第六十話 閃陽斬の試練
◇ ◇ Sideオボロ 幻想迷宮 ◇ ◇
私はフレイフィルさんが襲い掛かってくるのを見て慌てて避ける。
フレイフィルさんの持っていた刀が私がさっきまで居た場所をなぎ払った。
「え!? なんでフレイフィル殿が襲ってくるんでござるか!?」
「・・・・・・」
フレイフィルさんは何も答えなかった。
それに、なんかフレイフィルさんの表情が無い。
まるで感情がゴッソリ無くなっているかのように・・・・・・
「いや、そうでござった。ここは拙者の内にある陽光の力の根源でござった」
つまり、ここに居るフレイフィルさんが陽光の力に秘められたフレイフィルさんの記憶だ。
恐らく、私が力を求めたからフレイフィルさんの記憶が引き出されたんだろう。
刀を交えて力を会得しろとでもいうのかな?
「なら、やってやるでござるよ」
私は思いっきり構える。
そして一気に刀を抜刀しつつ唱える。
「【居合一閃】!」
武技のワードと共に高速の居合斬りがフレイフィルさんに迫る。
フレイフィルさんは避けるそぶりすら見せずそのまま居合斬りを受けた。
何故避けなかったのか?
理由は単純明快だ。
避ける必要が無かったからだ。
「無傷でござるか?」
「・・・・・・【閃陽斬】」
そして、私はあっけにとられていて思いっきりフレイフィルさんの武技をモロに受けてしまった。
凄いとんでもない激痛を感じる。
でも、体自体は傷ついてない。
恐らく、この空間ではどれだけ攻撃しようがダメージとして通らないんだろう。
ここは恐らくフレイフィルさんが用意した試練だ。
だとしたら、何かしらの突破口があるはずだ。
このフレイフィルさんの幻影と戦いながら突破口を探すのは厳しいとは思うけどやるしかない。
「・・・・・・【閃陽斬】」
再びフレイフィルさんは武技を放ってくる。
あの陽光の力が集約した飛ぶ斬撃だ。
ホムラちゃんの【小星斬】よりかは威力は大分劣るけど、ポンポン連射出来てるからそこまで大技では無いみたいだね。
ホムラちゃんが見たら一発で体得出来るんじゃ無いかな?
・・・・・・そうだ! 体得だ。
目の前に刀を使い陽光の力も使う武技が目の前にあるんだ。
なら、それを体得出来るはずだ。
問題は陽光の力がまともに使えないことだけど、攻撃を受けて気が付いた。
陽光の力をダメージで受けると陽光の力が反応する。
これを意識すれば力を扱えるかも知れない。
「・・・・・・【閃陽斬】」
「行くでござる!」
私は刀を前に出して思いっきり斬撃と鍔迫り合いをする。
斬撃と鍔迫り合いって割とおかしな話かも知れないけど、実際出来ているからこの斬撃は明確に実体があるんだろうね。
そして、受け止めきれない程では無いという強さだ。
やっぱりこれは試練だ。
私の強さを分かった上で試練が出来上がっている。
恐らく、乗り越えた事による報酬そのものは無い。
だけど、この戦いでヒントを得ることが出来るようになっているんだろうね。
乗り越えること自体が報酬になるのがこのフレイフィルの試練なんだろう。
「・・・・・・居合じゃ無い【一閃】!」
不完全な形ではあるけど、無理矢理武技として成立させて斬撃を弾く。
今の私の力でも、これくらいは出来る。
居合では無い【一閃】、【居合一閃】に大幅に劣るけどこれがあの攻撃を体得するベースになる。
直接攻撃で無い斬撃ならこれで受け止められるはずだ。
「・・・・・・・【閃陽斬】」
「【一閃】!」
飛んできた斬撃をはじき飛ばす飛ばす。
このまま踏み込んでフレイフィルさんの幻影に直接攻撃を・・・・・・
「・・・・・・・【閃陽斬・二連】」
そう思ってたら斬撃が二つ飛んで来た。
威力は一つの時より少し弱まってるけど、【一閃】でははじけない。
一が付いているように一撃だからこそ使える武技だから連続で使う事が出来ない。
ただでさえ弱まってるのにこれ以上手を加えたら、武技の形すら成立しなくなる
そしたらただ普通に刀を振っているのと何も変わらなくなる。
私は斬撃の一つをはじき飛ばし、もう一つを即座に受け止めた。
そして武技が再び使えるようになってすぐに【一閃】を放ちはじき飛ばす。
斬撃を受け止めたせいでかなり後退してしまった。
