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人類はレベルとスキルを獲得出来ませんでした  作者: 妹尾真拓
阿蘇山噴火編
10/197

阿蘇フィールドダンジョン

評価・ブックマーク・いいねをしていただけると作者のモチベーションが上がります。

よろしくお願いします。

阿蘇のダンジョンには二つのルートが存在する。

豊肥本線の宮地駅から仙酔峡を目指すルートか阿蘇駅から第一火口を目指すルートか。

どちらのルートも出てくるモンスターは一緒だがそこから迷宮型ダンジョンに侵入する入り口を縄張りとするモンスターが違っていた。

仙酔峡は植物型の人喰いモンスター、火口は鳥型のファイアーバード。

僕はちょっと移動が面倒くさいが、阿蘇ルートを好んで使っていた。


「わざわざこっちに来る人っていないもんねー」


僕の横に普段着の宮下さんがいる。


「宮下さん・・・」

「何かな? 瀬尾少年よ」


無駄にハスキーヴォイスを作っていて腹が立つ。


「もうすぐフィールドダンジョンなんですよ」

「そうだな!」

「何で装備が私服なんだよ!」


僕だけガチガチの装備にして、リュックには2泊できる道具を揃えたのに、横の人は何も持って来ていない!


「武器は!?」

「ここにあるわ!」

「それは歯と爪だ! 何処かの野生生物か!」

「素敵なツッコミ! やっと私の相方が見つかったわ! いざ漫才の世界へ!」

「行かねーよ! 行くのはダンジョンの中だ!」


突っ込むことすら辛くなってきた。

こいつはダンジョンに何をしにきたんだ?


「まあ、冗談は置いといて」


冗談って何だよ!

僕で遊んでんじゃねーよ!


「武器だけは持ってきたよ」


ジャケットの脇から短剣を抜いてヒュンヒュンと風を斬る。


「・・・前まで腰にホルダーつけて納めてたよな?」

「意表を突くためよ」

「誰のだよ」

「貴方のよ!」


もう突っ込む気を無くして、僕はフィールドに入った。

モンスターと戦う前に体力を必要以上に消耗したくない。


「ちょっと待ってよ。まだ会話を楽しみましょう」


僕のやりたい事を無視して我が道を行く人は、こちらも無視で対抗するのが1番です!



フィールドに入ると、まずF級のモンスターたちが出迎えてくれる。

特にこちらを襲ってくることはなく、大人しい種で新人たちが殺害という行為に慣れる場所となっている。

僕には不要な場所なので、そのまま突き進む。

基本的に僕のフィールドワークは、何か異常がないかの確認を主として動いていて、積極的な戦闘はしないようにしていた。


「ねえねえ、あそこの白兎可愛ね」

「角がついてますけどね」

「倒したら仲間になってくれないかな?」

「伝説のテイムスキルを持ってたらできるんじゃないですか?」

「伝説は伝説だから伝説なのだよ」


訳のわからない事を言って、僕の直ぐ後ろを宮下さんが歩いてくる。


「アイテムバッグとかあったら狩り放題なんだろうけどなー」

「それじゃあ、誰も奥に進もうとしないでしょ。F級魔石が1円するから、500匹倒せば一食分にはなります。みんなが一回のアタックでそれだけの魔石を組合に持ち込めば、供給が過剰になって組合が買い取らないって事態になりますよ」

