阿蘇神社の特殊スキルと終幕
のってるので投稿し続けてます。
稀な状態です。
魔人が顔を歪ませて、右足に噛み付いている如月さんを睨んだ。
「この! ゴミカスがぁ!」
魔人が足を振り回す。
如月さんは必死にしがみついて飛ばされないようにしているが、魔人の炎で氷が溶けている。
攻撃を1発でも受ければ、あの氷は砕けてしまうだろう。
それが分かっていても、彼女は向かっていった・・・木下を助けるために。
「離れろ!」
魔人が足を高く上げて、ズドン! と地面を踏んだ。
地面が凹み、衝撃で風が起こる。
そして、衝撃に耐えきれなかったのか、氷の狼の口が砕けて宙に放り出された。
そこに魔人の拳が衝突し、氷の狼は砕け散って中から如月さんが飛び出て地面に転がり落ちる。
衝撃無効を持っている僕でも骨折した攻撃に如月さんが耐えれるはずもなく、転がった状態から起きれずにグッタリとしていた。
「きさらぎさん!」
「・・・」
呼びかけても返事が返ってこない。
「この! 残灰にも劣るゴミカスが! よくもこの俺を怒らせたな! 踏み潰してくれる!」
マズイ! 如月さんは動けそうにない!
魔人が足を如月さんに向ける!
「おいコラ・・・」
「なに?」
木下が何かを言って魔人の動きが止まり、掴んでいるあいつを見る。
その瞬間、木下の顔が変化した。
「俺の日和子に何してんだテメー! ぶち殺す!」
狼の顔に変化した木下が首を伸ばして魔人の首に噛み付いた。
「この、愚か者が!」
「殺す! マジで殺す! もう殺す!」
木下が炎で手足を作り出して魔人にしがみつく。
魔人は上の2本の腕で木下の頭と首を掴んで引き剥がそうとし、下の2本の腕で木下の腹を殴る。
必死の攻撃も数秒で決着がつく。
「やはりお前はカスだ。所詮その程度の存在だ」
「フゥーフゥーフゥー!」
木下が顎と首を掴まれて抵抗が出来ない状態で捕まった。
絶望を感じて、僕は拳を握った。
そんな中、クククっと笑い声が聞こえた。
「えいじ・・・?」
「主人。間に合いましたぜ」
何が?
木下がもうすぐやられるのに、何が間に合ったんだろう?
「ほら、耳を澄ませて。もうすぐ、もうすぐだぜ!」
エイジの言う通りに耳を澄ます。
何が聞こえるのか・・・
『瀬尾くん! 準備ができた! 奴から急いで離れてくれ!』
副支部長の声が届いた。
間に合った!
木下に伝えないと!
「きのしたぁ、にげろ・・・」
ダメだ、声が出ない!
何かないか!?
何か!
「和臣くん! 間に合ったわ! 逃げて!!」
如月さんの声が響いた。
そうか・・・彼女があそこにいたんだ。
だが、その声を聞いた魔人がニヤリと笑みを浮かべる。
「準備が出来たのか? いいだろう、やってみるといい。こいつごと攻撃できるのならな!」
魔人が何も掴んでいない腕を阿蘇市に向けてかざした。
「は?」
魔人が間抜けな表情をした。
突然いなくなった敵を探そうと目があっちこっちを向く。
木下は元の大きさの甲冑姿になって、氷の壁に誘導されながら如月さんの方へ転がっていた。
そして・・・一筋の光が魔人の胸を貫いた。
細い・・・細い光だ。
「何だ・・・これは?」
魔人も何か分からずに光を掴もうと手を伸ばした瞬間・・・、
ドン!
