258話 父子
【シマダ屋敷でのできごと】
オヤマを出立してはや5日目。エドに入ったら真っ先にシマダ屋敷を訪れよと言われていたとおりに訪問。本人の頭が追いつかないくらい話はトントン拍子で進む。別室で按摩を受けて身体を弓なりにしたことで、考えがまとまる。シマダさまの養女であるキヌを嫁にする決意をする。結納と婚礼の儀そして宴を当日にするという強行日程。準備ができるまで義父のシマダトシマサと庭で会話。その後、風呂へ誘われる。
シマダ屋敷の風呂は、3人は入れる少し広めの風呂。浴槽があるタイプだ。ある程度の職に就くと湯を張った風呂の屋敷もあるという。とはいえ、未だサウナタイプが主流ではあった。
ツネタロウ「おお。なんと。四畳はありますか」
シマダ「そうだな。ここは、家のもの以外の家臣たちも使うのでな。ほら。雨が降って冷えたり泥だらけになったときにこそこの風呂なのだよ」
ツネタロウ「これは広くて良いですね」
シマダ「そういえば、風呂があるそうだな」
ツネタロウ「ひとりしか入れません。あ。あと、私費で作った蒸した風呂がありまして、そこには知行地の農民たちに安価で入るように薦めております」
シマダ「それはたいそう立派なことを」
ツネタロウ「夏でも冬でも水浴びです。湯を沸かしたのを使うこともあるそうですが、火傷をされて働けなくなるのは残念ですからね。それに、疲れを癒やすことも知ってほしいので。なんとか今のところトントンだそうですよ」
シマダ「我ら武家は、知行地が変わることがよくある。その場合、その風呂はどうするのだ?」
ツネタロウ「あまり深く考えておりませんでした。そうでしたね」
シマダ「ちょっとどんぶり勘定なのではないか?」
ツネタロウ「そう思われても仕方ありません。藩内での家督を継げそうにない者たちを集めた郎郎団というのを立ち上げまして、それらに風呂の管理を任せております」
シマダ「なんだ?その郎郎団とは」
事の経緯から話しいろいろな身分が集まり成り立っているなどと話した。
シマダ「それは、いわゆる座と同じようなものか」
楽市楽座に使われたうちの座のこと。組合のようなもの。
ツネタロウ「座ですと、多様な身分ではなく身分ごとに分かれます。百姓でも統率力と経営力があれば上に立てるとしてます」
シマダ「百姓がねぇ。その知識はどこから学ぶのだ?」
ツネタロウ「手習道場と呼んでおります寺子屋ですね。ここでは、身分に関係なく学ぶことが出来、昼には皆一緒に昼食を取ります」
食い気味に
シマダ「寺子屋の雑炊か!」
ツネタロウ「そうです。エドでも流行してましたね。雑炊を身分に関係なく長机を囲み全員で食べます。行儀は悪いですが、食べながら話すことを許してます。そうすることで、共通認識を持つことが出来さらに、思わぬ言葉が飛び交い新たな知識として知ることが出来ます。商人の子息や武家の子息。また、息女らも三割ほどですがおります。皆が身分の壁を取っ払い楽しく学ぶことで、手習道場は四箇所まで増やすことが出来ました。ああ。話しすぎましたね。そうです。雑炊という軽い食事と水を吸わせた米で量が増えるので安く作れるのが特徴です」
シマダ「エドでも昼に食事をすることがまだ大半というほどではないが徐々に広まりつつある。昼からの仕事に精が出ると男どもは喜んでるぞ。戦のない世には、安心して食べられる場所と時刻が決まっていると便利であろう。良い風習だな」
ツネタロウ「まだ、オヤマだけですが、風習から習慣に変わるとさらに良いですな」
肩を見て
シマダ「その肩のは」
ツネタロウ「ああこれですか。これは幼い頃に火傷をしまして。このとおり」
腕を動かす仕草
ツネタロウ「ここまでしか上がりません」
シマダ「すまない。辛かろう。無理させて済まなかったな」
ツネタロウ「いえいえ。アツ。この肩ですので、刀を振り上げることは出来ません。ですので、槍や鉄砲を使っています。武士としては情けない限りです」
シマダ「戦で、刀傷で腕が自由に動かせないという者たちを知ってるが、刀を振り回すことを生業としてきた者たちは適応力でなんとかなるが、幼い時の火傷となると良い方法は人から教わる他無いからな。だから、槍や鉄砲を使うというのは苦肉の策だったのだろう。苦労されたな」
ツネタロウ「いえ。早くに家臣を持つことが許されてからは、家臣が懐刀として守ってもらってました。良い者と出会えました。昨年の供の者が最初の家臣でした」
シマダ「そうか、あの者だったか。いつでも抜けるように研ぎ澄ましておったから印象にある」
ツネタロウ「はぁ気持ち良いですね。帰ったら伝えましょう。喜びますよ。今は、街道の整備をしてるのですよ」
シマダ「街道整備か」
ツネタロウ「道を広げてます。路肩から荷車が落ちるなどの事故があったので、将軍御一行が通ると聞いて、通過しやすいようにとせめてオヤマ領内くらいはと考えて工事を進めております」
シマダ「それを任されておるのか。信頼できるのだな」
ツネタロウ「もちろんです。信頼しかありません」
先に風呂から出て身体を洗う。
ツネタロウ「お背中流しましょう」
シマダ「すまないな頼む」
初めて親子の付き合いをする。
シマダ「次は儂が流してやろう」
洗い場は広く家臣が使うというのも納得である。
シマダ「あまり長風呂してのぼせるなよ」
ツネタロウ「はい。父上」
先に風呂場を後にする父。
風呂を出ると結納と婚礼の儀が整えられていた。
また見てね




