第十一話 帰りに拾った少女
10/23 内容リメイク
◇ ◇ ファストクラフトの街 レシピ屋 ◇ ◇
「ヒヒヒ、また来たねホムラよぉ」
相変わらず胡散臭い人だね。
男か女かすらわからない全身をフードで覆ってる人だ。
顔すら見たことがないしね。
「錬金術のレシピを買いに来た」
「だろうねぇ。でも、シャウラ様からホムラにここで売られてる全ての錬金術のレシピを渡すように言われてるからお代はいらないよぉ」
シャウラ様!?
どういうこと!?
「困惑している顔だね。知らなかったのかぃ? ここはシャウラ様が運営しているレシピ屋さね」
知らなかった。
というか教えてくれても良かったのになんで教えてくれなかったんだろうか。
・・・・・・隠し事が多いのは今更か。
「この阿漕な商売はシャウラ殿が意図的にやっている事なのでござるか・・・・・・」
「そうさね。失敗レシピを作り出すのは新人に多いことだ。それのサポートとしての側面が大きい。そして中には新人といえど信じられない発想をする者もいる。そんなアイデアの失敗作達を上級者達が購入していくのさ。それで成り立っているのがこの店さね。阿漕な商売と言われるがこの店の存在がこの街を大きく回しているのも事実なのだよぉ」
ヒヒヒと店主は笑う。
なるほどね。
ここって裏通りと表通りの境目ってレベルだから裏通りでも比較的安全なんだよね。
割と新人が行きやすい場所にこの店を構えているのか。
「シャウラ殿もなぜホムラ殿に教えてくれなかったのでござる?」
「単純な話さね。シャウラ様が広げている事業は無数にある。多すぎて全てを教えることなんて出来ないから必要にならない限りは仲間内にも説明しないのさぁ。私とて全てを把握しているわけじゃないからねぇ」
予想通りと言えば予想通りかな。
シャウラは何処まで手を広げていてもおかしくない。
シャウラって体を長時間動かすことは出来ないけど脳は24時間ぶん回せるからね。
体は睡眠取ってても脳は眠れないから本当の意味で眠ることが許されてない。
そんな体が眠っていて動けない暇な時間に頭の中で色々と操作して指示出しして色々と手を広げていたとしても不思議じゃない。
工房を町中で入手出来るってことはそれだけの貢献をして街に認められたかららしいからね。
「とはいえ、ウチの店もこの場所で営業しづらくなってきたがね。錬金術のレシピを全部渡せというのはそれが原因だろう」
「営業しづらくなってきた? なんで?」
やっぱり阿漕な商売だから問題が出てきたのかな?
表通りで出来ない仕事だしね。
「ヒヒヒ、阿漕な商売だからじゃないさぁ。錬金術のレシピを失敗作とはいえ売っているのが問題になってきてるからねぇ」
「また錬金術関係の問題でござるか」
多いね、本当に・・・・・・・
あちこちの街で錬金術の教本を買い集めたりして知識を独占したり挙げ句の果てには失敗レシピまでって・・・・・・
そこまでして知識独占したいのかな?