鈍い音が響いて魔人の胸に大穴をあけた。
「ぐぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああああああああ!!」
2回目の苦痛の叫びだが、今回のは確実に致命傷だろう。
魔人の体がグラッと傾いて倒れ、斜面を一回転がった。
「おのれー、おのれー! この俺が! よくもこの俺にぃ!」
それでも即死していないところはさすがダンジョンボスといったところだろう。
「覚えたぞ! 次は必ずお前たちを焼却してやる! その日まで覚悟して生きることだな!」
魔人がズルズルと体を引きずって、火口に戻ろうとしている。
追い打ちをする体力は、もう僕らには残っていない。
でも、もう奴と僕らが戦うことはないだろう。
最下層まで下りるなんて2度とごめんだ。
緊張も途切れて、疲労が一気に襲ってきた。
「主人! 主人!」
エイジが呼んでいる。
「主人! キツいのは分かりますが、一つだけお願いだ。一言だけ言ってほしいぜ!」
何だよ。
もう長いセリフは言えないぞ?
瞼が落ちていく。
意識も薄れていく。
「喰らえ。その一言でいいんだ。早く! 早く! 逃げっちまう!」
何だ・・・お腹減ったのか・・・ならいっか・・・その一言ぐらいなら。
「くらえ・・・」
「よっしゃ! 衝撃無効たちに怒られずに済んだ!」
目が閉じる瞬間、何故かエイジの姿が真っ黒いモヤに変わった気がした。
それを確かめることは出来ずに、僕は意識を失った。
目を開けたらベッドの上だった。
左腕に点滴の管がついている。
今まで病院の世話になったことがなかったから、何処の病院なのか分からないが、阿蘇市の病院だろうか?
「主人、起きたのか?」
「エイジ・・・ここは?」
「病院ってとこらしいぜ。しぶちょーってのが一度温泉に主人をつけてからここに連れてきた。取り敢えず、俺様が握っている物を押してくれ」
言われるがままにボタンを押すと、ドタバタと部屋の外から音が聞こえてバタン! と勢いよく扉が開いた。
「京平! 起きたか!」
「瀬尾! 後で話があるからな!」
「大丈夫ですか? 手足は動きますか?」
木下と支部長と副支部長が入ってきた。
「まだ入らないでください! 患者さんの負担になります! ほらほら! 出ていってください!」
そして僕が何か言う間も無く看護師さんが3人を追い出した。
「瀬尾! 本当に! 後で話があるからなー!」
最後に支部長がそう叫んで追い出され、看護師が振り返って笑顔を見せる。
「体調はいかがですか?」
「あ、えっと、大丈夫です」
「ちょっと待っててくださいね。院長が来ますから」
「えっと、すみません。ここは何処ですか? 病院ってのは分かるんですが、今までそこまでお世話になったことがなくて」
「そうでしたか。ここは熊本医療センターになります。外傷などは噂の温泉で完治したようですが、精密検査をさせて頂きました。問題はありませんでしたから、後は英雄さんが起きる待ちでしたよ」
ふふふっと微笑んで、テキパキと場を整えていく。
そして、ガラリと扉がスライドして白髪の眼鏡をかけた医者が入ってきた。
「ふむ。意識はハッキリしているようですね。初めまして。院長の飯田です」
「初めまして。瀬尾です」
「ちょっとベッドを起こしましょうか。確認させていただきたい点がいくつかありますからな」
電動ベッドで上半身を起こして院長が目や舌を見て首に触れ、聴診器で胸の音を確認した。
「健康だな。手足に違和感はありますか?」
「いえ、いつも通りです」
「若いな。それと温泉の効果か?」
何とも返答のしづらい質問に僕が黙ってしまうと、院長がフッと笑った。
「安心していいですよ。私たちもあれに関しては歓迎しています。失われなくていい命を早急に救えるのですからね」
「そうですか・・・よかったです」
てっきり商売敵を作ってしまったため、多少蟠りが出来たかと思っていたが、杞憂だったみたいだ。
「二日間寝てたから、急な運動は避けるように。面会は明日からにしておきましょう。右腕くんにこの二日間のことを聞いておくといいですよ」
そう言って院長は部屋から出て看護師も点滴を確認して出ていった。
終わったのか・・・。
僕はベッドを元に戻してフーっと息を吐いた。
最初の計画とは違うダンジョンアタックになってしまったが生きて帰れた。
「生きてるだけで丸儲けってな」
レジェンドの格言が聞こえた気がした。