第五十二話 分身する男
◇ ◇ Sideコクウ 謎の迷宮 ◇ ◇
「ここは一体・・・・・・」
気が付けば奇妙な空間にボクは居た。
さっきまで拠点で色々とやっていたはずなのに・・・・・・
一体何が起こったというのだろうか?
「しかも、ここに倒れてる人って・・・・・・リエラだったかな? オボロのお姉さんの」
ちゃんとしたところで寝かされていたはずの人がこんな所で転がっているなんてただ事では無い。
呪いの進行を抑える処置も無くなってるし、これはかなり不味い気がするね。
眠らせているから、呪いの進行は遅く放ってはいるけども・・・・・・
「おやおやお~や? なんで、余計なものまでくっついてきているんですかねえ」
声がした方を見てみると、メガネを掛けた胡散臭い男がそこにいた。
ニヤニヤとした笑いが何というか、人を陥れることしか考えてない感じがする。
いけ好かないというか何というか・・・・・・
「お前か? この騒動の原因は」
「君が知る必要は無い。【ヒュスラン】!」
男が呪文らしきものを唱えると、空気の槍が出現した。
男は手を振るい、空気の槍をボクに向けて射出した。
ペチンとボクは平手で槍を消し飛ばす。
この程度なら、素手ではじける。
「ほう、いくら初級呪文とはいえまさか素手であしらうとはねぇ。こんな十年ちょっと生きただけのガキがそんなこと出来るなんて思えない。何者だ?」
「敵に答える義理はないでしょ」
インベントリから槍を取り出す。
ホムラに強化して貰い更に頑丈になった槍だ。
一瞬だけなら全力で振るっても問題無く使える代物だ。
予備として何十振りも用意してあるから、それなりに戦えるはずだ。
「それも・・・・・・」
「【雷撃の邪眼】!」
バチバチっと私の左目で視認していた男を麻痺させた。
そして一気に槍で心臓を貫く。
邪眼術、それは私の姉が使う呪術の類いだ。
私の姉は相当特殊な経緯で生まれた六姉妹だ。
それぞれ特別な力を持っていて、三女の力が左目に宿る邪眼の力だ。
といっても、似たような効果を持つだけの別物なんだけどね。
ボクは先に生まれた六姉妹の影響を受けてそれぞれの力を手に入れているだけだからね。
呪術とかの類いだと似たような力にしかならない。
ボクが本気で呪術を学ぶ気にならない限りはね。
今使ったのは雷撃の邪眼、麻痺の邪眼とも言う。
文字通り相手をしびれさせ一瞬行動不能にする邪眼だ。
連発が出来ないとはいえかなり強力な力だ。
ちなみに、この力を今まで使えなかったのは適性が無かったからだ。
戦闘系の全ての適性を獲得したときについでに巻き込まれる形で取り戻すことが出来た。
と言っても、一つだけ使えるようにするために他の邪眼は使わないという制約の下ようやく発動出来ているんだけどね。
多分、前提適性が邪魔してて大幅に弱体化している。
それを覆すために、大量の邪眼を封じる形で使えるようにしているんだ。
前提適性が分からない以上は全ての戦闘技能を上げていく形で手に入れるしか無いだろうね。
ボクが最優先で獲得を狙ったことからも分かるとおり、これはかなり強力だ。
見るだけで相手を一瞬動けなくする効果があるからね。
ボクの気に入りだ。
しびれて動けない男は一瞬で心臓を貫かれ・・・・・・
・・・・・・何か妙だ。
手応えが薄い。
それに・・・・・・
ボクは、直感を信じて槍を振るった。
すると、杖を構えた男が私の槍のなぎ払いを受け止めるように出てきた。
さっき貫かれて死んだはずの男が・・・・・・
「へぇ、まさか心臓を一突きされて生きてたなんてね。手応えがおかしかったし、分身か何か?」
「なんで分かるのかなぁ。本物と変わらないレベルの分身のはずなんだけどねぇ」
やっぱり分身だったか。
手応えが妙だと思わなかったら気が付かなかったよ。
「まあ、仮に本体攻撃されたところで痛くもかゆくも無かったんだけどねぇ。私は不死身さ。負けたところで何度でも蘇る、幻想の書の契約・・・・・・」
本を取り出して自慢げに掲げたので、それを狙って槍で突いた。
だが、何故か貫通せず受け止められた。
堂々と取り出すようなものが簡単に壊れるわけ無いよね。
