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少年 ツネタロウ  作者: モーニングあんこ
第4章 成長

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37話 教訓

 カタワの娘・サチ(12)を例に、すべての子供たちに勉学をさせる権利を授かるために、ツネタロウは登城する。

-翌日-


 ツネタロウは、早速登城。城の外で、クニアキに駄賃を渡し別れた。


マサズミと話す。


  マサズミ「今日はどうした」


  ツネタロウ「はい。今日はお願いがございまして登城した次第です」


  マサズミ「そうか。よし」


 マサズミは横にあった脇息(きょうそく)を前に動かし前のめりで話を聞く。ツネタロウからの願いはどれも面白いことから興味を持ったようだ。

 それを確認してから話す。


  ツネタロウ「実は、先日宴を催しましてその場で、水田の一部を貸してほしいと収入保証付きで募集しました。最初は渋ってた百姓たちの中から手を挙げてくれた者の家に行きました。家族の紹介を受けたのですが、聞いていた家族が一人足りません。どういうことかと聞くと、カタワの娘が家の奥に隠されていました。会い話をすると慣れぬ様子ではありましたが徐々に、話をしてくれます。たまに草鞋(わらじ)を作ると聞き作ってもらいました。すると形はあまり良くはありませんが、家の者が履くには充分の出来です。その娘に、手習道場へ来ないかと誘いました。当主の父は飛んで来て訴えます。娘を笑いものにさせられないかと。どこの家でも同じでしょうが、カタワやハクチ・メクラを外に出せないとしている家々があります。私はその家に閉じ込められてる子供や大人が惜しいのです。彼らと話し合ってみると至って普通の人間なのです。家のお荷物にはしたくありません。彼らをひとりの人として扱ってほしいのです。農家や職人の家は、生活に余裕がありません。そこへ、家に押し込めたままにして外から見えないようにしているのが私には惜しいと思います。それを一件一件会いに行くには時間がかかります。それを提案してくださったのが、町の薬師であるソウアン殿がマサズミ様に指示を仰ぎなさいとおっしゃられ今日にいたります」


 マサズミは、座り直し着物を整え脇息を横に置く。


  マサズミ「なるほど。ソウアン殿がか。では具体的にどうして欲しい」


  ツネタロウ「はい。お触れを出していただきたいのです。すべての学の無いものは、手習道場へ行くようにと。また、家の奥に閉じ込めている人間をすべて開放せよ」


  マサズミ「。。。分かった。だが、それでどのような利益があると言うのだ?まさか単純に可哀想だからというわけではあるまい」


  ツネタロウ「もちろん利益はあります。必ずこのオヤマの役に立ちます。例えば、食い扶持(ぶち)を増やすことが出来ます。農民の場合、大人と息子や娘が農作業をしますが、カタワな子供には不向きです。しかし、勉学を真面目に積んだ者は、計算ができるようになります。この計算を米を売る時に役立ちます。多くの農民は金に換えるときに騙(だま)されてしまいがちです。言い値で売却していることを防げます。売却専用に、カタワな子供がはたらくとすれば、農民の生活水準が向上し、また、農作業に集中できます」


  マサズミ「そうだな。だがもっと目に見える利益は無いのか?」


  ツネタロウ「そうですね。まだ先の話になりますが、現在、手習道場の師範代らに日記を書かせています。その日記を私が編集し文字の上手な者に書かせます。その文字の上手な者を彼らにやってもらうことも考えています。また、挿絵なるものを入れて読みやすくしたいと考えています。その日記を一冊五千文ほどで売りたいと考えています。先日殿から頂いた書物に庭訓往来(ていきんおうらい)があります。あのように絵が入り日常を描いた日記を売るというのは庶民の娯楽にもなるでしょう。庶民が書物のためだけに五千文も出すのは大変です。ですので、貸書(かししょ)をしたいと考えてます。貸書は、五日二十文ほどで貸したいと思います。たくあん二本分で書物を読むという娯楽を作ります。娯楽のために、手習道場へ行きたいと思う者が増えることで、殿の利益は高まります」


  マサズミ「そうか日記か。面白いことを考えたな。庶民は他人の生活に興味があるからな。その他人の生活を垣間見ることが出来るという娯楽は楽しいだろうな。だが、その日記とカタワたちを主に手に出すことでの利益はどう考えているのだ?」


  ツネタロウ「日記の編集に、カタワの子供たちにお願いしたいと考えてます。文字が書けるようになれば文字を書いてもらいます。絵が上手であれば、挿絵師として働いてもらいます。得意な分野があればそれは金になります。殿への利益にも繋がります」


