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人類はレベルとスキルを獲得出来ませんでした  作者: 妹尾真拓
阿蘇山噴火編
11/197

回復の泉

評価・ブックマーク・いいねをしていただけると作者のモチベーションが上がります。

よろしくお願いします。

駅のコインロッカーからキャリーケースを取り出して、前回と同じホテルに行くと、優秀で空気を読めるホテルマンが既に鍵を用意して待っていた。


「何泊を予定されていますか?」

「・・・連泊することも分かるんですね」

「ホテルマンですので」


さも当然のように言ってくれるが、そんなことある訳ない。

あの時計か? それともメガネか?

僕の睨みにフッと不敵な笑みを浮かべる。

何故か敗北感を胸に、とりあえず4泊お願いして部屋に行くと、当然の如くツイン部屋だった。



次の日、朝から2人で探索者組合を訪れた。

特に理由はなく、僕は情報収集、宮下さんは目ぼしいアイテムがないかオークションの確認。

携帯もないから専用サイトを見ることができないらしい。

全て自業自得という言葉が当てはまる彼女の行動に、僕は小さく笑うことしかできない。


パソコンの席に座ると隣に座っている人の呟きが聞こえてくる。


「ない・・・やっぱり無いのか・・・」


切羽詰まっているのかカタカタとキーボードを打つ手が止まり、立ち上がってどっかに行った。

まあ、頑張れ。

僕は心の中で呟いて、パソコンを操作する。

何分経ったか分からないが、その声は突然僕の耳に届いた。


「私が知るわけないでしょ!」

「でも! 貴方しか頼れないんです!」


片方の声の主は宮下さんだった。

何かトラブルを起こしたのだろうか?

人混みを掻き分け、声の元に辿り着くと、見たことのある男が彼女の服を引っ張っていた。


「何してんだ・・・」

「瀬尾くん! ちょっと助けてよ。この人無茶なこと言ってくるんだけど」

「何を言ってるんですか」

「回復薬を知らないか? って知るわけないでしょ!」

「回復薬って・・・まさか腕とか足を生やしたいとかそんな無茶言ってる?」

「いえ、そうではありません! ただ・・・神経が切れて感覚が・・・」

「ん?」


男の言葉に僕は首を傾げる。


「神経を繋げる回復薬もあるわけないでしょ! そんなのがあったら半身不随の人とかが買い占めてるわ!」

「でも、3級ならそれっぽい薬草などを見ている可能性が」

「だからそういう薬草も! ないの!」

「え?」

「え?」

「え?」


僕が思わずこぼした「え?」という言葉に宮下さんと男が戸惑う。

しかも、いきなり周囲の視線も一気に僕に集まった。


「いやいやいや、何でそんなに変な顔しているんですか? え? いや・・・何で知らないんですか?」

「ちょっと待ってちょっと待って待って!」


宮下さんがぐるりと周囲を見回すが、その場の全員が聞き耳を立てている。

流石にこれは隠し通せないと考えたのか、宮下さんと組合員の数名が息をはいた。


「あー、おい。俺も聞いていたんだが、もう無理だ。瀬尾くんだったな。知っていることを話してくれ」

「いや、その前に、何で知らないんですか?」


支部長が出てきていきなり仕切り出したが、まずは僕の質問に答えてもらいたかった。


「アレってフィールドにある物ですよ? 80年も経っていて発見されていない訳ないでしょ?」

「・・・」


誰も何も答えない。

僕が言っている「アレ」が本当に分かっていないんだ。


「宮下さんも分かっていないんですか?」


僕の言葉に、何も喋らず首を振る。


「・・・ランク考え直したら? 何年阿蘇をメインで探索しているんですか」


思わず言ってしまった。

でも、あんな素晴らしいものを発見できていないのに探索者を名乗って金稼いでいるとか・・・てっきりみんな知っているんだと思ってた。


「そんなに見つけやすいところにあるのか?」

「旧南阿蘇村。今はコボルトかゴブリンが占拠している土地なので、それを乗り越える必要がありますが、その価値はあります。ただ、それはその場でしか効能がありません。傷如きなら一瞬です。ただ僕も神経までいってるのは経験がありませんのでどれほど効果があるか分かりませんよ。でも、アレは多分神経にもいいと思います。ただ切り離された物は無理でした」


