187話 評定
臨時の評定が開催される。
議題は、ホマレダ案のニッコウ街道の拡幅工事について、初めて議論をする。内内には、話が進んでいたが、他の家はこの話は寝耳に水であり、このまま始めてしまうと家中のわだかまりが出来てしまうとして、評定を開催することになった。
ヤマダ「皆、急の開催によく呼応してくれた。本日は、マサズミ公の前で行う。緊張することなく前回のようなアツイ議論を頼みたい。ただし、言い争うのではなく議論を交わしてもらいたいのであり勘違いすることの無いよう注意してもらいたい。では」
そう言うと、議題に入る。ここは敢えて、ホマレダ案であることを強調し議論の活発化を促す。基本的には、YESマンなところがあるので、まだどこか疑いの目で見られているホマレダツネタロウの名前を出すことにした。
普段は、特に何も言わない家中の者たちではあるが、マサズミを前にして活発な議論を望まれてるとして、意見を言い働いてますアピールをしてしまう。マサズミは笑顔で頷きながらいるが、心の内は「めんどくさ」く思う。
ツネタロウは、図解で説明し凡その期間を伝える。参加するのは、城兵が主。大工などの本職に協力を仰ぎなるべく短期間で事を終わらせるように務めると話す。また、道中にある宿場をひとつの町のようにし、宿場町として栄えさせる。工事期間の宿泊地として期待を寄せる。基本的な部分は、簡単に説明してある。ここからは、細かな部分を議論しあう。
ヤマダ「まずこの案について異論のある者はいるか?」
練られた案に異論を唱えるだけの隙は無い。
ヤマダ「では可決でよいな?」
家臣団「お待ちくだされ」
ヤマダ「ハンダ殿どうぞ」
ハンダ「我が家臣を作業にお使いいただきたい」
ハンダホンゴウという武家。家臣は嫡男を含め3人。内嫡男は文官として登城している。他は、供として。
ヤマダ「それはありがたい申し出。この後の議論でもう少し踏み込めるぞ」
ハンダ「ありがたき幸せ」
ヤマダ「他に意見はあるか」
少しでも人手が多い方が助かる。だが、各武家の家臣がまとまっている家ばかりではない。ハンダに続けとはなかなかならず。
家臣団「わたしからも一つよろしでしょうか」
ヤマダ「ハサマダ殿どうぞ」
ハサマダ「わたしには、家臣がおりませんが、わたし自身がお役に立てればと考えます。そこでお聞きしたいのは、武家のわたしが出ていく場合は、誰の指揮下に入るのでしょうか」
ヤマダ「ホマレダ殿」
ホマレダ「城兵のひとりとして組み込まれるかもしれません。その場合、組頭の下の物頭に相当することになります。物頭は現在五十石以下の者たちですので、評定には参加していない者たちと同じ扱いになります。組頭の指揮下となりますが」
ハサマダ「すこし。。。考えさせてくだされ」
ハサマダカガミはひとりの武家。評定に参加できるのは、武家であれば誰でも可能ではあるが、101石以上が参加対象となっている。
ホマレダ「ハサマダ様。声を上げていただき感謝します。城兵の士気と統率を考えると途中から組頭を変えるようなことになると彼らの信頼を失いかねません。ですので、物頭が精いっぱいな部分があります。物頭は、番隊の調整役になります。その役を担っていただければ、彼らはいつも以上に力を発揮してくれることでしょう」
ハサマダ「侍大将のホマレダ様が言われるのです。誰よりも城兵たちのことを知り尽くしている」
ホマレダ「先に伝えておきます。侍大将の私の下の足軽大将は当家家臣となります。その下に各番隊の組頭。その下が物頭となっております」
ハサマダ「配慮に感謝する。侍大将殿の指揮の下で己の力を発揮してみたい。よろしく頼む」
現実、戦が発生した場合、侍大将のツネタロウの下で戦うのは、各武家を含めた城兵たち。それらを各武家の調整役になるのは、実質足軽大将なのである。足軽大将が誰の家臣かなどで諍いが出来るようでは、統率が取れず早々に退却するようになってしまう。
良い働きをすることで、今後の家格を押し上げられるかが占える。家臣のいない武家では、泥臭い仕事もこなしてこそであろう。また、この日は藩主マサズミがいる。藩政に直接ではないが関わることで、勲功を挙げる絶好の機会。
ハサマダやハンダのように、旧オヤマ家家臣の存在意義を示すためにも、ここは身を粉にして働くことで家中での立ち位置を向上させようと考えるものなのであろう。
ヤマダ「他に無いようなので、街道拡幅工事は可決する」
特に異論は出なかった。ここで異論を出さなければ後は異論を言うところがなくなる。無事可決された。
ヤマダ「次は、詳細に触れよう」
どの仕事に就きたいかというような内容。どの仕事にどの家が関わるのか。参加するしないは各武家ごとによるが、短期間で済ませようとしている一大プロジェクトなので、傍観するのは印象が良くない。
拡幅工事に直接関係する部分は、ホマレダ家臣でどうにか事足りるが、その他は他の武家が指揮を執るのが最も手っ取り早い。よくわからない陪臣よりもオヤマで名の知れた武家が出てくる方が信頼が違う。
警備には、オヤマ物見隊が携わる。
宿場町の新設と調整に、ふたつの武家に参加を募る。
物資の調達に、3つの武家に参加を募る。
細かな部分には、郎郎団に依頼することにした。庶民の力が必要だからである。だいぶ力を付けた郎郎団は、今や藩政への派遣ができるほど力を付けている。知行100石級の武家並みの力を持っている。郎郎団への依頼と指揮は、ホマレダ家が担うことになっている。最も手慣れた人物が担うのが良いと結論が出る。
