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少年 ツネタロウ  作者: モーニングあんこ
第11章 分岐
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187話 評定

 臨時りんじ評定ひょうじょうが開催される。

 議題ぎだいは、ホマレダ案のニッコウ街道の拡幅かくふく工事について、初めて議論をする。内内ないないには、話が進んでいたが、他の家はこの話は寝耳に水であり、このまま始めてしまうと家中のわだかまりが出来てしまうとして、評定を開催することになった。


  ヤマダ「皆、急の開催によく呼応こおうしてくれた。本日は、マサズミこうの前で行う。緊張することなく前回のようなアツイ議論を頼みたい。ただし、言い争うのではなく議論を交わしてもらいたいのであり勘違いすることの無いよう注意してもらいたい。では」


 そう言うと、議題に入る。ここはえて、ホマレダ案であることを強調きょうちょうし議論の活発かっぱつ化をうながす。基本的には、YESマンなところがあるので、まだどこか疑いの目で見られているホマレダツネタロウの名前を出すことにした。

 普段は、特に何も言わない家中の者たちではあるが、マサズミを前にして活発な議論を望まれてるとして、意見を言い働いてますアピールをしてしまう。マサズミは笑顔でうなづきながらいるが、心の内は「めんどくさ」く思う。

 ツネタロウは、図解ずかいで説明しおおよその期間を伝える。参加するのは、城兵がおも。大工などの本職に協力をあおぎなるべく短期間で事を終わらせるようにつとめると話す。また、道中どうちゅうにある宿場しゅくばをひとつの町のようにし、宿場町としてさかえさせる。工事期間の宿泊地として期待を寄せる。基本的な部分は、簡単に説明してある。ここからは、細かな部分を議論しあう。


  ヤマダ「まずこの案について異論のある者はいるか?」


 られた案に異論いろんとなえるだけのすきは無い。


  ヤマダ「では可決かけつでよいな?」

  家臣団「お待ちくだされ」

  ヤマダ「ハンダ殿どうぞ」

  ハンダ「我が家臣かしんを作業にお使いいただきたい」


 ハンダホンゴウという武家。家臣は嫡男ちゃくなんを含め3人。内嫡男(ちゃくなん)文官ぶんかんとして登城とじょうしている。他は、ともとして。


  ヤマダ「それはありがたい申し出。この後の議論でもう少し踏み込めるぞ」

  ハンダ「ありがたき幸せ」

  ヤマダ「他に意見はあるか」


 少しでも人手が多い方が助かる。だが、各武家の家臣がまとまっている家ばかりではない。ハンダに続けとはなかなかならず。


  家臣団「わたしからも一つよろしでしょうか」

  ヤマダ「ハサマダ殿どうぞ」

  ハサマダ「わたしには、家臣がおりませんが、わたし自身がお役に立てればと考えます。そこでお聞きしたいのは、武家のわたしが出ていく場合は、誰の指揮下しきかに入るのでしょうか」

  ヤマダ「ホマレダ殿」

  ホマレダ「城兵のひとりとして組み込まれるかもしれません。その場合、組頭くみがしらした物頭ものがしら相当そうとうすることになります。物頭は現在五十(こく)以下の者たちですので、評定には参加していない者たちと同じ扱いになります。組頭の指揮下となりますが」

  ハサマダ「すこし。。。考えさせてくだされ」


 ハサマダカガミはひとりの武家。評定に参加できるのは、武家であれば誰でも可能ではあるが、101石以上が参加対象となっている。


  ホマレダ「ハサマダ様。声を上げていただき感謝します。城兵の士気しき統率とうそつを考えると途中から組頭を変えるようなことになると彼らの信頼を失いかねません。ですので、物頭が精いっぱいな部分があります。物頭は、番隊ばんたいの調整役になります。その役をになっていただければ、彼らはいつも以上に力を発揮はっきしてくれることでしょう」

