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人類はレベルとスキルを獲得出来ませんでした  作者: 妹尾真拓
ダンジョン排除地域編
145/197

最初の講義

うん・・・減りました。

まあ、仕方のないことなので、次からブックマークに関しては増えても減っても言わないようにします。

見てくれる方が楽しんでいただけるよう頑張ります。

打ち合わせの日から4日が過ぎた。

僕は少し緊張しながら、身支度を整え玄関の扉についている姿鏡で最後の確認した。

・・・よし、寝癖はない。

今日は専門学校の職員の人が迎えに来てくれるようになっているので、僕は一階ロビーに待ち合わせの10分前に下りた。

この日が来るまで、何故か鍛治社長の言葉が頭から離れなかった。

それと共に、過去のたらればが一気に押し寄せて、あの日の光景が蘇る。


あの日、じーちゃんとばーちゃんにアイテムを渡さなければ。

あの日、縄文杉相手に大覚醒が使えていたなら。

あの日、みんなの側を離れずに安部を追わなければ。


それらも全て、僕のせいではないのだろうか?


ロビーで一人悩んでいると、迎えの人が来て僕の名前を呼んだので、立ち上がって手を挙げると、迎えの人はすごく変な顔をして僕を見た。


「えっと、瀬尾京平様ですよね?」

「そうですが?」


これでも結構テレビやネットで顔を晒しているのだが、この人の反応を見る限り、僕もまだまだのようだ。

だが、彼の視線は僕の足先から首までを見て、最後に僕の顔を見た。


「本当にその格好で行くのでしょうか?」

「はい。今回、僕は探索者の一人として講義をしますので・・・できれば専用装備の方が映えたと思いますが、アレは色々な企業が関係していますから許可も必要ですので・・・」

「いや、えっと・・・スーツじゃ・・・」


最後が尻すぼみで何を言っているのか聞き取れなかった。


「何か変でしょうか?」


僕は、自前の自衛隊推奨探索者用装備とベルゼブブの籠手を見るが、どこに出しても恥ずかしくないものだ。

多少の使い古した感はあるが、それも熟練の感じを出していて、舐められる要素はないはずだ。


「まあ・・・大丈夫でしょう。こちらへお願いします」


僕は促されるままに車に向かい、後部座席のスライドドアを開くと、そこに見知った人が座っていた。


「お久しぶりだね、瀬尾くん」

「藤森さん! お久しぶりです! いつ以来になりますか?」

「私は甘木の件以来ですね。今回は不特定多数と出会う場に瀬尾くんが行くということで、私に白羽の矢が立ったみたいです」

「そうだったんですね。藤森さんには別の用事はなかったんですか?」

「あると言えばあるけど、今の状況だと動いても意味がないかな。近々それが変化するかもって情報だけは仕入れたけど、それ次第」


僕の質問に、藤森さんは曖昧に答えて大人の笑みを浮かべた。

これ以上、掘り下げてほしくなさそうだ。


それから今までの話を聞くと、どうやら藤森さんは日野さんと鬼木さんに同行していて、日野さんの右目がなくなった場面にもいたらしい。


「私は戦闘特化ではないため、専門同士の戦いになると邪魔にしかならないんですよ。もちろん見るだけじゃなくて、少しは役に立つようなことはしていたんですが、自分がどれだけ無力か分かります」

「藤森さんは探索特化ですしね」

「それも、超広域認識阻害には及ばない程度ですよ。はー、何ともチートスキルの多いことか」


両手を上げてお手上げのポーズを取る。運転席では、迎えの人もうんうんと頷いていた。


「日野さんと鬼木さんは、あれから怪我とかしてませんか?」

「どうですかね? 何だか血相を変えて飛騨のダンジョン群に向かいましたから、無茶をしなければいいんですが」

「二人とも強いですからね・・・限界まで進みそうですよね」


ダンジョン群でブレイクでも起きたのだろうか?

