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「…。」
僕は思わず声が出せずに頷いた。
彼女のバイザーが淡い光を放ち、再度質問をした。
「……、ミイラさんでお名前は合っていますか?」
「…。」
再び僕は頷いた。
「えぇーーとフルネームは美伊良隼斗さんであっていますか?」
三度僕は頷いた。
「そうですか、……あのぉ~しゃべれないんですか? 診断データ上では頭部裂傷と首の打撲ということですが……、後遺症でもありますか? 生体スキャン上では脳に影響は見られなかったと書いていますが……」
四度僕は頷こうとし、やっぱり止めて、声を発する。
「す、すいません。声は出ます。しゃべれます。すいません」
彼女は安心したように返答する。
「いえいえ、謝らないで下さい。むしろ、声が出て安心しました。ミイラさん、頭と首以外に気になる箇所はありますか?」
「ああ、……大丈夫です」
「そうですか、よかった。でも念のため、先生にも見て貰いましょうか」
そう言って彼女は壁に開いている穴に自身の頭部から引っ張りだしたケーブルプラグを差し込み、「リンク完了」と発した。次の瞬間彼女の顔に着けらえているバイザーに10代後半位に見える女性の顔が写り、スピーカーからは先ほどとは違う女性の声が聞こえる。
「どうもミイラさん、担当医のソエギと言います。体調はどうですか?」
「はぁ、頭と首以外は大丈夫です。すいません。先生、僕はどれ位寝ていたのでしょうか?」
「そうですね。ここに運び込まれたのでが深夜1時ですので11時間位ですね」
「運び込まれた?」
「ええ、救急車でこちらに来られて、私が処置しました。聞いた話ですと工事現場で倒れていたとのことです。覚えていません?」
「……、ああ、そうですね。なんとなく」
「そうですか……、取り敢えず今日は安静にした方がよいでしょうね。検査も含めて、1日、入院して下さい。後ほど警察の方が来られて事情を聞きたいと言っていましたし」
「そうですか……、分かりました」
「では、そのように手続きを進めます。……これは個人的な好奇心ですが、ミイラさんは工事現場で何をしていたんですか?」
女医の目は先ほどの事務的な対応ではなくやや好奇の目で僕を見つめ、問いかけてきた。
「ああ、正直僕もぼんやりしていて……、まだうっすらとしか。あの日は大学のサークルの飲み会の後に自宅への帰り道を歩いていたのですが、柵で囲まれた工事現場の近くを通りかかったとき後ろに気配を感じて……」
「ほうほう」
「そしたら、頭に激しい痛みが走ってそれでたぶん気を失ったんだと思います」
「なるほど、それで、その後どうなったの? 事件に巻き込まれた感じ?」
やや画面越しの女医の顔が大きく見える。座っている椅子から身を乗り出しているようだ。
「ああ、そうですね……、気が付いたら何かと何かが争っていたんですね。凄く大きな音がしていて、たぶんそれで目を覚ましたのかな?」
「ほぉー、それは何だったんですか?」
「まあ、正直暗かったのでぼんやりとですが、黒いヘルメットを被った全身真っ黒な人間と工事現場の警備ロボットのように見えました」
「そうですか……、状況的にはミイラさんを襲ったヘルメットの人物から警備ロボットが助けてくれたという感じなんですかね? でもそう考えると、なぜミイラさんが工事現場にいたのかが分からないし……」
女医は僕の症状を語るときもよりも生き生きとアゴに手を当て、考えにふけっている。
……彼女は職務(医療行為)をほっぽりだしてこんな話をしていていいのかな?とふっと思ったが取り敢えず話に乗っかってみる。
「まあ、ヘルメットの人物が僕を工事現場に一時的に隠そうとしたら、警備ロボットに見つかったんじゃないですかね? ……僕は気を失ってたけど」
「成る程、そう考えるのが妥当ですね。……あっ!?」
彼女は惚けた顔をした後、恥ずかしそうに言った。
……職務を思い出したのだろうか?
「すいません、話の腰を折って、それでヘルメットの人物とロボットが争ってどうなったんですか?」
……まだこの話を続けたいんだろうな、いちよう気になったので聞いてみた。
「あの……、お時間大丈夫ですか?」
「ええ、ぜんぜん大丈夫です。暇なので」
自信満々に答えた女医の表情を確認し、心の中で『さいですか』と納得する。
「何回かの攻防の後に警備ロボットが煙を出して、動かなくなったように見えました。そしたら好機とばかりにヘルメットの人物が持っていた鉄の棒を振りかぶって、ロボットの頭を吹き飛ばしました」
女医はその話を聞いたと後、数秒考えを巡らした後に言った。
「……それ、人間じゃないですよ。絶対」
「ですかね?」
「そうでしょ! だって、人間の筋力じゃ到底金属の塊のようなロボットの頭部を切断なんてできませんよ。ましてや刃物じゃなくて、鉄の棒だったんでしょう? というか本当に鉄の棒でしたか? 見間違いじゃない?」
「まあ、そう思いたいんですけど、ヘルメットの人物がその後、こちらに向かって歩いてきたとき、鉄の棒を引きずっているのが見えました。近くでも見ましたが間違いなく、鉄の棒でしたよ。正確には工事現場にある鉄パイプでした」
「そうですか……、って!? 近付いてきたのロボ殺し!? ミイラさん殺されるじゃん」
医者が言うには何とも不謹慎な発言を見た目10代の女医がする。
「そうですね。ここが本当は天国か地獄というオチでもない限りはそうなってましたよね……。でも、その人は僕を一瞬見たような素振りをした後、僕を跨いで通り越して、何か探した後に僕の真後ろで立ち止まって、僕の顔を布か何かで塞いで窒息させようとしてきました」
「……成る程、そういうことか」
女医は一人納得し、前傾姿勢を止めたようで、先ほどより幾分がバインダーモニター越しに写る彼女の映像は小さくなった。
「何が?」
「いえ、ミイラさんが運ばれた時の状況を救急隊員から聞いたときにすごく違和感があったんですよね」
「だから何が?」
「頭部が包帯でぐるぐる巻きにされていたと聞いていましたので」
「そうですか。つまり……ヘルメットの人物は僕を襲うとしたのではなくて」
「たぶんミイラさんの傷を塞ごうとしたんでしょうね。でもそう考えると更に違和感がある話ですよね」
「そうですね」
……僕は警備ロボットに襲われたことになるのか?
どういうことだ?
……もちろんロボットに恨まれるような理由は思い当たらない。
しばらくの沈黙のあと、ソエギ女医が言う。
「まあ、ミイラさんが警備ロボットを壊した可能性もゼロではありませんが」
暫く朝の7時に投稿します。気になったチェックしてください。
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道 バターを宜しくお願いします。
他にも作品をアップしています。
作者ページを見て頂くと、なんと!?すぐに見つかりますw