスキル・・・いや、もしその情報があれば、もっと騒がしくなっているはずだ」
もし超レアスキルが出たのなら、今の世代がこの80年の中で最も超レアスキルを扱う現役が多いことになるのではないか?
もしそうなら・・・
「三大ダンジョンが完全攻略・・・まだ夢か・・・」
そう、まだ夢だ。
だが、俺がいるうちに、どれか一つでも完全攻略がなって欲しい。
そんな俺の願いが叶ったのか・・・歴代でも超強力なスキルが出現した。
まさか大悪魔を動けなくするスキルが出てくるとは。
甘木市のダンジョン攻略が終わって、その少年は、福岡から南下してきて小国町にいる。
宮下も高城たちと合流して小国町にいるようだ。
何やら甘木市でアタック後にトラブルがあったようだが、俺のとこには情報がまだ入っていない。
『支部長、忙しいところすみません』
「いや、問題ない。何かあったか? 高城」
『小国町の鍋ヶ滝がダンジョン化しました。いえ・・・ダンジョン化してました』
一瞬緊急事態か! と思ったが、高城が変な言い回しをしたために、浮いた腰がどこに行こうか迷っている。
「どう言う意味だ? 未確認ダンジョンが現れたということではないのか?」
『いえ・・・私たちも驚いているのですが・・・攻略されました。したのが・・・16歳の少年なんです』
「・・・何をいっているんだ? お前は」
意味がわからない。
言っている通りに理解すると、16歳の少年が未確認ダンジョンを攻略した、ということだが・・・ありえない。別の意味があるはずだ。
『私が言った通りです。16歳の少年が、単独でおそらく、DかC級のダンジョンを攻略しました。ボスはバシリスクでした』
「・・・お前が言っていなければ、夢でも見たんだろで片付けそうな内容だな」
『私も自分で見ていなければ鼻で笑うところです』
しばらく、小国町の話をしていると、遠くで叫んでいる声が聞こえた。
『四葉! 大変よ!』
『どうしたの!?』
『瀬尾くんと街の人が揉めたわ! 道の駅でスキル使って、今町長さんが話してる!』
『ちょっと! 何があったのよ! 支部長! ちょっと確認してきます!』
俺の返事を待たずに電話が切れた。
何があったか気にはなるが、色々と情報は得ることができた。
スキル生命力吸収か・・・。
名称は普通っぽいのだが、デバフ系か?
にしては、効力が強すぎはしないか?
その後・・・宮下がまた行方不明になった。
携帯は麻生のカバンの中に入っていたらしい。
「あの、問題児ぃぃぃぃぃぃぃぃ!」
俺の大声で支部長室の書類が舞い散って、本棚のガラスにヒビが入った。
数日後、例の少年が阿蘇入りしたらしい。
一度顔を合わせようと受付に行くと、もうダンジョンに向かったという報告を受けた。
出る際に依頼を一つして出て行ったらしい。
初見のダンジョンでどこまでできるか楽しみだ。
・・・まさか1週間もダンジョンにいるとは思わなかった。
しかも、戻ってきたと思ったら、B級魔石を30個も持ってきたらしい。
信じられなくて、俺も現物を見た。
・・・企業と国と自衛隊と警察と消防と・・・考えたくない。
ようやく放浪娘が戻ってきた。
他の天外天のメンバーは福岡の方を調べていたようだが、後で連絡をしてやろう。
「さーて、宮下ぁ〜。どうやらお前は規則というものを軽く見てるようだな」
「え、え〜? そんな、真面目が服を着ていると言われたこともある私にそれは酷いのでは?」
「ほー、真面目ね。なら、真面目なお前に探索者組合規則を思い出してもらおうか」
「あ、ちょっと頭が! ダメです! この場にいたら突発性記憶欠乏症に!」
「都合のいい病を作るな!」
宮下の頭に拳骨を一回落とす。
ゴツン! といい音がして宮下は頭を抱えてうずくまった。
「言っておくが、みんなお前を心配していたんだぞ? レア狩りのことは教えただろうが」
多分、俺が言っても聞かないだろうな。
口を尖らせているその顔を見て、はぁ〜っと深いため息を吐いた。
とりあえず、3人が戻るまで、瀬尾くんにこいつの身柄を預けておこう。
どうやら、宮下は瀬尾くんのことが気に入っているみたいだしな。
目印ができてよかった。
「少しは落ち着いてくれるとありがたいんだがな」
「そう簡単にいきますか?」
「期待するしかないだろ。でないと俺たちの身がもたない」
「・・・そうですね」
副支部長がげっそりした表情で頷いた。
こいつも精神的に疲れただろう。
ちょっと休暇を与えたほうがいいかもしれない。
阿蘇山が鳴動している。
噴火の時期が近いのだろう。
また嫌がる探索者たちを引きずって駆り出さなければならない。
ただ、今回は瀬尾くんが見つけてくれた温泉のおかげで怪我人の心配をせずに済む。
例年、噴火が起こるとB級モンスターがわんさか出てくるため、何人か再起不能になったり、引退を余儀なくされたりしていた。
だが、そんな俺の平穏を、別の方面から厄介が襲ってきた。
「いやいや、そちらが日程を変えれば済む話でしょ!」
『その間、ワシの孫に痛い思いをさせておくのか! 孫はよくてもワシが許さん! 1日でも早くあの子の痛みを取り除くんだ!』
電話の向こうで分からずやが叫んでいる。
孫の為とはいえ、噴火が間近な阿蘇山に来るか?
命が欲しくないのか?
もう既に1億を組合に振り込んでいるが、安全面を考えて欲しい。
「いいかい、渋野さん。このままの予定で行くと、丁度噴火と重なるんだ。死ぬ確率が上がるんだよ! 孫を殺したいのか?」
『孫はしなん! お前たちが守ればいい話だ!』
「守り切れないんだよ! B級モンスターが溢れるんだぞ!」
いい加減に理解してほしい。
結局押し切られた。
その代わり、車移動で物資や車の費用は全て渋野さん持ちとなった。
だが、もっと安全に出来ないだろうか?
そう願って宮下と瀬尾くんに声をかけたが断られた。
しかも、真っ当な理由で・・・。
立場の弱い支部長は辛いな・・・。
渋野さんたちには温泉で一泊予定で行ってもらった。
天外天と朧月夜がいれば何とかなるはずだ。
そう考えていたら、阿蘇山が異常な鳴動を始めて、大噴火を起こした。
何でみんながみんな、俺の予定通りに動いてくれないんだ!!
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