僕は右手を装備から外してみんなに見せる。


「僕の実体験です」


右手を再度装備した。

周囲は沈黙したまま、一言も喋ろうとしない。


「・・・君の言うアレを教えてもらうことは?」

「場所を教えたんですよ。あとは探してください。1週間あれば確実に見つけることができます」

「発見したという栄誉や幾らかのお金が毎月入るようになるが?」

「不要です。お金が欲しかったらBかA級の魔石を持ってきます」

「A級も持って来れるのか・・・」


周囲から音が戻り始め、ガヤガヤとざわめきが増えていく。


「あ、やる気を出すために一つ情報を。肌が確実に若返ります」


女性陣がガタッ! と大きな物音を立てて立ち上がった。

かなり目が血走っている。

いずれ情報を聞きつけた金持ちたちが連れていくよう依頼が増えていくはずだ。でも、依頼を受けることができるには、そこに辿り着くことができる人たちのみ。


「頑張って実力をつけてください。臨むならそこにあるんですから」


最初に宮下さんに懇願していた男の目が、それを必ず手に入れると言わんばかりにギラギラと輝きを放っている。

やっぱり、良い人は少しでも助けてあげたい。


急に組合にロビーが慌ただしくなってきた。

ぼーっとパソコンで依頼を見ている人たちや、組合員たちがキビキビと動き出し、装備を持ってきていない人たちも、ダッシュで外に出て行った。


「ちょっと、こっち来て」


宮下さんが僕の腕を取って人気にない場所に連れていく。


「何で言っちゃったの? そんな重要な情報!」


珍しく怒っているようだが、僕にも言い分はある。


「最初に、組合が把握している情報だと思ったからですよ。正直、宮下さんが知らなかったことが意外でした。貴方たちなら南阿蘇まで確実に行ける実力がある。なのに知らないって聞いたら、え? ってなるでしょ?」

「でも! ・・・でも・・・ああああ!」


何か言いたいことがあるようだが、言葉にすることができずに、苛立ったのか髪の毛を掻き上げる。


「他にも私たちが知ってておかしくない情報はあるの?」

「知ってて・・・火口からダンジョンに入るポータルの場所、魔石以外のアイテムを落とすフィールドモンスター、その場限りの食材とかですね」

「全部秘匿情報よ。ポータルはファイアーバードのせいで未だ見つかっていない場所、モンスターは魔石しか落とさないってことが一般常識で例外はない、ダンジョンには食べれる食材はない・・・。瀬尾くんが手に入れた情報は常識を覆すものであることを認識しないと・・・はぁ・・・何で私が疲れるのかなー・・・柄にもなく」


