第五十四話 横やり
◇ ◇ Sideコクウ 謎の迷宮 ◇ ◇
「良いですねぇ! 最高ですねぇ!」
本に一撃を食らわせたのにかなりぴんぴんしている。
本当にダメージがあるのかと突っ込みたいくらいだ。
はたして、感情燃動力炉が本格的に稼働し出しても倒せるのだろうか?
「さて、それでは・・・・・・ん?」
そんなことを考えていたら、壁が砕けてモンスターの群れが侵入してきた。
どれもこれも凶悪な表情を浮かべたモンスターばかりだ。
これも相手にしないと・・・・・・
「【スーム・ヒマクタイ・ルドソフト】」
ザフキエルが呪文を唱えた。
無数の風の刃がモンスター達に襲い掛かる。
モンスター達は全員、その風の刃に沈められた。
ピクピクしているのに動かない辺り、麻痺している可能性もある。
「・・・・・・援軍だったんじゃ無いの?」
「私には必要ありませんけどねぇ。指示出してないのに勝手に送ってくるなんて、これだから馬鹿は困るんだよ。君と違って、雑魚丸出しで、三下で、他人を操って戦うことしか能がない。評価すべき点が殆ど無い、天使騙りの中でも最弱。新人だというのを加味しても、フィセラを持っていること以外、評価出来る点が殆ど無いのも残念な点だよ」
滅茶苦茶いうね。
援軍送ってきた奴は相当コイツにとってはどうでも良い存在なんだろうね。
「いっそのこと、君が新たなメタトロンにでもなってくれれば良いんですけどねぇ」
「へぇ、メタトロンって名前なんだね。というか継承するんだ」
「私もザフキエルとは別に本来の名前があります。天使の名を騙っているのだから騙る前の名前があるのも当然ですよ。もはや思い出すことすら出来ませんがねぇ」
よく考えなくても、天使の名を騙っているんだから本来の名前が他に存在するのは当たり前の話だったね。
しかし、天使騙りになるには恐らくフィセラというものがあれば誰でもなれるのだろう。
「とはいえ、あなたたちにとっては天使騙りのしようとしていることは許容出来ないでしょうから、最初から仲間になるなんてあり得ないんですがね。私も勇者時代なら許しては居なかったでしょうし」
なるほど。
つまり、過去の自分が否定するような行動をしている訳って事か。
「なんで過去の自分が否定するようなことをしているんだよ」
「今となってはどうでも良いですからねぇ。もう狂いまくって、正気では無い。自分でも分かってます。だから、刺激を求めてるんですよ。新しい何かを探すために! そのためなら、過去の自分が否定するようなことでもやります。報いを受けるその日まで!」
ホムラじゃ無いけど、コイツに何があったのか分かった気がした。
・・・・・・今のボクにはコイツを倒すことは出来ない。
適性に縛られているボクでは手札が少なすぎるからだ。
でも、コイツを引かせることくらいなら出来そうだ。
彼の求めている何かをボクは持ち合わせている。
でも、今のボクにはそれは扱えない。
絶対遵守の力・・・・・・
恐らく、名称も力の正体も知らないんだろうけどそれが引き起こす事象をコイツは求めている。
具体的な目的までは分からないけどね。
さて、それじゃあ一気に出力を上げていくことにしようか。
感情燃動力炉は暖まった。
ここから一気に始動させていくよ。
・・・・・・気合い入れたつもりなのに気合い入れきれてないあたりが残念感漂わせてるけどね。
私は、闘気術の【瞬脚】で高速移動する。
瞬時に足で移動する特殊な技術だ。
武技とはまた異なる技術で、良く多用する。
「【雷撃の槍】!」
「ビギィ!? あぁ! いきなり、身体能力が向上しましたねぇ! それが、それこそが君の力の真骨頂ですか!」
感情燃動力炉。
それは感情を糧に自身のスペックを底上げする動力炉だ。
出力を向上させて、他者の感情を奪い炉にくべることによりどんどん強くなっていく。
永続的にではないのが残念なところではあるけどね。
だけど、その代わり感情の略奪を相手が防ぐ手段は無い。
