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人類はレベルとスキルを獲得出来ませんでした  作者: 妹尾真拓
黄泉比良坂編
127/197

弱体化した敵

いいねをいつもありがとうございます。

黄泉比良坂編はあと少しで終わりますが、中編はまだまだ続きます。

これからも読んでいただければ励みになるのでよろしくお願いします。

「エイジ、どういうこと? システムがアイツに何か干渉したのか?」

「干渉・・・ってほどじゃないですぜ。システムはあくまで公平。だから、俺様が覚醒した時もまだ許せる範囲だったから注告で済んだんだぜ。今回は・・・あの体の元の持ち主の意地にサイコロを振ったんだろう」

「サイコロ?」

「そうですぜ。神である母様はサイコロを振らない。物事は既に決定しているか流れていくだけだからだぜ。でも、どうしても可能性という面で数%を願う人たちがいたとき、システムが母様の代わりに決めるんだぜ。その際にヤツが使うのがサイコロなんだぜ」

「運かよ・・・」


装備さえされなければ、皆嶋さんを捕まえて終わっていたはずなのに、それが叶わなかったどころか、厄介な敵が復活してしまった。


「だが、これで良かったかもしれないな」

「日野さん?」

「あいつは・・・止めることができなかっただろ」


日野さんが少しだけ残念そうに言う。


「あいつの暴走を受け止めながら捕らえるのはもしかしたら時間がかかったかもしれない。それに比べて、今の蝿の王はあの時よりも明らかに弱体化している」

「ええ、そうですね」


僕はあの時の蝿の王の姿は倒された後しか見てはいないが、それでも今の蝿の王よりも存在感が違っていた。


「朱野さん、防御をお願いします!」

「任せて!」

「行くぞ!」


日野さんと僕が並んで走る。

その後ろから朱野さんたちがかたまって追ってきた。


「エイジ!」

「もう少しだぜ!」

「俺が先に行く!」


風を操って速度を上げ、蝿の王に襲いかかる。

僕のスキルが届く前にアイツに逃げられないようにするためだ。

だが、そう簡単には行かず、蝿の王が日野さんの姿を見た瞬間、突風を起こして飛んだ。


「ひやややややあああああああああ!」


それは蝿の王の体を回転させながら天井を突き破って森の方へと飛んでいく。


「逃すか!」

「先に行ってください! 僕たちも急いで追います!」


スピード勝負なら日野さん単独の方が速い。


「エイジ! 何でアイツが自分の起こした風を操れていないのか分かるか?」

「おそらくですが、人間の身体の魔力の通りが悪いんですぜ」

「魔力の通り?」

「適合性も全くないから生じてる現象だぜ。蝿の王も無理やり魔力を出すしかなくて、それでスキルを使った結果、ああなっているんだぜ」


なるほど。

モンスターが人間の身体に憑くと、元の身体との差が出て、魔力関係の感覚が掴めずにああなってしまうのか。


「だけど主人。それは出す魔力を少なくすればいいだけだぜ。やろうと思えばできるはずだぜ」

「もしやったとして、どこ位の強さになる?」

「あの杖とマントでどう出るか不明だぜ。だけど、あえて言うなら主人たちの言うデカい魔石が取れるやつか虹色だぜ」

「だったらマシだ!」


それなら何とか僕たちの力で倒せるはずだ。

木下がここに居れば、早く決着をつけれただろうが、居ないものはしょうがない。


「この! シルフィード! 頑張ってくれ!」

「ひぃぃぃ! 精霊憑きごときに!」


木々の上の方で日野さんの声がした。

蝿の王の声もしたが、直後に枝葉が落ちてきて僕の視界を遮る。

棍棒で打ち払うが、2人の戦いの影響なのか、風が荒れてきた。


「日野さん!」


枝を払った先に日野さんの姿が見えた。


「ひぃぃぃぃ! 来ないでよぉ!」


増幅の杖を振ってまた強烈な突風を作り出し、蝿の王が飛んでいく。

逃げ足が早い!

しかも、一対多数になることを避けている?

今の自分の力が弱まっていることを冷静に判断できているということか。

厄介な!


