第六十二話 メタトロンの受難
◇ ◇ Side??? 幻想迷宮 ◇ ◇
「クソ、何なんだよ」
幻想迷宮の奥底、核となるところにある男は居た。
彼はメタトロンと名乗っている。
天使騙りのメンバーだ。
「グルディスの奴・・・・・・あっさりやられやがって。しかも、俺の兵士共もあっさりと片付けられた。思ったより弱いのか?」
メタトロンは呟く。
しかし、彼は気が付かない。
自身の手札の中でグルディスが最も強いと言うことに・・・・・・
そして、そのグルディスの力を制限しているのも自分であることに気が付かない。
【メタケテル】・・・・・・それは本来支配の王冠では無く祝福を与える王冠なのだ。
使い方を大きく間違えたメタトロンはこれで相手を支配しているのだ。
グルディスは本来メタトロンに支配されるような弱い人物では無かった。
だが、【メタケテル】を用いて支配した者を操り無限に続く数の暴力で圧倒し支配したのだ。
本人の実力などではない。
エネルギーを溜め込むアイテムなどを利用したが故に出来た芸当で素の実力では適う相手ではないのだ。
故に召喚時にスペックに大きく制約が掛かる。
余りにも実力差がかけ離れているのと、心の底からメタトロンに従う気花井が故だ。
強引に支配する相手の為に本気で戦う気になるわけが無い。
そこに思考制御も加えたが故に本来のスペックの一割程度しか引き出せないまま終わっていたのだ。
メタトロンは気が付かない。
徐々にスペックが上昇していた事実にも。
その理由が幻想の書の簒奪の為だったことにも・・・・・・
他の天使騙りは気が付いていた。
メタトロンがいずれ下克上されるであろうことに。
カマエルに至ってはグルディスがメタトロンになることを望んでいた。
それだけ他の天使騙りにも期待されていなかったのだ。
それも当然だ。
この見逃しを除いても、支配の力に頼り切りで自身は殆ど何も出来ないのだから。
保有しているスキルもレアスキルは殆どなく非常に貧弱だ。
幻想の書の力はスキルのレベルによって大きく決まる。
呪文の力もスキルレベルが高くなり、レアスキルへと統合進化することで強くなるのだ。
統合し消滅したノーマルスキルを再び習得しレベルを上げることでその力を増していきやがて特別なスキルを手に入れるのだ。
そこまでしてようやくフィセラの力を万全に扱える。
天使騙りはフィセラの力を扱えることが大前提なのだ。
ザフキエルみたいにフィセラを捨てても自身がフィセラの力を未だに扱えるなら天使騙りの座から降ろされることは無い。
つまり、フィセラの力を万全に扱えないメタトロンは【メタケテル】を所持していても天使騙りの正式なメンバーとして認められてないのだ。
故に新人だの雑魚だのと侮られているのだ。
「しかし、ザフキエルの奴・・・・・・【ザフキビナー】を手放しやがった。後継者、もしくは目的のために利用する気か? まあいい。あいつを俺が支配してお釈迦にしてやる。俺のことをさんざん馬鹿にしやがったしな!」
目先の利益に飛びつく。
ザフキエルが想定しているとおりだ。
その相手がどれだけ厄介なのかも理解せずに飛びつく。
だから馬鹿にされるのだ。
「だが、あのシャウラとか言う奴が厄介だ。あいつ、幻想の書を持っていやがる。しかもどう見てもあの幻想の書を使う奴らの司令塔だ。厄介にも程がある」
迷宮を縛る錬金道具を破壊するべくモンスターを動かした。
しかし、金髪と黒髪のハーフみたいな髪型の女であるシャウラに邪魔をされているのだ。
モンスターがばっさばっさとなぎ倒される。
その光景を見てメタトロンはいらつきを抑えきれなかった。
「クッソ、あのホムラとかいう女が五人目の幻想の書の保有者になるのも時間の問題すぎるだろ。幻想の書の力なしにあのしょーせーざん?とかいうとんでもない威力の技使えるからな。まず間違いなく強くなるだろ。あ~クッソ、ザフキエルの奴が面倒なコトしてくれたせいだろ」
大概自分のせいであるのだが、ザフキエルに押しつけるメタトロン。
援軍を動かそうとしなければホムラとコクウが合流することは無かったのだ。
そして、ホムラが本契約することになったのはザフキエルに出会ったからなのだ。
