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人類はレベルとスキルを獲得出来ませんでした  作者: 妹尾真拓
阿蘇ダンジョン攻略編
102/197

状況確認と後始末

起きた日はまだまだ疲れが残っていたのか、エイジから状況を聞いている最中に寝てしまった。

結局僕が知ることができたのは、火傷は全て温泉で完治したこと。

装備品は全損で作り直し。

同じく骨折も繋ぎ合わせて温泉で完治済み。

如月さんも、魔神からの攻撃による傷は温泉で完治したそうだ。

ただ、木下の切断した足や焼失した腕はしばらく時間がかかったらしく、一昨日エイジが見た時は、まだ甲冑姿だったらしい。


「何度も見舞いに来てましたんですぜ。正直ウザかった・・・」


エイジが愚痴を漏らすほど何回も来たのか?


「それ以外は?」

「それ以外? なーんにもないですぜ?」

「噴火でA級モンスターとか溢れたと思うけど、その辺は聞いてない?」

「なーんにも」


これじゃ情報は何もないのと一緒だな。

支部長が来たら確認しよう。

それから昼になって食事をとっていると、扉が控えめにノックされて副支部長が入ってきた。


「体調はいかがですか?」

「もうだいぶん良くなりました。ご迷惑をおかけしたようで」

「いえいえ、ダンジョンを完全攻略した英雄を助けるためですから、当然ですよ」

「副支部長まで英雄呼びはやめ・・・完全攻略?」


僕が副支部長を見ると、彼はニコニコ顔で僕を見ている。

エイジが何かをしたのかと思って見たが、エイジは目を閉じていた。

・・・これはどう言った表情なのだろうか?


「映像では最後に右腕のエイジさんが黒い霧状になって、瀕死のボスに向かっていました。木下くんと如月くんにその後どうなったかを聞きましたが、黒い霧がボスを吸収したそうですよ」


そんな事をしたのか、エイジ。


「大丈夫だぜ、主人! 俺様は主人が望んだことしかやってないからな。ちゃんと主人から『喰らえ』って言われるまで待ってたし」


僕はそんな事望んだだろうか?

後、喰らえなんて言ったっけ?

何だか最後お願いされた気もするが、記憶があやふやになっている。


「噴火で溢れたモンスターはどうなりましたか?」

「今も討伐中ですが、主なA級は討伐済みですよ。ブラックアイズから館山さんと神楽さんが居ましたからね。温泉に入った如月くんも後で参加してくれましたから、問題なく片付きました」

「木下が弾いた力による被害は?」

「運良くA級に当たったもの以外だと、特に被害はありませんでしたよ。施設に当たりそうだったものもミラクルミスティーの朱野くんが対処してくれましたし」


施設に当たりそうだったのか!

あの施設がなくなったことを想像すると背筋が凍る。


「朱野さんには感謝しないといけませんね」

「そうですね。たまたま温泉に来てくれてて良かったです。彼女以外ではあんな事出来ませんから」


どんなスキルか気になったが、後で調べてみよう。

有名な人ならネットに載っているかもしれない。


「今の阿蘇地区はそんなところです。あ、阿蘇のフィールドダンジョンは消えてませんからご安心を。今回攻略されたのは、あくまで灼熱ダンジョンだけみたいです。生態系は変わったので再調査は必要でしょうけど、阿蘇市周辺は変わっていません」


それもいい情報だ。

完全攻略すると、基本的にダンジョンは消失してしまうので、もし阿蘇のフィールドダンジョンまで消えてしまったら、この地区にいる探索者たちが移動しないといけないことになる。


「さて、そこまでは問題点がない現状です」

「え? 何だか不穏な前置きですね」


僕が馬鹿なフリして言うと、副支部長は感情のない笑顔を僕に向けた。

おお、こんな笑顔もこの世にあるんだ、と身が震えてしまった。


「魔石・・・ですか?」

「正解です。現在、国・警察・自衛隊・探索者組合・ブラックアイズ・企業で睨み合いとなっています」

「何でブラックアイズまで参加してるんですか?」

「今回のアタックに如月くんと木下くんが参加していたことで自分たちの取り分を主張しているみたいですよ。と言っても、裏があるようで、渋々言っている感じでしたが」


僕と副支部長は顔を見合わせて、同時にはぁーっとため息をついた。


「静岡の企業団ですか?」

「恐らくですね。こうなったら取ってきた人たちに分配してもらおうって話になったんですが、木下くんと如月くんが二人揃って自分に分配権限がないって言いましてね。なので、瀬尾くんが起きるの待ちだったわけです」


まあ、僕が1番公平に、かつ木下たちが1番受け取れるように分けることが出来るだろうな・・・。

僕自身は損することになるだろうが、装備のことを考えると、木下が取った虹色は松嶋さんたちに買ってもらうことがベストだ。

双子の虹は国行きだろうな・・・でないと絶対にもめる。


「噴火のA級は自衛隊と警察は倒していましたか?」

「警察は倒していませんでしたね。阿蘇市の防衛をメインにしていましたから。結界が消えたらああなるんだって初めて知りましたから、統率された警察にはだいぶん助かりましたよ。自衛隊は大狼を東側が相手して倒したはずです」

「他は全部探索者ですか?」

「私が知っているのは、そのぐらいですけど、合同で何体か倒しているとは思います」


今回のアタックで手に入れた魔石は虹色のしかもう頭にないが、A級、準A級、B級もそれなりに手に入れていたはずだ。

・・・いくつか斬られたか? 落としたか?

