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人類はレベルとスキルを獲得出来ませんでした  作者: 妹尾真拓
黄泉比良坂編
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組合で報告と妬み

ブックマークありがとうございます。

更新までが長い時もありますが、頑張りますので応援よろしくお願いします。

車は一度くにびき大橋に入り、念の為消臭剤を浴びて探索者組合に戻った。

僕らは浴びる必要がなかったため、車内からその光景を見ていたが、窓の外が完全に真っ白に染まって何も見えなくなってしまった。


「松江の探索者って毎回これを浴びているんですか・・・大変ですね」

「みんなの装備も消臭に回す予定だ。組合で着替えたら、消臭コーナーがあるはずだから入れておくように。ゾンビどもの襲撃を受けたからな・・・臭うはずだ」


嫌な断言だ。


「装備の消臭は専門の業者がいるんですか?」

「島根の特殊清掃業者に依頼する。探索者組合で提携している業者がいるはずだ。そっちの所長にでも聞くといい」


才城所長か。

セキュリティーもしっかりしてもらえるだろうか?


「エイジ、ベルゼブブの籠手に何かあったらすぐに教えてくれ」

「分かったぜ、主人」


もし、23人の元研究所職員がこの消臭システムを知っていたら、消臭施設に届いた後を狙うかもしれない。


「俺だったら狙うな」

「私もよ。犯罪者になる気はないからそんなことしないけど、相手の立場ならやるわ」


金田さんと真山さんも同意見のようだ。

僕らは相手を察知することはできないけど、相手はすでに僕らを知っている。

僕らの武器を破壊できるチャンスをみすみす見逃したりはしないはずだ。


組合に戻った僕らは、日野さん達と別れて割り当てられた部屋でシャワーを浴びて私服に着替えた。

装備品は指定の箱の中に入れて蓋をしロックをかける。

6桁の番号を設定した上でカードキーを引き抜くと、もう開かなくなる。

もちろん、持ち運ぶことはできるので壊して中の物を取り出すことはできるのだが、それをするとひどい臭いが箱から出て、その臭いがついた装備品は絶対に身につけることができないらしい。

ベルゼブブの籠手がそんなことにならないように祈るしかない。

ちなみに、防護服を着てくにびき大橋で消臭剤を浴びたとしても、その防護服は同じように消臭施設に送られるらしい。

黄泉比良坂付近は本当に酷い臭いがするそうだ。


「あ、才城所長。いらっしゃったんですね」

「一刻も早く状況を知りたくて、皆さんが戻られてすぐにここで待機していました」


着替える時間もここにいたということか?

仕事は大丈夫なのだろうか?


僕が席に着くと、才城所長が端に置いていたペットボトルのお茶を二つ手にとって一本を僕に渡した。


「ありがとうございます」

「どういたしまして。ふー。昨日まであんなに普通だったんですが、ちょっと気が抜けなくなってしまいましたね」

「・・・そちらで何か掴めましたか?」

「まだ何も、ですよ。ただ、探索者の一団がゾンビに襲われて全員死亡が確認されました。しばらくは黄泉比良坂は封鎖する予定ですが・・・残った探索者たちが不満の声をあげているようで」

