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人類はレベルとスキルを獲得出来ませんでした  作者: 妹尾真拓
ダンジョン排除地域編
140/197

要請

ブックマークありがとうございます。

これからも頑張りますのでよろしくお願いします。

無言の圧力と舌打ちという精神攻撃を僕と鎌谷さんが受けて、ようやく矢田さんから着席することを許された。

鎌谷さんが、先に矢田さんの対面に座ってその横に僕が座った。


「誰がそこに座っていいと言ったか?」


矢田さんのドスの効いた声が響く。

背筋を何かが駆け抜けて体が震える。


「え? でも、話をするなら対面が・・・」


鎌谷さんの言葉を遮って、矢田さんは床を人差し指で指し示した。


床に座れ・・・。


矢田さんは何も言っていないのに聞こえてしまった。

僕らはソファーから立ち上がって、大人しく床に座る。


「せ~い~ざ~」


指摘を受けて座り直す。

あ、やばい。

何分保つだろうか?


「鎌谷さん。今日、私はわざわざ平日に貴方のもとに趣味仲間を紹介しに来たわけではないんだ。仕事で来たんだ。分かっているか?」

「・・・分かっています」

「声が小さい!」

「分かっています!」

「嘘つくなァァァァァァアアアアアア!」


彼女の絶叫に僕たちの背筋が一気に伸びた。


「お前たちオタクどもはいつもこうだ! 自分の趣味について語りだすと他の人の迷惑も顧みずにずーっと話し込むんだ。さっきだってどうせ私のことなんか気にもかけていなかったんだろ! それでも1時間だろうなと思った私が愚かだった! もう30分は許そう、15分後には出てくれる、10分・・・で・・・。そうやって合計3時間だ馬鹿者どもが!」


矢田さんの顔中に青筋が見える。

幻かもしれないけど、見えてしまうため、僕は視線を下に向けた。


「無駄に時間を過ごすくらいなら、帰ればいいのに」


横の人から漏れた言葉に、僕の身体を悪寒が走った。

なんてことを言ったんだ、この人は!

僕はチラリと視線を上げて矢田さんを見てすぐに下げた。

まずいまずいまずい!


「鎌谷さん・・・」

「はい!」

「よくその言葉が言えたな?」

「・・・え?」

「帰ればいいのに・・・だと?」

「はっ! しまった!」


慌てて鎌谷さんは口を押さえたが、遅すぎる。

というか、さっきの言葉は無意識の本音だったのかよ!

時と場所を考えてほしい!


「私がここにいるのは、業務なんだよ! 遊びに来たんじゃないんだよ! 貴様のひねくれた脳みそで少しは他人のことを! 私のことを考えろ! 何であんたの尻拭いをさせられる場所に移動させられるんだ! ふざけるな!」

「それは矢田ちゃんが俺の部下だったときにすごくいいコンビだと上が認識して、ぎゃああああああああああ!」

「私は必死に後始末をやっていただけだああああああああああああ!」


矢田さんの右手が鎌谷さんの顔面を捉えて指をめり込ませた。

鎌谷さんの痛がり様から、激痛が走っているのだろう。


「エイジ・・・矢田さんの保有スキルの中に身体強化系は?」

「無しですぜ、主人」

「マジか・・・」


僕は正座のまま足を動かして鎌谷さんから距離を取る。

身体強化系がないのにあの痛がり様はマズイ。

とばっちりだけは喰らわないようにしなければ。


僕がジリジリと移動して離れていると、グリンと矢田さんの顔がこっちを向いて目線を僕にロックした。

ビシッと背筋が再度伸びる。


「瀬尾くんはソファーに座って」

「イェス・サー!」


思わず甘木で培った敬礼が出てしまった。

指示のとおり、僕はソファーに座って正面を向く。

決して鎌谷さんの方は見ないで、耳もトンネルだと思い込んで聞こえてくる言葉を頭に入れないよう心がける。

そうして10分後・・・、


「足が~足が~」


床を転がる鎌谷さんの姿があった。


そんな彼に矢田さんは一度彼の足を体重が乗るように踏みつけて、それから僕の正面に座った。


「さて、もうアレのことは気にしなくていいから、これからの話をしましょう」

「はい! お願いします!」


僕の応えに、何故か矢田さんは眉間に皺を寄せたが、何も言わずに座って手を組んだ。


「まあいい。こだわると今日の目的が果たせん。瀬尾くんにはこのバカの説得をお願いしたい」

「説得ですか?」

「そうだ。コイツには例の超広域認識阻害スキルホルダーの探索を依頼したのだが・・・拒否したんだ」

「拒否・・・え? 命令ですよね?」

「そうだ。作戦室からの正式な命令だ。それを鎌谷さんは拒否するんだ!」

「俺を非常識の塊のように言うのはやめてくれ! 俺の主たる業務はドラゴンと天空大陸の監視だ。それ以外の気に入らない命令に関して、俺には拒否できる権限があるんだよ!」