「そうねー。命賭けずに稼げるならそうするわね」

「誰しも強いスキルを持ってる訳じゃないですからね」


弱い魔物を追い払って、そのまま進むと、今度は血走った目の水牛らしき魔物がいた。


「赤眼水牛か。私にやらせて」

「準備運動にもならないでしょうに」


相手は既に突進準備中。

僕は宮下さんの後ろに下がって腕を組んだ。


「ふふふ、防具無しでギリギリを避ける。ちょっとしたスリルよね」

「目測見誤らないでくださいよ。怪我した人を運ぶのって大変なんですから」


多分、僕の声は聞こえていないだろう。

集中した彼女は唇を舐め、短剣を持って真っ直ぐ水牛に向かう。

見惚れてしまうぐらい美しい重心移動。

一歩一歩がその熟練度を窺わせる。


水牛との距離が縮まり、耐えきれず水牛が突進を開始する。

その進路と角の幅をしっかりと測って、宮下さんは当たる直前に、クルリと体をずらしながら回転して、勢いそのままに短刀を振り抜いた。

そのまま両者はすれ違い、水牛が何かを思い出したかのように首筋が割れて、紫色の血が飛び散ってその体は紫の欠片となって消えていく。

見事な攻防一体を目にし、頭の中で動作を繰り返す。

1番すごかったのは、あの回転だろう。

少しでも早ければ角に当たり、遅れれば肩の筋肉に当たって一撃で沈めることはできなかった。

しかも、全てスキルを使わずに彼女自身の才能と技術で行っている。


・・・僕はまだあの境地に達していない。


「うーん、D級。要らないや」


親指で弾いて後ろに飛ばす。

それは弧を描いてどこかへ消えていった。

D級の魔石は10円そこそこから100円の幅で買い取られる。

水牛に角で追い立てられる恐怖から逃げるか、目先のお金を取って挑むか。

EとFを卒業した人からその選択に迫られることになる。


ゴゴゴゴ・・・。


阿蘇山が唸りを上げた。


「今日も元気いっぱいだね、阿蘇山は」

「そうですね・・・。もうそろそろ噴火の時期かもしれませんね」

「あー、また駆り出されるのかー。魔石しか手に入らないから嫌いなんだよ。耐久狩りは」

「阿蘇をメインダンジョンで動いている以上、参加しないわけにはいきませんからね」


鳴動する阿蘇山。

常に唸るような地響きを鳴らし、時期が来ると噴火して迷宮内のモンスターをフィールドに吐き出す厄介なダンジョン。

噴火の日は3級は強制でフィールド狩りを行わなければならない。

範囲も広く、南阿蘇にある獣人モンスターや亜人モンスターも対象になるため、何日もキャンプすることになるのだ。


「瀬尾くんもー、その時は私たちと一緒に参加しよ!」

「イヤです」


僕はその義務がイヤだから3級は受けないことにしている。


「うー、瀬尾くんが意地悪だ」

「泣いてもダメです」


1人であれば、スキルのおかげで何も警戒せずに休憩をすることができるのに、他の人がいると使えんくなる。

それだったら1人で動いた方がいい話だ。


「何も変わりはないか」


1時間ほど南下して、そこから南東へ方向を変えて進む。


「どこに向かってるの?」

「仙酔峡」

「宮地から南下した方が早いでしょう」

「別に早さを重視してないですよ。今回のフィールドワークは何か変わったことがないか見てただけです」

「へー」

「興味なさそうですね」

「だって・・・宝箱欲しいもん」

「可愛く言ってもダメですよ。迷宮には入りません」

「ぶー」


口を尖らせて抗議するが、お金をある程度稼いだ僕は優先すべきことがある。

安部浩の痕跡探しだ。

ダンジョンに修復機能があるとはいえ、直後に修復するわけではない。

油断してれば、残す・・・絶対に。


周囲を見ながら、宮下さんとのんびり歩いて、時々襲いかかってくるモンスターを撃退し、休憩を挟んで数泊用に準備していた食事を奪われ食べられ、泊まるのを諦め歩きを再開し、仙酔峡に近づいて来たときに遠くで土煙が見えた。