『日野、瀬尾くん、ミラクルミスティー、聞こえるか?』

「聞こえます!」

「俺は追いかけるから喋ってくれ!」

『俺たちも移動しながら聴きます!』


インカムから一条さんとの声が聞こえて僕らは反応する。


『分かった。お前たちのおかげで黄泉比良坂は結界で閉じた。出雲大社の宮司を今待っているとこだが、現状でもヤツが外に出る心配はしなくていい」


その言葉に、僕はほっとした。

今の状態でも十分人里で災害を起こすぐらいの能力は備わっている。

その心配がなくなっただけでもありがたい。


『問題はヤツの倒し方だが、三方向から攻めろ。日野は今の状態でヤツを追え。可能な限り足止めしろ。瀬尾くんは指示を出すからその方向へ走ってくれ。申し訳ないが一番遠い場所まで走ってもらう。ミラクルミスティーもこちらから指示を出す』

「分かりました!」

『こっちも承知した!』


蝿の王は、ちょうど黄泉比良坂の大岩の方に進んでいるようで、僕はその場所を狙って北東に、日野さんが北西、ミラクルミスティーの3人が南へ移動する。

距離もあるのか、アイツが気づいている様子はない。


『瀬尾はそこでストップだ。ミラクルミスティーはもう少し進んでくれ。合図を出したらミラクルミスティーが先に、続けて瀬尾くんが蝿の王との距離を詰める。おそらく逃げようとするだろうから、朱野2級のスキルでヤツの逃げる方向を地面に向けてくれ。地面に落ちたら瀬尾くんのスキルで動けなくする。そうすれば倒せるはずだ!』


嵌れば確実に倒せる。

蝿の王に対する僕のスキルの効果は実証済み。


「エイジ、頼むぞ」

「ガッテン承知ですぜ!」


それから2人が見える位置で僕らは身を潜め、時折場所の調整を行いながら合図を待った。

そして・・・


「落ちろ!」

「雑魚精霊のくせに!」

『今だ!』


蝿の王の高度が下がった瞬間に合図が出た。

ミラクルミスティーが走り出して距離を詰める。

蝿の王がその3人に気づいて目を向け、風がヤツに向けて集まろうとする。


「指向誘導!」


朱野さんが言葉に加えて人差し指で地面を指差す。


『瀬尾くん!』


インカムからの声に、僕は身体強化で走り出す。


「ひゃぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああ!」


風が地面に向かい蝿の王が落ちていく。


「何で!? 何でぇぇぇぇぇぇえええええ!?」


ドゴォォォォォンと蝿の王が激突して土煙を上げた。


「主人! 見えねーぜ!」

「範囲だ! ヤツを止めさえすればいい!」

「承知だぜ!」

「ち・・・力が」

「え?」

「何だ・・・」


土煙でよく見えないが、あの声は金田さんたちか。

ごめんなさいで許してくれるだろうか?


「大丈夫か!」


上から日野さんが土煙を吹き飛ばすと、地面を抉って転がっている蝿の王が姿を見せたので、急いで近づいて魔力も吸い取り、増幅の杖とマント、そして死霊術と道術が付いている指輪とミサンガを抜き取る。

蝿の王だけでもキツいのに、こいつが死霊術なんか使い出したら大変な事態になる。


「うう・・・さっきのは瀬尾くんのスキル?」

「ええ、すみません。行動不能にする方が優先と思ったので巻き込みました」

「これが・・・単独でA級を倒せるスキルなのね。・・・納得したわ」

「朱野の指向誘導がとてつもないチートスキルだと思っていたが、上には上がいるもんだな」


金田さんから何とも言えない評価をいただいたが、正直木下の炎帝を知っているのでそこまでチートじゃないと僕は思っている。


「日野さん、風で倒せますか?」

「できないことはないだろうな」

「その・・・元が人間ってことが頭をよぎって・・・」

「ああ・・・まあ、こればっかりは・・・な」


これから先、必ず1人は殺す覚悟を決めているのに情けないのか踏ん切りがつかないのか・・・。

そんな僕の表情を見て、日野さんが苦笑して「このぐらいどぉって事ない。背負う十字架は少ない方がいいに決まってる」と言って風を手に集め出した。


「“この感覚は、あの時の”」


不意に頭の中に声が響いた。

その声の圧に、思わず頭を押さえて眉間に皺がよる。

日野さんや金田さんたちにも声が聞こえたのか頭を押さえていて、日野さんは攻撃に集中できず風を散らせてしまった。


「主人! 気をしっかり持つんだぜ!」

「エイジ・・・これは?」

「こいつの声だ! こいつ、魂で喋っていやがる!」


魂で喋るなんて・・・そんなことができるのか?