  マサズミ「そうか。面白い。我が願いを受け入れてくれて感謝するぞ。しかし、人の気持ちというのはそう簡単ではない。特に前例のないことは経験の無いこととして親たちは非常に心配をしてしまう。そのために、初めの一歩が踏み出せないのだ。その初めの一歩をお主はどう考えておる?」


  ツネタロウ「そうですね。しばしお待ちを」


 ツネタロウは思わぬ返しに長考(ちょうこう)する。マサズミは考えるツネタロウに向けて話す。


  マサズミ「考えながら聞け。世間体(せけんてい)を気にしている親たちが藩主の命(めい)で指示されたからと隠している家族を表に出すのは大変勇気のいることだ。特別罰則も無いのであれば、表向きは居ないものとして扱うだろう。もし罰則を設けた場合、渋々従うだろうが、お主の考えているような流れにはきっとならんだろうな。今の手習道場に通わせる親たちが自発的に通わせているのであり、通わせたくないのであれば家の手伝いをさせていることだろう。庶民は、前例を特に気にする。記憶に残りやすい三代前くらいまでの前例をとても大事にしている。そのため、新しいことがなかなかできないのがこの世の理(ことわり)だ」


  ツネタロウ「殿!ありがとうございます。私はかなり焦(あせ)っていたようです。殿の言われるように、可哀想だからという気持ちが先走っていたのかもしれません。どうか、この件は忘れていただきとうございます」


 殿に、2手3手先まで言われて気づいた。今でも手習道場へ行く理由が見つからない勉学を教えたくないなどの親はたくさんいる。それらから意識改革をしなければ変わりようがない。


  マサズミ「わかった。それよりも久しぶりだ。少し話していかれよ。もうだいぶ前だが、メイジの頃の話をしてはくれんか」


  ツネタロウ「わかりました。私も最近はこちらに慣れてきてメイジの頃のことをあまり考えずに過ごしています。その中で面白いと思うのが。船ですね」


  マサズミ「船か。今でもあるだろ。廻船問屋などが帆掛け船で運んでいる」


  ツネタロウ「私も最初はそれでした。しかし、島に渡るのにサカイ港からシコクのマツヤマに移動するのに、帆掛(ほか)け船では時間がかかるということで、石炭で進む大きな船の蒸気船(じょうきせん)に乗りました。黒い煙を吐き出しながらそれはそれは速いのなんの。いくつもの帆掛け船を追い抜いて行くでは無いですか。どの船も恐れて避けて行くのです。一刻半(いっこくはん)ほどで到着します」


  マサズミ「サカイ港とはサカイ奉行のところか?シコクとはなんだ。マツヤマはイヨマツヤマ藩のことか?」


  ツネタロウ「失礼しました。イズミの国のサカイですので、恐らくはそうだと思われます。天下の台所と呼ばれた土地です。シコクとは四つの国で成り立った島でしてイヨ・トサ・アワ・サヌキから成り立つ島です」


  マサズミ「そうか。そのような呼び名になっておったか。それで、その蒸気船とやらはいくらで乗れたのだ」


  ツネタロウ「三銭ですので、今の価格に直すと一分金と銀三匁(もんめ)くらいでしょうか」


  マサズミ「なんと。そんな高額なのか。しかし、速く到着できるというのは良いな」


 メイジ後期の一銭は約1万円相当なので、3万円ほどの乗船料。


  ツネタロウ「その船は元は客を乗せるためでは無く、物品を運ぶ船でして、それに交渉して乗り込んだ感じです。私は木材商の丁稚でしたので、木材を運ぶためだと話すと乗せてもらえたのです。初めての蒸気船は広くてゆったりとしてました。内海(うちうみ)を走るので、揺れが少なく乗り心地は大変良かったです」


  マサズミ「そうか。あっという間だな」


  ツネタロウ「そうですね。あっという間で到着して景色を楽しむ暇もありませんでした」


  マサズミ「儂も一度は乗ってみたいな。どのような景色なのか。またどのような動力で動くのか調べてみたいな」


  ツネタロウ「そうですね。この蒸気船は異国が持ち込んだそうです。メリケンが攻めてきたとかで、開国(かいこく)したそうです。なぜ攻めてきたのかなどは分かりかねます」


  マサズミ「おお。開国か。ということは閉国(へいこく)してたのか。閉国はいつからなのだろうか。その頃は儂は生きているのだろうか。その時は何代目が務めているのだろうか。ヒデタダ様ではないだろう。となると、イエミツさまか弟のクニチヨさまか。どちらだろうか。いやその子か孫かもしれんな。理由はバテレンへの当てつけだろうか。最近も異国となにかと揉めている」


