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人類はレベルとスキルを獲得出来ませんでした  作者: 妹尾真拓
ダンジョン排除地域編
138/197

東京タワー地下

目がパチっと開いた。

それと同時に目眩が襲いかかり、続いて胃が絞られる感覚によって吐き気を催す。

僕は急いでトイレに駆け込んで、込み上げてくる物を全て吐き出した。


「ぐぇぇぇ・・・これが・・・じいさんが言ってた二日酔い・・・」

「主人・・・調子悪そうだな」

「エイジ・・・う! うべぇぇぇぇぇぇ」


吐き気が止まらない。

胃が捩れてるのか、何もないはずなのに何かを出そうとする。


「まあ、あれだけ魔力も乱れればそうなるわな。あのお酒? アルコールってのは適量にすべきだぜ」


記憶にある限り、梅酒を2杯飲んで、次はビールを試しに飲んだはずだ。

その後、美味しいからと日本酒をもらって、ハイボールだっただろうか?

そこら辺から記憶が曖昧になっている。


「こんな苦しい思いをするくらいなら・・・もう二度とお酒は飲まない!」


とりあえず全て吐き終わって、キッチンで口を濯いでからソファーに横になった。


体が何かできるぐらい動くようになったのは昼近くになってからだった。

それでも十分とは言えず、まずは歯磨きをしてシャワーを浴び、服を着替える。


「そういえば、下のお姉さん? おば」

「お姉さんだ!」

「あー、その人が、起きたら自分のとこまで来るように言ってましたぜ」

「・・・喋ったのか?」

「主人が喋られない状態だったんで、俺様も呂律が回らなかったけど、精一杯やりましたぜ!」


・・・単純に疑問なのだが、目と口が付いた腕を不気味と思わず喋ることができたのだろうか?

後、舌がないのに呂律が回らないってのはわからない。


「変な顔されなかったか?」

「あ~、何だか凄く眉間に皺が寄ってた気がするぜ。でも、年取ったらシワは増えてく」

「そこまででいい!」


何だろう?

お酒を飲んだのは僕のはずなのに、エイジの失言が激しい。

昨日のあの圧は、敵にまわしてはいけない人の圧だった。

例えあの人がいない場所でも失礼な事を言ってはいけない。

そこら中に彼女の耳があると考えて喋らないといけない。

何より一番まずいのは、エイジの言葉が僕の本音と思われることだ。

失言を僕の本音と思われることだけは、絶対避けなければならない。


準備をして一階に下りると、どうやったのか元の形に戻った受付からお姉さんが顔を出してこっちを見ていた。


「ようやく起きたのかい?」

「朝には起きていたんですが、気持ち悪くて動けませんでした」

「流石の英雄でも、酒の力には敵わなかったか。興味深い発見だね」


意地悪い顔で僕を見て笑みを浮かべる。

その表情に、僕は眉を寄せることしかできず、苦し紛れに「もう二度と飲みません」と言ったら、「みんな同じ事を言うんだよ」と返された。

僕は絶対に飲まない!


「まあ、昼までに起きてくれてよかったよ。あの子たちも晩御飯まで抜かずに済んだんだからね。それと、英雄くんはこれから第一師団の隊長が来るから、お昼をとってゆっくり待ってな」


まだ食事ができる状態じゃないのだが、それよりも気になることが二点あった。


「えっと、僕のことは瀬尾でお願いします。英雄くんは分不相応なので。あと、もう既に会話をしたようですが、僕の右腕のエイジです」

「おっす、お姉さん! 改めて自己紹介だぜ! 俺様はエイジ! 身も心もスキルも主人に捧げた忠臣だぜ。主人共々よろしくな」

「はいよ、エイジくん」


にこやかな笑顔をエイジに向ける。

その目には怯えや忌諱は浮かんでいない。

どうやらエイジを普通に受け入れているみたいだ。

それから僕の呼び方に関しては、なんだかんだ言って最後に「まあ、こういうのは本人の気持ちだから言われた通りにするよ」と言って変えてもらえた。

よかった。

筋骨隆々とした人たちの中で英雄呼びされるのは凄く気が引ける。


「ありがとうございます。それと、さっき言ったあの子たちって・・・」

「ああ、昨日、成人したばかりの子を限界まで飲ませて酔い潰したバカどものことだよ」


・・・何となくそう思ったが、やはり佐藤さんたちのことか。

ただ、それには色々と問題がある。

自衛隊の訓練は、絶対に食事抜きで耐えれるほど甘いものじゃない。

今どんな訓練をしているのか分からないが、霊峰富士で実践訓練をやっているとしたら大変なことになる。

下手すると怪我人が出る可能性があるのだ。


「安心しな。あの子たちの今日の訓練は基地内での対人訓練さ。その辺、計算して、罰があっても大丈夫な日を選んで瀬尾くんを誘ったみたいだからね。今の状況も覚悟していただろうよ」

「そうなんですね・・・」


本当にそうならいいのだが・・・勢いでやってしまったのではないかと僕は考えている。


それから僕は、食事を受け付けない胃に味噌汁と少量のご飯を入れて、自分の最低限装備で身を固めてロビーのソファーでゆっくりしていると、入り口が開いて3人の自衛隊関係者と思われる人が入ってきた。


彼らが僕に向けて歩いてくるのを見て、僕はソファーから立ち上がり背筋を伸ばす。


「初めまして、瀬尾京平くんだね。私は第1師団の師団長をしている矢田という。よろしく」

「初めまして、瀬尾京平です。よろしくお願いします」

「座って楽にしてくれ、これから行く場所と会う人について、事前に伝えておきたいのでな」


真ん中にいた女性・・・矢田さんにお辞儀をして、ソファーに座る。

だけど先ほどまでとは違い、いつでも立てるように浅く座って背を付けずに伸ばす。

矢田さんは僕の前に座って、他の2名は彼の後ろに立った。

矢田さんの年齢は、城島さんや鬼教官よりも若い。

ぱっと見で40半ばぐらいだと思うが、師団長ってそんなに若くなれるのだろうか?