  ハサマダ「侍大将さむらいだいしょうのホマレダ様が言われるのです。誰よりも城兵たちのことを知りくしている」

  ホマレダ「先に伝えておきます。侍大将の私の下の足軽大将あしがるだいしょうは当家家臣となります。その下に各番隊の組頭。その下が物頭となっております」

  ハサマダ「配慮はいりょに感謝する。侍大将殿の指揮のもとで己の力を発揮してみたい。よろしく頼む」


 現実、いくさが発生した場合、侍大将のツネタロウのもとで戦うのは、各武家を含めた城兵たち。それらを各武家の調整役になるのは、実質足軽大将なのである。足軽大将が誰の家臣かなどでいさかいが出来るようでは、統率が取れずそうそう々に退却たいきゃくするようになってしまう。


 良い働きをすることで、今後の家格かかくを押し上げられるかが占える。家臣のいない武家では、泥臭どろくさい仕事もこなしてこそであろう。また、この日は藩主はんしゅマサズミがいる。藩政はんせいに直接ではないがかかわることで、勲功くんこうを挙げる絶好の機会きかい

 ハサマダやハンダのように、旧オヤマ家家臣の存在意義(いぎ)を示すためにも、ここは身をにして働くことで家中での立ち位置を向上させようと考えるものなのであろう。


  ヤマダ「他に無いようなので、街道拡幅工事は可決する」


 特に異論は出なかった。ここで異論を出さなければ後は異論を言うところがなくなる。無事可決された。


  ヤマダ「次は、詳細しょうさいれよう」


 どの仕事にきたいかというような内容。どの仕事にどの家が関わるのか。参加するしないは各武家ごとによるが、短期間で済ませようとしている一大プロジェクトなので、傍観ぼうかんするのは印象が良くない。

 拡幅工事に直接関係する部分は、ホマレダ家臣でどうにか事足りるが、その他は他の武家が指揮をるのが最も手っ取り早い。よくわからない陪臣ばいしんよりもオヤマで名の知れた武家が出てくる方が信頼が違う。

 

 警備には、オヤマ物見隊ものみたずさわる。

 宿場町の新設と調整に、ふたつの武家に参加をつのる。

 物資の調達ちょうたつに、3つの武家に参加を募る。


 細かな部分には、郎郎ろうろう団に依頼いらいすることにした。庶民しょみんの力が必要だからである。だいぶ力を付けた郎郎団は、今や藩政への派遣はけんができるほど力を付けている。知行ちぎょう100石級の武家並みの力を持っている。郎郎団への依頼と指揮は、ホマレダ家が担うことになっている。最も手慣れた人物が担うのが良いと結論が出る。


  ヤマダ「藩の財政は決して明るくはない。だが、新設する宿場町などでの収入があればこの事業は成功となるだろう。その先には、幕府への忠義ちゅうぎとなるであろう」


 拍手喝采はくしゅかっさいである。

 幕府の役に立つのがほまれな人たち。その誉となるべくする拡幅工事に携われるという意味で発した。

 ここで資金調達しきんちょうたつに動きが出る。


  マサズミ「城代家老じょうだいがろうが言うのであればそうなのだろう。資金調達が厳しいのであれば、ワシからは茶室ちゃしつ供出きょうしゅつすることとしよう」


 マサズミ愛用の茶室を提供すると申し出られる。

 たまに戻られたときに使う心を休める場所として茶室がさんまるにある。

 この三の丸にある茶室を提供するというのである。


  ヤマダ「良いのですか!?」

  マサズミ「良いのだ。なんだったらつぶしても別にかまわんぞ」

  ホマレダ「でしたら、庶民に開放されてはいかがでしょう」

  マサズミ「お主ならそう言うと思っておったわ」

  ヤマダ「ですが、それはどうすれば」

  マサズミ「好きに致せ。茶碗ちゃわん茶道具ちゃどうぐ花入はないれなどはそのまま使ってよい。それほど高い価値と言うほどでもないからな」


 ヤマダは頭をボリボリかきながら急な提案ていあん思案しあんする。


  ホマレダ「そこは、オヤマ物見隊の仕事でもありますね。しっかりと警備されると良いでしょう」

  ヤマダ「庶民に開放するということは、資金源しきんげんになるということですね。藩の外の者にも開放するということであれば、資金調達がしやすくなるかもしれませんが」

  ホマレダ「ヤマダ様。そこまでは期待できないでしょう。茶室は小さいです。ですが、そうですね。資金調達で考えますと、茶室を直接利用するというよりは、野点のだてにすることで多くの人に参加してもらいやすくなるでしょう。そこへ、茶屋ちゃや食事処しょくじどころが臨時出店とすれば、にぎやかに楽しく出来るかもしれませんね。いかがでしょうか」


