第五十五話 天使騙りの仲間割れ
◇ ◇ Sideコクウ 謎の迷宮 ◇ ◇
「ふふふ、ますます楽しみになってきましたよ」
「な、何なんだ。この狂人眼鏡ヤローは・・・・・・」
「お前が天使騙りのメタトロンか!」
ホムラが何処で天使騙りやメタトロンのことを知ったのか分からない。
でも、いつの間にかザフキエルと同じ本を持っているってことはそれが原因だったりするのだろうか?
「残念! 私の名前はザフキエル。メタトロンではありませんよ。最も、奴よりも私の方が遙かに強いですがね。あの馬鹿のせいで迂闊に始末出来ない横やりが出てきた時には撤収前にぶん殴ってやろうかと思ってましたが・・・・・・まさかこんな偶然があるんですね」
「話長いなコイツ・・・・・・」
兎獣人と思われる少年が呟いた。
まあ、話長いよね。明らかに。
「良いでしょう。感情無き少女よ! 私は貴方を認めましょう。名は何という?」
何があったのかは知らないけど、どうやら認められたらしい。
結果オーライと言ったところかな?
ホムラ達が来たとは言え、本格的な戦闘になっていたら確実に負けていただろうからね。
ダイアルが来ていたなら話は別だったかも知れないけど・・・・・・
「コクウ。強欲のアンノウンのコクウだ」
「アンノウン!? 道理でそういう力を持ち合わせているわけですね。ひょっとして、さっきの力は絶対遵守の力? ルールオーラとして扱えるレベルにまでは昇華されてないみたいですが、攻撃の瞬間少しだけ流し込むと言うことが出来るんですね。いやいや、実に興味深い」
普通に知っていたんだね。
絶対遵守の力に関しても。
「コクウ。私は君の名を記憶に刻むとしよう。次に会うときにには私にもっと良い物を見せてくれることを願おう」
ザフキエルが一気にボクに近寄ってきた。
そして、ボクの右腕を握った。
「そして、これはプレゼントです。今の私にはもう必要ありませんからねぇ。君が使うなり誰かに与えるなり好きにすれば良いですよ。メタトロンが目の敵にするでしょうが、アレは驚く程弱い。私と比べたら驚くレベルですよ」
ちょっとまって。
今渡されたのってまさか・・・・・
手のひらを見てみると奇妙な力が宿っている。
ひょっとしなくてもザフキエルの持つフィセラだよね。
こんな物渡されたら、メタトロンって奴が奪い返しに来るでしょ。
目の敵にするって言ってるし間違いない。
絶対コイツの独断専行だ。
問題が起こるでしょ。
「ちなみに、奴は時之眼 時を恐れてます。今奴が幻想迷宮の結界の前に居ますからこれを奪いたくても動くに動けないでしょう。迷宮の核になっていますから当然ですけどね。コピーとはいえ【ザフキビナー】は持っています。手放しても何も問題ありません。複製でも持っていればいいですからね」
うわぁ、天使騙りってその編ゆるゆるなのか?
そう思っていたら、ザフキエルがいつの間にか消えていた。
「では、さようなら。またいずれ会いましょう」
その言葉を残して忽然と消えてしまった。
とりあえず、どうにか切り抜けられたみたいだ。
「大丈夫なのコクウ?」
「大丈夫ではないかな。もう気が付いてるんでしょ」
「まあね。とりあえず、感情の仮面を付け直さないと。トリューが巻き込まれて無感情になりかけてる。急いでその力を緩めて」
・・・・・・え?
「ホムラは、平気なの?」
「ん? 何となくね。対処の仕方は見れば分かるでしょ?」
今まで動かしてなかったツケが回ってきていて、感情燃動力炉をすぐに停止出来ない。
それ相応の感情を未だに奪い続けているはずなのに平気?
フレイフィルですら、大抵に相手に効くと太鼓判を押したこの力が?
今、ホムラが手にしている本の力ではない。
ホムラの本にそんな力は無い。
それなら、ザフキエルが何も言わないわけ無い。
防げる力なら防ぐそぶりはするはずなのだから。
・・・・・・あいつを理解するのもアレだけどね。
だとすれば、ホムラは自分の力で感情燃動力炉を無力化したってことだ。
一体ホムラは何者なんだ?
