第四十一話 オルファン
◇ ◇ Sideダイアル ??? ◇ ◇
「う~ん・・・・・・」
黒い長髪で目隠しをし、マントを羽織った女が唸っていた。
彼女の名はダイアル。
彼女は今、仲間のために試練の場に向かい扉の前で待機していた。
「しかし、戦闘者が進入禁止とは・・・・・・解放値が溜まらないのは承知の上だが一体何故侵入できないのだ?」
「さあね。戻ってきたら何か教えてもらえるでしょ。ボクも君一人残して挑むわけに行かないしね」
「儂は戦闘者だ。別に待ってもらわんでも良かったのだぞ?」
ダイアルの仲間の男はそう言う。
和装でちょんまげで無いこと以外はいかにも武士で武人みたいな男だった。
オルファンという名の男だ。
ダイアルの仲間の戦闘者でダイアルを除けばパーティ内で最強の人物といわれている。
本人は適性で縛られているクラフターに負けてる地点でまだまだ最強にはほど遠いと言っている。
戦闘者と言われると微妙な対応を取られるくらいに酷い輩が多い中で非常にまともな人物だった。
ダイアルと出会った時期も荒れてこそいたが根はかなりまともだったのだ。
「そういう訳にも行かないよ。それに、登録したし、拠点に戻ればいつでも行けるし問題無いしね」
「まあ、儂等は其方みたいに一度では試練突破できないからな。何故この戦闘力で冒険者でも戦闘者でも無く制作者なのか疑問でしかないな」
オルファンはやれやれと首を振りながら周囲を見渡す。
全体がチョコでいっぱいで甘ったるい臭いが充満していた。
「しかし、よくもまあこんな場所を見つけたものだな」
「まあね。ホムラちゃんの対応しながらちょくちょく来てたんだよね。コネクトグラス以外にも秘密があるのは分かってたけど、探すのは結構骨が折れたよ」
「其方の眼は本当に便利だな。見えすぎるどころではないというデメリットが無ければ儂も欲しいくらいだ」
「ならその一つである炎帝の瞳いる?」
「いらん。授けられなければ手に入れられん力では無いんだ。儂は儂の力でそれを手に入れる」
「いいね。君はそうでなくちゃね」
ダイアルは自分の力で手に入れると言ったオルファンを賞賛しつつ笑った。
いずれたどり着く姿を見てみたいと思いながら・・・・・・
突然、笑っていたダイアルが笑うのをやめた。
それと同時にオルファンは腰に差してある刀に手を掛けた。
「・・・・・・妙だな。其方はここへの入り方を誰にも教えてないはずじゃないのか?」
「アハハ、多分もともと知ってたんだよ。領主がこんな間近くにある場所を調査してないわけがないからね。私が数ヶ月近くこの辺を調査してたから、いずれここが分かると考えてたんだと思うよ」
「なるほど。ここで一網打尽にしようという腹づもりか。其方を本気でどうにか出来ると領主サマは考えているのだとしたら、間抜けにも程がある」
「アハハ、所詮はクラフターと思ってるんでしょ」
「・・・・・・下手な戦闘者よりも戦闘力のある異質なクラフターだがな。有名な戦闘者のイティアをも上回るんじゃ無いか? ・・・・・・トップクラスの戦闘者と比べることが出来る地点でその実力が破格だということには違いないがな」
がしゃがしゃと音を立てて乱入者達は近づいていく。
それは上の方でホムラ達が戦った騎士団よりも更に上位の騎士団だった。
全員もれなく素行不慮の典型的戦闘者の騎士団ではあるがその中でもトップクラスの者達で固められた集団だった。
「汚らわしい連中がやってきたな。ここの甘ったるい匂いすら打ち消す程のドブのような腐った匂いだ。吐き気がする」
「君、典型的な戦闘者が嫌いだもんね」
「誰がドブのような腐った匂いだ! この雑魚共が!」
ダイアル達の会話を聞いていたのか戦闘の騎士団長が足踏みをした。
この騎士団は騎士団長の率いる精鋭部隊。
ファストクラフトを守る騎士団の中で最も強いとされている騎士団だった。
素行が悪いのが玉に瑕だが下手な戦闘者よりも強いだろう。
