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人類はレベルとスキルを獲得出来ませんでした  作者: 妹尾真拓
黄泉比良坂編
122/197

黄泉比良坂

評価をいただきました。

ありがとうございます。

まだまだ続きますので、これからもよろしくお願いします。

真っ白の防臭・防菌スーツに身を包んだ。

中には酸素ボンベと扇風機が付いていて、いざとなったら手を中に入れて汗を拭けるようになっている。

それだけ長時間現場にいる人たちが多いのだろう。

その日の生活費を稼ぐためだけに・・・。


「なんか、風船の中にいるみたい」

「慣れるまでが大変ね。地面に落ちてる魔石をこの状態で拾うのってかなり難しいわよ」

「不測の事態が起きたら、スーツのことは無視して動くしかないな。この状態だとまともに動けん」


3人も体を動かしながら感想を言っていく。

金田さんの盾もスーツの中に入れて背負い臭いが付かないようにしていたが、あれではまともに戦うのは不可能だろう。


「酸素ボンベのマスクで目・口・鼻を覆っていれば、悪臭が戦闘を妨げることはないはずだ」

「その際は、装備は再度消臭工場行きになるんだけどね」

「1日強制的に空くのは辛いですね」

「試したくないけど、どのくらい臭いのか興味あるよね」


朱野さんが危険な興味を持ち出した。

そういえば、エイジは環境に該当する腐臭を吸収出来るのに、前回の戦いで装備を消臭行きにしなければならなかったのはなんでだろう?