特に第1師団は首都防衛という重要な職務を担わなければならない。

そのため、経験豊富な人が基本的に任命されると思うのだが?


「どうかしたか?」


僕の視線が気になったのか、矢田さんが尋ねてきた。


「あ、いえ、後ろのお二人は座らないのかと思って」

「ああ、気にしないでいい。彼らは私のスキルが発動した時の記録係兼護衛だ」

「記録係兼護衛ですか・・・?」


疑問は残るが、矢田さんが人差し指を立ててシーっと合図をしたので、恐らく言えない事情があるのだろう。


「さて、これからある人物に会ってもらうわけだが、誰かにその人について聞いたことはあるかい?」

「えっと、鎌谷という名前の男性で50歳でしたっけ。東京タワーの地下に彼が永住できる場所を与えたら引きこもったというぐらいしか」

「それで十分だ。強いて付け加えるなら、天空大陸を監視しているスキル名が指定物探知ということだけだな」

「・・・それは言っていい情報なんですか?」

「君限定で許可が出ているよ」


ここは寮のロビーですぐそこにお姉さんもいるんだけど、確実に聞こえているよね?


「雨宮さんのことは気にしなくていい。彼女もある意味秘匿スキルホルダーだから」


あの人、そんな重要人物だったのか?

僕が見ると、受付から雨宮さんがウィンクをかましてきた。

ドッキリ成功みたいな顔をしている。

いや・・・僕の自衛隊に関する知識って、ほぼ九州なんです。

西部方面部隊の知識しか頭にないので、こっち方面は全く持っていないんですよ。


そして彼女のスキルも教えてもらえず、僕は矢田さんに連れられて自衛隊の車に乗って東京タワーへ向かうことになった。

秘匿スキルホルダーはその存在を知らせることも、本当はしないらしい。

今回、天空大陸監視者を動員することに合わせて僕を自衛隊に深く関わらせる思いもあって知らせることにしとのこと。

それと同時に、矢田さんと雨宮さんが僕を視る用事もあったらしい。

・・・何を視たかも教えてくれなかった。


それから2時間近くかけて東京タワー正面に辿り着き・・・その道路を挟んだ向かいにある、機械振興会館という建物の中に入った。


「東京タワーの地下だから東京タワーから入ると思っただろ?」

「まあ、そう思いますよね、普通は」


エレベーターに乗って、身障者用のスイッチに付いていた鍵穴に鍵をさして開け、現れた地下5階のボタンを押す。


「ちなみに、今日はこの建物から入ったが、同じ入り口があと5ヶ所あって、ランダムで変わるようになっている。これから何度か訪れる場所になるが、私と同行することが必須になるので覚えておくように」


つまり、彼女と一緒でなければ鎌谷さんには会えないということだ。

それほど天空大陸の監視者という立場は今の日本にとって重要なのだろう。

地下5階に着いて、電気に照らされた通路を歩き、1人の男性が立っている扉まで近づいた。


「1547、ただいま対象を連れてきました」

「確認しました。ボディーチェックをさせていただきます。腕を横に上げてください」


まず最初に矢田さんが、身につけていた金属を付き添っていた2人に預けて扉の前に立っていた人の金属チェックを受ける。

続いてその人は僕にも探知機を向けたので、何も言わずに両腕を広げた。


「アイテムを外してもらえますか?」

「・・・それは無理です」


今身につけているアイテムは、どんな状況であっても自衛のために外したくはない。

僕が強い意志でそう伝えると、男性は困ったように矢田さんを見た。


「特例として許可して欲しい。私のスキルでも危険な反応は出ていない」

「・・・身体強化持ちだと聞きました。それだけでも外していただきたい」


凶器となり得るスキルだけは外して欲しいのだろう。

男性のすがるような言葉に、矢田さんもお願いするように僕を見る。

僕は根負けして左手から籠手を外して、指輪を外した。


「エイジ・・・頼むぞ」

「離れたらすぐに報告しますぜ」


指輪は、矢田さんが預けた人に渡してもう一度籠手をつけて矢田さんの横に並んだ。

男性は僕らを見て一度頷き、鍵を取り出し、ロックを解除して扉を開けた。


その中に入り驚いた。

完全な居住空間!

部屋はいくつあるか分からないが、矢田さんが先導して靴を脱いで入って行き、扉を開けると豪華なLDKが目に入った。


「鎌谷さん! お望みの人を連れてきたよ! 出て来ないならこのまま帰るよ!」


矢田さんの大声に、奥の方からガタゴトと大きな音を立てて、リビングの横の部屋の引き戸が開いてその人が出てきた。


「うぉぉぉぉおおおおおおお! 来た! 来た! 来てくれた! 三大ダンジョンの一つを完全攻略し、我が心の友になり得る人がついに! ついに来てくれた! よろしく! よろしく! よろしくねー!」


あまりのテンションに、僕は多少引き気味だったが、彼はそんな僕の態度に目もくれず、右手を強引に握って握手をした。


「初めまして、鎌谷肇だよ!」

「あ、瀬尾京平です。・・・えー。よろしく・・・です」


50近くの髪の毛ボサボサで無精髭のおっさんの顔を至近距離で見ながら、僕はとりあえず自己紹介を済ませた。

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