後始末と情報精査
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ドラゴンを討伐したあと、魔石は組合預かりとなり支部長が厳重保管と言って、支部長室の金庫の中に入れたらしい。
普通のA級魔石よりも大きいので、何に使えるのかを専門機関と話をして組合として使い道を考えないといけないとか。
なお、その特大魔石のおかげで、阿蘇防衛に関わった人たちには特別手当が支給された。
1人頭最低20万円で、僕には500万円が銀行に振り込まれていた。水魔法を使ってくれた小坂さんと一ノ瀬さんも同額が支給されたそうだ。
功績は正当に評価されてると思う。
「それでだ、ドラゴンと戦っていただろう第三者について、瀬尾の意見を聞こうか」
3日後、僕は応接室で支部長と副支部長を前に座っていた。
一見尋問の体制なのだが、情報共有のために必要なので、僕もおとなしく従う。
「名前ですが、安部浩。偽名かもしれませんが、僕にはそう言ってました。年齢は不明。所持しているスキルは知っているのは3つでビギナーズラック、認識改竄、火魔法です。甘木市のダンジョンアタックの際に暗躍してました」
「どれだけの戦闘力があるかは不明ですか?」
「もしあのドラゴンと戦っていたのがあいつなら・・・かなり強いとしか。甘木市では暗躍していただけで、直接の戦闘は見ていません」
「・・・奴らの可能性は?」
「無きにしも非ず・・・ってとこですね」
支部長と副支部長が顔を見合わせて眉を顰める。
「奴ら?」
僕は意味深な複数形に、説明を求めた。
「組織名の表明はまだ無い。俺は暫定的に奴らと言っているだけだが、その中の1人がポロッと『俺たちは神を殺して人類にレベルとスキルを与える』と言ったらしい。だから俺たちの中では反神教団と呼んでいる」
「反神教団・・・」
「目下のところ、奴らは超レアスキルを集めているみたいだが、そう簡単に手に入るなら苦労はしない。一生縁がない人もいるくらいだしな」
「超レアスキルは持っている人を見れるだけでも運がいいと言われてますからね」
そんなにすごいのだろうか?
僕が関わった人の中でも鬼教官と鬼木さん、多分城島さんも超レアだろう。宮下さんの韋駄天も超レアだ。
結構いる気がする。
「お前を含めて特殊な奴が多いな」
・・・失礼な!
「そういえば、今回の戦闘で腕とか千切れた人はいませんでしたか?」
「いませんね。みんな千切れる前に避難するか、施設の中に入るかして5体満足ですよ」
「・・・手足を装備した人もいませんか?」
「あのな、瀬尾。お前は特殊だ。普通なら、手足が千切れたら手術で接合するんだよ。そうすれば神経も繋がって元通りになる。変なスキルが付く可能性があるのに、装備をする人はよっぽどなんだよ」
「僕は生死を賭けてましたからね」
あの時はあれがないと僕は死んでいた。
たまたま口から出た言葉だったが、後悔はしていない。
「今は温泉施設もあるからな。あ、それで思い出した。あの温泉とんでもないな」
「効果がありましたか?」
「あったどころか」
支部長と副支部長がお互いの顔を見て頷いた。
「確実に依頼料のアップが見込める。1組目の客だが、半身火傷の高校ぐらいの孫だったらしいが、傷跡一つ残さず完全復活した。温泉がなければ、障害と傷跡が確実に残っていただろう。髪の毛まで復活していたのもびっくりしたな。もう一つ、同行した老夫婦2人の肌艶が若返りすぎた」
おぉう。
傷を治すのは予想通りだが、肌もある程度は僕自身で知っていたが、老夫婦の肌が若返ってしまったか。
「ついでに、今回の噴火の重傷者も温泉に入れたが、全員ピンピンピチピチして戻ってきたぞ。おかげで受付から苦情が出て困っているところだ」
「自衛隊の人たちにも入ってほしいところなのですがね・・・」
「東田の意地っ張りが! 隊員が可哀想だとは思わんのか?」
「自衛隊は・・・入ってないんですか?」
僕の疑問に2人は首を横に振る。
「何度勧めてもガンとして許可しない」
「何を考えているのか私たちにも分かりません。東の方では死傷者が出たという噂も聞いているので、私どもとしては行ってもらいたいのですが・・・」
「死人が出たんですか!?」
探索者で死者がいなかったから、てっきり完全防衛で終わったと思っていた。