  ツネタロウ「申し訳ありません。詳しいことはわかりかねます」


  マサズミ「そうだな。いやありがたい。蒸気船も気になるが、閉国していたのが気になるな。儂に何ができるか考えていたのだ。もし閉国していて異国から攻められたら国が二分していただろう。どちらに着くか。そうか。一度決まったことはそう簡単には覆せんからな。儂は、異国の文化は好きだ。大御所(おおごしょ)様もノブナガ様もお好きだった。だから、ノブナガ様はヤスケを雇ったのだろう。そうでなければただの黒くてデカい男だからな。言葉も話せない。今皆が着ているこの着物も元は異国のものだそうだ。儂らは常に異国の文化を受け入れながら独自の発展をさせてきた。大御所様も異国の文化がお好きで、イスパニアに派遣団を送ったのも大御所様だった。これからは平和になり異国との交流も楽しくなる頃だというのに。一体なにをお考えなのか」


 少しの間思案をする。


  マサズミ「すまんな。今日はこの辺にするか。いやいや楽しかったぞ。また来てくれ。それから、私を喜ばそうと考えてくれるのは嬉しいが、今見えている人々で考えてくれるだけでも私は嬉しいぞ。今手習道場に通っているカタワの娘を大事にしなさい。そうすれば、徐々に通わせたいという親が出て来るだろう。何だったらカタワの師範代を雇うとかどうだ?」


  ツネタロウ「カタワの師範代。なるほど。浪人であればいるかもしれませんね。以前の戦(いくさ)でカタワになった者を雇うのですか。それは思いもつきませんでした」


  マサズミ「長い目で見ろよ。教育は大事な努め。藩の発展を期待しているぞ」


  ツネタロウ「立派に努めさせていただきます」


 城をあとにする。

 途中、団子を頬張っているクニアキを見つけ共に団子を食べる。


  ツネタロウ「殿からカタワの師範代を雇うという考えをいただいた。ただ、家臣とするのかそれとも師範代として雇うのか。悩んでいるところだが、クニアキ殿にもどうかこの手習道場を助けて欲しい」


  クニアキ「わかりました。サチさまのように通う子が増えると良いですな」


  ツネタロウ「サチさんのように片腕だけではなく、片足や両足の子もいるだろう。多様なカタワな子供たちが陽(たいよう)を浴びれるようにしたいものだ。しかし、親だけでなく民の考えが変わらない限りカタワの子が通えるようになるのはまだまだ時間が必要だ。今では無いと考えた。どのような子にも限りなく機会を与えることで何かしらの利益を生むと信じている。人は生まれた時から何かしらの利益を産むために生まれて来るのだ。『役に立たない』や『お荷物』なんていうことは絶対にありえないのだ」


  クニアキ「殿は先の事までお考えなのですね」


  ツネタロウ「いや、これはマサズミ様がおっしゃられた言葉だ。私は考えが甘かった。しっかりと指導を受けてきたところだ」


 二人は、これからの行く末を考えながら手習道場へ向かう。手習道場には、チヨがひとりで師範代代理を務めてくれている。急ぎ戻る。


【知ってて損はたぶんしない用語解説】

 着物


 着物の文化ということで、日本独自の文化と言われがちですが、元は大陸から輸入した文化なのを知っておくと便利です。着物の文化を独自に発展させたのは日本の着物文化ではありますが、色のある着物や帯・反物(たんもの)が作られるようになったのは、日本の歴史を語るうえで大事な大化の改新や聖徳太子の時代くらいまで遡らなくてはいけません。それまで、日本の記録が残る卑弥呼の時代でさえ、着物というのは贈られたものでしかなく、生産も出来て無い時代。徐々に海外に使節団を派遣を送るようになり、海外の生活を日本に持ち込むまでは、質素なものを着用していた。大化の改新の絵を見ると日本の着物とは違うと思う。大陸の服に見えるだろう。聖徳太子の絵も日本の着物とは違うだろう。

 日本で着物を生産するようになり、勘違いした人たちがほとんどだと思う。日本が作った着物だと。それがなぜか現代の21世紀でも勘違いしている人が一定数いる。常に大陸からの影響を受けて発展しているというのを忘れてしまってるのだ。今でも大陸からの影響は大きい。

 次回、建物を語ります。



次回『たまにだから凝ってしまう』

15日です。


また見てね

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