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人類はレベルとスキルを獲得出来ませんでした  作者: 妹尾真拓
黄泉比良坂編
132/197

『鎮め』

評価をしていただきありがとうございます。

正直、各章の登場人物が全員無事で終わることがない作品ですので読み続けるのも辛いかもしれませんが、これからも応援していただけるとありがたいです。

シャン!


どこかで鈴が鳴っている。

一つじゃない。

いくつもの鈴が一度になっている。

それが静けさを際立たせる。


先ほどまでの戦いが嘘のように、周囲の全てが停滞する。

僕も踏み出していた足から力を抜いた。

腕も自然と垂れて、両手剣が地面につく。


シャン!


心が落ち着く。

何をあんなに争っていたのか。

全身から力が抜けて瞼が落ちていく。

目を閉じて、この音を感じたい。


しかし・・・、


「ぎゃぁぁぁぁぁぁあああああああああああああああああああああああああああ!」


僕は悲鳴をあげて地面に倒れて転がった。

比喩でも何でもなく全身がバラバラになりそうな痛みが駆け巡った。

覚悟をして受けている時はまだた動けたが、脱力している時に受けると、痛みが何倍にもなって襲ってきた。

僕は地面を転がり、朽ちた木を何本も倒して、何とか痛みに耐えようと歯を食いしばる。


「主人! 主人! 今だ!」


エイジが何か言っている。


「くっそ! 誰だか知らねーが、ヘッタクソなスキルうちやがって! 主人! ヤツも! 蝿の王も今なら呆けてるぜ!」


正面を見ると、確かに蝿の王が口から変な液を垂らして空を見上げてぼーっとしている。

位置もちょうど良く僕に側面を向けていて、羽と体の繋ぎ目がよく見える。


・・・今しかない!


「ふぐっ!」


左手で足を押さえて立ち上がる。

どう動く?

どうすればアレを切り落とせる?


「飛ぶんだぜ、主人! 飛んで勢いをつけて剣を振るんだぜ!」


エイジの意見はもっともだ。

斬ることができない僕には、攻撃に勢いをつけることが重要になる。


「重さだよ、あるじ様! 上から剣に最大加重を付けて落とすんだ!」


加重の言っていることも正しい。

硬いものを壊したい場合は、凄く重たく同じくらい硬い物で叩き潰すことが一番簡単な手段だ。


「遠慮なくどうぞ、ご主人様。衝撃が貴方様を悩ませることはありません」


そうだね、衝撃無効。

人間である以上、攻撃したらその反動で自分を傷つける可能性がある。

衝撃無効のおかげで僕は手加減なく攻撃できる。


「パワーは任せるでごわす!」


身体強化、ありがとう。

ダンジョンボスと戦うのに絶対必要な要素だよ。

今までなら、蝿の王の足の一振りで僕は飛ばされていた。

身体強化無しでは、蝿の王とここまで向き合うこともできなかっただろう。


「わしは・・・」

「じっさんには生命力吸収を付けてやってるだろう。それに、手足を腐敗から守っているんだ。それに勝る貢献はないぜ」


ああ、腐敗防止か。

正直あるかないかぐらいの感覚でしかないけど、確かにエイジの言う通りだ。

スキルが付いても元生物の手足だ。

腐敗防止が付かなかったら腐り落ちていたことは容易に想像できる。

ありがとう。


僕は羽を動かして、蝿の王の上へ飛び上がり、両手剣を構えた。

このままの勢いであの羽を切り落とす!


剣を振る。

加重が剣を重くした。

叩き切るには十分だ!


シャン!


「ガアアアアアアアアアアアアアアア!」


またしても鈴の音がして僕の意識が引き摺られる!

続いて痛みが襲ってきて、剣の向きが狂ってしまった!

このままだと剣で叩くことしかできない!

切ることすらできない!


せっかくのチャンスを活かすことができないのか!?


「指向誘導!」


斜めになった剣が突然真っ直ぐになって誘導される。

朱野さんの声だった。

なるほど、指向誘導は攻撃にも使えるのか。


剣の刃が羽の根本を叩く。

最初にヒビが入るのが見えた。

そこからそれは切り裂かれ、紫色の血と共に地面に落ちた。


「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああ!」


耳を塞ぎたくなるような高音の悲鳴が響いた。

風が巻き起こり、蝿の王を中心に地面が抉れて木々が倒れる。

僕は飛ばされないように剣を地面に刺して風に耐えたが、悲鳴のせいで耳鳴りがひどい!


「痛い痛い! 何で!? 何が起きたの!? 私の羽! 羽がああああああああああああああああ!」


風の影響で遠くに飛ばされてはいたが、視認できる場所にあった羽を見て、蝿の王がフルフルと震えている。

狂乱状態になるかもしれない・・・。

だが、これで高速移動も空中戦もなくなった。

今の僕なら十分に戦える!