戻って支部長と確認するしかないか。



副支部長と色々確認して、次の日、退院して阿蘇に戻ったらすぐに組合から呼び出しの電話があって向かった。

ちょうど人が少ない時間でよかった。


「済みません、支部長たちはどちらに?」

「今日は大会議室にいます」

「分かりました」


大会議室とはまた・・・。

僕と契約をしたい企業の人が押しかけてきた時でも使わなかった会議室なのに、何か理由があるのだろうか?


ノックすると「入りなさい」と支部長の声が聞こえたので扉を開けた。


正面に石橋大臣がいた。


思わず扉を閉めそうになった手を必死に堪える。


「失礼します」


入室するが、僕の席は用意されていない。

机はコの字状に配置され、左側に支部長と松島さんたち、正面に城島さんと石橋大臣、そしてもう一人警察の制服を着た壮年の男性、右側にはネットで見たことのある館山さんと知らない白髪の男性。

そして・・・中央に僕らが持ってきた魔石がドンと積まれていた。


「呼び立てしたのに席を用意してなくてすまない。そこまで時間をかける話でもないから手短に決めていこうか」


石橋大臣がニコニコと人の良さそうな笑顔で僕を見ている。

この顔が一変したら迫力あるんだろうな・・・。


「すまなが、瀬尾。別件で大臣は本当に時間がない。君の中では今回の分配について既に考えがあると思うのだが?」

「あ、確かにありますのでそれでいいのなら分けますが、僕の独断です。文句は無しで良いですか?」

「よほど不利益を1箇所が被らない限り大丈夫だ」


その不利益の基準が問題なんだけど、ひとまず配っていくしかない。


「まず、双子の虹色魔石は国です。これは僕が単独討伐した物なので完全に権限が僕にあります。ただ、組合を通すにしても厄物過ぎて処理出来ないと思いますので国に渡します」


僕がその魔石を石橋大臣の前に持っていくと、大臣はすごくいい笑顔で頷いて、後ろに控えていた男性が持っているケースの中に魔石を入れた。

ケースが手錠で男性の腕につけられている。

初めて見た。


「次に、警察と自衛隊です。警察は阿蘇市防衛のため魔石を全く手に入れることができなかったと聞きました。なのでA級2個。自衛隊は何体か討伐したと聞いていますので、割れたA級で納得してもらいたいです」


