第六十四話 フィセラの継承
◇ ◇ 幻想迷宮 ◇ ◇
さて、次は剣系だ。
一気にやっていこう。
「【スラスリィ】!」
これは剣で突く動作を強化する呪文ね。
連発出来そうに無いから実質単発呪文だ。
試してみた感じ、【スラシィグ】、【スラシィガ】、【スラシィル】は全部単発だった。
それぞれ振り下ろし、振り上げ、横振りに対応している感じだ。
どれも単発って所かな。
故に【スラシァ】よりも火力は高い。
「単発強化呪文って所かな?」
《でも、単発だから【スラシァ】が便利すぎてね》
「確かに【スラシァ】は単発じゃなくて持続時間の限り連撃出来るからね」
単発というのは地味に不便かも知れない。
しかも振り上げは火力がどうしても低くなりがちだ。
私は抜刀術をたしなんでいるわけじゃ無いし、そもそもその類いの呪文じゃ無いから余り使う事は無いだろうね。
でも、連撃すること自体は出来なくもない。
ブルダなどの数を示す単語を使えば連続で使う事も出来る。
一番使いやすいのは横振りの【スラシィル】かな?
ただ、数を示す単語は発動回数を示す物だ。
二刀流なんかで二本の剣で二回とかは出来ない。
その場合は四回と数字を増やさないと行けない。
その辺も踏まえて【スラシァ】よりも使い勝手が悪いんだろうね。
「さて、最後は毛色が違う【バリガァス】だね」
呪文を発動させてみる。
・・・・・・何も起こらない。
いつものように剣は光るけど、サポートが入らない。
《それ、防御系だから攻撃が無いと意味ないよ。【パリ】は剣系の防御を示すからね。【スラ】が攻撃で【パリ】が防御》
「え!? 攻撃と防御で読み方変わるの!?」
知らなかった。
道理で剣の呪文なのに毛色が違うわけだよ。
ってことは【ブイシル】とは違うちゃんとした防御呪文って事ね。
「コクウ、ちょっと協力して」
「防御系呪文を試すのにでしょ。ほら、構えて」
コクウは槍を構える。
私は準備が出来たと合図を送ると、そこそこ手加減した一撃を私に叩き込んできた。
すぐに呪文の力を使いこなせないだろうという考えで手加減したんだろうね。
実際その通りだから助かるけど。
「【パリガァス】!」
剣が光り、サポートが入る。
まるで槍を逸らすように体が動く。
コクウが、それに合わせて逸らしたおかげで攻撃は逸れた。
・・・・・・うん、コクウが意図的に逸らしてようやく剃らせる程度だね。
サポート入っている状態じゃたかが知れている感じがする。
呪文の力を逸らす方向に力を全て注いで、自分の意思で動いてようやく力を発揮するかな?
武技ですらないのに逸らせるか怪しいのは呪文の練度不足だろうね。
「これ、呪文の練度が低すぎて【スラシァ】以外役に立つか怪しいね」
「単発なのに【スラシァ】と互角だしね」
まあ、それしか攻撃呪文が無かったから使いまくったからね。
そりゃ初期状態の呪文よりも強いのは仕方ない。
遠距離攻撃が出来る火属性の呪文は【ブイシル】以外役に立つけどね。
・・・・・・本当に役に立たないんだろうか?