妙なことに、受け止められたにもかかわらずその反動は帰ってこなかったのが不可解だが・・・・・・
「グホォ!? なんだ、この威力の攻撃は・・・・・・いや、それよりも不死身のはずの私に明確にダメージを叩き込んだ? 興味深いですねぇ」
でも、どうやらボクの攻撃は無意味では無かったみたいだ。
本来だったらダメージが通らないんだろうね。
じゃなければボクの攻撃に困惑なんてしないだろう。
にしても、アレが本体か。
まさか、人間の姿は人形で本体が本とはね。
多分、あの本は不壊なんだろう。
決して壊れることの無い、完全無欠な物質で出来ている。
だけど、恐らく攻撃を叩き込めばダメージを受ける。
おそらく、今の攻撃で何かしらの問題が起きているだろうね。
明確に力が弱まった。
でも、向こうは逆に意欲がわきまくってるからプラマイゼロってところだね。
不壊ではあれど、ダメージを受けることがあるということ自体に興味津々だ。
興味沸くことに突っ込むタイプだなコイツ。
「あの女を狙ったのは、所詮はバグの運用目的。サドケセドを見つけるために他なりません。本を持たずとも宿している可能性はありますからね。この世界にはシステムシードなるものがありますから」
システムシードって、フレイフィルが言ってた物か。
わざわざ言及するって事は、こいつ等は間違いなくこの世界の出身では無い。
同時に、どういう手段かは知らないけどシステムシードの管理を無力化している。
この世界に来たら強制的に植え付けられるような代物のはずなのに、何故か機能していないんだ。
間違いなく何かがある。
「サドケセド? 何それ?」
「陽光の炎で回復させる力ですよ。呪いすらはねのける炎を他者に与える慈悲の炎です。最も、幻想の書の力無しに発揮出来るとは思えませんがねぇ」
あっさり話した。
何故だろうか?
コイツにとっては隠しておきたい情報じゃ・・・・・・
それに、陽光の力ってオボロは過去でフレイフィルに貰った代物だった。
まさか、ホムラが・・・・・・
「やはり、システムシードで使えるようになっているんですねぇ。ご苦労様でした。おかげで、誰が持っているのかはっきりしました」
「まさか、ボクの思考を?」
「ご明察。明かされた意図も読めない情報を使って吟味すればその情報と繋げた存在を抜き出すなんてお手の物ですよぉ」
やられたね。
そう言う手段があるとは知らなかったとはいえ、相手に情報を渡してしまった。
恐らく、情報を明かすというリスクを背負い情報を抜き取る何か何だろう。
わざわざ抜き取ったのを明かしたのは、挑発だろうね。
ひょっとすると、それすらも情報を抜き出す何かのリスクの一つなのかもしれないけどね。
「ふふふ、既にメタトロンに情報は渡しました。私は、目の前の興味を調べ尽くすとしましょう。いやぁ、実に興味深い」
「何が興味深いのかな? さっきまで余計な物扱いしていたくせに」
「今となってはあの女よりも、君の方が遙かに価値が高い。その左目の力・・・・・・システムシードに縛られてなければさぞ強力だったことでしょう。どうせここでの私の役目は終わりました。なら、私の興味で今は動いても構わないって事ですよぉ! 気になりますねぇ! その力!」
めんどくさいタイプが相手だね。
恐怖という感情を抱かないタイプだろう。
しかも倒せない相手だしね。
・・・・・・しょうがない。
出来るだけ使いたくなかったけど、使うか。
無感情の最大の原因であるボクの力をね。
もし、男が遭遇していたのがダイアルなら
男「素晴らしい! まさか、ここまで鎖を自在に操るなんて。私に未知の技術を見せて・・・・・・」
ダイアル「・・・・・・(こいつ、普通にめんどくさいな)」【熱鎖縛葬】発動
男「ああ! 凄く熱い! 不滅なのにこの身を焼かれる感じがします。しかも、普通に私は死にますね。それもまた興味深い! なぜ、不滅のはずの私が死ぬのか! 調べられないのが残念ですが、この瞬間を今は楽しみましょう!」
ダイアル「殺されても恐怖すら感じないのか。本当にめんどくさい相手だね」




