酒は人を惑わせる
翌朝、ロケ地予定の寺に集合した。
既に部長やキド先輩達もおり、今日は企画書を持参し、お寺の住職に撮影交渉に来ている。事前に電話でのアポイント取った感じだとまあ、印象は悪くないらしい。
その際、参考に写真のみの撮影の許可を得て、リサーチの結果、撮影予定場所としては墓地と寺の山門とその前にある長い階段での撮影を交渉する予定だ。
「よう見とくんやで、ミイラ。……いつかはお前にも撮影の交渉頼むんやからな」
「やらないといけないですか?」
「まあ、お前が撮りたい映画があるんやったら、いつかは必要にもなるやろしなぁ……」
「……分かりました」
「まあ、今回は私たちが交渉するから、そんなに緊張しないでね。ミイラ君の緊張が相手にも変に移っちゃうかもしれないしね」
そう言いながら、キドの言葉でやや緊張して、堅くなった僕の身体を背後から優しくトントンと部長が叩いてくれる。
「まあ、あかんかったらあかんかったでまた別の場所を探したらええんや」
「そんなもんですか、キド副部長?」
「そんなもんやw でも、ええ作品作りたいんやったら、まあ、そん時はがんばらななぁ。……部長、絵コンテも持ってきてます?」
「大丈夫だよ、キド君。ちゃんと見せれるヤツ作ってきたよ。ついでに昨日取ってきてくれた写真で撮影したい場所とか、撮影する内容、建物とかに傷をつけないこと、騒音になるような大きな音を出さないこととか、諸々いつも通り資料に書いて来たし、ちゃんと説明もするつもり」
「さすがですね、部長。おお、そろそろ約束の時間やな、ほな行きますか?」
その言葉と共に部長、キド、僕の3人で寺の住職との面会に向かった。
今回の映画はアクション映画を撮影することになっていた。いつもは日常ドラマや恋愛ものをよく撮っている我が部ではちょっと珍しい。
その切っ掛けとなったものが部室の倉庫を整理している時に見つかった不気味な着ぐるみだった。
実は我が映研は結構歴史がある。部の始まりは動画作成を趣味にしていたOB・OGによるものだ。
初めはSNSに上げるための3分程度の短いコントを作ったところそれが結構人気になったらしい。その後、創始者達に才能があったのか、立て続けに動画をアップする度に映像も内容も本格的になっていき、ついには大学のPR動画作成の依頼を学生の推薦で学長から受けるようになっていった。そうした経緯もあって本格的に映画研究会が発足したらしい。
映画研究会発足後は映画賞にも何作か参加し、評価もまずまずと言ったところだったらしいが、最近はあまり目立った功績はないらしい。
ちなみに見つかった着ぐるみは元は大学の非公式マスコットとして、我が部で作った物のようだ。
今回はこの着ぐるみの不気味さw を活用し、特撮を撮ることになった。なお、着ぐるみは部設立時の初めての部費で制作したらしく、OB・OGにとっても思い出深い品のようだ。まあ怒られないように映画撮影を頑張りたい。
などと考えている内に寺の住職とも話が終わり、撮影時刻等の条件付きながら撮影の許可を得ることが出来た。
「よっしゃ、コレで今年のノルマ達成や、疲れたわぁ」
「そうだね、キド君」
なお、意外と伝統のある我が部では代々受け継がれる部訓があったりする。
それは「毎年大学構内以外の外部ロケ地を開拓すること」だ。
なお、推奨数としては毎年4カ所、最低2カ所と言われている。
中小企業の社長が新規営業先を探すような部訓ではあるw
他にも「撮影期間中の部内恋愛禁止」などがあったりする。
この部訓だけは特に守るように言われている。人間関係の崩壊によって粗方撮影を終えていた作品の制作中止、部員離れによる廃部の危機等が過去にも何度もあったとは聞く。その度に歴代部長による弾劾、強制退部命令等の強権発令があったとも聞く。
まあ、僕が入部してからは撮影時のトラブル、警察の職質には遭遇することはあっても、部内でのトラブルはなかった。
……ちょっと女癖の悪いスタッフはいるが今のところ大丈夫……、だと思いたい。
「どうや、勉強になったかミイラ?」
「ええ、キド副部長、大変勉強になりました」
「ならよかった」
僕の言葉にキドが大げさに頷く。
「他の皆は上手くいったかな? 電話してみてキド君」
「そうですねぇ、部長」
連絡が取れた別動体のアマミさん達のグループも毎年撮影をお願いしているカフェ等を廻って今回も無事撮影許可を貰えたようだった。
今回の作品の舞台は揃えられたみたいなので正直、ほっとしている。
そして、この流れで前祝いも兼ねて、皆で飲むことになった。
まあ、まだ大事な【アレ】が決まってはいないのだが……
大学のサークルとは原初の昔から同好の仲間が集まり、共同体を形成したり、しなかったりながら部の目的を達成に向け、団結する集団である。
そして、その集団の中で長く同じ時を重ね、親睦を深めるものでもある。
ただし、高校までとの違いはアルコールを介しての付き会いもするようになることだろう。大体の大学生は酒を飲んでも良い年齢に達するため、サークルに入ると歓迎会等でアルコールに接する比率は高くなる。
アルコールとはある種のドラックに似ているがその効能は人によって違う。服用しても平時と大差無い人もいれば、平時と違い普段は固く口を閉ざしているような話(だいたい本音が出やすい)をしてしまうこともある。
そういった変わった一面を見れるという意味では非常に魅力的なものではある。ただし、服用し過ぎて体調を崩さない限りでは……
