320話 実行犯
謁見日から2日目⑥
長屋の住人が押し込み強盗に着物を剥ぎ取られる事件に、ツネタロウが捜査を代理で行う。オヤマでの実績を買われたことに寄るものである。
話を二転三転させる唯一襲われなかった男を重賞参考人とし任意同行させる。
重要参考人が自供をした。
約束の茶が決め手だったという。
ゆさゆさと身体を左右に揺らされ目覚める。
キヌ「お風呂の準備が整ったそうです。行きましょう」
キヌに誘われるのは2度目。もう頬を赤らめるくらいで済ませる。
気を利かせたヨウにより、早めに仕事を終えたトシマサと脱衣所で合流。
トシマサ「儂も一緒してもよいか」
ツネタロウ「もちろんです。一番風呂は当主からです」
トシマサ「そういうものなのか?そのような作法があったとは」
着物の裾を捲り袖を口に咥え湯加減を確かめる。
ツネタロウ「少しぬるめですので、入りながら熱くしてもらいましょう」
トシマサとキヌが先に入りあとから追いかけて入る。
ツネタロウ「父上。その後どうなりましたか」
トシマサ「うむ。自供したところまでは言ったな。探しているというのが伝わると細身の男が自首しに参ったのだ」
要約すると。
背の高い男は未だ不明だ。細身の男の自供を聞くと、長屋の男が誘ってきて「仕事がある」と。二日分の金を支払うという。しかし、金はまだ受け取ってないから逃げるに逃げれず自首したという。もう一人の男とは面識がないという。別の席にいるのを誘われ少ししてから来てくれと言われて合流しそのまま襲った。着物を剥ぎ取ったのは、大声を上げて助けを呼ばせないように、黙らせるためと追いかけられないようにするため。殴ったり金品強奪すれば罪が重くなるから、脅すだけでと言われていたが、背の高い男が胸ぐらをつかんでしまい必死に止めて殴ること無く終わらせた。だから罪を軽くしてほしいと懇願する。
ツネタロウ「どのような罪状になりそうですか」
トシマサ「家に許可なく入り着ているものを剥ぎ取った。胸ぐらを掴んだのは立派な暴力であり罪は重くなるだろうな。軽くはならんと思っておいてくれ」
ツネタロウ「くだらない理由で咎人となるとは」
トシマサ「そうだな。ちょっとしたことで人は罪を犯す。我らも気をつけなければならん。と奉行所の者たちには口酸っぱく言っている」
ツネタロウ「お辛い職なのですね。人の嫌な部分を見て裁く」
トシマサ「そう見えるか。我らだけでは手が足りなくてな。困っているのだ」
時代劇に出てくる町奉行の同心は、北・南奉行所を足して200人程度の下級武士。
同心とは、奉行所で直接雇う武士。
与力は、幕臣である。与力は25人ずつ。
騎乗できる。
ただ、エド初期では記録にないが3分の1程度だと思われる。
シマダトシマサの預かる南町奉行所では、与力8人・同心30人。
馬は所有してません。
時代劇のほとんどは、江戸時代中後期なので人が増えるのは当然です。人口が増えるのですから。
また、火付盗賊改方は、もう少し先に出来ます。
有名な人では、鬼平と言われた長谷川平蔵こと長谷川宣以。
同心まではいても、時代劇でおなじみの岡っ引きやその下の下っ引きは存在しませんが、そもそもが非正規雇用なので時々雇っているかもしれません。
それでも人手が足りていないと言う。
ツネタロウ「増やせないのですか?」
トシマサ「さらに馬を買えと言われている。北町奉行のヨネキツ殿が言うが、わかるがなかなか苦しい身の上でな。だったら人を増やしたほうが良いのだ。それだけの余裕がない。与力は足りているが同心がな。与力ひとりに同心十人はほしい。最低でもな」
ツネタロウ「ふたり足りませんね」
トシマサ「頭が痛いところなのだ」
ツネタロウ「浪人を雇うのはいかがですか?」
トシマサ「募っているが、なかなか適性のある者は居ないのだよ」
ツネタロウ「適性とはどういう資質が必要なのですか?」
トシマサ「読み書きが出来、市井の民に偉ぶらず会話が澱み無く話せるか」
ツネタロウ「それらが出来ないから浪人になった者が多いのでしょうね」
トシマサ「ハハ。厳しいことを言う。だがそうなのだ。武士というだけで偉ぶる馬鹿者が残念ながら多くてな。浪人でありながらも尊大な態度の者ばかりがなぜか集まるのだ」
ツネタロウ「オヤマの郎郎武士団で勤める浪人から見繕い紹介状を持たせて父上の元へ送ってもよろしいでしょうか」
トシマサ「婿殿の推薦なら期待したいな。長い目で見て待つとするよ」
期待しつつもすぐに寄越せというはなしではなく、長い目とすることで長期的に待つと慌てさせずに良い人物を頼みたい。
ツネタロウ「ん?どうした甘えて」
キヌ「・・・」
トシマサ「ふふふ。仲が良いな」
キヌ「・・・」
ツネタロウ「ん?キヌ?父上先に出ます」
トシマサ「我らの話に付き合ってのぼせたか!?」
脱衣所のヨウを呼び助け出し、涼ませる。
ツネタロウ「すまない。ヨウ。頼めるか」
ヨウ「お任せください。姉さま冷たい水です。ゆっくり飲んで」
再度風呂に戻る。
ツネタロウ「申し訳ありません」
トシマサ「よい。キヌは体が弱いのやもしれん。大事にしてやってくれ」
ツネタロウ「はい。繊細な絹のように大事に扱います」
また見てな
ほなな