「反神教団も日本にとっては十分脅威な存在なんだぞ! その命令を拒否するこ・・・」


突然矢田さんが黙って、目が宙を見て意識をどこかに飛ばした。


「あー、入ったか。うさぎ氏、申し訳ないが、矢田ちゃんの連れがいたはずだから、その人たちを連れてきてほしい。それから、本当に申し訳ないけどうさぎ氏には外で待機してもらっていいかな? そう時間はかからないと思うから」

「分かりました。急いで呼んできます」


僕は急いで外の二人を呼んで矢田さんの状態を伝えると、二人は血相を変えてすぐに室内に入っていった。

理由は分からないが、おそらく矢田さんのスキルに関することなのだろう。


「どんなスキルなのか・・・」

「興味があるんですか? 主人」

「うん、ちょっとね」

「教えることもできますぜ」


興味が出てきたので、エイジから聞いておこうと思うと、扉の前に立っていた人が「失礼」と言って会話に入ってきた。


「申し訳ありませんが、第一師団師団長のスキルは秘匿スキルです。一部の人にしか公開されておりませんので、安易に広めないでいただけると」

「僕が知ることも問題になると?」

「なります。私はスキルの内容まで存じておりませんが、名前を知るだけで業務次第では監視がつきます。瀬尾さまはまだまだこれから活躍される方です。そんな方に監視をつけて行動を制限されるなんてことがないように、お願いします」

「分かりました。エイジ、聞いたとおり誰にも言わないようにね。あ、もしかして雨宮さんのスキルもそうなのかな? とりあえず口外しないようにお願いね」

「承知しましたぜ、主人。お口にチャックだぜ」


エイジが口を閉じたので、僕もそれからは何も言わずに壁に背をつけて立っていたが、辛くなったのでその場に座った。

そうして20分から30分経って、中から矢田さんが両脇を支えられて出てきた。

顔色が真っ白で、明らかに体調が悪そうだ。


「大変申し訳ないですが、私たちは師団長に付き従わなければならないため、瀬尾さんを送ることができません。今、宮地准尉に連絡をとり、来ていただけるよう手配しましたのでしばらく上でお待ちください」

「宮地さんもこちらにいらっしゃるんですか?」

「はい。瀬尾さん担当からは外れておりますが、東京に居ますので」


それから来た道とは別のルートで上がると、図書館に出た。

僕が出ることがあらかじめ伝えられていたのか、誘導してくれる人がいて、知らない館内を迷うことなく外に出られ、宮地さんが車で待ってくれていた。


「お久しぶりです、宮地さん」

「お久しぶりです。後ろに乗ってください。この時間ですのでホテルを用意しました。車を置いて食事に行きましょう」


それから僕らは車で新宿まで向かい、徒歩で焼肉を軽く食べ(かなり美味しかった。支払いは宮地さん)、それからビルの最上階にあるバーに入った。


「えっと・・・宮地さん」

「何でしょう、瀬尾くん?」

「実は、お酒はちょっと・・・」


先日の飲み会の話をして遠慮しようかと思ったら、彼は小さく笑ってバーの中に僕を導いた。


「お酒の適量は人それぞれです。瀬尾くんは瀬尾くんの適量を見極めて飲めばいいんですよ。まあ、現場は飲めや歌えやですが、私となら止めてあげられますので、安心してください。ファジーネーブルを彼に。私はジントニックで」


かっこよく注文する宮地さんに、バーカウンターの奥にいる人が頷いてグラスを用意してお酒を作って僕たちに差し出した。


「それじゃ、今日は1日お疲れ様でした」

「お疲れ様でした」


グラスをカチッと当てて、僕は小さく口をつけた。



・・・最初は美味しいんだよ。

それは分かっているんだよね・・・。

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― 新着の感想 ―
きっとそのアイアンクローは何度も何度もやることで鍛えに鍛えられたに違いない……
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