「ああ。東側にファイアデススパイダーが出たらしい。群体だったから油断はしていなかったらしいが、ジャイアントがその中にいたみたいだ」
「ファイアデススパイダー単体ならC級なのですが、ジャイアントになるだけでA級扱いですからね。あの場にA級モンスターを抑えることができる人はいなかったみたいです」
僕は頭を掻いた。
こういう時、もし自分が居ればっと思ってしまう。
たらればにはなるが、ドラゴンを攻撃している誰かを確認しに行かず、東側に行っていれば・・・と。
「考えても仕方のないことだ」
何処か達観した表情で、支部長が僕を見た。
この人は探索者が何人も再起不能になったり戻ってこなかったのを見てきたのだろう。
あの時ああしていればなど、何度考えてきたのか、僕には想像もつかない。
「そういえば、ドラゴンの魔石はまだ行き場が決まっていないことは聞きましたが、他のはどうするんですか? 大狼と大猪の2体分はありますよね?」
「一つは組合でセキュリティ向上のために、組み込まなければならない場所があるらしい。俺にもそこは分からん。もう一個は政府が購入することが決定した。13億だとよ」
「・・・マンションが建ちますか?」
「そこから探索者たちに分配するし、バイクや車の使用料や消費した魔石やら、阿蘇神社への奉納やら安全祈願やら・・・」
支出もそれなりにあるらしい。
「組合を維持するのに必要なことだから本社へは報告書を提出するだけだがな。今回は医療費が削減されたから保険も使わずに済んだし、今後も傷害保険に関しては費用が少なくなるはずだ」
「その点は温泉を見つけてくれた瀬尾くんに感謝ですね。非常に助かりました」
「いえいえ、僕は結局詳しい場所は言いませんでしたので、そのあと見つけた火焔蝶でしたっけ? その人たちを褒めてあげてください」
「そういう事にしといてやる」
話はこれで終わって、僕は一階に降りて宮下さんたちを探した。
・・・すぐに見つかった。
「何をしているんですか・・・」
円卓を囲む4人。
円卓の中央には刃が欠けた短剣が一振り置いてあった。
宮下さんは魂が抜けたかのように放心している。
「やあ、瀬尾くん。久しぶり」
「小国町以来ですね」
手を振ってくれる高城さん、麻生さん、植木さんに会釈をして宮下さんを指差す。
「凹んでいるんですか?」
「珍しくね」
「今日は大雨かと思ったけど綺麗に晴れてるし」
「私はおとなしい莉乃ちゃんだと安心する」
高城さんが僕の座るスペースを開けてくれたので、丸椅子を別の席から持ってきて座った。
「宮下さんって、こんなに物に愛着を持つ方でしたっけ?」
「私たちもびっくりよ。こんなに凹んだの見るの初めてだったから。まあ、私たちと出会う前から持っていた武器だし、思い入れもあったのかもね」
歴戦の戦友みたいなものだろうか?
「それ以外にも、斬撃特化みたいなレアスキルは滅多に出ないから、その点でも落ち込んでいるのかも」
「宝箱産でしたっけ?」
「そうそう。最初の頃に自慢げに話してたわ。また同じアイテムを手に入れるとなると、数年かけることになるかも」
それは確かに凹みそうだ。
阿蘇山もフィールドとはいえダンジョンに変わりはなく、たまに宝箱が見つかるそうだが、僕が来てからはそういう話は聞いたことがない。
「火口ダンジョンに行きたいよ~」
か細い声で宮下さんが喋った。
火口ダンジョンに行ったからと言って確実に宝箱に会えるわけではないのだが、彼女にとってはそれが希望なのだろう。
「はぁ。知らない仲じゃないですし、気が向いたら行きますよ」
グリンっと宮下さんの首が、奇妙な動きをして血走った目が僕を見た。
「・・・ホント?」
「ホントホント」
「冗談とか無しだよ?」
「言わないよ」
「・・・あんたが神か」
「それは違う」
抱きついてきそうだったので、顔を掴んで押し留めた。
そのあと幾つか言葉を交わして、しばらくは休むことを決めたあと、宮下さんたちはホテルへ、僕は検索用パソコンスペースに座った。
情報は可能な限り最新に。
奴は阿蘇地域に必ず居る。
確信を持った僕は、情報サイトを開いて、ネットニュースを見て固まった。
「・・・何これ」
そこには、『稀代の英雄降臨! 阿蘇山で大活躍の人物は、まだ17歳!』と記載されていて、僕の顔写真と共に簡単なプロフィールと探索者としての実績。そして、探索者ランクトップクラスと書かれていた。