「岩蜥蜴だね」


指で作った小さな円から覗いて、宮下さんが言った。

流石に身体強化か視力強化を使っていると思う。

僕も同じように円を作って覗く。


「誰か追われてますね」

「終われてるねー」

「1人抱えてる?」

「あれはおんぶって言うんだよ」

「こっち来てますね」

「3? いや・・・7か・・・」


こっちに来なかったら無視できたのに、あんなに必死に走って・・・どうするか・・・。

もう、普通に人影がわかるようになってきた。


「なんか叫んでるねー」

「逃げろ、ですね」

「えー、めんどくさいよ。刃こぼれ嫌だから素手でやるけど、倒せない相手でも数でもないし」

「僕がやりますよ」


宮下さんが僕を覗き込む。


「どういう心境?」

「何となくです」

「むー、私がけっこう離れないといけないんだけど」

「あれと一緒の格好をしてあげます」

「おんぶ!? むふふ~。いいよー。されてあげる」


っと言って、直ぐに背中に飛び乗った。

僕は彼女の足をしっかりと固定して、身体強化と加重を発動させる。


そうしているうちに、追いかけられている人もドンドン近づいてきて「逃げろー! 逃げてくれー!」と叫んでいるのが聞こえた。

いい人なんだろうな。

1人を抱えて身体強化だろうスキルも使って・・・1人なら逃げ切れただろうに。

僕たちに擦りつけてもおかしくない場面で逃げることを勧める。


「良い人は助けないとな」

「チョロい瀬尾くんは優しいねー」

「うっさい」


そうして逃げない僕たちに、ある程度の力があって、引き受けてくれると勘違いしたのか、すれ違いざまに「すまない」と言ったので「気にするな」と返し距離を空けるため岩蜥蜴に突進し、一度後ろを見て、だいたいのところで生命力吸収を使用した。


まず、背中の重みが増し、宮下さんの首が僕の右肩に落ちる。

それと同時に、正面から来ていた岩蜥蜴の前の2匹が力を失って倒れ、後続がその2体を踏み越えようとして力を失って転げる。

僕はただ見ているだけ。

どうやら、最初の1匹だけは、仲間に踏み潰されて死んだようだが、他の6匹はまだ生きているようなので確実に首の上に乗って踏み潰していく。


「よし、終わった」

「お疲れ様ー」


まだおんぶされたままの宮下さんが上機嫌で僕の頭をヘルメット越しに撫でる。


「・・・カメラの画像が乱れるのでやめてもらって良いですか?」


僕のお願いは聞き入れられずに更に3分間撫でられ続けられた。



人助けをしたとはいえ、トラブルはトラブル。

僕たちはそこから仙酔峡へ急いで向かい、そこから宮地-仙酔峡ルートで阿蘇市に戻った。

そのまま報告するために探索者組合に入ると、いつもニコニコがモットーの受付が、僕らを見るなり涙目になって、瞬間移動のような速さで宮下さんの横に来てガッシリとその腕を掴んだ。


「宮下さん確保!!」


体格に似合わない大声に、他の組合員も自分の業務そっちのけで宮下さんのそばに集まってもう一方の腕をホールドし、入り口をガードされ、万が一にも逃げ場がないように囲まれる。

その間、対象の宮下さんは「え? え?」っと状況が把握できずになすがままの状態で拘束されていく。


その光景に、僕もただ見てるだけで何もできずにいた。


「やっと戻ってきたか。放浪娘が!」


ドカドカと一際体格のいいオッサンが疲れた表情で近づいてきた。


「あ! 支部長! 何事ですか!? 私は法に触れることは・・・多分してませんよ!」

「微妙な間が気になるところだが、今は置いておこう。まず、ここに戻ったという申請を出しなさい! 3級は移動にも申請が必要だとあれほど言っているのに」

「あ、あれ~」

「鬼木の嬢ちゃんにも散々絞られたんだろ? なのに、小国町でも無申請でいなくなるとは」

「いやー、まあ、こうして戻ってきたからいいじゃないですか」

「そういう問題ではない!」


怒声が響き、彼を中心として衝撃波が広がった。


「くっ! すまん。思わず出てしまった」


周囲に向かって謝罪する支部長。

先ほどの衝撃波で、みんなに髪はボサボサになり、書類は飛び散って側にいる人がかき集めていた。

そんな中でも正面にいた宮下さんを掴んでいる組合員の2人はその拘束を緩めずに立っている。


「とりあえず応接室だ。瀬尾くんだったか? こいつをしばらく借りるぞ」

「お構いなく。存分に借りてください。返さなくてもいいですよ」

「保護者たちが今帰還中だ。それまではしっかり預かってもらうよ」


保護者の3人が戻るまで、彼女に付き合わなければならないのか・・・。


通常業務に戻っていく組合員たちと、ドナドナされていく宮下さんを確認して、僕は受付横の発券機のボタンの中で「トラブル」と表示しているボタンを押した。


「473番の方、2番窓口までお越しください」


いつもの機械の声が僕の券の番号を呼ぶ。

言われた通り、2番の窓口に来て僕はヘルメットをとった。


「こんにちは。この度はどのようなトラブルがありましたか?」

「えっと、岩蜥蜴から逃げてる人と遭遇して、彼らの代わりに倒しました。逃げてた人は怪我した仲間を抱えていて、そのまま逃げていき、揉め事はないですが、いちよトラブルですので報告です」