なんか、引っかかるんだよね。
そもそも使い方を間違えてる気がしてならないんだよ。
あ、そうだ。
これ試してなかった。
ちょっとやってみようか。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
《【シル】系にこんな使い方があったんだね。知らなかったよ》
「これは結構役に立ちそうだね」
まさか、こんな使い方があったなんてね。
【ブイシル】があれば、剣の単発呪文も役に立ちそうだ。
一番相性が良いのは【スラシァ】だけど差が激しすぎて万全に使えないしね。
《そういえば、他の呪文なんかはそろそろ出てこないの? 一つくらいスキル出てもいいと思うんだけど・・・・・・》
《今はこれが限界かな。ホムラの力が上手く処理出来てないみたいだからね。呪文を発動させて今持っているスキルを完全に馴染ませた後じゃないと無理っぽい》
製作関係のスキルじゃなくても良いから手札を増やそうと思ったけどどうやら無理みたいだね。
やっぱりイレギュラーな形になってしまったのが原因だろう。
時間掛かっても良かったから、イレギュラー起きて欲しくなかったな。
言ってても仕方ないか。
「コクウは幻想の書を手に入れようとは・・・・・・」
「思わない。ただでさえややこしい身の上だからね。手に入れるならオボロとかじゃないかな?」
二冊目を手に入れたらコクウが使えば更に戦力アップって思ったけど、アンノウンとか訳の分からない身の上だし仕方ないか。
まあ、すぐに手に入るかどうかは未知数だけどね。
《幻想の書は作れるの?》
《作れるけど、フィセラの力が無いと無理かな》
「フィセラの力ね・・・・・・コクウはその力を・・・・・・」
「使う気は無いから、ホムラにあげるよ。どうせ持てあますだけだしね。元々向こうもホムラの手に渡ることを考えて渡したっぽいし、いつまでも所持してたらどんな悪影響があるかわかったものじゃない」
フィセラって得体の知れない力だしね。
とりあえず、貰っておこう。
コクウは私の本に手を載せた。
手にあった紋章みたいなのは消えて力が幻想の書に吸い込まれていった。
これでコクウの中からフィセラの力は消えたってことね。
《よし、これで【ザフキビナー】を・・・・・・あれ? 【ザフキビナー】がどこかに消えた? おかしいな? 確かに吸収したはずなのに・・・・・・》
本の表紙を見たところ、セフィロトの樹のビナーに相当する所が変化している。
確かにフィセラは吸収されているんだろう。
どうやら、完全に馴染んでないのもあって力を見失ってしまったみたいだ。
「敵から貰った力だから何か悪影響がある可能性あるのに見失ったの?」
《いや、あれは純粋なフィセラだった。何かを仕込んでなんて無いよ。フィセラに何か仕込んでたら分かるからね。う~ん、やっぱり万全に使う資格を得てないから雲隠れしちゃったのかな? 使い手を選ぶ力だしね》
私自身が問題があるから使えないように隠れちゃったって事?
だとしたらどうしようもないね。
《もしかしたら・・・・・・いや、これは確定では無いし期待させない方が良いでしょ。他の理由を探っていこう》
期待させない方が良いってことは何か都合の良い理由で消えている可能性もある訳ね。
違ったら違ったらでなんかがっかりしそうだから聞かないでおこう。
《とりあえず、そろそろ休もうよ。もう、かなり長い時間集中したりしてかなり疲労が溜まってるよ》
「そうだね。それじゃあ、ぐっすり休むためのベッドをささっと作って寝ようか」
《いや、寝ようよ!?》
すぐ終わるから大丈夫だって。
街判定だから無限資材使えるから出来ること。
木材を大量にだして錬金技術を使ってさささっと作ってしまう。
このくらいなら一分で作れるよ。
そして、布団とかいろいろ作ってベッドの完成。
沢山作っておこうか。
簡易的な拠点になってるしね。
《うわ、本当にすぐに出来たよ・・・・・・本当に製作適性が制限されてるの?》
「されてるよ」
小ホムラで無理矢理どうにか出来る範囲でしかやってないからね。
しかし、本体でここまでバックアップありきで色々やったから、小ホムラ無しでも適性の縛りが無くなれば結構作れる物が増えてそうだよ。
適性縛りで何かすると縛り解いた後のスペックが跳ね上がるからね。
やり遂げないと意味ないけど。
私はできたてのベッドに寝っ転がり布団を掛けた。
パジャマとかに着替えないのはなんか違和感あるけどこの状況下では着替えられないし仕方が無い。
「それじゃあ、寝ようか。お休みなさい・・・・・・」
そして私は目を閉じて眠った。
なお、数分後にトリューとコクウの論争で目を覚ましてしまってブチギレて【ブイフト】連打したりした。
無理矢理起こされるとイライラするからね。
ブイフト 射出待機時間3 冷却時間1
火の玉を飛ばす初球呪文
初級故にかなり気軽に使えるため強くなっても使われることの多い呪文
最初から冷却時間が非常に短いため連射できる
大量に発射可能なのが最大の強み