流石に身内が殺されていることは記載されていなかったが、自衛隊、警察、探索者組合が未成年である僕がダンジョンアタックする事について承認していることが記載していた。
「何だこれは!」
画面をそのままで僕は受付に突進した。
「支部長はまだ居ますよね! 呼んでください!」
あまりの剣幕に、周囲の人が何だ何だとこっちを向くが、僕が睨むと顔を背ける。
受付の人も戸惑いながら支部長を呼びに行く。
僕がイライラしながら待っていると、後ろがザワザワしだした。
「何だ? いきなり」
「いや、これっぽいぞ」
「これって噴火前からじゃん。今更?」
「情報弱者なんだから仕方ない」
もう一度後ろの人たちを睨むと、今度は逸らされずに憐れみの目で見られた。
「なんか騒いでいるらしいな。何があった?」
降りてきた支部長の腕を掴んで、ギャラリーが溜まっているさっきのパソコンの前に連れて行く。
「これ! どういうことだ!」
「どういうことも何も・・・知らなかったのか? お前がかなりの有名人だってこと」
「何で!?」
「何でも何も、阿蘇に来る前から甘木市と小国町の件もあるし、こっちに来てからも最初にB級魔石を20? 30だっけ? 話題性たっぷりなことやらかしてたよな? 有名になるなって方が無理だと思うぞ?」
「うっ・・・でも!」
「この写真も厳選したんだぞ? 噴火に関わった人たちのカメラを確認して、1番いいやつを受付のみんなが選んだんだからな」
受付を見ると、女性陣がうんうんと頷いている。
本当に僕だけが知らなかったようだ。
「何で誰も何も言ってくれなかったんだ!」
「いや、テレビでもネットでも散々流れてたぞ? パソコンで色々見ていたはずなのに何で気づかなかった?」
「欲しいのは奴のことだけで他のは見てなかったんだ!」
「テレビの音は? 耳に入らなかったのか? 周囲の嫉妬の視線は? 結構見られてたぞ?」
「・・・」
テレビは全く注意を払っていなかったし、意識の外で雑音程度にしか認識していなかった。
視線に関しても、こんなスキルを持っているものだから、それを羨ましがられてるだけかと気にも留めていなかった。
「まあ、これで気づいてくれたのなら、こっちも遠慮しなくて済む」
「は?」
「サインだ!」
どこから取り出したのか、色紙の山が僕の前に積まれる。
「有名人になった探索者のサインは求める人が多くてな。3級探索者でも有名どころはこの業務から逃れることはできない。瀬尾は4級だが、探索者規約にはサインについて減免はしていないはずだ」
確かにそんな一文はない。
だが、それは4級で有名になる人がいないから記載がなかっただけだ!
それをこの支部長は都合よく解釈して有利に会話を持って行こうとしている!
ここは逃げるしか!
「おっと、組合内でスキルを使用して周囲に損害を与えた場合、組合の反省部屋で数日寝泊まりすることになっている。これは規約にもあるから知らなかったら確認してくれ。日数は支部長判断だから、瀬尾の場合はサインが終わるまでにしてやろう。どっちがいい? ここで書くか、反省部屋で書くか」
完全に退路を断たれた!
僕は色紙と支部長の顔を交互に見て、さらに周囲を見る。
何人か色紙を持っている。
だめだ・・・逃げられない!
「せめてちゃんとした部屋で頼む」
「特別に支部長室での作業を許してやろう。感謝しろよ」
僕は肩を落とし、支部長に襟首を掴まれたまま支部長室に戻ることとなった。
この業務のために、身体強化を使用することになるとは思わなかった。
・・・手首が痛い。
次の日も支部長からサインをお願いされた。
左手の手首がまだ痛かったので、それを理由に拒否した。
また規約がーとか言い出したため、労災で外部相談室に電話するぞ! と言うと黙って戻って行った。
その後も、一般の人たちから写真をねだられたり盗撮されたりサインを書いたり逃げ回ったりで、1番ホテルが平和であることを再認識してゆっくりしていた。
そこはそこで宮下さんの視線が痛かったが外よりマシだ。
数日後・・・僕にとっての悲報は、今では滅多に見ることができないヘリコプターによってもたらされる事となった。
第二章の最後になります。
第一章と同様に閑話を挟みますので第三章はしばらくお待ちください。
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