何だかトボトボと僕から離れて行く。

僕はそんなにショックを受けることだったとは考えておらず、ロビーに戻って情報集めを再開しようと考えていたら、そこには支部長が待ち構えていた。


「やあ、瀬尾くん」

「はい・・・何でしょう?」


見ただけで、なるべく友好的であろうとする努力が見えてしまう。

別に僕は支部長と喧嘩したくて怒っているわけではないのだが、向こうからすると、重要な秘密を抱えている人間との関係を拗らせるのはまずいといったところか。


「君の言うアレとは、そんなに怪我に対して効果があるのか? ちょっと信じ難くてな」

「行って試してくればいいだけの話では?」

「そうなんだが・・・俺の立場上、簡単に動くことができないんだよ」

「だからと言って、僕に誰かを連れて行ってくれと言うのはダメですよ。僕のスキルは同行者も巻き込みますから。支部長はご存知でしょ?」


僕のスキルは甘木市と小国町ではオープンにしていたため、そこから情報が漏れていてもおかしくないし、支部長クラスなら組合の個人情報を検索することも出来るだろう。


「自衛隊であれば余裕で行けるか?」

「まあ、相手は群体とはいえ、コボルトとゴブリンですからね。銃火器を使えばC級でも蜂の巣でしょ。B級からは銃弾を避けるからキングクラスがいなければの話ですが」

「キングも居るのか?」

「可能性です。僕が行った時はジェネラルが居ました。向こうにとっても重要な場所みたいですね。ゴブリンが偵察に何体か来てたから、今はゴブリンが居るかも」

「九州地区だと鬼の奴がいるのか・・・城島は現場には滅多に出ないし、警察はダンジョンに入らない。組合が先に抑えなければ」

「利権の問題ですか・・・勝手にしてください」


バカらしくなって組合を出て、近場の牛丼屋に入る。

だが、気づいたら空っぽのどんぶりが目の前に置かれていた。口の周りには牛丼のタレが付いていて、おそらく僕は食べたのだろう。

悔しくてもう一杯頼んだ。

お腹に空き具合から見て、もう一杯は確実に入るはずだ・・・。

・・・気づいたらホテルの前にいた。

味は憶えていない。



ホテルに戻ってきたので、大人しく部屋に入って装備品のチェックをする。

汗をしっかり拭いて布の部分を全て洗濯用にカゴに入れてホテルの洗濯機に入れて乾燥まで待つ。

その間は携帯で情報を見ると、阿蘇で回復薬が話題になっていた。

さっきの組合にいた人たちが情報を集めるために、至る所に聞きまくっているようだ。

・・・これ、自衛隊にも警察にも情報いってるよね。

これなら誰かがアレに辿り着けるだろう。


「アレっていっても温泉だし・・・。ただの温泉と思って入らない可能性もあるかな」


僕の時も、たまたまコボルトからフン攻撃されて装備が汚れたから洗うついでに温泉に入ったのがきっかけだったし。

ゴブリンって清潔なイメージないから、汚い攻撃きてきそうだし、気づいてくれることを祈ろう。

ちなみに掲示板では僕の話に肯定派と否定派がいて、肯定派は僕が話をした時にあの場に居た人たちがメインっぽい。否定派は僕のことを愉快犯として、回復薬を探しに行く人たちを見て笑っているんだっと噂話を流している。