そして、この脳みそが押されるような感覚。


「“あの洞窟から出たとき、急に動けなくなった時と一緒・・・お前だったのね!”」


怒りを含んだ声に、僕にかかる圧が増したような感じがして、耐えきれずに膝を折った。


「エイジ・・・スキル維持を。・・・こいつは逃すな」

「大丈夫だぜ! 主人の許可なしに解除したりしねーぜ!」


その言葉に一安心したが、行動不可能状態はこちらも同じ。

魂で叫んでいるのならエイジが何とかできないかと考えたが、まだ無理らしい。


「もうちょっと弱るか魂だけの存在になるなら喰えるんだが、こいつまだ元気だぜ」


生命力と魔力を吸われているのに何で元気なのか不明だが、現状耐えるしかない。


「“よくも私をあのとき動けなくしてくれたね! アンタのせいでこんな状態になったのよ! よくも! よくも!”」


蝿の王を見ると、涙を流しながら「ギギギギ!」と口を震わせている。

僕に対する恨みがそれほど強いのだろう。


「“魔眼を奪われて・・・暴食も何処かに行ってしまった。ああ、暴食・・・暴食。何処にいるの? 私がこんなに呼んでいるのに、こんなに危険な状態なのに。助けて・・・助けてよぉぉぉ”」


暴食のスキルは、確か蝿の王の体を素材にしたアイテムを作った際、それに付いていたせいで海外に送られて封印されたはずだ。


「“暴食・・・暴食・・・”」


懇願するように嘆くが、暴食がお前を助けに来ることはない。

僕は膝を掴んで無理やり立ち上がり、右手に大鎚を作り出して握りしめた。

・・・しのごの言っていられない。

頭にのしかかる圧を跳ね除け、両手で大鎚を大きく振りかぶった。


「“いや・・・イヤ・・・やめてよぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!”」


人の形をした左手で顔を覆う。

まるで虐められているかのように・・・弱者であるかのように。

僕の手が躊躇する。

振り下ろそうとした腕が少し止まる。

だがやらなければならない!

目を閉じろ!

耳を塞げ!

歯を食いしばれ!


どうせ殺さなければならないヤツがいるんだ!

この程度のことで躊躇するな!


目を閉じて大鎚を振り下ろす。


狙いは何処だっていい。

何度でも叩く覚悟だ。


そして・・・、


ドスッ!

ガキィィィィン!


鈍い音と金属がぶつかり合う音が響いた。


「“あ・・・暴食ぅぅ・・・”」


目を開けると、そこには地面から生えた黒い剣に体を貫かれ、地面から少しだけ浮いた蝿の王がいた。

僕の大鎚は、その剣が捻じ曲がって受け止められていた!


「“そこにいたんだ・・・遅いよぉ。いっぱい虐められたんだよ・・・。えへへ、でも許してあげるね・・・。また・・・一緒になろう”」


音が消えた。

恐怖が全身を駆け巡る。



「瀬尾ぉぉぉおおおおおおお! やれぇぇぇぇえええええええ!」


誰かの声がした。

僕は必死に大鎚を再度振りかぶって振り下ろす。

だが、黒い幕が剣から発生して蝿の王を覆い、僕の大鎚はボスッと音を立てて受け止められた。

その黒い幕はまるで卵のように蝿の王を包み、どんな攻撃も通さない強固な殻へと変わる。


「シルフィード! 貫け!」

「うぉぉぉぉおおおおおお!」

「壊れろ! 壊れろ!」


僕と日野さん、金田さんの3人で攻撃するが、ヒビ一つ入らない。


卵は徐々に大きくなり、高さ5メートルほどになって、ようやく変化が出た。


「魔眼は・・・戻らなかったわ」


声が響き渡る。


「でも、暴食は戻ってきた」


心臓を掴まれるような恐怖が身体を縛る。


「それじゃぁ・・・」


黒い卵の殻がガラガラと砕け落ち、その中からそれは現れた。


「喰うとしましょうかぁぁぁぁぁああああああああああああああああああ!」


蝿の王が復活した。

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