「あんたなのねぇ・・・」


蝿の王がこっちを見た。

僕は剣を構えて足に力を入れる。


「あんたのせいで・・・いや、違う・・・」


蝿の王の圧が不意に緩んだ。

チャンス!

僕はすぐに走って剣を振り上げる。

だが、蝿の王はこんな状態でも僕より早かった!


「こっちかぁぁぁぁああああああああ!」


地面が爆発して土煙を上げた。

蝿の王が6本の足を動かして走っていく!


「お前か!? お前のせいか!? お前のスキルが私に干渉したのかぁああ!?」


まずい!

さっきのスキル保有者の方に向かっているんだ!

僕も必死になって蝿の王の後を追う!

速い!

これでも僕と同じかそれ以上の速さ!


パリン!


薄いガラスのような何かが割れる音がした。

僕の前にいる蝿の王から光の粉が舞い散る。


パリン! パリン! パリン!


続けて何枚もの何かが割れる!

多分外から障壁や結界のスキルで蝿の王が来るのを止めようとしているんだ!


「邪魔邪魔邪魔邪魔! 邪魔するなああああああああああああああ!」


割りながら進んでいく蝿の王の背中を追う。

もうすぐ結界の縁に着いてしまう!


「邪魔ああああああああああああああ!」


幾つもの障壁を突進して割っていく蝿の王に追いつけない!

蝿の王が結界に突進し、三層目が砕け散った。

更に四層目にぶつかって、蜘蛛の巣状にヒビを入れる。


「この向こうかー!」


顔を押し付ける。

もし向こうにスキル保有者がいるのなら、その顔に腰を抜かしているかもしれない。

だが、蝿の王が止まった。

僕は結界が割れないことを祈って飛び上がって剣を構える。

向かう場所はヤツの足が集中している胸の部分だ!

下を向いて一気に下降する。

蝿の王が僕に気づいて避けられたら、地面に突き刺さるだろうが、失敗することは考えない!


シャン! シャン! シャン!


このタイミングで鳴らすか!?

何だこの三連続は!?

意識を一瞬持っていかれた!

激痛で引き戻されたせいで、バランスが崩れて目測が狂う!

ええい、この際ヤツの体ならどこでもいい!

突き刺され!!


目の前まで迫ったヤツの体に剣を突き立てる。


ドガァァァァァアアアアン!


「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああ!」


ドラック同士がぶつかったかのような音を立てて僕の剣は蝿の王の腹の殻を破り、その肉に刀身を沈めた!

蝿の王も流石にダメージを喰らったのか、叫び声を上げてその場に倒れる。


「えい・・・!」


エイジに形状変化で返しを作ってもらわないと!

このまま暴れられると抜けてしまう!

でも、痛くて喋ることができない!


「大丈夫ですぜ、主人。この剣がこいつの体から抜けることはまず無いようにしときましたぜ」


良かった!

僕のやりたい事を汲み取ってくれた!


蝿の王が震え出す。


「痛い・・・痛いよ・・・暴食ぅ」


グググっと身体を起こし、力なく結界を叩く。

もうすぐか?

かなりのダメージを与えたはずだ!

人間なら腹に風穴が空いている状態だ!

だからもう、倒れてくれ!


「痛いよオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!」


僕の願いは届かずに、蝿の王が走り出す。

僕は足を踏ん張ることができずに、蝿の王の胴体からズルっと滑り、揺れる蝿の王に何度も叩きつけられる。

それだけでなく、蝿の王は勢いそのままに転がり、僕はその度にコイツの体重を全身で受け止める。

一瞬だから耐えれるが、激痛と合わせての圧迫攻撃は耐え難く「ぐっ!」「がはっ」と声を抑えることができなかった。


「痛いから、離れてよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」


何を考えたのか蝿の王が前転した。

僕の身体が上昇し、それから急降下する!

しまった!

コイツ、体重攻撃を僕にするつもりだ!


衝撃無効があるから、単純な攻撃は鎧がある限り僕には効かない。

だけど圧迫などの押し潰す系の攻撃は衝撃無効が通用しない!


ズドォォォォォン!!


僕は回避することができずに地面に叩きつけられ、蝿の王の胴体に押し潰される。


「ぐぉぉぉ、マジか!」


エイジが作った鎧が押される。

肋も耐えきれなかったのか、ボキン! と鈍い音がした。

このままだとまずいと判断して剣を消して、両手で蝿の王の身体を押し、隙間から這い出た。


・・・満身創痍だ。

だけど、それは蝿の王も同じ。

倒さないと・・・。

回復の時間は与えてはいけない。


僕が立ちあがろうとするより早く、蝿の王は起き上がってヨロヨロと歩いて、一つの大岩に足をかけた。


・・・黄泉への入り口の大岩に。

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あの人かな?と思い浮かべつつ敵味方無差別効果は大惨事待ったなしの危ない技ですね 普段から踊って練習しておいて……
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