ヤマダ「藩の財政は決して明るくはない。だが、新設する宿場町などでの収入があればこの事業は成功となるだろう。その先には、幕府への忠義となるであろう」
拍手喝采である。
幕府の役に立つのが誉な人たち。その誉となるべくする拡幅工事に携われるという意味で発した。
ここで資金調達に動きが出る。
マサズミ「城代家老が言うのであればそうなのだろう。資金調達が厳しいのであれば、儂からは茶室を供出することとしよう」
マサズミ愛用の茶室を提供すると申し出られる。
たまに戻られたときに使う心を休める場所として茶室が三の丸にある。
この三の丸にある茶室を提供するというのである。
ヤマダ「良いのですか!?」
マサズミ「良いのだ。なんだったら潰しても別に構わんぞ」
ホマレダ「でしたら、庶民に開放されてはいかがでしょう」
マサズミ「お主ならそう言うと思っておったわ」
ヤマダ「ですが、それはどうすれば」
マサズミ「好きに致せ。茶碗や茶道具に花入などはそのまま使ってよい。それほど高い価値と言うほどでもないからな」
ヤマダは頭をボリボリかきながら急な提案に思案する。
ホマレダ「そこは、オヤマ物見隊の仕事でもありますね。しっかりと警備されると良いでしょう」
ヤマダ「庶民に開放するということは、資金源になるということですね。藩の外の者にも開放するということであれば、資金調達がし易くなるかもしれませんが」
ホマレダ「ヤマダ様。そこまでは期待できないでしょう。茶室は小さいです。ですが、そうですね。資金調達で考えますと、茶室を直接利用するというよりは、野点にすることで多くの人に参加してもらいやすくなるでしょう。そこへ、茶屋や食事処が臨時出店とすれば、賑やかに楽しく出来るかもしれませんね。いかがでしょうか」
野点とは、野外で茶を楽しむ行為である。ツネタロウは過去に、エドの廃寺にてコンチインスウデンとの茶を初体験している。それの規模を大きくしたものを想定しているようだ。
評定に参加しているその他の武家は、3人のやり取りを見て自分たちとは明らかに違うのだと感じた。なにより、藩主ホンダマサズミが10代のホマレダツネタロウと和気あいあいと語る姿は、歴戦の友のように見えるほど。ほんの3年ほどで出てきたぽっと出と思っている者は既にいなくなっている。
また、ホマレダツネタロウという者の着想と構想は、単なる思い付きではないことが分かる。自分に無いものを持っていると畏怖する。
3人のやり取りを見て改める。評定に参加しているその他の武家が軒並み平伏をしたのである。
ヤマダ「いかがした」
ハヤカワ「代表して失礼する。城代家老のヤマダ様までは我らは臣従して参ったが、まだ若い成り上がりなホマレダ様を我らはどこか懐疑的に思っている節がありました。この拡幅工事案でも家臣からの案であろうと思う者や前もって考えていたことを話すだけだと思う者たちもいました。しかし、今の茶室の件でのホマレダ様はその場で考えたことをポンポンと話されるのを見て分かったのです。若さだけでない聡さを持ち合わせた御仁であることに気づいたのです。これまでのご無礼をお許しいただきたい」
これには流石に、ドン引きである。
今までなにを見てきたのかとマサズミとヤマダは目配せする。
マサズミ「ホマレダよ。許してやってくれ。これは儂とヤマダの責任だ」
ホマレダ「とんでもございません。若輩者ですので、致し方ありません。当家は、父の代で百石の小さな武家でした。家督を継いでからとんとん拍子で出世したことで、良く思わない人がいても仕方ありません。いえ。皆様のことではなく、以前の二家が共謀するようなこともありました。許すも何も普段のわたしをお見せする機会が無く、たまたま本日お見せする機会を与えていただいたので。どうか、皆様に信頼されるよう務めますのでお許しいただきたい」
意外なところで人の信頼は得られるものである。
本格的着工は、再来月の卯月からとなる。
【その他な人物紹介】
ハンダホンゴウ(天文21年~)68歳 115石
政務43 武力28 知力39 統率51 魅力48 運33
旧オヤマ家家臣のひとり。長い事浪人暮らしをしていたが、マサズミがオヤマ入りしてからの家臣。旧オヤマ家家臣をなるべく多く家臣にするようヤマダに指示を出していた。
正妻・側室、側室の子が嫡男。正妻には子が生まれず早世。嫡男は文官として城勤め。
100石採用されたが、嫡男が城勤めということで、15石加増。評定に出ることが出来た。
ハサマダカガミ(元亀3年~)47歳 105石
政務32 武力49 知力21 統率39 魅力44 運28
旧オヤマ家家臣。オヤマ家では力自慢の若者だったそうだ。没落後、旧家臣団で旧領回復のためにこの地に残り励むも叶わず。マサズミに拾われる。オヤマ藩士になってから生まれた男児。祝いとして5石加増される。これらの加増は、旧オヤマ家家臣にだけ対象とされた。
正妻と男児の3人暮らし。
【あとがき】
マサズミ帰還編の中盤に入りました。マサズミは3泊4日なのでゆっくりできません。強行スケジュールなのです。骨休めは出来ませんが、精神的な休養は今のところ取れているようです。まだ2日目。目まぐるしく進む忙しさは、エドの老中にはいつものことのようにふるまわれています。
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