「・・・・・・【閃陽斬】」
どうやら、近づくことにより攻撃パターンは変わるみたいだ。
最初に接近してから【閃陽斬】を受けて私がはじき飛ばされて以降はこのワンパターンを続けるつもりみたいだ。
それだと正直助かる。
私は斬撃をはじき飛ばしつつ考えた。
二連続の斬撃にどうやって対応するのかを・・・・・・
最低でも武技でないと斬撃ははじき飛ばせない。
私が使える武技は【居合一閃】だけ。
それを居合斬りにせずに弱体化させたものが【一閃】だから根本的には同じものなんだ。
武技が一つしか無いんだからどうすることも・・・・・
そう思っていたら何かを思い出してきた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
それは、昨日の記憶。
ホムラちゃんとメンバー全員で兎竜と戦ったときの記憶。
レクト兄とドルフィスさん、コクウちゃんがやられて私とホムラちゃんだけになったときの出来事・・・・・・
「ホムラ殿!? あの兎竜のブレスを受ける気でござるか!?」
兎竜が改良した特殊な火炎ブレス。
これにはホムラちゃんも完全には耐えられない。
故に、兎竜はホムラちゃんにも積極的に使ってくるんだ。
「私、考えたことがあるんだ」
「考えたこと? でも、【小星斬】ではじき飛ばすことはできてもまだ使えないんでござろう?」
さっき使ったからこそ兎竜はチャンスとみて火炎ブレスを放とうとしているんだから・・・・・・
どう考えても、出来ることはない。
対抗する新しい武技でも開発しない限りは・・・・・・
「私の【小星斬】は陽光の力・・・・・・つまり炎が加わっている。なら出来るはずなんだ」
ホムラちゃんがそう呟くと同時に、兎竜は火炎ブレスを放った。
まるでレーザーのような超高熱の火炎ブレスだ。
ホムラちゃんは、それを剣で受け止めた。
受け止めた炎はそのまま剣の中に吸い込まれていく。
そして、その剣はまるで【小星斬】を放つ前の状態へと変化した。
「敵の力を利用するということがね」
「ラビビ!?」
「それ! 【小星斬】!」
そして、まだ放つことの出来なかった【小星斬】を再び撃った。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
そんなエピソードを思い出した。
あのあと、兎竜が対策してただの鎖をぶつけて再発動の邪魔をしたことで負けたんだけどね。
そうだよね。
敵の力を利用すれば良い。
斬撃はあのフレイフィルさんの幻影が掌握していない。
ただ飛ばしているだけだ。
なら、出来るはずだ。
「・・・・・・【閃陽斬】」
私は刀を構える。
そして、斬撃を受け止める。
そのエネルギーを刀に吸収するようにイメージを固め、闘気を刀に纏わせる。
受け止めた斬撃を学習し私のものにする。
今の私ではそっくりそのまま使う事は出来ない。
だから私の持つ武技から派生させる。
刀を鞘に仕舞う。
そして、勢いよく抜き放つ。
抜きはなった刀身には陽光の力が纏われており、それが斬撃となって飛ぶ。
「【陽光一閃】」
「・・・・・・・【閃陽斬】」
私の斬撃と、フレイフィルさんの幻影の斬撃がぶつかり合う。
私の斬撃がフレイフィルさんの斬撃を打ち砕きフレイフィルさんの幻影を斬り裂く。
私の武技が打ち砕いたんだ。
大きな貯めは必要になるし、それでも【小星斬】には及ばない威力だけど、ようやく私の力で陽光の力が使えるようになった。
陽光の力を使いこなせるようになれば完全な形の【陽光一閃】が使えるだろうし、【閃陽斬】も使えるようになるだろう。
短い間だったけど、とてつもなく大きなものをくれたんだね。
フレイフィルさんこそが私の一番の師匠だと思う。
私はそう思いながら現実へと戻っていく。
ここでの戦闘はほんの一瞬の出来事だ。
想定外のことにはなったけど、結果は出せた。
少しでも役に立てるように戦おう。
フレイフィル「陽光の力の中には、私の刀の技術の詰め合わせが追加で入っているよ。未来はワールドゼロこそ殆ど居ないんだろうけど平和では無いだろうからね。一応、私の試練を受けられるようにしておくことにしよう。実践こそ強くなるための最短ルートだからね」