僕は二人の安全を祈っている間に車は専門学校に到着した。

時間にしておよそ30分強といったところ。

車から降りると、帆足学長が迎えに来てくれた。

そして、何故か僕の姿を足先から頭まで見て、怪訝そうな顔をした。


「おはようございます、瀬尾さん。えっと、その格好で講義されますか?」

「おはようございます。はい、自衛隊が推奨する探索者用装備ですので、今日という日には1番マッチした格好だと思って来ました」


帆足学長も僕の格好に不思議そうに確認して来たが、僕は何も問題はないと主張したので、何か言いたそうにしていたが、最後にはそれを飲み込んで僕たちを控え室に案内した。


「会場を後程案内します。10分後でいいですか?」

「今からでも大丈夫ですよ?」


控え室に藤森さんが先に入って、色々目線を配った後に僕に入るよう促す。

僕は手荷物を机の一つに置いて帆足学長を見た。


「今日はネット配信もやるんですよね?」

「はい、その予定です。すでにネット環境には繋いでいて、ツクールにもチャンネル開設済みです。ご覧になりますか?」


僕としても事前にやりたいことがあるし、時間をかけれるのは有り難かったので、帆足学長に案内してもらって会場に着いた。

ここでも先に藤森さんが中に入って会場全体を確認した。


僕は彼がオッケーを出した後に中に入って教壇に立った。

それなりに広い会場で、件の動画サイトに接続されたパソコンとカメラが最前列の真ん中に置かれていた。

興味があってカメラを覗き込んだり、パソコン画面を見たりしていると、誰も写っていない教壇の風景を横切るようにコメントがたくさん流れていた。


『瀬尾がいた!』『突然の実物にびっくり!』『時間前に接続してご褒美もらえた!』『おっしゃー! 俺勝ち組!』『うそ!? 瀬尾いたの?』『ちょ! 私がトイレ行ってる間に!』『え? なになに? 今北産業プリーズ』『試験接続? 試しに接続してみる 瀬尾がサプライズ登場』


ちょっとしたお祭り騒ぎになっていた。

接続人数も凄い勢いで増えている。


「あの、もう配信しているんですか?」


作業をしている人に確認してみると、その人は画面を確認して「あ、切り忘れた」と言って無慈悲に配信を停止した。


「また後で接続します」


そう言って、その人は作業に戻ってケーブルを束ねたり、躓き防止を設置していたが、上司らしい人に呼び出されて「馬鹿たれ!」と怒声を浴びていた。

・・・僕が画面に映ってしまったのがまずかったらしい・・・。

後で分かったことだが、「講義前のお茶目な瀬尾くん」として動画が拡散されていた。

不用意に顔を近付けるんじゃなかった。


それから、僕のスキル範囲を確認してテープを床に貼ったり、マイクの確認をしたりしていると、あっという間に講義予定時間の15分前になった。

生徒たちは5分前~10分前に会場に来るとのことでもう一度控え室に戻ってゆっくりすることにした。


「何だか、僕がやるより、もっと熟練の・・・威厳のある人が講義した方がいいような気がするんですけどね」

「ネームバリューのせいですよ。どんな人が講師をしたとしても、瀬尾くんがやった方が注目度は高いです。ほら、すでに切り抜き動画が」


そう言って藤森さんが僕に携帯の画面を見せる。

それは、動画ツクールの画面で僕が首を傾げながらカメラに向かってくるという、ただそれだけのものだった。


「・・・さっきの場面じゃないですか!」

「シャウトのトレンドにも上がっていますよ。今の日本でこれだけ瞬時に皆の関心を集めるのは、他の1級でも無理でしょう」


何だか、珍獣になった気がしてならない。

これから講義をすることになるのに、余計なものを見てしまった。

藤森さんは楽しそうに動画を検索して観ている。

そんな彼を見て、僕はため息をつくことしかできなかった。


それから時間少し前に部屋を出て会場の扉の前に着いて、案内の人が時計を見て頷くと同時に僕は扉を開いた。

一歩会場に入った瞬間、シーンと音が消えた。

僕が教壇に向かう足音が響き、壇上に立って生徒たちを見た。

正面はツクールに接続されたパソコンとカメラ。

僕から見てその右側に燧さん、齋藤くん、小網さん。

左側に近重くん、八日市さん。

その全員が・・・この場で何かしてやろうという目をしていた。


「初めまして。本日、君たちの講師として依頼された1級探索者の瀬尾です」


それらの挑戦的な視線を全て受け止めて、僕は自己紹介をし、笑みを浮かべた。

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― 新着の感想 ―
お茶目として一生残るなw配信とかこの時代では主流の娯楽の一つだろうし注目度は本当に高そう 壇上に立って緊張せずに堂々と言えるとは……戦場みたいな気分できたおかげとかもありそう
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