どっちを信じるかはその人次第。

僕はもう温泉の存在を知っているから定期的に利用させてもらおう。


結局、組合で探索チームを作り、南阿蘇を探索してゴブリンの攻撃を受けた女性探索者が、青風荘の温泉に入って、怪我という怪我が全部治ったのを確認した。

自衛隊に見つかる前に見つけることができてよかったっと支部長がほっとしていた。

僕はというと、見つかるまで組合に行くと攻撃的な視線に晒されたので、宿泊期間を延長して、ダンジョンとホテルを行き来していた。

あのまま見つからなかったら、僕も別のダンジョンに移動しなければならなかったかもしれない。


「次から私に先に話をしてほしいなー」


あれから宮下さんにはぐちぐちと文句を言われ続けている。

あんまし五月蝿いならホテルを変えて1人で活動するかなっと考えてたらパタリと文句を言わなくなったので、今でも同じ活動をしている。


「今日も阿蘇山が活発だ」


唸り声を上げる阿蘇山を見て、支部長室で話をしていた僕らは顔を上げた。


「そろそろかな・・・」

「あー、もうかー。今いる3級って誰が居たっけ? サボれるかなー」

「サボるな! ったく、噴火の際は、3級にはインカムとGPSを配布するからな。しっかりと動いてもらう!」

「うえー」


面倒くさい話には参加せずに、温泉の資料を確認する。

結局、第一発見者は僕ということになり、利権やフィーは全て探索者組合に一任する話になった。

どうも他の人が第一発見者になると、色々問題があるようで、それなら、何も要らないと言った僕が第一発見者になるのが一番いいらしい。

お金の類は全て放棄。

その分、金持ちの相手をしたチームにお金が行くルールになっている。

組合で組成したチームだと、10人前後のチームじゃないと安全に行けないとのことだった。

僕は連れて行くことできないから、お任せします。

そんな話をしている時に、阿蘇山が大きな唸り声を上げたのだ。


「そう言えば、高城、麻生、植木の3人が戻って来れそうだと報告があったぞ」

「あ、忘れてた」


ついうっかりみたいに宮下さんは手を打った。

僕は3人のことを深くは知らないから何とも言えないが、宮下さんの保護者という点について哀れだと感じる。

あと妙な親近感も。


「後でフォローしておけ。植木が泣いてたぞ」

「植木ちゃんかー。あの子枕元で泣き続けるからなー。もうしませんって言っとこう」

「やっつけだな」

「まあいい。それで温泉の話だが、今は探索者が利用している。瀬尾くんの読み通り、神経関係にも効果が発揮していて、引退を余儀なくされた人たちも入りに行っているようだ。おかげで阿蘇山探索者組合は人が増えている状況だ」

「探索が捗るから、色々と新しい発見もされるかもね。私としては、一緒に迷宮の方に入りたいなー」

「入る気はないですよ。甘木市の時はダンジョンから出た直後だったから僕のスキルにかかったのであって、こっちが攻める立場になると、絶対同じ展開にはなりません」

「慎重だねー」


ダンジョンアタックするのに慎重にならない人がいたら見てみたい。

宮下さんもアタックする時の装備は凄まじいもので、メインの短剣と単槍を持って、気配察知や罠感知といった警戒系のスキルをガチガチに装備している。


「今はアタックしようにも、そのランクまで行っている人が少ない。復帰者も失った勘を取り戻すのに精一杯のようだしな。ましてや、火口からの侵入など、1級の誰かを1人連れてくる必要がある」

「渡辺先生なら瀬尾くんとの相性も良さそうだけど、来れなさそう?」

「伺いは立ててみるが望み薄だと思っておけ」

「はーい」


渡辺先生というのが誰かは分からないが、僕のスキルと相性が良いということは、フレンドリーファイアを防げる能力なのだろうか? ちょっと興味が湧く。

それでなくとも、1級というのがどれほど凄いのかが分からない。

目の前の2人は3級。

鬼木さんは2級。

つまりそれ以上に強い人なのか・・・。

僕は想像が出来ずに考えを放棄した。


「ひとまず、アタックよりも噴火の方が先決だ。この鳴動だと予定よりも早く来るだろう。4級以下にも緊急招集をかけて全員で当たるしかない」

「え、僕もですか?」

「当たり前だ。ランク詐欺をして低く見せてる奴は強制的に出てもらうぞ」


優遇措置を受けていないのに強制されるのは、割に合わない。


「横暴でしょ」

「必要な人が足りない」

「人は増えたんですよね?」

「必要な! 人が足りないんだ」

「数の暴力でいいじゃないですか」

「温泉施設の防衛に人を割く必要があるんだ」

「・・・ちっ!」

「おい宮下。こいつお前より性格悪くないか?」

「いい子だよ。信頼している人に対してだけだけど」

「俺、阿蘇を任されてる支部長なんだけど・・・偉いんだぞ?」


大の大人が拗ね出した。

ガチムチが拗ねても見苦しいだけということを知ってもらいたい。


「まあいい。とりあえず、噴火した際には瀬尾くんにも出動を要請する。4級への要請だから報酬も多くするから、それで受けてほしい。3級に付かせることも出来るが?」

「1人の方が動きやすくて安全です」

「なら単独行動で、インカムとGPSを配布する。例年だとFからB級まで出てくるはずだ」

「先に言っておきますが、生命力のないモンスターには僕のスキルは通用しません。精霊の類や幽霊、死霊、ゴーレムも効果ありませんのでそいつらとの戦闘は避けるつもりです」

「分かった。参加者に周知しておく」


こうして僕も阿蘇山噴火の掃討に参加することになってしまった。

何もトラブルが無ければいいのだが・・・。

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― 新着の感想 ―
今更だけどこいつ自衛隊には入らんかったんやな 結局民間の探索者になったのか?まぁ国営組織だと復讐だ何だって言ってられないしな
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