余計なことをして本契約してしまう自体に持ち込んだのはメタトロン自身のせいなのだが、この類いの人間が自分が悪いと思うことはない。
とことん学ばない奴なのだ。
「このままじゃ不味い。時之眼 時も加われば絶対勝てない。もうあいつ迷宮の目の前に居るんだぞ? あいつ怖いんだよ。当たり前のように俺の計画ぶっ壊すし、得体が知れないしさ。しかも、俺の前のメタトロン殺したのがコイツなんだろ? その地点で成り立ての俺が勝てる相手じゃねえよ」
メタトロンはこの迷宮を作りあげるまで知らなかった。
ザフキエルが去り際に教えたのだ。
先代のメタトロンを殺したのはあいつだぞと・・・・・・
しかもお前と違って異界の魂持ちだったメタトロンをだと。
つまり、時之眼 時ことダイアルは不死身の相手を倒す手段を持ち合わせた人物なのだ。
不死身だった上に自分よりも任期が長かったはずの先代が負けているのだ。
それを知った地点でメタトロンはダイアルに勝てるとは本気で思えなくなった。
確実に負ける。恐らく召喚したモンスター全員復活不可能にされてずんずんと自身の元へと歩いてくる姿が見える。
そして、幻想の書を破壊せず自分自身だけを破壊され【メタケテル】も一緒に奪われるのが見えた。
前回は今回ザフキエルが行ったように別人に【メタケテル】を預けていたから奪われなかっただけなのだ。
だから奪われても何もおかしくないとメタトロンは考えていた。
「クッソ、逃げたいなぁ・・・・・・時之眼 時の脅威をなんでもっと早く教えてくれなかったんだよ。ガッツリ喧嘩売ってしまっただろ」
メタトロンは幻想の書を開いた。
・・・・・・もう後が無い。
死ぬかも知れないけど、どうにでもなれ。
メタトロンはそう考えて、禁断の呪文を唱えた。
「【メタケテル・フィセラ・オルサウン・ヨツトマウ・ショイフォミグ】・・・・・・・グギャァァァァァ!?」
ボコボコとメタトロンの体が異様な変形を始めた。
先ほどの呪文はメタケテルの力を使う、全てを召喚、それを自身に纏い、永続変化する。
つまり全ての召喚可能なものを自身に付与し永続強化する呪文なのだ。
成功するかは怪しい呪文だ。
故に禁断の呪文なのだ。
契約したモンスターや人物は全て人格すらも解体されメタトロンに付与される。
この呪文をメタトロンが唱えた地点でザフキエルとカマエルの戦いは止まった。
グルディスが消滅してしまった以上戦う意味が無いからだ。
もう、カマエルの想定通りには動かない。
これが上手く行ったところで、メタトロンがベースとなるが故にグルディスの要素が追加されたところで意味が無いからだ。
元が元だからそこまで期待できるほどの強さにはならない。
グルディスが本を乗っ取ったとき以上の力は得るだろうが将来性は皆無だ。
この光景を見たカマエルはケッと吐き捨てて生き残っても殺してやると本気で誓った。
この地点で成功しこの場を切り抜けたところでメタトロンに未来は無くなった。
グニャグニャと肉塊は変化する。
ボコボコと変化し、丸一日かけて変化が完了した。
メタトロンを討伐するべく近くまで敵がやってきている。
「ふふふ・・・・・・成功したぞ!」
進化したメタトロンは戯れに迷宮の外を飛んでいた船に向かってビームを放つ。
そのビームは以前まで使えなかった程の威力を誇り一撃のもと船を落とした。
まるで帆船のような空飛ぶ船は崩壊しながら地面へと落ちていった。
「すごい全能感だ。これなら、いや・・・・・・時之眼 時には勝てないな。せめて、俺のやるべき事を終わらせて全力で逃げよう」
このまま、ダイアルに勝てると一瞬メタトロンは考えたが考えを改めた。
不死身の先代がこの禁術を使ってないとは思えなかったのだ。
故に、愚かな行動に出ずに済んだ。
メタトロンは本来の目的である【サドケセド】を手に入れる為に動く。
既に生存の道が無いことを知らず・・・・・・
ダイアル「あ、ビームだ。って・・・・・・あの船を一撃で落とすんだ。良く落ちるよなあいつの船。あの程度でも落ちるとは予想外だけど」
すみません。
ちょっと、毎日投稿が厳しくなったので三日に一度にペースを落とします。
純粋に物語の構築が厳しくなってきてしまったので