 野点のだてとは、野外で茶を楽しむ行為である。ツネタロウは過去に、エドの廃寺はいでらにてコンチインスウデンとの茶を初体験している。それの規模を大きくしたものを想定そうていしているようだ。


 評定に参加しているその他の武家は、3人のやり取りを見て自分たちとは明らかに違うのだと感じた。なにより、藩主ホンダマサズミが10代のホマレダツネタロウと和気わきあいあいと語る姿は、歴戦れきせんの友のように見えるほど。ほんの3年ほどで出てきたぽっと出と思っている者はすでにいなくなっている。

 また、ホマレダツネタロウという者の着想ちゃくそう構想こうそうは、単なる思い付きではないことが分かる。自分に無いものを持っていると畏怖いふする。


 3人のやり取りを見て改める。評定に参加しているその他の武家が軒並のきな平伏へいふくをしたのである。


  ヤマダ「いかがした」

  ハヤカワ「代表して失礼する。城代家老のヤマダ様までは我らは臣従しんじゅうして参ったが、まだ若い成り上がりなホマレダ様を我らはどこか懐疑かいぎ的に思っているふしがありました。この拡幅工事案でも家臣からの案であろうと思う者や前もって考えていたことを話すだけだと思う者たちもいました。しかし、今の茶室の件でのホマレダ様はその場で考えたことをポンポンと話されるのを見て分かったのです。若さだけでないさとさを持ち合わせた御仁ごじんであることに気づいたのです。これまでのご無礼ぶれいをお許しいただきたい」


 これには流石に、ドン引きである。

 今までなにを見てきたのかとマサズミとヤマダは目配めくばせする。


  マサズミ「ホマレダよ。許してやってくれ。これは儂とヤマダの責任だ」

  ホマレダ「とんでもございません。若輩者じゃくはいものですので、致し方ありません。当家は、父の代で百石の小さな武家でした。家督かとくいでからとんとん拍子びょうし出世しゅっせしたことで、良く思わない人がいても仕方ありません。いえ。皆様のことではなく、以前の二家ふたけ共謀きょうぼうするようなこともありました。許すも何も普段のわたしをお見せする機会が無く、たまたま本日お見せする機会を与えていただいたので。どうか、皆様に信頼されるよう務めますのでお許しいただきたい」


 意外なところで人の信頼は得られるものである。

 本格的着工(ちゃっこう)は、再来月さらいげつ卯月うづきからとなる。


【その他な人物紹介】

ハンダホンゴウ(天文21年~)68歳 115石

政務43 武力28 知力39 統率51 魅力48 運33


旧オヤマ家家臣のひとり。長い事浪人暮らしをしていたが、マサズミがオヤマ入りしてからの家臣。旧オヤマ家家臣をなるべく多く家臣にするようヤマダに指示を出していた。

正妻・側室、側室の子が嫡男。正妻には子が生まれず早世。嫡男は文官として城勤め。

100石採用されたが、嫡男が城勤めということで、15石加増。評定に出ることが出来た。


ハサマダカガミ(元亀3年~)47歳 105石

政務32 武力49 知力21 統率39 魅力44 運28


旧オヤマ家家臣。オヤマ家では力自慢の若者だったそうだ。没落後、旧家臣団で旧領回復のためにこの地に残り励むも叶わず。マサズミに拾われる。オヤマ藩士になってから生まれた男児。祝いとして5石加増される。これらの加増は、旧オヤマ家家臣にだけ対象とされた。

正妻と男児の3人暮らし。


【あとがき】

 マサズミ帰還編の中盤に入りました。マサズミは3泊4日なのでゆっくりできません。強行スケジュールなのです。骨休めは出来ませんが、精神的な休養は今のところ取れているようです。まだ2日目。目まぐるしく進む忙しさは、エドの老中にはいつものことのようにふるまわれています。


次話もまた見てね

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