「君達の罵倒のレパトリー少なくない? 雑魚共としか言えないの?」
「何とでも言うが言い。貴様等は俺の敵では無い」
騎士団員は全員武器を構えた。
意思を剥奪されたその表情で・・・・・・
「・・・・・・ん? おい! 何故其方が腐った奴らの中に居る!」
オルファンは見かけた知り合いに問いかける。
しかし、問いかけてもその知り合いの表情が変わることは無かった。
「知り合いでも見かけた? 無駄だよ。これがここの騎士団のやり方だからね。リーダー以外は意思を剥奪される。文字通りあの騎士団長の手足として動く道具になるんだよ」
「馬鹿な・・・・・・!? そんなことが・・・・・・・」
「ついでに言うと、あの騎士団長サマは保成栽培で強くなってる。錬金術師に無理矢理作らせたフィードバック装置で戦闘経験を根こそぎ奪って疑似的に与えるという方法で強くなれないようにしつつ自分だけは強くなるみたいなことをしているんだよ」
「よく知っているでは無いか目隠し女よ。ここに居る奴らは皆俺の道具だ。そして仮に俺がやられても別の体に俺の意思は宿る。不滅の騎士団というわけさ」
ギャハハハと耳障りな笑い声を上げつつ騎士団長は前を向く。
怒りを込めた表情で。
「なのに、毎度毎度クラフターである貴様に返り討ちだ。領主様はお怒りでいつ俺の首をすげ替えられるか分かったものではない。こいつ等みたいに二度と自分の意思を出せない人形にされるのだけは嫌なのでね。今度こそ貴様をとらえる」
「二度と・・・・・・・自分の意思を・・・・・・・出せない・・・・・・人形だと・・・・・・・」
「流石にそれは知らなかったかな。目隠し外してまで調べようとは思わなかったから気が付かなかったよ」
ワナワナと震えるオルファン。
自分の知り合いが既に死んでいるも同然と聞かされたらそうなるだろう。
少なくとも、騎士団メンバーと一緒に居ることを目撃して声を荒げるくらいには、その人と関わりがあったと言うことなのだから。
「ダイアルよ・・・・・・ここは儂に任せて貰っても良いだろうか?」
「いいよ。派手にやっちゃいな。こっちのことは気にせずにね」
「感謝する」
オルファンは刀に手を掛け、刀を抜き放つ。
武技【居合一閃・瞬動】、勢いよく自身が動きつつ相手を居合斬りで切り捨てる。
それでかつての知り合いをピンポイントで切り捨てた。
一撃で、痛みも感じぬように。
「な、早・・・・・・・」
「貴様が遅いだけだ」
オルファンは、続けざまに武技を振るう。
【鎧断刀】、鎧すらを斬り裂く闘気を与え刀の切れ味を引き上げる。
それに加えて錬金技術の切断を司る【切断術】も含まれていた。
武技名を言わずに脳内で完結させて武技を振るう。
武技を発動させるには高度な闘気運用技術が必要だ。
そのトリガーとして技名を付け唱えることで意識のトリガーを引き使えるようにしているのだ。
練習ならいざ知らず、戦闘で簡単に適切な運用ができないため技名を唱えることで武技を発動する。
それが普通なのだ。唱えずに出来るのはほんの一握りの強者だけ。
そんな一握りの強者がオルファンなのだ。
ダイアルは技名を唱えているが本気を出すことが無いだけだ。
その気になれば技名すら唱えず気が付けば振るわれているという状況に持ち込むことが出来る。
実力がありすぎるが故にそれだと戦いにならないからこそ、わざわざ技名を唱え舐めプしているのだ。
「馬鹿な、なんなんだ貴様は・・・・・・冒険者ではないな!」
「虫唾が走るが、儂は貴様と同じ戦闘者だ」
オルファンはそう語りながら武技で殲滅する。
哀れな人形となった騎士団に痛みを与えない優しさを秘めた太刀筋を持って。
そして、それを操るリーダーである騎士団長に対する殺意を込めつつ。
オルファンは刀を振るい続けた。
ダイアル「一応、ホムラの力を借りれば戻せないことは無いだろうけど・・・・・・錬金狩りの一件を終わらせないことには出来ないだろうね。本気で介入する理由が出来ちゃったし、そろそろ動こうかな?」