「主人、確かに俺様は環境に該当するものは吸収できますが、ゾンビどもの腐肉や血とかは防げませんぜ」


なるほど。

前回はその臭いが付いていたから工場に回されたのか。


そんな話をしていると、僕らを乗せたバスは黄泉比良坂前に到着してバスを降りる。

他の探索者達が、何事だろうかと僕らを横目で見ながら一人一人ダンジョンの中に入っていき、その姿を消していく。


「彼らは?」

「聞いた話だと、各々自分の採取場があるみたいで、よほどのことがない限り不干渉みたいよ」

「そうですか・・・」


そうなると、少年の採取場も他の人が知らない場所になるだろう。

それでも同じバスに乗って来た人がいた可能性はある。

僕は今降りようとする人の肩を軽く叩いた。

ボスボスっと何とも形容し難い音が出たが、その人は凄く驚いたらしく、防護スーツの中で体が跳ねたのが振動で分かった。


「だれ!」

「すみません。ちょっとお願いがあって・・・」

「ほ、他を当たってくれ」


そう言ってその人はそそくさとバスを降りてしまった。

その人以外にも降りる人はいたが、僕らを警戒して話をしようともしない。

八方塞がりの状況にどうしたものかと悩んでいると、最後の1人がおずおずと僕に近づいて来た。


「みんな・・・不干渉を貫いててコミ症状態なんだ。あんた達が採取目的で来ていないのは見て理解している。でも、俺たちを巻き込まないで欲しい」

「あ・・・えっと」


その人もコミ症なのか、言うだけ言って僕らを見ずにバスを降りていく。

これは・・・難関だ・・・。


「俺たちだけで探してみるしかないか」

「ここはモンスターがいないから、個々に探した方が効率がいいかもね」

「そうした方が良さそうですね・・・」


金田さんと真山さんの意見に頷いて、僕たちは四方に分かれて日向くんを探すことにした。

ただ、それも凄く難しいことが数分後に判明した。

木々の枝葉が進路を塞いで邪魔をする。

切り払おうにもナイフや鉈などは持って来ていないし、膨らんだ手で払おうにもスーツが破けそうで怖い。

さらに、身体の面積が増えたことに慣れることができず、気を抜くとスーツのあちらこちらを擦ってしまう。

そういうこともスーツが破ける要因になってしまうため、かなり注意をしながら移動しないといけないみたいだ。


「エイジに任せてしまえば楽なんだけどね」

「探索者を守るためにスーツ着用義務があるらしいですぜ。主人には不要な規定ですが、脱ぐのはダメなのか?」

「脱いだ瞬間スーツの中に臭いが入るから、組合に戻った時にバレるだろうな。バレたら装備は強制的に消臭行きになるから、それだけは避けないと」


いつ敵が出て来てもおかしくない状況の中で、身を守る装備がなくなるのは凄く怖い。

スーツが破けないように僕は西側を探したが、結局何も見つからずに集合場所として予定していた天国のポストがある場所に向かった。


指定の場所に着いて、しばらく見落としがなかったか考えていると、金田さんと朱野さんが東側から現れた。

手に何も持っていないことから、特に痕跡のようなものはなかったみたいだ。

さらに数分後、真山さんが来たが、こちらも収穫なし。

途中出会った探索者に日向くんが何処で採取していたか尋ねたが、知らないの一点張りだったそうだ。

取り付く島もないとはこのことだと思ったらしい。


「これが黄泉比良坂ダンションの本当の入り口を塞ぐ大岩ですか」


バスの発車時間までまだ余裕があったので、黄泉比良坂ダンションの周囲を散策することにして、僕は朱野さんと黄泉比良坂ダンションの入り口に来た。


「危険だから、あまり近づかないように書いてあるわ」


横に立てかけられた看板を見ると、『ダンジョンブレイクの可能性あり! 危険! 触るな!』と書いてあった。


「ダンジョンブレイクって、80年以上もしてないダンジョンなのに」

「まあ、危険なことはするなってことですよ。あの大岩はどんなことをしても動かないですからね」

「組合に資料があったの?」

「黄泉比良坂ダンションが発生した当初、いろんな人が試したそうですよ。それこそ、身体強化やブースト系のスキルホルダーがこぞって挑戦したそうです。1ミリも動かなかったそうですが」


もし動くのなら・・・じいちゃんばあちゃんを連れて来れただろうか?

お父さん・・・お母さんも、そこに居るのだろうか?


「戻ろうか・・・」


静かになった僕に、朱野さんが優しく声をかけてくれた。

僕は頷いて来た道を戻りバスに乗り込む。

しばらく待っていると、金田さんと真山さんが戻って来て、それから大きな袋を肩や背に担いだ探索者達が、ゾロゾロとバスに乗って来た。

運転手が最後に全員の人数を数えてバスを動かし、組合へと戻る。

・・・運転手に訊けばよかったじゃないか!?



「それで、運転手にも確認したのですが、どうも朝は彼の姿を見ていないそうです。他の運転手の可能性もありますから、そちらで確認をしてもらってもいいですか?」

「承知しました。・・・ちょっと心配ですね。この町ではこんなトラブルはないと思っていましたから」


受付の人が力のない声で呟いた。

確かに、島根県のダンジョンといえば、あの黄泉比良坂以外に聞くことはない。

もしかしたら、警察や自衛隊が何も言わずに潰しているのかもしれないが、それゆえに、力自慢や荒くれ者がこの土地に根付くことはほとんどない。

良く言えば安定。

悪く言えば停滞。

でも、だからこそ疲れきった人たちはこの地を求めてやってくるのだろう。


「それでは、何かありましたら連絡します」

「よろしくお願いします」


それからこの日は、何も起きずに1日を終えた。


・・・次の日の朝。

僕らは島根県警察本部に呼び出された。


案内された会議室に入ると、知事を始めとした人たちがずらりと揃っていて、僕らを待っていた。


促されて席に座ると、挨拶もそこそこに一条本部長が口を開く。


「図面にない通路が発見された」


会議室に緊張が走り抜けた。

植木 乃亜 女 身長150センチ 体重45キロ

4月23日生まれ 6章(宝箱探索編)時点で26歳

保有スキル:土魔法、説明要らず

探索者ランク:2級

性格:困っている子に率先して世話を焼くタイプ。心配しすぎるとすぐに泣いてしまう。

家族構成:両親、兄

履歴:埼玉県出身。高校卒業後、高城に誘われて探索者になった。日本各地にあるトンネルが好きで、高城に誘われた際に、トンネル見学を条件にあげていた。土魔法が手に入ったのは運命らしい。灼熱ダンジョン探索の際にアイズに殺される。

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