本当に何者なんだろうか。
錬金術の一件で動いている人って・・・・・・・
「さて、錬金術の全てのレシピをあんたに渡したからこの地点を持って閉店さね。錬金術師はあまり外を出歩くんじゃないよぉ。それじゃあ・・・・・・」
そう言い残すと最初から居なかったかのように空気に解けて消えた。
まるで最初からその場所には何もなかったかのように消え去った。
「消えた?」
「そういう魔法でござるかな? 何にせよ錬き・・・・・・・レシピは手に入ったんでござる。トラブルに巻き込まれる前に工房に戻るでござるよ」
「そうだね」
私が戻ろうとしたらなんか裏道の奥が気になった。
気になったので私は奥に進んでいく。
「何しているでござるか? 出口はあっちでござる」
「ちょっと気になることがあってね」
「・・・・・・奥に進みすぎないように気を付けるでござるよ」
呆れたようにオボロさんに言われた。
奥に進んでいくと一人の少女がボロボロで倒れていた。
へし折れた槍を握った漆黒の髪の少女が・・・・・・
「こんな所に人が倒れていたでござるか!? 気になったものってそれでござるか」
「そうだね」
気になったのは槍の方だったけどここは黙っておこう。
槍に導かれてこのズタボロの少女に気がついたのは事実だしね。
「とにかく一度・・・・・・・!? 誰か来るでござる」
「顔見られるのは良くないね。仕方ない」
風勢がないと使わなかった機能を使おう。
少女をオボロさんに抱きかかえさせて、私は槍の破片をかき集めてストレージに入れる。
まるで最初から何もなかったかのように全てかき集めた。
「それじゃあ行くよ!」
ステータスウィンドウを開き【帰還】を選択した。
瞬間私とオボロさんと抱きかかえた少女は工房に帰還した。
◇ ◇ 拠点 事務所 ◇ ◇
「シャウラ!」
「君が帰還を使って帰ってきたってことは何かあったのか?」
帰還で戻ってきてすぐに私はシャウラの元に向かった。
シャウラは私が帰還で戻ってきたことに不審に思ったのかソファーから身を起こして動ける状態になっていた。
「裏路地でズタボロの少女を見つけたんだ」
「ホムラ、帰還を悪用した誘拐は良くないよ」
あ、帰還ってそういう利用も出来るのか・・・・・・ってそういう風に利用したわけじゃない。
「分かってる。医療設備はある。オボロにそこに連れて行くように言って」
「分かった」
私は部屋からでてオボロさんを医療室に案内した。
◇ ◇ 拠点 医療室 ◇ ◇
「にしても、この工房には医療設備があったんでござるな」
オボロさんが少女をベッドに寝かせながらそう言った。
まあ、確かに普通の工房には医療設備なんてないよね。
「フィルが医者だからね。万が一の時には使えるようにってことらしい」
このゲームってプレイヤーはともかくNPCは大怪我でどうにかなってしまう場合があるからね。
工房と契約していると蘇生は可能だけどプレイヤーの専属冒険者以外は有料だしね。
しかも専属冒険者もそのプレイヤーと共に行動してないと駄目ってルールもある。
だから割と重要なんだよ医療設備は。
工房内にわざわざ用意するのは話が違う気もするけどね。
ちゃんとした病院があるわけだしね。
「とはいえ、何か問題がありそうな子でござるから医療設備があったのは幸いでござる」
「確かにね。あの時の足音明らかにこっち向かってきてたし・・・・・・」
私に用事があったなら良いけどもしこの子に用があったんだとするとかなり面倒な事態になりかねないしね。
にしても、なんか変なの多すぎる気がするね。
錬金術関係のアレにしろね。
そんなことを考えていたらフィルが医療室に入ってきた。
ちゃっかりナース服着てるよ。
医師がそれを着るのは何か違う気もするけどね。
「治療が必要な子ってその子? ウチにまかせとき」
既にスイッチが入ってるみたいだ。
これなら大丈夫そうだね。
「にしても、この子何処で拾ってきたん?」
「失敗レシピ屋の裏路地の少し奥にいったところだね。へし折れた槍を持った状態で倒れてた」
「武器を持っていたってことか? 町中で?」
へし折れた槍を持ってた所も不審なんだよね。
町中で武器を出すのは違法行為だ。
もし使っていたんだとすると何かと戦っていたかって話になるんだよね。
「まあ、その辺はこの子が起きてから聞けば良いことだね。そんじゃ治療を始めるから医療行為に関係ない人は速やかに医療室から出てな」
そう言われて私達は医療室から追い出された。
扉の上にある治療中ランプが点灯する。
「え? 手術が必要なレベルなんでござるか?」
「医療行為中に誰かに入られても困るからランプはつくものだよ」
それを知らせる為のランプだしね。
さて、とりあえず私達は私達でやるべきことをやろう。
持って帰ってきた失敗レシピは多いからそれの整理をしたりとかしてね。
セルフィス「にしてもこの子、なんか変だね。服の切れ目の所に傷がない。というか再生速度が速いのか。これは栄養与える方が最優先やな。栄養不足での衰弱のほうが重大みたいやし」