ということで飲み会が終わり、居酒屋前で解散になったサークル飲みではあったが、どうしても歩けないと甘えた声で言うのでしかたなく、肩をかして、酔っぱらいを最寄り駅まで輸送中です。
……キド先輩ですけど。
あ、ちなみに部長とアマミさんは二軒目の居酒屋に向かっています。
……あの二人は酒に強いんだよなぁ。
あっ、ちなみに私もキド先輩を輸送後に直ぐに来いと、二軒目に走ってでも直ぐに来いと言われていますww
ちょっとぼやきが出ましたが、キドの最寄り駅に直結する私鉄駅の改札に着いたので、かなり意識が怪しい酔っぱらいに声を掛けた。
「先輩、駅つきましたよ」
「???、うんっ??」
「歩けますよか?」
「うん……。ありがと……」
……この人、酔っぱらうとかわいいんだよね。おっさんだけどw
「じゃあ、お疲れした、さよなら」
「…。」
そして、酔っぱらいは黙ったまま駅の改札を通過し、去っていった。
いつも思うんだけど、酔ってぱらってても改札はスムーズに通るんだよなぁ、いつも行っている習慣ってホント凄いっすねw
ちなみに今の時代、酔ってぱらっていても定期パス(券)さえ買っていれば、ロボット駅員が意識混濁者専用車両に乗せ、最寄り駅まで送っているサービスがある。キドもあれで駅までは帰れる、……ただし自宅まではしらん。
キド先輩から解放されたため、さっきから鳴りっぱなしの携帯を取り出す。
「ミイラ君♡ いまどこ?♡」
「今、キド先輩を駅まで送りましたよ」
「了解♡ は・や・く・来て♡」
「あー、了解です、アマミさん」
「待ってる♡ いつものところで♡」
そして、人の返事も待たずに電話が切られた。
……なんであの人は酒でこうも人が変わるのだろうか? 最初飲んだときはマジで僕のことが好きなんじゃないかと勘違いしたもんだなぁとしみじみと思い出される。
その後、アマミ氏が小学生の時から取り組み今ではブラックロープ級(柔道)の腕前の締め技で落とされていなければその気持ちもその思い出もきっと良いものだったのだと今も思っているのかもしれない。お酒? で意識をとばす経験は後にも先にもあれ以来ないが……。
まあ、でも行かないとこの電話攻撃が一生続くことを既に学習しているため、……はぁ、と一つため息を吐いて、重い足を二軒目の居酒屋の方向に向ける。
だがその前にと、いつもの順路にあるもはや常連の粋のコンビニに立ち寄り歓楽街にあるたいていのコンビニに常備されている二日酔い予防用のドリンクを購入した。
その後に二軒目の店へのショートカットとして公園を横切り、公園に設置されているベンチ(ゴミ箱の近くあるヤツ)でドリンクを飲んで、容器をゴミ箱に捨てるのがある意味でルーティーンだったりする。
そのルーティンを本日もこなすべく、公園に入り、カッポー(恋人達)がいちゃつくベンチを避けて、いつものベンチに進むといつもはいない人物がうつ伏せの状態でベンチの上で寝ていた。
その人物は真っ赤なドレスを着た女性だった。靴なんかは左足側が脱げており、正直に言って非常にだらしない。
そして、時折意味不明な奇声を発しながら、固い石のベンチ上で気持ち良さそうに眠っている。
正直に言って実に逞しい。
ただはっきり言って、こんな夜中に女性が寝ていれば不埒な輩に襲われてる可能性もある。
見知らぬ人物だか助けなければなるまい。酔っ払いの相手は先程もしたので……と言うか何故か慣れてはいるし、正直この女性は現在、犯罪を助長するような格好であり、犯罪を助長する状況でもある。
ただ助ける最大の理由は個人的にこの静かなベンチも気に入ってはいるためだ。
次にベンチを利用する機会が来たときにこの人物の安否を毎回気にするのも嫌であったため、酔っ払いに関わりたくないとは思いつつも声を掛けてみた。
「すいません」
「Zzz」
その後、何度か声を掛けたが反応がないため、仕方なく肩を軽く叩いたり、身体を揺すったりして再び声を掛けた。
「起きて下さい。こんな所で寝てると危ないですよ」
「Zzz」
「ほら起きて下さい。おねえさん」
そして、何度目かの繰り返す内に女性は反応を返してきた。
「う~~~ん……」
「ほら起きて」
だが無意識に公園にある街灯の明かりを嫌っているようで、自身の腕で目を塞いだので、女性を起こすためにも少し強引に仰向けにした。
予想としては派手な格好のため、厚化粧のキャバクラ嬢当たりだと思っていたが、だいぶ違った。
化粧も薄く、キリッとした顔の美人だった。街中をキリッとした表情で颯爽と歩いていたら、男子の10人中9人位は思わず振り向きそうな端正な顔をしている。
思わずハッとしてしまいしばらく見つめてしまった。
女性は安らいだような寝顔だが……、中々に酒臭かった。
我に返って、再び揺り起こす。
「美人のおねえさん、マジで危険だから起きて」
「……うん?」
そして、ついに女性は目を開けた。
……美人と言わないと起きない呪いでも掛かっていたのかとちょっと思った。
女性は辺りをキョロキョロと見回した後、眠気まなこで僕に視線を向け尋ねてきた。
「誰?」
それはこっちが聞きたい質問だ。
暫く朝の7時に投稿します。気になったチェックしてください。
面白いと思って頂けたら、嬉しいです。
道 バターを宜しくお願いします。
他にも作品をアップしています。
作者ページを見て頂くと、なんと!?すぐに見つかりますw