城島さんがちょっと渋い顔をしたが、結局僕を見て苦笑して頷いた。

警察の人はニコニコ笑顔で何度も頷いている。


「そして虹色魔石。これは木下が取ってきた物です。松嶋さんたちが責任を持って買い取ってください」


僕がそれを松嶋さん、兼良さん、大森さん、平石さんの真ん中に置く。

流石に彼らでもそれから目を離すことができないみたいだ。

普段、全く動じない彼らのレアな姿を見て僕はちょっと微笑んだ。


「この虹色魔石に関しては探索者組合を通してください。正式な流れで木下にお金が渡るようにお願いします」

「分かった。責任を持って手続きする」


何億になるか分からないが、如月さんが引退して東京都の23区内に土地付き建物を買っても十分に生活できるお金が入るだろう。


「そして、探索者組合には準A級魔石を一個」


支部長が自分の前に置かれた魔石を見て頷く。


「最後に、割れた物もありますが、準A級とB級魔石をブラックアイズにお渡しします」


館山さんが苦笑いを浮かべながら小さく頷く。

まあ、他の魔石に比べたら見劣りするのは確かだが、普通に考えれば十分過ぎる成果だ。

ここは我慢してもらうしかない。


「すまんが、ちょっといいかね、若いの」


どうもこの人は我慢出来なかったようだ。

しかも、僕を若輩者扱いして主導権を取りたいようだ。

館山さんが諌めようと手を伸ばすが、男性はベシっとそれをはたき落とした。


「静岡企業連合会の会長をしている若原という」

「初めまして」

「魔石の分配についてだが」


若原さんが話をしようとしたときに、石橋大臣が手を上げた。


「若原さん、その話は長くなるのかな? 私は時間がないのだが」

「それは・・・」


石橋大臣の眉間に皺が寄る。

そうなると、途端に迫力が出て圧を感じる。

政界で長年培われた圧力だろう。

一般人が受けるのは辛いはずだ。


「石橋大臣」

「ん?」


石橋大臣が僕を見た。


「お渡しした魔石の権限は僕だけにあります。若原さんが気にしているのはそれ以外の魔石でしょう。退席されても何も問題はありません」

「そうか。それならよかった。忙しい身で申し訳ない。先に外させてもらうよ」


ニコッと僕に微笑んで後ろの二人を連れて退室していく。

その姿が見えなくなって、僕は一息ついた。

本当は木下の付与と如月さんのアイスアーマーあっての成果なのだが、この場では言わぬが花だ。


「さて、続きをお願いします」

「うむ。今回のアタックは3人で行ったと聞いたが?」

「間違いありません」

「そして、そこにある虹色魔石は木下という探索者が手にいてたと言っていたな」

「それも間違いあちません」

「ならばそれは静岡企業連合会の所有権が発生する魔石だ」

「・・・なんでそうなるんですか?」


本当に意味不明な意見に、僕は頭を抱えるしかなかった。


「爺さん。ここは阿蘇だ。静岡のやり方は通用しないって言っただろ」

「分かっとる! だがな、こういう場所でははっきりと自分の権利は主張しておかないと、後々前例となって残るんだ。木下という探索者が静岡所属なら、当然私の主張は正当なものとなる」


本当に正当なものなのかは当事者しか分からないのだろうが、取り敢えずその主張の根底にあるものを知らないことには始まらない。


「館山さん、申し訳ありませんが、なぜそうなるのかを教えてもらえませんか?」

「分かった。まず、霊峰富士には北と南に探索者組合が挟むようにして存在する。静岡県にあるのと山梨県にあるのだ。ダンジョン発生期には情報共有して手を取り合ってアタックしていたらしいんだが、ダンジョンが攻略方法や探索者の質の向上で落ち着いた頃に、霊峰富士はどちらの県のもの問題が再熱したんだ」


その話題は定期的にテレビで話題になっているので僕も知っていた。

城島さんは苦笑してるし、支部長も馬鹿らしいと腕を組んでいる。


「その再熱の中で静岡の探索者組合が打ち出した施策の一つとして、静岡企業連合会の発足があった。内容としては、静岡に在る企業は探索者に装備を無償で提供する。探索者はそれを用いてモンスターを倒し、魔石を企業に無償提供する。それだけ聞くとお金が発生しないから探索者が不利なように聞こえるが、ちゃんと貢献度に応じてポイントが送られて、静岡県内ならそのポイントで何でもできるようになっている」

「どんな探索者でも無償にですか?」

「どんな探索者でも無償だ」

「壊しても賠償無し?」

「賠償無し」


なるほど、初心者マークの探索者には嬉しいサービスだ。

その装備に色々とお世話になって成長するため、自分で稼げるぐらいになると恩を返すために静岡の探索者組合に所属して魔石を無償で渡すようになったのだろう。

なら・・・


「木下が使った装備って総額いくらぐらいですか?」

「B級魔石3つぐらいだな」

「館山ぁ〜!」

「そこにある物で十分じゃないですか」

「・・・いや! 権利は主張する!」


負けず嫌いなのか頑固なのか・・・。


「館山さん」

「ん?」

「館山さんたちが倒したA級は国が買い取ったんでしたよね」

「そうだな」

「その時は権利の主張は・・・」

「国に対してできるか!」

「でも、手放したんですよね。そして国は買い取った」

「そ、それがどうした」

「あれ、買い取れますか?」


僕が魔石を指差す。


「わ、私は所有権を・・・」

「A級以上の魔石をタダで貰おうと? 流石にそれは理が通らないですよ? SNSはまだ開設してませんが、これを機会に開設するのもありかな・・・最初の情報がこの事になりますけど」


じっと若原さんを見る。

あの魔石は木下の物。

それを奪おうとするなら容赦はしない。


「爺さん。欲をかきすぎだ。いいじゃねーか。当初の目的通りB級魔石をいくつか貰えたんだし」

「館山ぁ〜。だがな、だがな、あれは2度と手に入らんぞ。粘らんと他の奴らから吊し上げをくらうんだ」

「くらっとけよ。かわりに木下はちゃんとブラックアイズに所属させるから。A級を単独で倒せるやつが所属するんだぞ? これに勝る成果はないだろ?」


何だか若原さんが哀れな年寄りに見えてきた。

一つだけ、追加で僕が魔石を持ってきて渡すという案があるが、他に妥協案があるか考えて支部長を見ると、彼は小さく首を横に振っている。

不思議に感じた。

僕に何かを教えるような行動だ。

視線を感じて目を向けると、松嶋さんがこっちを見ていて、同じように首を振った。

・・・芝居か!

哀れに見せるための芝居か!

妥協案として、僕に追加の魔石を取りに行かせる考えだったか!

危なかった!

支部長たちがいなかったら、僕から案を言うとこだった!


「・・・もう、これで手打ちでいいですよね」

「・・・チッ」


舌打ちしやがった、このジジイ!

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