235話 民泊
エドへの途中、懇意にしてもらっているサッテの宿に立ち寄るも追い返されてしまう。
泊まる宿もなく仕方なく民家に泊めさせていただくこととなった。
泊まる民家とは。
ところ変わりツネタロウたちが泊めてもらう民家
ツネタロウ「すみませんね。大きな男ふたりで。一晩だけです。助けていただき感謝してます」
驚く農民夫婦。
農民夫「いやいや、立派なお侍様だ。こりゃあとっておきの酒と食事を」
ツネタロウ「良いですよ。いつも通りで。こちらは無理にお願いしておりますゆえ」
農民夫「しかし。ちょっとまってくだされ」
ツネタロウ「よいのに」
コウキ「お言葉に甘えさせていただきましょう」
ツネタロウ「良いのか?」
コウキ「その方が喜んでくださいます」
ツネタロウ「そういうものか」
コウキ「そういうものです」
諭すように、筋肉を緩め微笑む。
囲炉裏の前に座り温まる。
日が暮れるとまだどことなく寒く感じる。
気を使い火をくべてくれる。
農民妻「いまお食事の準備をします」
ツネタロウ「すまぬな。よろしく頼む」
コウキ「外で薪割りでもしてきますね」
ツネタロウ「では私も」
コウキ「お侍様です。気を使わせてはなりません」
ツネタロウ「それならそなたもだ」
コウキ「私は従者ですので」
そう言われて小さくなって火を見つめる。
することなく火を見つめるしかすることがない。
知らぬ間に、ジっと火を見つめる。パチパチと火の粉が上がるのを見届ける。
コウキ「との。。殿」
ツネタロウ「んあっ!?」
コウキ「どうされたのです?先程から家のものが話しかけても返事がないと言いますが。お疲れでしたら横になられますか?」
ツネタロウ「ああ。いや大丈夫だ。すまない」
コウキ「食事の準備が整ったそうです」
ツネタロウ「そうか。ではいただくとしようか」
粗末な茶碗に箸。菜っ葉と筍の漬物。コメは茶色く他にも山菜が入っている。湯に魚の干物が小さく入る。干物から出る旨味だけで食す。
ツネタロウ「豪勢な食事を用意していただき感謝する。ではいただこう」
一口つまみ食す。
ツネタロウ「これはなかなか上手い漬物ですな。塩で揉んだだけですか?」
農民妻「ええ。お口に合いましたか」
夫婦は顔を見合わせ震える手を握りしめ安堵の様子。
ツネタロウ「せっかくだ、皆で一緒にいただこう」
農民夫婦は、恐れ多いと小さくなり土下座。
ツネタロウなりの心遣いが恐れさせてしまう。
コウキ「殿。ここはオヤマではありません。オヤマの常識は通用しません」
ツネタロウ「そうか。すまない。お主たちを苦しめるつもりはないのだ」
夫婦に聞こえぬよう耳打ち。
肩を落とし寂しげに、食事を進める。
コウキ「この干物美味いですな」
普段言わない口調。コウキなりに供を演じているようだ。
食事をするとついつい笑顔になる。特別にこしらえたであろうご馳走に舌鼓。
食べ終えるとようやく農民夫婦は、残りで食事をする。
ツネタロウ「もしよければ私からもこちらを食べていただきたい」
取り出したのは、柿の葉寿司の残り。
ツネタロウ「こちらは、オヤマ名物の柿の葉に包まれた押し寿司です。残り物で申し訳ないがいかがだろうか」
農民夫婦は再び恐れ多いと。
コウキ「殿がどうしても食べていただきたいのです。お世話になっておりますので。少ないですが戴いて頂けませんでしょうか?」
農民夫婦からすると断れない状況にやむなく受け入れる。
コウキ「よかった。大丈夫です。日持ちするのでそう簡単には傷みません。ご安心ください」
恐る恐る震える箸で半分に割り少しずつありがたくいただく。
口にした夫婦は、顔を見合わせる。
ツネタロウ「どうだ?美味いか?もう少しあるのだがいかがか?」
コウキの残り物を分け与える。
一度味をしめてしまった以上、出されたのを断る勇気は耐え難いものがある。しかし、農民でありその葛藤というものは。
柿の葉の端にあった寿司を箸の後ろで真ん中に置きふたりの前に置く。
もう断れない。
箸で更に小さく小さく愛おしいかのように大事に食べる。
ツネタロウ「美味しいか。よかった。オヤマではこのようなものを一口大から販売していてな。めでたい席で食する人気の寿司なのだよ。ホラ。なんというかめでたそうな色合いであろう」
コウキ「お二人には無理を言って泊めさせていただくのだ。少しくらいは旨いものを食べていただきたい。お二人の笑顔を見れたことは幸せの極みです」
少し大げさな言葉で感謝の意を伝えるのは、ツネタロウのクセを真似たもの。旅の供であるコウキが配慮し混乱を避けるためでもある。
食べ終えた夫婦は、すぐに寝床を用意するという。
酒を用意してくれていた。
ツネタロウ「酒を飲みながら少し話そうではないか」
また見てね。