ボクの感情隠しにも気が付いていたみたいだし、いくら何でも察しが良すぎる。
記憶失っているから本人に聞いたところで何も出てこないんだろうけどね。
でも、恐らくザフキエルは知っている。
明確に反応していた。
恐らくだけど、このフィセラとかいうのもホムラに対して渡すことを目的にしているんじゃ無いかって思える。
ただのプレゼントとは思えないしね。
ホムラの記憶を取り戻す鍵は天使騙りが握ってそうだ。
この一件が終わった後、天使騙りを追いかけるのも一つの手かもしれない。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「まあ、流石に気が付くよね。私がフィセラを渡した理由を。タイミングがタイミングだったしねぇ」
にやりと笑いながらザフキエルは呟く。
「おいおいおい、ザフキエルさんよぉ。フィセラを渡しちゃって良いのかよ?」
映像を見るザフキエルに一人の女が近づく。
赤い灼熱のような髪の色を持つ女だ。
そして、ザフキエルと同様に腰にブックホルスターを付けている。
「おやおや、カマエルさんではありませんかぁ? 何のようですか?」
「テメェがフィセラを何処ぞの馬の骨にやったから様子見に来たんだよ。馬鹿かテメェ」
「馬鹿ではありませんよ。そもそも、天使騙りの目的の一つですよねぇ? コクウに渡せば必然的に彼女の手に渡ります」
「ってことは、あの女はもしかして・・・・・・あぁ、なるほどな。都合が良かったから渡した訳か」
「分かりましたか? そういうことなんですよ」
「なるほどなるほど・・・・・・【フェバイツ・ケボル・スランフト】!」
カマエルはニヤニヤしたザフキエルの顔に呪文をはなつ。
強大な炎の槍はザフキエルに突き刺さる前に消えた。
「酷いじゃ無いですか。フェーズ2の呪文を使うなんて・・・・・・殺す気ですかぁ?」
「俺もお前も完全に殺しきること出来ないだろ」
カマエルは地団駄を踏む。
それを嗤うザフキエル。
「メタトロンは俺が利用するつもりだったんだ。ここに居るって事は、俺の介入を防ぐ事も目的だろ?」
「ええ、天使騙りという共通の目的はあれど、我々には各々の目的はあります。私にとっては既にメタトロンは邪魔で、貴方にとってはメタトロンが必須。なら必然的に争いになるのは必然。全て終わるまでおとなしくしていて欲しいものですねぇ」
「ああ、そうかい。あんたがその気なら容赦はしないよ! 【アタツクス・ケボルフト】!」
「ふふふ、これもまた面白い! 天使騙り同士での戦いなんて滅多に無いですからねぇ! 【リビゥド・スブレ】」
灼熱の炎と雷を纏った風がぶつかる。
強大なエネルギーのぶつかり合いで激しく空間が震える。
異空間で無ければ街一つ吹き飛んでいてもおかしくなかっただろう。
「【アタツクス】使うなんて頭おかしいですよね?」
「おかしいのはお前だろ。なんで【スブレ】単体で【アタツクス】を相殺出来るんだよ」
「ただの炎が雷風に勝てるわけ無いでしょうに。そもそも、あれだけの数の炎を維持する酸素を供給出来てない地点で【アタツクス】の意味が無いんですよ」
「フフフ、ならお望み通り酸素を供給した奴をくれてやるよ! 【ケボルウド・スランフト】!」
「【シュダ・ケボルウド・ルドソ・トリフト】」
両者ともに、炎の力で攻撃する。
炎の力は中央でぶつかり合う。
「真似するんじゃねぇ!」
「呪文の意味も分かってないんですねぇ。真似したんではありません。貴方の呪文を取り込み更に強くするためですよ」
そして、ぶつかった炎は威力を増してカマエルの元に飛んでいく。
「んな!?」
「【トリ】は浮遊制御操作の意味ですよ。属性が同じ【ケボルウド】で無制御ならこれだけで簡単に乗っ取れます。見た目だけで判断は危険ですよぉ?」
「ウゼェ。マジでウゼェなお前!」
そして、ザフキエルとカマエルは両者争いあった。
それはカマエルがうんざりして帰るまで異空間の間で数日にわたって繰り広げられたという。
ホムラ「ザフキエルって味方?」
作者「敵だよ。天使騙りが一枚岩ではなく、それぞれの目的で動いているところがあるから協力しているように見えるだけ。さて、ザフキエルは何を企んでいるんだろうね」