僕は概要を説明してメモリーカードを受付に提示する。


「状況を確認させていただきますので、またお呼びします。しばらくお待ちください」


窓口から離れてテレビが設置している場所の椅子に座って何気なくテレビを見る。

そこでは生放送で探索者特集をやっていて、新鋭の人から古参までを一挙紹介していた。

高校時代は僕も目をキラキラさせて見ていたが、今は綺麗に見ることができない。


『それでは、最新の新人ランキングー! みんな気になる新人情報ですが、今日はアッツアツの情報がありますよー』


MCやゲストが熱く語っている。

僕は興味が湧かず、充電スペースへ移動する。


『実は、魔石を30個も一度に持ってきた新人が・・・』


携帯で何か情報が落ちてないか、情報サイトや掲示板なども漁るが、特に収穫はなし。


「空振り続きだな」


じーちゃんとばーちゃんが殺されて、もうすぐ半年が経つ。

その間、僕は無駄足しか踏んでいない。


「瀬尾さーん」


名前が呼ばれた。

僕が歩いて再度向かうと、なぜか周囲の目がチラチラと僕を見ている。

急に居心地が悪くなった気がした。


「録画を確認しました。音声もしっかり取れてましたので、問題は何もありません。該当するパーティですが、まだ戻ってないようですので医療機関を確認してまたご報告いたしますか?」

「いや、そこまではしなくていい。見返りとかも求めてない。写っている人たちも、多分良い人っぽかったし、変な負担とか与えるつもりもない。僕は義務として報告しただけということで」

「承知しました。何かありましたらご連絡させていただきます」

「頼みます」


伝えることはこれで終わり。

予定では2泊3日ぐらいするはずだったのだが、同行者のせいで満足に出来なかった。

今更もう一度行く気もなく、一旦ホテルをまた予約しようかと考えていると、ニヤついた男が僕の正面に立った。


「よう、何だか面白いことしてるみたいだな」

「・・・」


何か僕の情報でも手に入れたのだろうか?


「何を言っているのか分かりませんが、僕が欲しい情報なら買いますよ」

「いやいや、惚けるなよ。あれだろ? 3級の宮下の弱点を握って、いいように使ってるんだろ? 一枚噛ませろよ」

「・・・」


バカの類だった。

相手にするのも嫌なので、避けて外に出ようとすると肩を掴まれたので、その手を掴んでそのまま捻りあげる。


「いて! テメー! くそっ!」


もがいて逃げようとしたので、首根っこを掴んで床に倒し、そのまま組合員がくるのを待つ。


「また、瀬尾さんでしたか」

「今回は完全に因縁をつけられた形です。まずはこいつの拘束を頼みます」

「分かりました。念の為、別々の部屋で事情を確認します」


数名が僕とバカを立ち上がらせ、両脇をロックして万が一にも暴れることができないようにした。


「お前、覚えとけよ! 全部こいつらにバラしてやるからな!」


何か言っているが、正直どうでもいい。

部屋に入って、その場で防犯カメラの画像を組合員と確認した。


「・・・愚かですね」


目の前で深いため息を吐く組合員。

憶測で突っかかってきて返り討ちに遭う。

頭のいい奴なら・・・あいつを利用するか・・・あいつは誰かに利用された?

どちらにせよ、バカだ。


「ホテルの予約をしたいので、もう出ていいですか?」

「はい、問題ありません」


部屋を出てロビーへ行くと、ぐったりと項垂れている宮下さんがいた。


「せーおーくーん!」


半泣きで僕に抱きついてきた。

流石に避けるわけにはいかず、受け止めて支部長を見る。


「しっかり絞ったから、しばらくは無茶をせんはずだ」


こんだけやられても、しばらくしたら元に戻るんだ。

しぶといと言うか、図太いと言うか、へこたれないと言うか。

表現する言葉がありすぎて困ってしまった。

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