オボロが試練に挑んでいるときに、フレイフィルにそのことを聞いてみたところ、絶対遵守の力を持つ者でも防ぐことはできないだろうとのことらしい。
感情を奪うだけなら、どんな相手だろうと確実に奪えるとのこと。
まあ、フレイフィルは奪えない最低限の感情以外は表出させないように感情制限してどうにか出来るらしいからこのこと知っていれば対策は出来ないことも無いらしいけどね。
少なくとも、事前に知っていなければ自分でもそう簡単にはどうにか出来ないとのことらしい。
・・・・・・簡単にはできないと言っている地点で出来ると言ってるような物だけどね。
まあ、あんな環境下で単独で生き延びていればそりゃ強くなるでしょとしか言えないけど。
そんなわけで、ごく一部の例外にしか対処が出来ないのがこの間情念動力炉による感情の略奪だ。
そして、ボクは略奪した感情を糧にパワーアップする。
体内エネルギー量は回復しつづけ、更にパワーアップするなんて強力すぎる。
故に、危険だ。
こんなもの、使いすぎればボクは他者の感情を略奪することを目的に動いてしまう。
ボクには感情が無いんだから君達もって感じでね。
こうはなりたくないんだ。
ボクは他人の感情を奪いたいんじゃ無い。
感情を得て、皆と笑い合いたい。それがボクの望みだ。
それが歪んでしまうなんて、余りにも凶悪で危険な力なんだよ。
これが無くなれば、ボクの望みも叶うんだけど捨てられない。
だから、強制的に奪われる自分の感情以外は奪わないように出力を抑えて使ってなかったんだ。
でも、使うべき時には使う。
余り頼りすぎたくはないけども、使わないとどうしようもない自体なんてあるんだから。
でも、せめて敵の感情だけを奪えるように制御できるようになりたいところだ。
いままで使ってなかったから何処まで出来るのか一切分からないしね。
「あぁ・・・・・・良いですねぇ。しびれますねぇ・・・・・・それじゃあ、こっちもそろそろ戦いますか」
ザフキエルが本を背中のホルスターに収納し構えた。
その手にはいつの間にか剣が握られている。
どう見ても量産品の剣だ。
「君の武器は出さないの?」
「出しませんよ。ここで決着付けるつもりはありませんから。貴方の実力をある程度見たら撤退するつもりです。まあ、私を失望させなければの話ですが」
撤退するのは失望しなければね。
つまり、本気で取りかかって失望させないように戦わないとってところか。
さて、それじゃあ少ない手札で何処までやれるかな。
使える闘気法と武技でどうにか・・・・・・
そう考えていると、壁がドゴンと破壊された。
見たところ、武技【小星斬】による一撃による壁破壊だろう。
となれば、当然それを行使した者は・・・・・・
「やっぱり居た! コクウ!」
「無事だったんだね。ホムラ」
喜びの感情の仮面を付けず無表情で答える。
正直、感情燃動力炉をここまで出力上げると仮面すら付けられないからね。
「はぁ、あいつが余計な横やりいれたせいでそっちの援軍まで来ちゃったよ。絶対不自然なモンスターの移動が原因だろ。いくら変幻自在の迷宮といえど、感知能力が高い奴がいれば必然的に戦闘してる奴がばれるのも必然だ。潮時か・・・・・・」
ザフキエルが興が削がれたという表情をしながら乱入してきたホムラと名も知らぬ少年を見た。
そして、なにか驚いた表情を見せた。
「さっき、ホムラって呼ばれたか? ああ! そういうことか! 【サドケセド】を持っているのは彼女では無いな! 使えるのも当然だ。別に陽光の力はフィセラ持ちに限った話じゃ無いのだから!」
なぜか、超興奮し始めた。
ホムラを見て何に気が付いたんだ?
ソニス「【スーム・ヒマクタイ・ルドソフト】。数を増やす【スーム】を繋げた呪文だね」
トリュー「どんな呪文なんだ?」
ソニス「【ヒマクタイ】は確か痺れさせる気体で、【ルドソ】が剣状の、【フト】が飛ばすだから痺れる空気を剣状にして飛ばす呪文って所かな?」
トリュー「呪文全体に意味があるのかよ!」
ソニス「そりゃあるよ。意味さえ分かっていれば呪文を聞くとどんな呪文なのか一発で分かるからね」




