第五十六話 ホムラのかつての記憶
◇ ◇ 幻想迷宮 ◇ ◇
謎の迷宮での一日がもうすぐ終わる頃にようやくコクウと合流出来た。
まあ、モンスターが不自然に移動したのを私が察知したからこそ見つけられたんだけどね。
正直、それが無ければ見つけられなかった。
にしても、天使騙りがもう一人居るとは思わなかった。
ザフキエルと名乗った男は、メタトロンよりも強いらしいけどね。
なんか、コクウに執着してたし、何かに利用するつもりで見逃された感が強い。
まあ、普通に戦ってたから勝てる相手ではなかったけどね。
《さっきのって・・・・・・ヒューリ? なんで天使騙りに?》
《知り合いだったりするの?》
《うわぁ!? なんで、声に出さずに思念で会話出来るの!?》
《話しかけられる感じを解析して感覚つかんだ。そして、わざわざ思念で会話している理由は余り声に出して話さない方が良いと私が判断したからかな》
多分、深く触れられたくないことでしょ。
呟いたのってザフキエルの本名か何かでしょうし。
《・・・・・・風の勇者ヒューリルス。それが彼の本当の名前だよ》
《やっぱり知り合いなんだね》
というか、勇者だったんだ。
あれ、結構狂ってる感じしたけどね。
何があってあそこまで狂ったのか理解出来ないけど。
《彼は立派な勇者だったんだよ。まあ、ヒューリの会話の情報を使って得た考えを読み取るとかそう言う力があったから滅茶苦茶おしゃべりだったんだけどね。あそこまでマシンガントークみたいに喋っては無かったけど》
元々おしゃべりだったのが悪化したんだ。
でも・・・・・・勇者ってそれなりに良い人のはずだよね?
悪役勇者って感じは会話からはしない。
だから正統派勇者のはずだ。
《なんでああなったのか分かるの?》
《・・・・・・リスクだよ。幻想の書のリスク。彼は嵌められてそのリスクを酷い形で背負ってしまったんだよ》
幻想の書のリスク。
ソニスが本契約したくない最大の理由ね。
端からみればメリットにしか見えないとか言っていた。
裏を返せばちゃんと見るとデメリットが大きいって事なんだろう。
《異界の魂という特殊な魂の持ち主は幻想の書に永久に縛られ不死身となる。どれだけ傷つこうが決して死ぬことは無く、時間をおいて幻想の書を開けばその肉体は再構築され何度でも復活する。それが幻想の書のリスクだよ。ホムラ、君も異界の魂の持ち主だからそのリスクを引き受けることになるんだ》
《うわぁ・・・・・・幻想の書を開けば復活って・・・・・・・もしかして狂ったのってそういうことだったりする?》
一度肉体を破壊し、幻想の書を開けないように封印して長期間放置された結果ああなったんじゃないかな?
彼は嵌められたってことはそうなるように誘導されちゃったって事だろうし・・・・・・
《察しが良いんだね。デメリットなんて無いなんて言わないんだ》
《死ぬことは無いってだけでしょ。死ねない苦しみもあるってことは私も知ってるからね》
どれだけボロボロになろうが死ぬことは無く、どれだけ痛みがあっても死ぬことは無い。
自分の意思で死ぬことは出来ず、何故生きているのか理解出来ない。
そんな時期がかつての私にあった。
どういう経緯でまともな容姿になったのか、全身がボロボロにならないようになったのか分からないけどね。
思い出せているのってそのくらいだし・・・・・
《知ってる? 私のさっきの探知能力がどこから来てるか?》
《探知? 確かに幻想の書の力ではないね。どこから来てるの?》
《私の痛覚。大昔は化け物じみた体になるくらい普通に過ごしているだけでボロボロになってたんだよね。忘れてるからどういう経緯でまともな容姿になったのかは知らないけど、ボロボロになる痛みまでは消えてないんだよ》
ゲーム内でもその辺は忠実に再現されていて、私は常日頃から全身が派手に痛む。
ある意味、オボロの上位互換とも言えるとんでもない体質だよね。
オボロはボロボロになるのを最近克服できたみたいだから、陽光の力を得てこの体質を克服したんじゃ無いかなって思ってたりする。
オボロも同じように痛みだけは残っているんだろうけどね。
私は空気とかの動きを繊細に感じすぎて痛みを感じているんだ。
恐らく、体が傷つく前に瞬時に再生してるから体がボロボロにならずに済んでいる。
陽光の力に再生能力があるみたいだしね。
しかも、私のはオボロのとは比較にならない程の強力な再生の力が。
多分、そのくらいないとかつての体を再生出来なかったんだろうけどね。
でも傷つく程に繊細に痛覚を感じるなら、そこから情報を手に入れることが出来る。
痛みを解析することで周囲の状況を把握出来るんだよ。
これって地味に凄いよね?