「彼らの生活の基盤ですからね」


僕が見た一団は6名ぐらいだった。

仮にも探索者を名乗っているのなら、あのくらいのモンスターは倒して欲しいものだが、彼らの心は、そんな事が出来ないぐらい疲れ果てていたのだろう。


「お待たせ。あ、所長もいましたか」

「ああ、変に気を遣わなくていいよ。座って座って」

「ああ、所長は座っててください。お茶ぐらい自分で取りますから」


金田さんが恐縮しながらお茶を手に取って僕の隣に座った。


「あと2人が来ていませんが、先に教えてください。研究所はどうでしたか?」

「どうか、と問われたら、普通でした」

「中の人達は死にそうな目で働いていたけどな」

「皆嶋さんという副所長から状況を聞きましたよ。でも、その人にも何も知らされずにいなくなったそうです」

「研究所自体に不審な点はなかったでしょうか?」


僕と金田さんは首を横に振った。


「警察の2人も、今回の調査ではこれといったものは見つける事が出来なかったみたいです。でも、近日中に元所長の私物を回収して手掛かりがないか確認するようですよ」

「どうなるかな。パッと見た感じ、本とかメモが乱雑に置かれていたから、日記みたいなものもなかったと思う。探すとしても長期戦になりそうだな」

「そうですか。最低でも犯人の目星がつくまで黄泉比良坂は封鎖するしかありませんね。探索者の皆さんには悪いですが、仕方がありません」


才城所長が立ち上がって部屋の外に出た。

今から黄泉比良坂の封鎖を通達するんだろう。

多少混乱が起きるだろうが、死ぬよりマシだ。


お茶をちびちび飲んでいると、真山さんと朱野さんが入ってきた。

2人ともしっかりと髪を乾かして、化粧までして来たようだ。

時間がかかるはずだ。


「下から怒号が響いてたわ。部屋の中までは聞こえないみたいだけど何かあったか聞いてない?」

「あー、黄泉比良坂を封鎖するんだと。さっき所長と話をしててそうなった。だから、食い扶持を稼げない探索者が騒いでいるんだろ」

「別の地区に移動すればいいのにね」

「移動するお金すら持っていないんですよ。こんな状況になる事を予測していた人なんていないでしょうから」


心が折れて、戦うことから退いている人たち、もしくは社会から弾き出されて病んでしまった人たち。

彼らは安全に稼げるからこそこの土地に来た。

そんな人たちが、今更命のやり取りをできるとは思えない。


僕らは、所長が戻ってくるのを待っていたが、どうやら説得が難航しているのか、戻ってくる様子がない。

このまま待っていても仕方がないので、手荷物を持って受付でホテルを紹介してもらうことにした。


扉を開けると、下からの声が聞こえてくる。

ここは4階なのに、それでも聞こえてくるということは、騒いでいるのは1人2人ではないのだろう。

エレベーターで降りようと思ったけど、突っ掛かれたら嫌なので階段で下りることにした。


一階一階下りるたびに怒声が大きくなっていく。

所長だけでは抑え切れることができないみたいだ。


「組合が俺たちに生活費を支給すればいいだろ!」

「そうだそうだ! 散々俺たちが運んだ魔石で稼いだんなら、せめてそのぐらいしやがれ!」


聞こえてくる声を聞いていると、どうやら働くことができない間、生活費を寄越せということらしい。

時間をかければ組合の会議の中で、議案の一つとして議論し、一人当たり幾らまでと決まって支給されるのだろうが、今この場で結論は出せない。

さっきから所長も「落ち着いてください。本部と掛け合って支給案も検討しますから」と大声を出しているが、詰めかけている人たちは「今出せ、さあ出せ、ほら出せ」と聞く耳を持たない。

今もらったって、どうせ博打と酒で消えるだけだろ。

僕らは関わらないように一団とは離れて受付に近づこうとした。


「あっ! 瀬尾京平!」


所長にみんな集中しているかと思っていたが、そうじゃない人もいたようだ。

声の方を見ると、そこにはあの時の子供が僕を指さして睨んでいる。


「瀬尾京平! あんた強いスキルを持っているんだろう! なら、俺らを守って黄泉比良坂まで行けるよな! 強いスキルを持っているんだから、そのぐらい俺たちにしてくれてもいいだろ! こっちは金がないんだ!」


・・・久々にこの手の台詞を聞いた気がする。

小国町以来か・・・。

あれから阿蘇で色々とあったから、少年の言葉を聞いてもあの時みたいに荒れることはない。

冷静に周囲を見れる。

例えば、「そうだ、あんたがいれば安全に行ける」とか「もう十分金稼いだだろ。俺にアイテムを寄越せよ」とか「へへへ、あんた俺は役に立つから金くれよ。ちょっとでいいんだぜ」とか言いながら寄ってきている大人たちを見ても冷静だ。


「エイジ。少年以外、生命力吸収」

「承知だぜ、主人!」


一瞬で倒れる探索者たち。


「え? なに?」


大人たちがみんな倒れて少年が戸惑った。

おそらく、大人たちを味方につける考えだったのだろう。

残念だけど、そんなズルは許さない。


「所長、申し訳ありませんが身の危険を感じましたのでスキルを使用しました」

「私もスキル使用の必要性を感じました。処罰はなしとします」

「ありがとうございます。さて・・・何がしたいんだ? ガキ」

「・・・あ、あ・・・う」


味方が一瞬でいなくなって少年が戸惑っている。

だけど、僕はもう容赦はしない。

ああいうことを言う人間は、しっかりとその思考自体を潰しておかないと別の人にも寄生しようと悪知恵を働かせる。


「それで? 僕は君の名前も知らないんだけど? これだけ失礼なことしておいてそれでも名乗る気ない?」


僕が一歩近づく。

少年が一歩下がった。


「あれだけ強気なこと言ったんだ。今更ごめんなさいは無いよ。子供だからって許されることと許されないことがある」


個を対象として大人を扇動して大勢で非難することは、僕の中では許されないことに該当する。

旧暦は、個を対象としたネット内での誹謗中傷で精神を病んだ事例がいくつも残っている。

知らなかったでは、子供だからでは済まされない。


「さあ、教えてくれ。君の名は?」

鬼木 玲花 女 身長160センチ 体重49キロ

12月22日生まれ 7章(阿蘇攻略編)時点で31歳

保有スキル:般若、お狐様、リンゴは余裕です、先の先

探索者ランク:2級

性格:自分の正義を貫き通す。それゆえに衝突も多い。

家族構成:両親、祖父母健在。家に帰ると孫アピールがあるので帰っていない。

履歴:富山出身。高校生の頃、親と喧嘩して勢いでダンジョンを単独で完全攻略をした。その行為を危険に感じた富山の探索者組合所長が日野のパーティに依頼して徹底的に指導を受ける。指導後、告死天使というパーティを結成して幾つものダンジョンをアタックし、霊峰富士で当時死神と呼ばれた骸骨モンスターを討伐した。現在は組合本部直属かつ川島重工の専属探索者。

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