黒いメットと白衣の天使
真っ黒な人物の乗るバイクは病院の前を通り過ぎ、角を曲がった辺りの駐車場に入って停まった。
もしかするとヘルメットを外すかもしれないと思いながらも、ヘルメットの人物を注視していると、ヘルメットの人物はバイクを停車させた後、キョロキョロと周りを見ながら、何かを探しているようだった。そして、一度僕がいる病室を視界に入れた後、今度は注視するように視線を固定し、こちらを見ているようでだった。
僕を捕捉している?
だが、そんなことはあり得るのだろうか? こんな真夜中のしかも複数あるであろう病院の病室の窓から照明も点けずに暗闇から見つめる視線に気づくなんて、まあ、仮に高性能のサーモグラフィーカメラで見れば見えなくはないと言われる距離だと思われるが極力、顔は出していない。
ただ悪い方向に考えれば考えるだけ、怖くなって来たため、本来の目的通り、カーテンを急いで閉め、相手の目線から自分を消した。
そして、やや過呼吸状態になってしまった呼吸を落ち着かせるようした後、ベットに向かった際に何かにぶつかり、大きな音を立ててしまった。
慌てて、倒してしまった袖机を起こし、その上に乗っていた色々なものを拾い上げる。もちろんキドの本も回収した。視界は悪いが袋の中から本が飛び出していることはない。安堵しつつ、袋を袖机に戻そうとした際に、ノックもせずに部屋に誰かが入ってい来たため思わず身体が硬直し、動けなくなった。
ヘルッメットの人物か? と予測したが、その予測は外れていた。
現れたのは淡い光を頭部から放つアンドロイド看護師だった。
「ミイラさん、大丈夫ですか? 大きい音がしたので駆けつけました。怪我などされていませんか?」
心配そうな声音で問いかけてきた看護師に幾分か気を落ち着かせながらも僕は
「いえ、大丈夫です。カーテンを閉めてベッドに戻ろうとしたら、袖机を倒したみたいで、すいません」
そう言い反射的に頭を下げる。
「そうでしたか、まあ、このお部屋を使われる患者さんからはたまに外の光が入ってまぶしいと言われいるんでした。すいませんお気遣いせず」
そう言って看護師が頭を下げたのでこちらも反射的に頭を数度下げる。
「いえいえ、そんな大した怪我でもないのにこんな部屋を使わせて頂いて悪いです」
などとのたまっていると持っていた袋の中身がシェイクされ、暗くてよく見えていなかったが実は逆さまに持っていた黒い袋から中身が勢いよく飛び出し、運悪く看護師の足元まで滑り……そして止まった。
「おや、すいません」
そう言って反射的に看護師は本を拾い表紙をライトで照らした後、僕にとってはしばし時間が止まったように感じられたが、表情を崩さずに看護師は僕に本を渡した。
僕は封印を解くべきではなかったと自省の念に駆られながら、冷や汗が止まらない状態で固まって長い時間を過ごした後に本を受け取り、即座に言い訳をした。
「これは、そのぉ~、僕のものじゃなくてですねぇ~」
「そうなんですね。この『真夜中のナースコール 愛欲・・・』」
「読まなくていいです!! すいません!!」
お辞儀から一変し、土下座の勢いで看護師の言葉を遮り、ひたすら謝り倒すことに実に10分程度要して、なんとか無理矢理事態を納めて、看護師に退室願った。ちなみに最後の看護師のセリフは
「私たちに不用意に触わると最悪の場合、感電でビリビリします。くれぐれも変な気を起こさないようにお願いします。それではお休みになって下さい。でも必要であればナースコールをお願いします。……本当に必要な時だけですよ」
と念押しのように言われた。
その後に知ったが感電の件は本当に起きるようで心配停止時の電気ショック機能を看護師型のアンドロイドは持っているようだった。
……正直、冗談でも2000V近い電圧を食らいたくはない。
看護師が病室から出ていった後、窓の外から見られていたという恐怖感はアンドロイド看護師の登場の影響か、かなりなくなったが、逆に看護師に最も隠すべき本のせいで精神力をガリガリと削られたため、気疲れで倒れるようにベットに沈み込み眠りに落ちた。
……そんなミイラとアンドロイドのやりとりを廊下に潜んで誰かが見ているのだった。
本日から7・19時に投稿します。気になったチェックしてください。
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道 バターを宜しくお願いします。
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