小ホムラのフィードバックもあって感知能力も高まってきたし、今現在は全ての小ホムラを私の思考能力拡張に使っているから感知能力もかなり高い。
今なら迷宮の壁越しにいるモンスターの移動も感知出来る。
それがあって私はコクウを見つけられたわけだしね。
《え・・・・・・何それ? いや、痛覚から情報を抜きとるって厳しくない?》
《まあ、痛みと向き合うことになるから苦しみを自分から背負っている感じになるよね》
辛くないわけが無い。
でも、無意味な痛みより意味のある痛みの方が良いと思うんだよね。
どうせ痛みを受け続けるのには変わりは無いんだから、向き合った方が良いでしょ。
ただ受け続けるのでは無く、そこから先に進むための力として手に入れる。
それが一番いいと思うんだよ。
《まともだと思ってたけど、イカれてるところがあったんだね》
《こんな体質持って生まれたんだから普通の人と異なる所なんていくらでもあるでしょ》
他者から行かれてるかも知れないけど、こういう形でも無ければ私はまともに生きることすら叶わなかった。
今は自殺する気は無いけど、昔はどうすれば死ねるかとか考えてたからね。
死ぬ気なら全てが自殺みたいなものだからか、何をやっても死ねなかった。
というか、自分が死のうとすれば余計に酷くなるばかりだった。
だからこそ、力を求めた。より強い力を・・・・・・
思い出してきた。
そうだよ。陽光の力は私が産みだしたんだ。
ある日、何かしらの転移事故みたいなのに巻き込まれ私の体は恒星の中に放り込まれた。
焼け付くような痛みの中、そのエネルギーを自分の物にした。
何年も、何十年も、何百年もかけて・・・・・・
あれ? 私の年齢って13歳だったよね?
もしかして、年齢詐欺してる?
・・・・・・記憶喪失が原因ってことにしておこう。
どうせ記憶の時系列あやふやだしね。
年齢も思い出せないし、今の年齢が私の年齢ってことにしておこう。
それと、コクウの力と同じ感情燃動力炉だったっけ?を持った子が私と会っているらしくてそれを対策した技術をかすかに覚えていた結果らしい。
感情燃動力炉は対策無しじゃ普通にどんな奴でも防げないくらいのやばい代物らしい。
うん、とんでもないよねそれ。
それを防げる私って何者なのって思ってしまうよ。
知ってたらコクウもそう思って・・・・・・あ、既に思っているみたいだね。
記憶無いから聞いたところで無駄と思ってるだけみたいだね。
《勝手に記憶取り戻して自己整理しないで欲しいんだけど。恒星に放り込まれて生きてるって地点でかなりおかしい事だよね》
《あ、思念が漏れてた? ごめんね》
《・・・・・・本契約の件だけど、契約してあげるよ》
なんか、突然契約すると言い出した。
あんなにいやがってたのに・・・・・・
《いいの?》
《なんか、元々自殺出来ないみたいだしね。それに、狂うことも無さそうだしね》
確かに、狂うことは無さそうだね。
死ねないからこそ狂ってしまう要因になり得るわけだしね。
死ねない事による苦しみは私が経験したもの以外にも無数に存在することは理解している。
もうリスクは承知の上だしね。
《それに、契約しなかったら天使騙りに何されるか分かった物じゃ無いしね。あいつら、多分無理矢理契約させてくるだろうし、それなら無関係な私が先に契約して身の安全を確保した方が良いでしょ》
まあ、そうだね。
一生つきまとうことになる契約をこんなあっさりしてて良いのかと思うかもだけど私は別に構わないんだ。
契約した方が良いという直感を信じてるからね。
こういう重大なことに関する時の直感は信じた方が良いと私は思ってるから。
ホムラ「しかし、オボロって陽光の力を何処で手に入れたんだろうか? 多分覚えてない誰かに渡した陽光の力を別の誰かが覚えさせたとか? 最低でも陽光の力を最大限に扱えていることが最低条件だからね。渡せる人なんて居るのかな?」




